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村からの救難信号

 馬車の中で、悠真は王様からもらった地図を見ていた。

「この山の麓に、小さな村があるみたいだけど」

「お、ほんとだ。おれも何回かヴァレタとベーゼルを行き来したけど、気付かなかったな」

 クラウスが横から地図を覗き込んだ。

「村の存在は知っていましたが、わたしも行ったことはないですね。確かノーフェルト村という名前です」

 悠真たちの向かいに座っているアリスが上を向いて思い出す仕草をしていた。

「ここには立ち寄らなくていいのか?こっちに勇者が行ってるかもしれないぞ」

「確かになー。だけどこの馬車はベーゼル行きだからなぁ。おれは途中で止めてもらって歩いてもいいぜ」

「え、歩くのか……。やっぱり先にベーゼル行くべきだな!」

「ユーマ……」

 アリスが少し呆れた顔をしていた。アリスと初めて会った時は猫をかぶっていた悠真だったが、クラウスと一緒にいることで自然と素が出てしまうようになっていた。


「そういやユーマ、『魔銃術』以外にはどんなスキル持ってるんだよ。前から気になってたんだよな」

「あ、それわたしも気になってました」

「ん? ああ、じゃあ見るか?」

 悠真はステータスプレートの閲覧権限を許可して二人に渡した。

 クラウスがプレートを受け取り、アリスが覗き込む。プレートを見た二人は目を見開いて声を上げた。

「ええ!?」

「見たことがスキルばっかりです……」

 開いた口が塞がらないのお手本のような顔をしてるクラウスに、悠真は訪ねた。

「やっぱり珍しいのか」

「『身体能力常時10倍』……。これが魔族を相手にもしなかったユーマの強さの正体か。バケモノみたいなスキルだな」

 クラウスは悠真の問いに答えずそう言った。

「ええ、そんなすごいスキルがあったなんて……。それに、『収納(ストレージ)』と『取り寄せ(アポート)』これはどういったスキルですか?」

「ああ、それは……」

 そう言うと悠真は『収納(ストレージ)』からポーションを取り出した。それを見たアリスが口を押さえて言う。

「今どこから……?」

「『収納(ストレージ)』は生物以外を収納できるんだ。収納可能な量はわからないけど、そこそこ大きい物も収納できるし、数もかなり入ってるよ」

「おいおい、便利するすぎるだろ……」

 クラウスの顔が引きつってる。

「と言ってもなー、対象次第では大量の魔力を消費するみたいなんだ。この剣と銃もほんとは『収納(ストレージ)』に入れたいんだけど、取り出す時の魔力量が多すぎたからおそらく入れる時も同等の魔力を使うはずなんだよ」

