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魔族、強襲

 なんだかめんどくさいことになりそうだけど、もうそんなこと言ってられないな、と悠真は思っていた。ここ数日、情報を集めていたが元の世界に関する情報が全く入ってこなかったため、悠真は国王になんとか会える方法を探すしかないと考えていた。そこに来て、城で何か只事ではないことが起きているとなっては、多少めんどくさくなりそうでも、国王が無事か確かめずにはいられなかった。


 人波を掻き分けて城の前まで来た悠真。城を見上げると外壁が壊されており、中から黒い煙が立ち上がっていた。兵士たちは慌ただしく城の中で入っていく。悠真はこの街に来てこんなに城の近くまで来たことはなかったが、城の大きさや荘厳さに感動している暇はなかった。


「あの、一体なにがあったんですか?」

 悠真が城の中に入っていこうとしていた兵士に聞くと、兵士は慌ただしく答える。

「どうやら国王様の部屋に侵入者が現れたらしい!」

「侵入者……?王様は大丈夫なんですか!」

「今からそれを確かめにいくんだ!」

 兵士はそのまま走って城の中に入っていってしまった。

 侵入者って、城に直接乗り込んでくるのか?王様は大丈夫だろうか?悠真の頭の中で色々な考えが巡った。


「大丈夫か!?」

「なにがあった?」

 気づけばギルドの冒険者たちが数人、城の前に駆け付けていた。

「城が壊れてるじゃないか……」

 駆け付けた冒険者が城を見上げて言った。

「どうやら侵入者らしい」

 悠真が冒険者たちに説明する。

「なに?王様は無事なのか?」

「わからない……」

 悠真がそういうと、冒険者たちは興奮気味に悠真に詰め寄った。

「俺たちも様子を見にいこう!」

「そ、そうだな」

 悠真は冒険者たちの迫力に気圧され、返事をした。


 城の中に入ると、兵士たちが同じ方向に向かって走っていたので、悠真たちはそれに続いて城の中を進んでいった。一際豪華な装飾がされた扉の向こうで事件は起こっていた。その部屋は悠真がいつも止まってる宿の部屋の50倍は広かった。その中央でとても人とは思えない爪と牙を持った人のような生き物が立っていた。そいつは悠真より30センチほども背が高い。背が高いというよりも縦に長いといった感じにひょろ長かった。その目は赤く顔はなんだか青白い。


 その、到底人間と思えないやつと、いかにも王様な格好をした老人との間に兵士が3人ほど立っており、老人を守っているようだった。床を見ると、血に塗れた兵士が何人も倒れている。


「なんだよあいつは……?」

 その異形の生き物を見て、悠真はここまで来たことをすぐに後悔した。全く嫌な予感しかしない。

「あれは、もしかして魔族じゃないか!?」

 一緒に来た冒険者はつい、大声になってしまったようだった。

「魔族?あれが……」

 悠真は改めてその人外の生き物を見た。なるほど確かに、魔族と呼ぶに相応しい容貌だ。

「あれが魔族なら、俺たちでは勝ち目がないぞ……!A級冒険者たちが複数人でパーティを組んでやっと勝てるようなやつらだ。しかも、魔族にもランクがあるはずだ。中級以上の魔族にもなると、勇者パーティしか太刀打ちができないんじゃ……」

