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帰りたい

ふと思い立って書きました。小説を書くのは初めてなので稚拙な文章ですが、最後までお付き合いください。

「ああ、早く帰りたい」

 会社の定時を2時間ほど過ぎた頃、平田悠真(26)はまだオフィスでパソコンに向き合っていた。


「原因は追求できた。あとは対応するだけだ……」

 普段は何がなんでも定時で帰っている悠真だが、今日は定時直前にバグが見つかってしまって帰れずにいた。

 手伝わないで帰ることもできたが、押しに弱い悠真は後輩の頼みを断れず、手伝っていたのだった。


「すみません、平田さん」

 坂下竜二(24)がちらっと悠真の方を見て謝る。


「はぁ、ほんとだよ。今日も定時で帰ろうと思ってたのに」

 嫌味っぽく悠真が笑う。

「そんなこと言って、いつも結局助けてくれるじゃないですか」

(ほんとおれって押しに弱いんだよな)


「よし、テストが通った。最後に動作確認して問題なければ終わりだ!」

「さすがです!平田さん!」

「次からは手伝うのごめんだからな」

 悠真は少し呆れながら笑った。


「さて、早く帰ろう」

 悠真は立ち上がって帰り支度を始めた。

「ほんとにありがとうございました」

 坂下も立ち上がり帰り支度を始める。

「あ、僕ちょっとトイレに行ってきます。お急ぎでしたら先に帰ってもらっても大丈夫なので」

「ああ、わかった」


 坂下がトイレに向かった直後、突然悠真は目眩に襲われた。

「うぅ……。おかしいな。睡眠時間はたっぷり取ってるはずなのに……」

 悠真はしゃがみこみ、ついに倒れてしまった。


「う……ん……」

(いつの間にか気を失ってたのか?)

 悠真はゆっくり立ち上がる。

「あれ?ここは?」

 悠真は緑の丘に立っていた。丘から見渡すとそこは見渡す限りの緑の平原だった。近くに整地された街道が通ってる。

(どこだここ?おれはどれくらい気を失ってたんだろう?)

 あたりは日が昇って明るく、晴れて良い天気だった。

(会社で倒れたのは21時頃だったはずだけど)


「うーん。夢?かな……」

(それにしてはやけに意識がはっきりしてる)

 悠真はもう一度あたりを見回す。特にこれといった建物はシンボルなどは見当たらない。白みがかった大きい岩ポツポツと立っているが、それ以外は緑の平原が広がっているだけだった。

 ポケットに手を入れるとスマホがあった。悠真はスマホを確認する。

(圏外か……。日時は気を失った時間で止まってるっぽいな)

「とりあえず、道沿いに歩いてみるか」


 街道に出た悠真はどちらに向いて歩き始めるか少し迷った様子だ。

(こういう2択、苦手なんだよな……。なんかいっつも悪い方引いちゃう気がする)

「迷っても仕方ない。とりあえずこっちに行こう!」

 悠真は歩き始めた。


 悠真が歩き始めて30分ほど経った。

(ふう、動いてると少し暑いけど、そこまで暑くも寒くもないな。割と快適な気温だ)

(今は8月だから、もっと暑いはずなんだけど)


「ん?なんだ?」

 悠真の後ろからなにか音が聞こえてくる。小さな地響きの様な音と女性の悲鳴、それと複数の男の怒号のようだ。


 悠真が振り返ると数頭の馬が走ってくる。先頭を走る馬には女性が乗っており、その後ろから人相の悪い男たちを乗せた4頭の馬が距離を少し空けて走っている。


「な、なんだぁ!?馬?」

 悠真はとっさに街道の外に出た。

(女の人が追われてる……?)


