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流されて旅立ち

「お父様、わたしもユーマたちについていきます!」

 アリスはタイミングを狙っていたように言った。

「だめだ」

 ウィベック国王は静かにかぶりを振った。

「しかし……!」

「国が大変な時期なのだ、お前も力を貸してくれ」

「……わかりました」

 アリスはまだ納得いってない顔をしていたが、引き下がった。


(ま、正論だよな)

 悠真は、アリスはもっと、いわゆるおしとやかな姫様かと思っていたが、もしかしたらおてんば姫寄りなのかなと感じた。そういえば最初に出会った時も一人旅していたっけ。


 国王は一つ咳払いをして、悠真たちに向かって話した。

「国を助けてくれたことといい、今回の頼みといい、さすがに何の礼もせずに送り出すのは心苦しい。せめてこれを貰ってくれないか」

 国王の側近の兵士が大仰な箱を抱えて持ってきた。海賊なんかが金銀財宝を入れている宝箱のような。兵士が箱を開けると、そこには一つの本が入っていた。

「魔法書だ。本来、魔法とは長年の修行を経て自由に扱えるようになるものだが、この魔法書を開いたものは特有の魔法が得られる。効果は一度だけだ」

 王様がその本について説明をする。

「魔法書か……。魔法屋なんかに持っていくととんでもない金額で引き取ってもらえると聞いたことがあるな」

 クラウスが悪い顔をしていた。

「これを受け取ってくれ。金に困っているようなら売ってくれても構わん」

「で、では貰っておきます」

 悠真は魔法書を受け取り、何だか大層なものを受け取ってしまったな、と頭を掻いた。


「じゃあ行こうぜ、ユーマ。もたもたしてたら勇者の足取りが掴めなくなっちまう」

 クラウスが王様に背を向け、悠真を急かした。

「あ、ああ……」

「では、武運を祈る!」

「どうか、気をつけて」

 国王とアリスが二人の背中に投げかけた。


 ユーマたちは被害の大きい城から離れた、まだ比較的被害の浅いところで、これからの旅のための食料を買い込んでいた。

「勇者を追いかけるって言ったって、アテはあるのか?」

 悠真がクラウスに問いかけた。

「せめてどの方角に行ったかわかればな〜」

 クラウスが呑気に言った。おいおい、お前が急かしておいてそれかよ、と悠真は思った。

「そうだ、とりあえずヴォルツに戻ろう。姫様の護衛の報酬を貰わないと」

「ああ、おれもなんだかわからないままこっちに来ちゃったからなー」

「決まりだな!まずはヴォルツだ」

 クラウスがそう言うと、買い物をそこそこに二人は街の外に出る門に向かった。


「アリスとちゃんと挨拶もできなかったなー」

 悠真は少し上を見上げて言った。

「なんだよ、そんなに姫様が気になるのか?」

 クラウスがからかうような口調で言う。

「ああ、でもこの世界には美人が多いし、アリス以上の美人にもどこかで出会うだろっ」

 悠真が無理やり明るく振る舞った。

「あら、そんな風に思ってたんですか?ユーマ」

 聞き覚えのある声に二人が視線を向けると、門の横にアリスが立っていた。

「アリス!?見送りに来てくれたのか?」

 悠真とクラウスが目を丸くして驚いている。

「まさか!わたしも一緒に行きます。そもそも『火のオーブ』を取り返すのはこの国の責任ですし、予知をしたのもわたしです。予知だけしておいてあとは他の人に任す、なんて無責任なことはできません!ユーマたちが止めてもわたしは勝手についていきますから!」

 悠真はアリスの勢いに、しばらくポカンと口を開けていたが、やがてふうっと深いため息を吐いた。

「王様に叱られても知らないぞ」

 悠真は、おてんば姫「寄り」どころじゃなかったなと思った。元々強い娘だと思ってたけどこれほどとは。なんだかこれから苦労しそうだ、などと思っていたが、内心どこか嬉しい気持ちもあった。


「まあ、男二人のむさ苦しい旅よりいいな」

 クラウスはニヤニヤ笑いながら悠真の肩に手を置いた。

「そりゃそうだ」

 悠真も大げさに手振りをして、諦めたように笑った。


「それで、これからどこに向かうつもりだったんですか?」

 アリスが二人に問いかける。

「ヴォルツだよ、姫様が無事だってことをヴォルツ国王に報告しなくっちゃあな」

 クラウスがそう言うと、アリスが人差し指を口元に持っていきながら言う。

「クラウスさん!これからわたしのことはアリスと呼んでください」

「わかったよ、じゃあおれのこともクラウスでいい」

「よろしくお願いします。ユーマ、クラウス」

 ふふっと悪戯っぽい笑みを浮かべてアリスが手を差し出した。

「元の世界に帰るまでは付き合うよ」

 そう言って、悠真はアリスの手を握った。

「素直じゃないなぁ」

 クラウスが悠真をからかうようにそう言った。

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