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わたしもついていく

「想像以上に嫌なやつだったな」

 悠真がフーッと深いため息を吐いて椅子に深く腰掛ける。側のベッドにはフリーダが寝ていた。勇者に海に落とされたフリーダはまだ意識を取り戻していなかった。


 アリスとクラウスはギルドからの聴き取り調査に応じてギルドに行っていた。悠真はその間、フリーダを休ませるために宿の部屋をとっていたのだ。


「この剣……。勇者は見覚えがあるみたいだったな」

 悠真は『光の剣クラウ・ソラス』をまじまじと見た。確かにすごい剣だけど、この剣がなんだっていうんだろ……。

 考えても悠真には何もわからなかった。気付いたら収納(ストレージ)にあったんだもんな。


「う……」

「お、目が覚めたか?」

「ここは? わたしどうして……」

「勇者に海に落とされたんだよ。もう少しで危ないところだった」

「そうだ……ユーマが助けてくれたの覚えてるよ! ありがとうっ!」

 フリーダが抱きついてきた。この娘、結構胸が大きいな。


「ちょ、なにしてるんですか!」

 ガチャリ、と部屋のドアが開いてアリスたちが入ってきた。

「いやいや! 違う違う」

 慌ててフリーダを引き離す。違うって、なにが違うんだ。自分でもよくわからないが、とにかく違うんだ。


「なにが違うのです?」

 アリスが目を細めて悠真を睨んでいた。どこか殺気がこもってるように感じる。気のせいだといいな。


「ユーマもやるなー」

 クラウス、いらんことを言わなくてもいいんだよ。


「それよりギルドはどうだったんだ?」

 慌てて話題をそらす悠真。


「とりあえず勇者のことは伏せておいた。勇者が人を殺したなんて話をしたらこっちが怪しまれそうだったからな」

「まさか勇者がそんなことをするなんて思わないでしょうから、信じてもらえないでしょう」

 なるほどな。


「だが、『黒い鎧の男』はギルド全体で要注意人物として認定されたようだ。目撃者もたくさんいたからな」

「そうか……。まああんまりあてにならないだろうな。鎧なんて脱いだらおしまいだ」

「まあそうだな……」


「フリーダさん……でしたよね。フリーダさんは勇者となにがあったのですか?」

 確かに、なにを揉めてたんだろう。


「……あいつ、勇者だったんだね」

 フリーダはどうやらあいつが勇者であることを知らなかったようだ。フリーダは一拍置いて続ける。

「一年前、わたしは奴隷だったんだ。わたしの主人だった男はとても悪いやつで買い叩いた獣人の奴隷たちを拷問にかけたりひどい虐待をしたりしてたんだ」

 奴隷か。今までは見かけなかったけど、もしかしたら気付いてないだけで今までの街でも奴隷はいたんだろうか。


「獣人は国によってひどい差別を受けるらしいからな。獣人の奴隷がそういう扱いを受けるってのは、よく聞く話だ。胸糞悪いけどな」

「ひどい……」

 クラウスの話を聞いてアリスが口を覆う。


「わたしは弟と一緒にそいつに買われて、しばらくはひどい虐待を受けてたよ。でもある日突然、その家に魔物が侵入してきて屋敷の中はすごい騒ぎになったんだ。そこに冒険者のパーティが助けに来てくれて……」

「それで?」

「その中にあの黒い鎧のやつがいたの。そのときは黒い鎧は着てなかったけど、わたし人の顔を覚えるの得意なんだ!」

 フリーダがパッと笑顔を見せる。こんな話をしてる時でも明るく振舞っている。


「そんな良いことするやつらじゃないだろ。何か裏があるに決まってる」

 クラウスが吐き捨てるように言った。

「そういえば、一緒にいた人たちは、さっき船にいた人たちじゃなかったよ」

 ふーん、まだ仲間が何人かいるってことかな。まあ一年前のことだしパーティも変わったのかもな。


「それで勇者となにがあったんだ?」

 最初の質問に戻った。それだけだとさっきの光景にあまり納得はできなかった。


「そう、その時わたしはたまたま屋敷の主人の近くにいたから、そいつが逃げるときにわたしだけ一緒に連れて行かれちゃって、弟と離れ離れになってしまったの。それで、あの人なら弟のこと何か知ってるはずだって思って……」

 フリーダは一呼吸置いて続けた。

「ベーゼルであの人を見かけたとき本当に嬉しかった。わたしずっと弟を探して旅してたから。それで弟のこと聞いたんだけど、知らないって言われちゃって。それでも諦めきれずにここまで追ってきたんだけど、今度はまさか海に落とされるなんてね……」

 クラウスとアリスが神妙そうな表情を浮かべている。しかし、そういうことだったのか。ベーゼルで勇者が揉めてたってのはやっぱりフリーダだったんだな。


「でもあいつが本当に知らない可能性もあるんじゃないか?」

 あの勇者のことだから奴隷をいちいち助ける真似はしないだろうしな。


「そんなことない! わたし見たんだよ。あの人のパーティが残された奴隷たちを助けてまわる姿を。知らないはずがないんだ」

「だとしたらなぜ勇者はそんな嘘をつくんでしょうか?」

 アリスのいう通りだ。別にそのあと奴隷をどこに運び込んだかとかぐらい言ってもいい気がするけど。何か隠したい理由でもあるんだろうか。


「相手にするのがめんどくさっただけじゃねえの?」

 それより、とクラウスが続ける。

「次の船のチケット取りに行こうぜ。早く勇者を追わないといよいよ足取りがわからなくなるぜ」

「ユーマたちも勇者を追ってるの?」

「ああ、まあ諸々の事情でね。めんどくさいけど」

「もう! すぐそういうことを言うんですから、ユーマは」

 最近アリスの小言が増えてきてる気がする。まあほとんどおれのせいなのはわかってる。


「わたしもついていくよ! 絶対弟の場所を聞き出すんだから!」

 フリーダがその場でピョンピョンと跳ねながらそう言った。


「おれは別にいいけど……」

 アリスとクラウスの方を見る。

「わたしも大歓迎です。旅の仲間が増えるのは嬉しいです!」

「ああ、勇者を懲らしめるには人数が多い方がいいだろ」


 こうして、悠真たちの勇者を追いかける旅にまた一人仲間が増えた。


「いよいよ海を渡るのか……」

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