 悠真は腰に携えた剣と、懐にしまった銃を見て言った。

「魔力量の違いはどういう基準なんでしょう……?」

 アリスがまじまじと剣を見て言った。

「わからない。でも、この武器の強さは関係してると思う。アーティファクトだって言ってたよな、そこも関係してるかも……」

 いわゆるソシャゲなんかで言う「レア度」が高いほど魔力を消費するのかもな、と悠真は思ったが、たぶん二人には通じないので黙っていることにした。

「謎の多いスキルなのですね」

 まったくだ。元々入ってた物騒な武器といい。


「で、『取り寄せ(アポート)』 ってのはどんなスキルなんだ?」

「ああ、これはまだあんまり使ったことないんだけどなー」

 そう言いながら、ユーマはクラウスの剣を触った。そして右手を前に伸ばして念じると、いつの間にか悠真の右手にクラウスの剣が握られてる。

「え?あれ?」

 クラウスはさっきまで剣を立て掛けていた場所を見たが、そこには剣はなかった。

「一度でも触ったことあるものを持ってくることができるんだ」

「敵の武器奪い放題じゃねえか……」

 クラウスはさっきからずっと顔が引きつってる。アリスもずっと両手で口を押さえていた。確かにそんな使い方もできるか。


「『魔銃術』はいいとして、『光剣術』ってのは? その剣を扱うスキルか?」

 クラウスが悠真の剣を見て言った。

「おそらくな。それもいつの間にか習得してた」

 このあたりの突然覚えたスキルについては色々検証したいところだけど、めんどくさくてまだできてないんだよなぁ。

「この『???』というのはなんでしょう?」

「それについてはまったくわからん。おれが教えて欲しいぐらいだよ」

 スキルの効果も、発動の仕方もまったくわからないんだよな。まあ害はないみたいだしあまり気にしても仕方ない。


「いやー、ユーマの強さの秘密がようやくわかったよ」

「そうですね。ちょっとおかしいぐらい強いです」

「ちょっとちょっと、その言い草はないんじゃない?」

 今後はあまりスキルは人に見せないほうが良さそうだな、と悠真は思った。


「うわ!なんだ?」

「キャッ!」

 突然、馬の鳴き声がしたかと思うと馬車がガクンと急停車した。

「おい!危ないだろ!」

 と、御者の怒鳴り声が聞こえた。一体どうしたんだ。悠真が身を乗り出して前方を確認すると、馬の前に少年が立っていた。どうやらこの少年が馬車の前に飛び出してきたようだ。

「この馬車、冒険者が乗ってるんだろ!?」

 少年が御者に向かって叫んだ。

「冒険者に頼みがあるんだ!お願いだよ!」

 少年は必死になって頼み込んでいた。かなり切羽詰まった様子だ。


「どうしたんでしょうか。なんだか只ならぬ様子ですね」

 アリスが馬車のドアを開けて降りていく。うーん、なんだかめんどくさい事になりそうな気配。

「どうしたの?」

 アリスが身体をかがめて、少年と同じ目線で声をかける。そういえば、子供に話しかけるときは同じ高さまで低くして目を見るといいと聞いたことがあるな。

「姉ちゃん、冒険者か?おれの妹を助けて欲しいんだ!」

「妹を?」

 アリスと少年が話しているうちに悠真とクラウスも馬車から降りてアリスのすぐ後ろに来ていた。

「妹が竜の山に行っちゃったみたいで、帰ってこないんだ」

「竜の山?」

 悠真が少年の言葉を反復した。

「ここから北にある、ちょうど麓に村があった山があるだろ?あそこに竜が住んでるなんて言い伝えがあるんだよ」

 クラウスはなんでも知ってるな。なかなかの情報通だ。

「妹さんはなぜ竜の山に行ったのですか?」

「村で大人たちが病気で次々に倒れてるんだ。おれの母ちゃんも倒れちゃった。竜の山に生えてる薬草がその病気に効くって噂を聞いたから、たぶん竜の山に行ったんだと思う……」

 少年はだんだんと俯いてしまい、しまいには泣きそうな声になっていた。


「大変!ユーマ、行きましょう!」

 アリスが振り返って悠真を見た。

「でも、勇者を追うんだろ?もたもたしてたら見失っちゃうんじゃ」

「だからと言って、放って置けません!」

 うーん、やっぱりめんどくさい事になってしまった。できる事なら関わりたくない。

「クラウス、どうする?」

「勇者は追わないとだけど、まあほっとけないよな」

 こいつも結構正義感強いタイプなんだよな。おれははっきり言って行きたくない。めんどくさい。

「ユーマ?」

 アリスが煮え切らない様子の悠真を見て呼びかける。


「無策で行くのは良くないよ。大人だけが病気ってのも気になる。もっと情報を集めてから、ギルドを通して頼んだ方が無難じゃないかな」

 悠真はなるべく真っ当な理由を見つけてやんわり断ろうとしていた。

「本気で言ってますか? ユーマ」

 アリスがわなわなと身体を震えさせている。うっすら目に涙も溜まっているようだ。

「見損ないました!もういいです!クラウス、わたしたちだけで行きましょう」

 怒らせちゃったな。でも言い訳だけじゃなく「大人だけが病気」ってのは気になるんだよな。

「おいおいユーマ、もっと素直になれよ」

 クラウスは痴話喧嘩に巻き込まれたみたいに気まずそうな顔をしている。なんだか損な役回りだな。

「クラウス、アリスに付いて行ってやってくれ。おれはベーゼルに行くよ」

「え、ユーマ? まじかよ!」

「ちょっと気になることがあるんだ。めんどくさいけどちゃんと後から合流するよ」

「わかったよ、何か考えがあるんだな」

「うーん、まあ考えってほどじゃないけど」

 アリスはすでに少年に案内を任せてズンズンと進んでいたので、クラウスは慌てて追いかけた。ふと、こっちを振り返り舌を出してまたプイッと前の方を見た。めちゃめちゃ軽蔑されてしまった。


 悠真はやれやれとため息をついて、馬車に戻った。この世界に来てからこれを思うのはもう何度目かな。


 帰りたい。

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