雪国の上空で
「すごいです! こんなに速く走る乗り物があるなんて!」
「ほんと、この大陸での旅は楽できそうだよ」
アリスは初めて乗る列車に感動しているようだったが、悠真は単純に移動が楽になることを喜んでいた。
フリーダはさっき列車の中を探検してくると言って席を立ってしまったし、みんな初めて乗る列車に浮かれているようだった。
おっと、クラウスは違ったか。列車が発車して10分もした頃にはすでに寝てたな。
列車がトンネルに入ったようで、さっきまで綺麗な景色を写していた窓の外が真っ暗になった。
そして、トンネルを抜けると——あたりは一面銀世界だった。
「すごい! ウィベックやヴォルツでは雪が積もることなんてないんですよ!」
「これはすごい景色だな……」
アリスのテンションがさらに上がった。悠真もこんなに綺麗な雪景色は見たことなかったので心の中では少し興奮していた。
「うおっ、さむ!」
「あ、すみません。窓を閉めますね」
アリスが窓をバタンと閉めて悠真に向き直る。
「……ユーマは、この世界とは違う世界にいたんですよね?」
「——? ああ、そうだよ」
「やっぱり、元の世界に帰りたいですか?」
「ああ、方法があるならすぐにでも帰りたいよ」
仕事以外の時間は家に引きこもってのんびりしてたあの頃の生活が懐かしい。まだ消化してないゲームがいっぱいあるんだよな。あとあの漫画の続きも気になるし、今期のアニメも最後まで見れてない。
「そうですか……」
アリスが悲しそうな顔を見せる。
そうか、元の世界に戻るとこいつらとは会えなくなるんだもんな。
「もし元の世界に戻る方法が見つかったらアリスも一度おれの世界に遊びに来るといいよ」
「え! そんなことができるんですか!?」
アリスの顔がパアッと明るくなった。
「いや、わからないけど、おれは自分の世界からこの世界に来たわけだし、この世界からおれの世界への行き方が解れば両方の世界を行き来することは可能かなーって」
「確かにそうですね! 見つけましょう。両方の世界を行き来する方法を!」
アリスが一気に元気になった。さて、無責任な事言っちゃったかな……。
——キイィー
列車がブレーキ音を立ててゆっくりと速度を落としていく。
「そろそろ到着ですかね?」
「そうみたいだな。おい、クラウス起きろ。着いたぞ」
「んああ……? もう着いたのか?」
こいつ結局ずっと寝てたな。そういやフリーダはどこまで行ってんだ?
列車が止まったのは簡素な屋根と整備された足場があるだけの無人駅だった。
ここから少し歩くとドミクシンの王都、ヨキアに着くらしい。
「ユーマー、見てみてー!」
窓の外にフリーダがいる。いつの間に降りたんだ。
「なんだよ? おれたちも降りるからちょっと待っててくれ」
悠真たちは列車を降りてフリーダの元にいった。フリーダは何故かずっと上空を見上げてる。
「どうかしたのか?」
「あれ見てー」
フリーダが指を指した先の空を見る。
——あれは!?
「ゴアアアアアァァ!!!」
「ドラゴン!?」
「嘘だろ! かなりの数だぞ!」
さっきまで寝ぼけ気味のクラウスだったが一気に目が覚めたようだった。
「降りてくる気配はなさそうですが、一体……」
上空には青い小型のドラゴンが複数飛んでいた。竜の山にいたやつよりは幾分か小ぶりのようだった。
それに、ドラゴンの上には誰か乗っている。
悠真は両目に意識を集中して身体能力常時10倍で上がってる視力をフルに使って観察した。
「——あれは! 魔族か!?」
「なんだって!?」
「そんな……王都が近いのになんでこんなところに」
「なんかその王都に向かってるみたいだよ」
フリーダの言った通り、王都の方角にどんどんと近づいていってる。ウィベックが襲われた時の光景が目に浮かんだ。
「やばい時に来ちゃったかな……」
悠真が上空を見上げながらそう呟いた時、王都の方面から飛んでくる影が見えた。
「——あれは……?」
空飛ぶ板のような足場に乗った人間たちがドラゴンたちに向かって炎や氷の魔法を次々に放った。
さらに王都の方角から大きい魔法攻撃がドラゴンたちに降り注ぐ。
だが、ドラゴンたちもただやられてる訳ではなかった。板に乗ってる人間たちをなぎ払う。さらにドラゴンに乗ってる魔族が魔法放つと王都から出てきた人間たちは一斉に距離を取った。
その後、しばらく膠着状態が続いたがドラゴンたちは山の方へ引き上げていった。
「あれは一体なんなんだ……?」
悠真たちは一様に上空を見上げてその一部始終を見ていた。
「とにかく、王都ヨキアに行ってみましょう!」
「そうだな、ここにいても仕方ねえし」
「王都だー! 行ってみよー!」
ああ、まためんどくさいことになりそうな予感がする……。




