頼まれると断れない性格
「あー!簡単には帰れそうにないな〜」
食事を済ませた後、悠真は割り当てられた部屋のベッドに勢いよく倒れながら叫んだ。食事の席ではアルコールも出たため、ほろ酔い状態だった。
「帰るって、お前どこの出身なんだよ?」
同じ部屋のもう一つのベッドに座っているクラウスが言った。
「あん?異世界だよ!異世界!」
「イセカイ……?そういや、別の世界がどうとか言ってたよな」
アリスもそうだったが、クラウスも異世界については全く聞き覚えがないようだった。ほんとに帰る方法あんのかよ、と悠真は思った。
「ああ、おれはこことは別の世界からやってきたんだ。おれは早く元の世界に帰りたいの!」
悠真はがーっと両腕をあげわめき散らしている。
「別の世界ねぇ……」
クラウスは、半信半疑だったが悠真の様子から嘘をついていない事だけは察した。そういえばヴォルツ国王も別世界の噂について知っていたな、と思った。
「そういや、ヴォルツ国王が別世界についての噂を知ってたぞ、大した情報がないけどな」
「そうだよ!結果的におれもここまで来たんだから教えろよ!」
悠真はガバッと身体を起こし、クラウスの方を見て言った。
「ほんとに大した情報じゃないんだけどな」
クラウスは苦笑いして言葉を切った。
「『ある魔道具に大量の魔力を注ぎ続けると別の世界への扉が開く』という噂を聞いた事があると言っていた。あくまで噂、とも言ってたから信憑性は怪しいところだな」
「ある魔道具……」
悠真はうーんと唸りまたベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「でも、火のないところに煙は立たないからなー。帰れる手段はありそうだな」
帰ることが可能かもしれない、と悠真は思ったが、具体的な方法がまだわからないので素直に喜べないでいた。
「そうだ、ユーマの持っていた武器、そこに置いてあるぞ」
クラウスが部屋の隅に目をやりながら言った。
「ん?おお、サンキュ」
悠真がクラウスが見た方法を見ると、剣と銃が置いてあった。
(あの光の剣、『収納』から出すだけで魔力が空っぽになったみたいだった。たぶんそのせいでおれは気を失ったんだ)
「しかし、あんな武器見たことないぞ、どこで手に入れたんだ?」
クラウスが珍しい物を見る目で剣と銃を見ていた。
「ああ、まあ色々あってね……」
悠真は説明に困った。自分でもよくわからないものを、どうやって人に説明していいのやら。気付いたら『収納』にありました。って言ってもな……。
「あん?ほんとに不思議なやつだよな、お前」
クラウスは、自分もそこそこ腕の立つ方だと思っていたが、悠真のとんでもない力を見て考えを改めていた。どんなスキルを持ってるか知らないが、異常な強さだ。それにあの武器、魔族の硬い身体を一刀両断だ。魔銃なんてのも聞いたことない。それにあれは光属性の攻撃か?光属性を扱えるやつを見たのは初めてだ。クラウスは頭に様々な考えが浮かんで整理できずにいた。
「……?」
クラウスが腕を組んでなにやら思案する様子を見て悠真は首を傾げた。
「クラウスはこれからどうするんだ?」
悠真は腕を組んで思案するクラウスに質問した。
「おれは引き続き勇者を追うよ。『風のオーブ』はおれにとって大事なものなんだ」
「そうか……」
何かよほどの事情があるんだろうと思った悠真だったが、あまり詮索しないことにした。
「ユーマは?」
「おれは……とりあえずウィベック国王に別の世界の情報を聞いてみるかな。ヴォルツ国王とは違う情報を持ってるかもしれないし」
「そうか、元の世界に帰れるといいな」
「ああ」
二人がベッドに横になって静かになってしばらく経った後、悠真が天井を見ながら口を開いた。
「そういえばアリス大丈夫かな……」
誰に言うでもなく呟いたその言葉に、数秒経ってから返事が帰ってきた
「この国の復興には時間がかかるかもな」
クラウスもまだ起きていたようだった。
「大変だな……」
「ユーマが手伝ってやればいいじゃないか」