 悠真を少し通り過ぎたところで先頭の馬は囲まれ、転かされてしまった。

「あぁっ!」

 女性が倒れこむ。

 良く見ると、男たちは全員剣を持っている。


(こんなベタな展開に遭遇するとは……)

 あまりに現実離れしたことが立て続けに起き、悠真は逆に落ち着いていた。


「あんたに個人的な恨みはないが、仕方ねえなー」

 男の一人が笑いながら、しゃがみ込む女性に剣を振り上げる。

 女性は男を見上げ睨んでいる。


(まじかよっ!)

 とっさに悠真は目を逸らす。


「ぎゃああぁっ!」

 剣を振り上げた男が突如炎に包まれる。


(え……?)

 悠真が視線を戻すと、燃え盛る男が崩れ落ちる姿が見えた。

(どうなってんだ……?)


 女性が手を前にかざし、残りの男の方に向ける。

「ひっ」

 男が防御の態勢を取ろうとした時、女性の手から炎が舞い上がり、男を目掛けて襲いかかる。

「うわああぁ!」

 男が炎に包まれ崩れ落ちた。


(なんだ?手から炎が?)

 悠真は目を見開いた。


 隙を狙った残りの男が女性の背後に回り込み、羽交い締めにする。

「よし!やれっ!」

 もう一人の男が女性の正面で剣を振り上げる。

「くっ!離してっ!」

「面倒かけやがって、こんなんじゃ割に合わねえぜ」

 男が苦々しい顔で口にする。


(今度こそやばいぞ……!)

 少し離れたところの岩陰に隠れて見ていた悠真は焦り始めた。

 その時、悠真と女性の目が合った。

「助けてっ!」

 女性が叫ぶ。


「うわっ、まじか!」

 悠真は岩陰から身を乗り出しすぎたことを後悔した。

 見殺しにするのは忍びないが、喧嘩すらしたことのない悠真は岩陰から出ないつもりでいたのだ。


 女性の助けを求める声で、剣を振り上げていた男が悠真の方に振り返る。

「なんだ、お前は?死にたくなければそこで大人しくしとけ」

 男が女性の方に向き直る。

「お願い!助けてっ!必ずお礼はします!」

 女性が叫んだ。


(夢なら覚めてくれ……)

 悠真はこの状況が単なる夢ではないことを感じ始めていたが、願わずにはいられなかった。

「くそっ」

 こうなった以上は仕方ない。見殺しにするのも後味が悪いし、なんとか助ける方法を考えよう。悠真はそう覚悟を決めてゆっくりと3人の方に歩き始めた。


「その娘になにか恨みでもあるんですか?」

(話しながらなんとか糸口を掴めないか……)

 悠真の手には汗がじんわりと滲んでる。


「なんだ?死にたいのか?」

 男が笑いながら振り返る。


「うっ」

 近づくと肉の焼けた臭いが鼻についた。実際に人が2人、焼け死んでいるのだ。

 悠真は手で顔を覆った。

(やっぱり夢じゃなさそうだ……)


「い、いや何か理由があるなら知りたいなーと。理由を聞いたらもう関わりませんから」

 悠真は精一杯冷静を装った。


「こいつを殺せば金がもらえる。それだけだ」

 男は吐き捨てるように言った。

「そうなんですか……。あなたは殺し屋? みたいな感じですか?」

 話しながらも、悠真はゆっくりと歩を進める。

「そんな大層なモンじゃねえ、それ以上近づいたらお前から殺すぞ」

「わ、わかりました」

 悠真はそこで立ち止まった。


「おい、早くやれよ。女の力とはいえ抑えとくのも疲れるんだよ!」

 女性を羽交い締めにしてる男が叫んだ。

「くっ」

 悠真と男が会話してる間にも女性は抵抗していた。

「ああ、すまんな」

 男が女性に向き直り、剣を振り上げた。


(もうやるしかないっ!)

