勇者の真相
「うう……寒い……」
雪国ということで、悠真たちは毛皮のコートを用意していたがそれでも極寒のこの地では身体の震えは止められなかった。
ヨキアという街は頑丈な外壁に囲まれている街で、壁の上には見張りの兵士が何人も立っていた。
軍国の街ということもあって、街の中にも物騒な格好をした兵士がうろついている。
城にもかなり装備があるらしく、どうやら先ほどドラゴンの群れに放たれた魔法のようなものは城に備えられた魔法兵器とうことだった。
というようなことを、悠真たちは街に入る際に門番に聞いたのだ。
ついでにいうと、少し前から魔族たちがドラゴンを率いてこの街に攻撃を仕掛けてきているらしい。
今この街は魔族の軍と臨戦体制にあるということだった。
「なんていうか、えらい時にきてしまったな」
「魔族が軍を作って侵攻してくるなんて、やはり魔神の影響が徐々に出てきているのでしょうか……」
「強力な魔物も増えてきてるからな……」
うーん、なんだか平和に旅することは叶わない感じだな。
「とにかくエレーナさんという方に会いに行きましょうか」
「ああ、港町のギルド長が教えてくれた人だよな。確か元勇者の仲間だったって」
ギルド長によると今は軍師として国に仕えてるとのことだったな。
「そうだな。城にいるんだろうけど、魔族とのゴタゴタで忙しいかもな」
「まあ考えても仕方ないから速く行こうよっ!」
フリーダが駆け出して「速く速く」と三人を急かす。
「すみませーん! エレーナさんに会いたいんですけど!」
三人がフリーダに追いつくと、すでにフリーダが城の門番に話しかけていた。行動が早い。
「エレーナ様に? 失礼だが約束はあるのか?」
「あー、約束はないんだけど……」
悠真がフリーダと門番との間に入る。フリーダは放っておいたら勝手に城の中に入っていきそうだ。
「勇者のことについて聞きたいんだ」
クラウスが割り込んで門番に強めに言う。相変わらず交渉の時は強気だな。
「エレーナ様は忙しいんだ。約束のないものは通せないことになっている——」
「——ほお。勇者について何を聞きたいんだ?」
「エレーナ様!?」
背の高い綺麗な、しかし目元が鋭い自信に満ちた風貌の女性が門番の後ろから出てきた。
絶対この人、気強いな。
「あなたがエレーナさんですか。初めまして、わたしはアリス・アングレームといいます」
アリスが深々とお辞儀する。
「ほほう、ということはウィベック王家のものか、こんなところまでわざわざ来たのか? それに……」
エレーナが悠真の方を見る。
——なんだろ? 失礼なことはしてないと思うけど……。
「とにかくこんなところで立ち話もなんだ。こいつらをわたしの部屋に通してくれ」
「は、はい!」
兵士が畏まって返事をした。やっぱり軍師だけあって軍の中では相当偉い地位なんだろうな。
「寒かっただろう。まあ座ってくれ」
エレーナの部屋と言われ通されたところは立派な暖炉があってとても暖かった。縦長の大きいテーブルにはこの周辺の地図であろう紙が広げられて、何やらいろんな印がつけられている。魔族との戦いの作戦でも立てていたのだろうか。
「それで、わたしに聞きたいこととはなんだ?」
エレーナは不敵に笑って悠真たちに聞いてきた。なんだか「なんでも聞いてこい」というような感じだな。
「あの、勇者の仲間だったというのは本当ですか?」
アリスがおずおずと尋ねる。
「ああ、そうだな。正確には前勇者と一緒に旅をしていた」
なんだかこの人が仲間ならどんな魔物でも怖くなかったんだろうなと思えてくる。
「今の勇者も前勇者の仲間だったと聞いたが、やつのことについて何か知らないか?」
クラウスは誰が相手だろうといつもの調子を崩さないな。
「レイ……! あいつがどこにいるのか知ってるのか?」
エレーナの言葉に怒気がこもる。一瞬部屋の温度が上昇したように感じるほど、エレーナの内側から静かな怒りが沸いてるのがわかった。
「おれたちも探してるところです。あいつが行きそうなところを知らないですか?」
権威がありそうな人に対して敬語で話してしまうのは仕方ないことだよな。
「知ってたらわたしがあいつを殺しに行くさ」
エレーナの殺気に気圧されそうになる。今にも髪が逆立って金髪になるんじゃないだろうか。
なんだかエレーナの周りにオーラが見えてきた。
一体何があったっていうんだ。
「その、レイさんと何かあったんですか?」
エレーナの殺気に気圧されて黙ってしまった悠真の代わりにアリスが尋ねた。
「……なぜレイが勇者になったと思う?」
エレーナがオーラを抑えて低い声で話し始めた。
「え? なんか前の勇者が死んでしまったから、神様が代わりの勇者を選んだとか……」
港町のギルド長が確かにそう言ってたはずだ。
「違うね」
エレーナがピシャリと言った。
「レイが勇者になったのは、前勇者をレイが殺したからだ。そして方法はわからないが、勇者のスキルを奪ったからだ。神様に選ばれたわけじゃない」
——勇者を……殺した?