気づけばクラウスが悠真の方を見てニヤリと笑っていた。
「やだよめんどさい。おれは早く元の世界に帰りたいの」
悠真がゴロンと寝返りをうった。
「素直じゃないやつだな……」
クラウスがふっと鼻で笑った。
「まあ真面目な話、ウィベック国王はかなりデキる人だ。あの人が主導している以上はなんとかなるだろうよ」
「ふーん、詳しいんだな」
「ああ、この国にもしばらくいたことがあったからな……」
次の日、二人は再びウィベック国王の前にいた。
「すまないな、また呼び出してしまって、昨晩はよく眠れたか」
「おはようございます、ユーマ、クラウスさん」
そこにはアリスも一緒にいた。
「いえ、こちらもまだ聞きたいことがあったので」
「ん?では先にそちらの話を聞こうか」
「では……。ウィベック国王は別の世界について、何かご存知ではないでしょうか?」
「別の世界か……」
ウィベック国王が顎をさすりながら頭の中の索引を引いている。
「ユーマ殿が求める話かわからんが、こんなおとぎ話がある」
そこで言葉を切って、国王は話を続けた。
「神だけが使える魔法『転生魔法』というのがあるというものだ。その転生魔法をかけられたものが死ぬと、別の世界の新しい人間として生まれ変わることになるという話だった」
「転生魔法……ですか」
「そういえば、そんなおとぎ話がありましたね」
どうやらアリスも知ってるようだった。まあ実の父が知っていれば娘であるアリスも知ってることもあるだろう。
(転生魔法ね……)
さすがに元の世界に帰るために生まれ変わるわけにはいかないな、と悠真は思った。しかも、神だけが使えるなんて、おとぎ話だけあってとても現実離れしている。まあ異世界にいる時点で現実離れしてるけどね、などど思っていた。
「そうですか、ありがとうございます」
結局、悠真はこの話を聞いてどうすることもできなかった。なかなか思うように事が進まないものだ。
「すまないね、大した話ではなくて。それで、こちらから改めてお願いがあるんだが」
「お願い、ですか?」
「ああ、ユーマ殿とクラウス殿の力を見込んで頼む。どうかオーブを勇者から取り返してくれないだろうか。あのこのままにしておくと世界が滅んでしまうかもしれん」
「ええ!?世界が滅ぶって、そんな大げさな……」
「わたしから説明します」
アリスが一歩前に出て言った。
「実はわたし『予知』のスキルを持っているのです」
「予知……」
「はい、わたしの『予知』は、たまに夢の形で断片的な映像として出てくるのですが、昨日また予知を見てしまいました」
アリスが俯き暗い表情で続ける。
「勇者が全てのオーブを揃えて、世界が闇で覆われる映像です」
「なんでそんなことに?」
悠真が問いかける。
「その経緯まではわかりません。断片的にその映像が見えただけですので」
「なんてこった……」
クラウスが呟く。
「どうか、やつらを止めてくれんだろうか。魔族をあの人数で倒せる実力者などそうそういない!頼む!」
王様が深く頭を下げる。
「ちょ、ちょっと……」
またも王様に頭を下げられた悠真はやっぱりあたふたしてしまった。二日連続王様に頭を下げられるなんて。
「おれはもともと勇者を追うつもりだった。言われなくても追いますよ。まあ、魔族を倒したユーマなんで、おれがどれほどやれるかはわかりませんがね」
「助かる……!」
クラウスがそう返事すると、王様は頭を下げたままそう言った。どうやらこの王様、おれが返事するまで頭を上げる気はなさそうだ、と悠真は思った。
悠真がまだ迷ってる間も、王様は頭を上げることはなかった。
「わ、わかりましたよ!やります!やりますよ!」
その場の空気に耐えきれず、悠真は降参した。
「そうか、助かる!」
そういうと王様は頭をあげた。その顔には安堵の笑みが溢れていた。
「ずるいよ……」
悠真がそう呟くと、王様が豪快に笑った。
「こうでもなければ、一国の王など務められんのでな!」
見ると、アリスとクラウスも口元を押さえクスクスと笑っていた。
悠真はその場のみんなにわかるように大きなため息をついた。




