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竜と勇者

「エマ!」

「おにいちゃーん」

 村に着くと、心配で仕方がないといった様子のエミルがうろうろと同じ場所を行ったり来たりしていた。

 エマを連れた悠真たちの姿が見えた途端、エミルは駆け出した。


 悠真が、抱えていたエマを降ろすとエミルの方へ駆け出し二人は抱き合っていた。

「アリス、クラウス! それにユーマ!」

 エミルは悠真たちに向き合った。

「ほんとにありがとう」

 エミルの顔はくしゃくしゃだった。目にいっぱい涙をためている。


「わたしは何もできませんでした。ユーマのおかげです」

「正直おれも、大して役に立ったとは言えないな」

 アリスとクラウスが悠真の方を見た。


「いや、そんなことないだろ。おれは、アリスとクラウスが動かなかったら何もしてなかったよ」

 悠真が慌てて顔の前で手を両手を振った。ほんとのことだ。めんどくさいことに関わりたくないんだよ。

 ——ないんだけどな……。

 それなのに毎回最後は関わってしまっている。


「ユーマは素直じゃないですね」

 アリスがクスッと笑った。

「それはもういいって」

 ほんとに、この世界に来るまではなるべく厄介ごとに関わらないのが信条だったのに。

 ——あ、でも後輩にお願いされたらなんだか断れなかったんだよな……。


「エミル、お母さんの様子はどうだ?」

「そうだ、お母さん目を覚ましたんだ! 先生がまだ安静にしてろって、ベッドで横になってるけど元気だよ」

「よかった。他の人たちにも早く薬草を配って回りましょう!」


 アリスたちは、村の医者と手分けして病気になった村人たちに薬草を飲ませて回ったあと、エミルたちの家でしばらく休憩を取っていた。


「ほんとうに、なんとお礼を言っていいか」

 エミルの母親もすっかり元気になっていた。

「大したことはできませんが、せめて今日は泊まっていってください」

「そんな、お気遣いなく」

 アリスが慌てて顔の前で両手を振った。

「いいじゃないか、甘えさせてもらおうぜー」

 クラウスはすっかりくつろいでいた。山を登って村人と同じように病気にかかり、下山したあと病人の家を全て回ったのだ。アリスとクラウスはクタクタになっていた。


「ああ、そうだな。アリスも疲れてるだろ?」

 悠真はスキルのおかげで体力には余裕はあったがそれでも竜とのやり取りはかなり消耗した。

「それは……そうですね。それではお言葉に甘えさせていただきます」

「そうと決まれば、料理をたくさん作りますから、是非食べください」

「おおー、腹減ってんだおれ!」

 寝転んでたクラウスがガバッと起き上がった。


 エミルのお母さんが作ってくれた料理は絶品だった。分厚い肉のステーキに山菜のスープ、元の世界では見たこともない魚の料理など、お腹いっぱいになるまで食べてしまった。


 お腹が膨れた三人はそうそうに客室の三つ並んだベッドに横になっていた。すでにクラウスのいびきが聞こえている。よっぽど疲れたんだろうな。

「ユーマ……起きてます?」

「ん、ああ。起きてるよ」

「あの、あの時……」

 アリスには、竜の山の山頂で悠真に口移しで薬草を飲ませてもらったことをぼんやりと夢のような記憶として残っていた。それが寝る前にフラッシュバックして瞼の裏に写ってしまった。


「なに?」

「いえ……やっぱりなんでもありません」

 アリスは顔をボッと赤くして布団を頭までかぶった。

「え、なに? 気になるなー」

「ありがとう……」

 布団の中でボソッと呟いたアリスの声は悠真には届いていなかった。


 翌日、エミルの家の外に出ると村は活気に満ちていた。病気にかかっていた人たちが回復したようだ。

 医者が村人たちにこれまでの事を伝えたようで、悠真たちはまるで英雄のように感謝され讃えられた。

「お、起きてきたか、英雄たち」

 村の医者が声をかけてきた。

「なんなんですか、この騒ぎ」

 悠真があっけにとられて聞くと、「村を丸ごと救ってくれたんだ、そりゃこうもなるよ」と意地悪な笑みを浮かべられた。


「そうだ、村長に挨拶してやってくれないか。村を代表してお礼が言いたいそうだ」

「はあ」

 医者に教えれられた家は村の中でも一番大きな建物だった。


「ごめんくださいー」

「おお、よく来てくれた。さ、座ってくれ」

 悠真たちは促されるままゴザの敷いてある地面に座った。


「ほんとに助かったよ。この村は小さい村でね。ギルドもないから冒険者の助けを借りるにもなかなか骨が折れる。エミルが君たちを連れてきてくれたと聞いたが、君たちが来なければ村は全滅していただろう。ありがとう」

