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旅は道連れ

 悠真は助けた女性を背負い街道を歩き続けていた。徐々に日も落ち始めていたが、悠真は歩き続けている。

 気付けば街道から離れたところに森が見えるようになっている。

(結構歩いてきたよな。おれ、こんな体力あったっけ……?)

 悠真は自分がほぼ疲れていないことに疑問を抱いていた。

(そろそろ日が落ちそうだ。なんとか日が落ちる前に街に辿り着ければいいけど)

 少しだけ歩みを速める。


(あれは……!)

 街道から逸れた森の手前に小屋が見える。

 悠真は街道から逸れ、小屋の方に向かった。


 小屋の前に着いた悠真はがっくりと肩を落とした。とても人が住んでいそうな雰囲気ではなかったのだ。

 窓は割れ、ところどころ風化している。辛うじて雨風はなんとか防げそうなボロボロの小屋だった。

「まあ、一晩明かすだけだし良しとするかな」

 悠真は小屋の中に入ることにした。


 小屋の中は埃まみれのベッドがあり、小さいテーブルが一つだけ置かれていた。何年も放置されているようだった。

「ふう」

 悠真は背負っていた女性を壁にもたれ掛けるように座らせ、鞄を下ろした。


(流石にこのベッドにこのまま寝かすのは忍びないな)

 ベッドからシーツを剥がし、外で埃をはたいた後、シーツを引き直す。

「とりあえずこれで我慢してくれ」

 そう言うと悠真は女性を抱え、ベッドに寝かせた。


(やっと一息つけるな)

 テーブルの前にどかっと座る。体力的には問題ない悠真だったが、精神的にはかなり参っていた。

 水筒の水を少し飲む。

(この先に街があるにしてもどれくらいかかるかわからないから、飲みすぎないようにしないと)

 慎重な性格の悠真は常に最悪のケースを想定する癖があった。


「とりあえず、改めて今の状況を整理しておこう」


(ここはおそらく異世界。文化は文明はよくわからないけど、どうやら魔法は存在しそうだ。この子が炎を放っていたのはおそらく魔法だろう)

 ちらっと女性の方を見る。

(おれがどうやってこの世界に迷い込んだかは全くわからない。あの目眩が原因なのだろうか。服や持ち物が気を失う前と同じと考えるとそのまま転移されてきたんだろうな)

 スマホを取り出して見てみるが、やはり圏外だった。


(あと気になるのは体力がかなり向上しているように感じる。これだけ歩いてきたのにそこまで疲れがない)

「うーん」

 寝転がり天井を見上げながらさらに考える。

(この世界の情報はこの子が良くなってから聞くとして、なんとか元の世界に帰る手段を考えないとな)

「なんとか回復してくれよ」

 女性の方を見て呟く。


「う……」

 女性が静かに目を開けた。

「ここ……は?」

 女性は頭を抑えながら起き上がろうとする。

「大丈夫?ボロボロの小屋だが日も暮れ始めたし使わせてもらうことにしたんだ」

 悠真はそう言いながら女性を支え、水筒を口元に持っていく。

「熱が出ているんだ。起き上がらなくていい。いっぱい水を飲んだ方が良いよ」


 女性はゆっくり水を口に含み、そのまま水筒1つ分の水を飲みきった。

「はぁっ」

 それを確認した悠真は女性の背中を支えている手をゆっくり下ろし、ベッドに寝かせた。


「ありがとうございます。本当になんとお礼を言ったらいいか」

 女性は軽く目を瞑りそう言った。

「気にしないで。痛いところや違和感のあるところはない?」

 悠真は警戒されないようにできるだけ愛想良く振る舞った。内心面倒臭く思っててもいつでもよそ行きの態度を取れるのは悠真の社会人としてのスキルの高さだ。

「大丈夫です。疲れが出たんだと思います」

「そっか、よかった」

 悠真は安堵のため息を吐いた。ここで病気や衰弱などで死なれたら後味が悪すぎるというのは、心から思っていたことだ。


「事情は明日ゆっくり聞かせて。今は休んだ方がいいよ」

「はい、ありがとうございます」

 そう言うと女性は再び静かに眠りについた。


(おれもさすがに色々と疲れた)

 悠真は壁にもたれ掛かる座り込み、そのまま眠りについた。

 辺りはすっかり暗くなっていた。


 朝日が窓から射し込み始める頃、女性は目を覚まし、ゆっくりと上半身を起こす。

「なんとか動けそう」

 女性は昨日のことを振り返る。

(殺してしまった……人を……)

 自分の身体を抱き抱えるようにして震えている。


「はっ」

 壁にもたれかかって寝ている悠真に気づく。

(この人がいなかったらわたしは今頃……)

「熱も下がったようね」

 自分の額を触りながらベッドから立ち上がり、悠真の方に近づく。

(それにしても変わった服装。それに馬にも乗らずにあんなところを一人で歩いていたのは……?)