「え、魔族ってそんな強いの?」

「ああ……。だがこのまま黙って見てるわけにいかない」


 見ると、さっきまで王様を守っていた兵士のうち、まだ立っているのは1人だけだった。このままではいずれその一人もあっさりやられてしまうだろうことは目に見えていた。

「まずい!」

 冒険者たちが兵士の加勢に一斉に飛び出した。王様は怪我を負っているのか、片膝をついて立ち上がれないでいる。

 冒険者たちが各々の武器で魔族に攻撃するも、魔族には全く効いてなかった。剣は手で受け止められ、弓矢は炎で燃やされ、魔法は喰らっても全く効いていない。


「まじで化け物だな……。でも!」

 悠真も部屋に飛び込んでいった。ここ数日前とはいえ、冒険者たちとは顔も知った仲なので見殺しになんてできるはずなかった。悠真は恐怖を抑え駆け出した。

 王様の元の駆け寄る悠真。王様の傷を見て致命傷には至ってないと気づいた。

「これを!」

 悠真は『収納(ストレージ)』からポーションを取り出し、王様に渡した。

「これは、ポーションかね?」

「はい!早く飲んでください」

 王様がポーションを一気に飲み干すと傷がみるみる内に治っていった。

「すまない。助かったよ」

「王様は後ろに下がっていてください!」

「わ、わかった」


 王様を後ろに下がらせた後、魔族の方を見ると兵士の一人が倒れていた。冒険者たちは奮闘していたが、魔族が手を一振りするだけでみんな吹っ飛ばされてしまった。魔族は不気味な笑みを浮かべてゆっくり悠真の方に歩いてくる。


「お前、なにが目的だよ!」

 悠真が魔族に向かって叫ぶと、魔族がニタリと笑った。

「この国は邪魔なのでね。なに、皆殺しはしない。そこの有能な国王にだけ死んでもらえればそれでいいんだよ」

「なんだよそれ……」


 後ろの冒険者たちがなんとか立ち上がろうとしていたのが悠真の視界に映ったが、とてもすぐに戦える様子ではなかった。悠真は一人で魔族に立ち向かう覚悟をした。

(いくらなんでも魔族相手に素手はきついよな。そうだ!『収納(ストレージ)』)

 悠真は『収納(ストレージ)』にいくつも物騒な武器が入ってることを思い出した。急いで『収納(ストレージ)』の中身を確認する。

(接近戦は危なそうだ……。そういえば魔銃とかいうのがあったぞ!……これだ!)

 悠真の手に『魔銃バルバトス』をが現れる。魔銃を取り出した瞬間、悠真は一瞬立ちくらみのような感覚に襲われた。

「くっ、これは?」

 どうやら魔力がだいぶ減ったようだった。プレートを見ると魔力が200も減ったようだった。

(取り出し時にも魔力消費すんのかよ……!しかも200とか減りすぎ)

 魔銃を魔族に向けて引き金を引いてみる。

「このおお!」

 カチッと音がしたが、銃から弾が出ることはなかった。

「くそっ!なんだよこれ!」

 悠真は銃を見て毒づいた。『収納(ストレージ)』には弾なんて入ってなかったはずだ。

「茶番は終わりか?」

 魔族は高笑いをしてそう言った。魔族が悠真との距離を詰め、手を横に振ると衝撃が悠真を襲った。悠真は両手でとっさに顔をガードする。

「くっ」

 1メートルほど後ずさったものの、悠真が吹っ飛ぶことはなかった。

「なに!?」

 魔族の顔から笑みが消えた瞬間だった。悠真が魔族の腹に向かって蹴り込むと魔族が5メートルほど吹っ飛ばされていった。『身体能力常時10倍』は伊達ではなかった。

「ぐああっ!」

 魔族から苦痛の声が漏れる。


「す、すげえ!ユーマ」

 まだ立ち上がれずにいた冒険者たちが目を丸くして悠真を見ていた。

「彼は一体……」

 後ろで見てたヴォルツ国王がゴクリと唾を飲んだ。魔族に対して格闘で挑むなんて聞いたことがなかったのだ。

「彼のあの銃は……」

 王様は悠真の銃に見覚えがあるようだった。

「君!それは魔銃ではないのかね!」

 王様が悠真に向かって叫んだ。

「そうらしいですね!」

 悠真は魔族から目線を切らずに答える。

「それには弾ではなく魔力を込めるのだ!込めた属性の弾丸が出るはずだ!」

(魔力!?魔力ったって……)

