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姫を追って

「此度の働き、誠に大儀であった」

「そんなに大したことはしてませんよ」

 クラウスは国王の前でもいつもの調子を崩さなかった。国王の前で跪くこともなければ、特別謙ることもない。そのお様子を見て国王の側近にいる男が声を荒立てる。

「貴様、無礼だぞ!」

「よい、わしは気にしておらんよ」

 ヴォルツ国王が手で制するポーズを取る。


 アリスがウィベックに辿り着いたころ、クラウスは都市を襲ってきた魔物を倒して功績で国王に謁見していた。都市の危機を救ったクラウスは国王から直接褒賞をもらうことになっていた為だ。

「して、クラウスよ。褒美はなにが良い?望みの形で褒美を取らせよう」

「では、金と……」

 クラウスは間を空けて続けた。

「勇者の向かった先を教えていただけないでしょうか」

「勇者の?」

「ええ、ご存知の通り、勇者はこの都市で好き勝手を繰り返していました。おれも被害者のうちの一人でね。勇者に預けた物を返してもらう必要があるんですよ」

 ヴォルツ国王は少し思案して答えた。

「ふむ。わかった。その代わりと言ってはなんだが、1つ頼みを聞いてくれんだろうか?もちろん別に報酬は渡す」

「なんでしょう?」

 クラウスは、国王直々の頼みと聞いて少し警戒した。国王が抱える問題なんてものは必ず厄介なものに決まっているからだ。


「少し前にギルドにも募集をしていたのだが。ある女性をウィベックまで護衛するというものだ」

「ああ、それなら依頼書は見ましたよ。護衛任務のわりにBランク以上は受けれない高い難易度に設定されていて、きな臭いと思ってたんだ」

 国王はふうっとため息を吐いて、軽く目をつぶった。

「その通りだ。受けてくれるかね?」

「ということは、勇者の向かった先はウィベックですね?いいでしょう、ついでに女一人を護衛するぐらいであれば」

「助かるよ。君が気づいた通り、勇者はウィベックに向かった。そして護衛対象の女性は先にウィベックに向かっている。君にはその女性に追いついてもらい、女性を助けてここに戻ってきて欲しいのだ」

「先に行ってる……?変な護衛任務ですね?」

 クラウスは通常の護衛任務にはない形式に訝しんだが、一度受けると言った以上、覚悟を決めた。クラウスは普段はヘラヘラと掴み所のない男だったが、こういうところは律儀だった。


「それで、その女は名前や外見的特徴は?」

 クラウスが訪ねた。

「アリスという。ウィベックに行ったことのあるそなたなら顔も知っておろう」

「まさか、ウィベックの姫か?」

「左様だ。故あって彼女はウィベックにいる何者かに狙われている。このことは他言無用で頼むよ」

 ヴォルツ国王はアリスが実の父に命令された追っ手に狙われていることや、ウィベックという国自身に危機が訪れていることを隠した。

「やってくれましたね」

 クラウスは顔を引きつらせた。

(このじじい、わざと姫の存在を後出ししやがったな)

 ヴォルツ国王はなかなかの老獪だった。始めからアリスの名を出すと、断れた時の情報漏洩に繋がる上、断られるリスクが高いと踏んだ国王は、アリスのことを隠しあえてただの「女性」と言って話を進めていた。

 クラウスはため息を吐き、やれやれといった感じで下を向いた。やっぱり受けるんじゃなかったと後悔した。依頼は、内容のわりに難易度が高く、報酬もやけに高いので、熟練の冒険者たちは依頼書を見ても厄介ごとになるだろうと想像し、依頼を受注していなかった。クラウスもそんな熟練冒険者のうちの一人だったのだ。


「では、おれは準備ができ次第旅立ちますよ」

「助かる。この国で一番速い馬を用意しておこう。もしかしたらウィベックにたどり着く前にアリスに追いつけるかもしれん」

「わかりました」

 クラウスは謁見の間を出ようと踵を返し、2、3歩足を進めたところで足を止めた。

「そういえば」

 向き直ってクラウスが言う。

「王は別の世界に行く方法というのをご存知ですか?」

「別の世界……。噂ではある魔道具に大量の魔力を注ぎ続けると、別の世界への扉が開くと聞いたことがある。あくまで噂でしかないから、真相は定かではないが」

「そうですか。ありがとうございます」

 こうしてクラウスは城をでた。


 クラウスは都市を出る前にギルドに立ち寄った。

 するとそこには悠真がいた。どうやらまだ聞き込みをしているようだった。悠真の表情を見る限り、有益な情報は得られていないようだ。

「ようっ!」

 クラウスはいつもの調子で明るく悠真に声をかけた。

「おお、クラウスか。今日は王様に謁見する日じゃなかったのか?」

「ああ、もう会ってきたよ」

「何か情報を聞いてくれたりは……」

 悠真はダメもとで聞いてみた。

「ついてきてくれないんだろ?情報ったってタダじゃないんだぜ?」

 クラウスが不敵に笑った。

「わかってるよ。聞いてみただけだ」

 悠真は諦めたように笑った。


「国王から直接の依頼を受けてなー。しばらくこの都市を離れてウィベックに行くんだ。どうやら勇者もそこに向かったらしい」

「へー、ウィベックってのはどこにあるんだ?」

「ここから南のほうだな、魔物の森を抜けてさらに南いったところに街がある」

「南か……」

(そういえばアリスも南の国から来たって言ってたっけ?勇者もそこに向かってるってことはアリスは入れ違いになったわけか)

「じゃあな、おれは用が済んだら王から褒美をもらうためにまた戻ってくる。まだここにしばらく止まるんだろ?そんときはまた酒でも飲もうぜ」

「ああ、いいな!気をつけていけよ。勇者に直接喧嘩売るような真似はするんじゃないぞ」

「ふっ、それは相手次第だ」

 そう言ってクラウスはギルドを出ていった。


 悠真はクラウスの方を見て、アリスが勇者を追っているならいずれクラウスと出会うかもしれないと思った。めんどくさいことを避けてアリスともクラウスとも行動を共にしないことを選択した悠真だったが、心の奥ではアリスを心配する思いがずっと引っかかっているようだった。

「さて、早く帰るために情報を集めるか!」

 悠真は心に引っかかっている思いを振り払うように言った。

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