「んん……」

 悠真が目を開けると目の前に女性の顔が見える。

「うわっ!」

 驚いて思わず声をあげる。

「あっ!ごめんなさい!」

 慌てて女性が謝る。


「いや……、元気になったんだね」

 悠真が頭をかきながら笑いかける。

「ええ、貴方のおかげで」

「本当によかったよ」

 ホッと胸を撫で下ろす悠真。


(しかし改めて見ると本当に可愛いな……)

 女性は腰上ほどまでにある金髪で、碧眼、スタイルもかなり良かった。

「やっぱ日本じゃないんだな……」

「えっ、なんですか?」

「いや、なんでもない」


「とりあえず色々聞きたいんだけど」

 悠真はテーブルの前に移動して水を一口飲んだ。

「そうですね……」

 女性もテーブルの反対側に座った。


「その前に自己紹介だね、おれは悠真」

「ユーマさんですね。わたしはアリスです」

「よろしく、アリス。早速だけど昨日のあれはなんだったの?」

 アリスは少し俯いた後、顔を上げ悠真の方を見る。

「わたしはある男に狙われています。その男は一国を内部から乗っ取ろうと企んでおり、わたしはその計画を阻止するためにここから北に位置する国、ヴォルツに向かう途中でした。それを阻止しようと男は追っ手を差し向けたのだと思います」


(なかなかヘヴィーな展開だ)

「そうだったんだ……」

 精一杯ポーカーフェイスを装い悠真は答えた。

「巻き込んでしまって申し訳ありません。お礼は必ずします」

「いいよいいよ」

(あまり関わらない方が良さそうだ。これ以上深く聞くのはよそう)

 他人の厄介ごとには自分から関わらない方がいいというのも、悠真が社会人になって身につけたスキルだ。首を突っ込むと必ずと言っていいほど仕事が増えるに決まってる。


「それで、そのヴォルツって国はあの道をまっすぐ行けばいいの?」

「そうですね。でもここからだと結構距離が……、そういえばわたしの乗っていた馬はどうなりましたか?」

「残念ながら行方不明なんだ」

「そうですか……」

 アリスは俯いた。


「歩くとどれくらいかかるの?」

「そうですね……、おそらく3日ほど」

「3日!!?」

 思わず悠真は大声を上げてしまった。


「あの馬ならば半日程度だったのですが……」

「ちなみにここから一番近い街はどこなの?」

「……ヴォルツです」

「そっか」

 がっくり肩を落とす悠真。


「そういえばユーマさんは変わった服を着ていますよね、どちらから来られたんですか?」

「あー、えっとねー……」

 頭をかき、言い淀む悠真。

(異世界から来たって言ってもいいものだろうか……?もしおれと同じように異世界から転移してきたやつが何人かいるなら何か情報を持っているかも知れない。『異世界』というワードが伝わるかで判断できそうだな。ここは早く帰るためにも正直に言うべきか)


「おれは気付いたらあそこにいたんだ。元々こことは別の世界、いわゆる『異世界』からこの世界にやってきてしまったみたいで」

「イセカイ……、ですか?」

 アリスは不思議そうな顔をして悠真の顔を見ている。


(この反応は、ハズレか。少なくともアリスは異世界については何も知らないらしい)

「いや、とにかく気付いたらあの場所にいておれも何がなんだかわからないんだ。大きい街に行けば何か情報があるかも知れない。おれもそのヴォルツって国に一緒について行ってもいいかな?」

「もちろんです!わたしも一人で旅するよりユーマさんについて来てもらえると安心します」

 アリスは嬉しそうに頷いた。


「でも、わたしは国を救うために急がなければなりません。それでもよろしいですか?」

「ああ、どうやら体力はそこそこあるみたいだから」

「?」

 不思議な言い回しにアリスは首をひねった。

「それに、もしかしたらまた別の追っ手も来るかも知れませんが……」

(あっ!そうだった……。しかし道がわからないので一人で辿り着ける気がしない。よく知らない世界で一人きりってのも不安すぎる。背に腹は変えられないな)

「ああ、構わないよ」

 悠真は精一杯強がって返事をした。

「では行きましょうか!」

 アリスは元気よく立ち上がった。


「あ、そうだ、これたぶんアリスの鞄だよね」

 悠真は貴金属や通貨らしきものが入った鞄を渡した。

「あ、そうです!良かった……。持って来て下さってたのですね」

「ああ、ついでにあいつらの鞄も拝借して来た。3日も歩くんだ。水や食料は必要だし」

「そうですね。ですが、道中森を抜けるのでそこで水と食料は確保できますよ」

「そうなんだ」

(軽いサバイバルだな……。でも水と食料が確保できるってのは朗報だな。はぁ、キャンプとか苦手なんだよな)


 二人は小屋を出て歩き出した。

「ヴォルツには軍とかに助けを求めに行くの?」

 歩きながら悠真が質問する。

「いえ、ヴォルツにも軍はありますが、あまり大きな軍備はありませんし、おそらく太刀打ちできないでしょう」

「そんなに敵は強力なの?」

「ええ、どうやら魔族も関わっているようなのです」

「魔族!?そんなのもいるのか」

「ええ……」

 アリスの顔に暗い影が落ちたように見える。

「じゃあヴォルツには何をしに?」

「ヴォルツに勇者様が立ち寄っているという情報を掴みました。勇者様なら魔族相手でも助けてくださるはずです」

「勇者か……」

(勇者に魔族か、大変なことに巻き込まれないようにヴォルツに着いたら早めに別れよう)


 ふと、前を見ると街道が徐々になくなり、その先には大きな森が見えて来た。

「この森って、さっきの小屋の奥の森と繋がってるの?」

「そうです。この森には魔物が住み着いているので慎重に行きましょう」

「え、マジで……」

(早く帰りたい)

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