 悠真は魔法を一度も使ったことがないため、魔力の込め方がわからなかった。ここにきて、魔法を試しておけば良かったと後悔した。


「おれは魔法を使ったことないんですよ!魔力の込め方なんてわかりません!」

 それを聞いて、王様が一拍おいて答えた。

「魔力を込めるだけなら魔法ほど高度な技術はいらんのだ!例えば火属性なら自分の内側から炎を発生させるイメージをして、それが銃に移動していくようにイメージするのだ!」

「うーん、やってみます!」

 そんな簡単にできるのか、と悠真は疑ったが悩んでる暇はなさそうだった。魔族が立ち上がってこっちに向かってくる。


「やってくれるねぇ!人間しては強いじゃないかーー!」

 魔族が掌から炎を発生させた。アリスが扱っていた炎の大きさとは比べ物にならないぐらいでかい。炎が悠真に向かって襲いかかる。

「まずい!」

 この規模の炎では、避けれたとしても確実に後ろの王様が焼き殺されてしまうと、悠真は感じた。

「そうだ!炎でもいけるか!?『生物』以外とか言ってたよな……」

(『収納(ストレージ)』!)

 炎に手をかざし、念じると炎が消えた。そうやら成功したようだった。炎も『収納(ストレージ)』に収納できる対象だったようだ。


「馬鹿な!?」

 魔族は自身の魔法を消失させられ、愕然としている。その隙を見逃さなかった悠真は再び魔族に思いっきり蹴りを入れた。

「がはぁっ!」

 魔族は吹っ飛んでいったが、やはり致命傷にはなっていないようだった。

「今のうちに……!」

 悠真はついさっき王様に教わったやり方で魔銃に魔力を込めてみた。悠真が持っている属性は雷と光だったが、悠真にとっては光の方がイメージしやすかったので目を閉じて、魔銃両手に持ち、光をイメージした。

 すると魔銃が光り始め、やがて強い輝きを放ち始めた。

「これならいけるかっ!」

 悠真は魔銃を魔族に向けた。

「く、くそっ!やめろー!」

 魔族が叫ぶと同時に引き金を引くと、銃からビームのような光がすごいスピードで放たれた。その光は魔族の腹を貫通し、そのまま部屋の壁も突き破っていった。


「す、すごい威力だな」

 悠真はまじまじと魔銃を見た。

「す、すごい!すごいじゃないかユーマ!」

 冒険者が悠真を見て叫ぶ。興奮して顔が紅潮していた。

「なんと、魔族を倒してしまいよった……」

 王様も目を丸くしていた。魔族を倒せるレベルの冒険者は、知る限りこの街にはいないはずだったのだ。


「ぐっ……。なんてザマだ」

 腹に大きな穴を開けた魔族はそれでも生きていた。瓦礫を押しのけて立ち上がってきた。

「くそ、しつこいやつだな!」

 悠真がもう一度魔銃に魔力を込めようと集中した時、魔族の足元に魔法陣が浮かび上がってきた。

「なんだ?あれ?」

 悠真はつい構えを解いて魔法陣を見てしまった。

「あれは!?転送魔法じゃ!この城にも転送魔法で侵入してきたのか!」

 王様が叫び、さらに続ける。

「今ここでやつを逃すと、また回復していつでもあの転送魔法で襲撃してくるぞ!あの陣の上から魔族を引き剝がさなくては!」

「なんだって!?」

 悠真はそれを聞いて条件反射的に走り出した。魔族の足元の魔法陣が光り始めていた。

「次は必ず仕留めてやるっ」

 魔族は口から血を吐きながらもそう言って笑っていた。

「に・が・す・かーーーーっ!」

 悠真が魔族に飛びついた。

「なっ!」

 あの距離を一瞬で詰めた悠真のスピードに驚いた魔族が発した驚きの声を最後に魔族と悠真は光に包まれその場から消えてしまった。


 悠真と魔族が消えた部屋には静寂に包まれていた。

「なんということだ……」

 王様はつい数秒前まで魔族がいた場所を見つめながら呟いた。兵士たちが国王に駆け寄り国王の無事を確認していた。

「ユーマ、大丈夫だよな……?」

 冒険者たちは心配そうな顔をして天を仰いだ。

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