 村長が深く頭を下げる。確かにあのままでは間違いなく全滅していたな。竜はこの村を許すつもりはなかったのだから。


 アリスとクラウスに目配せする。

「今回のことは竜の山に子供が入ったから起こったことなんです。今後は誰も立ち入りができないように入り口を固く封印した方が良いと思います」

「ああ、そのとおりだな……」

 悠真が想定していた反応ではなかったことに、悠真たちは驚いた。

「エミルが竜の山に入った事を知ってたんですか?」

 アリスが思わず訪ねた。

「ああ、村の者にエミルが山の方から帰ってきたのを見たという者がいる。そのすぐ後に霧が村を覆ったので、もしやとは思っていた」

 そうだったのか。


「それで、お礼でもしたいのだがあいにくこの村には食料以外は何もあげれるものはなくてな」

「そんな、いいですよお礼なんて」

 だんだんアリスがお礼を断る役になってきたな。

「そうだ、この村に勇者が来なかったか?」

 そういえば、勇者の情報を聞くのをすっかり忘れていた。

「勇者様……? いや、二年ほど前に訪れてからは来ていないな」

「二年前? 二年前に勇者が来たのか?」

 クラウスが身を乗り出した。勇者は二年前からすでに旅をしていたのか。

「ああ、そういえばその時、勇者様が竜の山に入ってしまってな」

「勇者が二年前に竜の山に……」

 一体竜の山に何があったんだろう。

「村に厄災が降りかかるからやめてくれと言ったんだが、大丈夫だからと言って聞かなくてな。でも、確かに勇者様が山に入った後は特に何も起きなかったよ」

「勇者は竜の山に何をしに行ったんでしょう……?」

 アリスが首を傾げる。だがいくら考えても二年前のことなんてわかるはずもない。

「考えても仕方ないよ。今回は勇者はこの村には立ち寄らなかった。それだけでいいだろ」

「そうだな。とりあえずベーゼルに行ってみようぜ」

 クラウスはそう言って立ち上がった。


 村長の家を出た悠真たちは村人たちへの挨拶もそこそこに村を出発しようとしていた。

 そこにエミルが駆け寄ってくる。

「ユーマたち、勇者様を探してるの?」

「なんでそれを?」

「村長と話してるの、こっそり聞いちゃった」

 エミルが一泊置いて続けた。

「おれ、勇者様に会ったことあるよ。二年前に」

 これは内緒ね、という感じで、どこか後ろめたそうな顔をしている。

「ああ、村に来たんだろ?」

「実はおれ……。ちょうど勇者様が来た時も竜の山に入っちゃったんだ」

「ええ!?」

 三人が同時に声をあげた。全然懲りてないじゃないかこいつ……。また懲りずに山に入っていかないだろうな?


「それで勇者様に入っていくのを見られちゃって、途中で止められたんだけど。その後勇者様が『ちょっと説得して来るから先帰ってろ』って、そのまま山に登っていったんだ」

 エミルが言葉を切って更に続けた。

「今回の騒ぎでわかったんだけど、あれきっとおれが起こしちゃった竜を説得してくれたんじゃないかな? だってそのあと何も起きなかったんだよ」

「うーん」

 何か、おれの知る勇者のイメージからすると、そんなことするとは思えないけど。村長の話とは一致するな。勇者が山に入ったのはエミルが山に入るのを見たからってことか?

「あいつがそんなことすると思えないがな」

 クラウスもどうやら同じ考えのようだった。そうだよな。一体どういうことだろう。


「もし勇者様に会ったらあの時のお礼を言っておいてよ」

 エミルのキラキラ顔をわざわざ曇らせることはないよな。

「わかった、言っておくよ」

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