 悠真は男に向かって走り出した。

「なにっ!?」

 男が悠真の方を振り向く。

「うらああぁっ!」

 悠真が叫びながら男に突進する。


 男をなぎ倒し、勢い余って後ろの女性と、羽交い締めしてる男共々倒れこむ。

「いってー……」

 頭を抑えながら悠真が立ち上がると、拘束が解けた女性が男二人に手を向けている。

「助かりました!私の後ろまで来てください」

 女性が男達を睨みながら言った。


 悠真は言われるがまま、女性の後ろの方に移動した。

(なんとかなったか)

 悠真から安堵のため息が漏れた。

「うう……」

 悠真がタックルした男はいまだに悶え苦しんでる。

(当たりどころが悪かったのか?おれの力なんてそんなに強くないはずだけど)


 悠真が女性の後ろに移動したのを見計らって、女性は男達に向かって炎を放った。

「うがあぁっ!」

 男二人は燃えながら叫び、そして崩れ落ちた。


「うっ」

 悠真は顔を覆った。

「何も殺さなくても……」

「ここで殺さなければ、次は私が殺されてしまいます。」

 女性は震えながらそう言った。

(この子……)


「大丈夫?」

 悠真が声をかけると同時に、女性がしゃがみこんだ。

「はあ……はあ……」

 女性の息が荒くなっていき、そのまま倒れ込んでしまった。

「ちょ、おいっ!」

 声をかけながら身体を少し揺するが、女性はそのまま意識を失ってしまった。

「やばいんじゃないかこれ!?」

 悠真は不慣れな様子で、女性の息と脈を確認する。

(息はしてるけど、脈は少し速いか?)

 頭に触れてみる。

「……熱がある」


「はぁ〜、どうしよ」

 悠真はため息をつきながら辺りを見回す。

(休めるようなところは……ないよな)

 最初に目覚めた場所から30分歩いたものの、辺りの景色は変わり映えしていなかった。

(だからおれに2択はダメなんだよなー)


「そういえば馬は……?」

 悠真は一団が馬に乗っていたことを思い出した。辺りを見回してみるが、どうやら一連の騒ぎで走り去ってしまったようで姿が見えない。

「はぁ……」

 再びため息。


(ん……?)

 悠真は鞄がいくつか落ちているのに気づいた。革製の肩掛け鞄だった。

(この子と、あいつらの鞄かな)

 中身を確かめる。

(やった!水筒が入ってる!りんごも入ってるぞ!)

「よし……!」

 鞄の1つには、他にも貴金属や通貨のようなコインが入っていた。おそらく彼女のものだろうと悠真は考えた。

 しかし何より水と食料を確保できたのが、悠真にとっては喜ばしいことだった。

(熱があるんだから、水分は必須だ)


(ここでしばらく休んで道を通る人に助けてもらうか?でもまたさっきのようなやつらが来る可能性も……)

 悠真は迷っていた。歩くにしても女性一人を抱えてどこまで行けるだろうか。

(歩くか待つか、また2択か……)


 悠真はもう一度考えた。

(さっきのやつらは金が貰えるからこの子を殺すと言ってたな。ということは雇い主がいるはずだ。さっきのやつらからの連絡が途絶えれば、雇い主は失敗したと見なし、更に腕の立つやつを差し向けることがあるんじゃないか……?)

(でもなんでまた命を狙われてるんだ。金を払ってでもこの子を殺したいやつがいるってこと……?)

 悠真は思わず女性を見た。


(……すごく可愛いな)

 悠真は改めて女性の顔を見た。

(しかし改めて見ても、現代の格好じゃないよなぁ)

 女性は漫画やアニメに出てくるような『中世の騎士』のような格好をしていた。

(さっきの炎にしても、魔法のようだった。やっぱり異世界ってことかなぁ)

(でも死んだ覚えはないし、格好も会社にいた時の服装のまま。転生ではなく転移ってこと?)

「おっと、考えるのは後だ。やっぱり後を追ってくるやつがいたら怖い。歩けるところまで歩こう。」

 悠真は街道の先を見つめる。

「道があるってことは街や施設に繋がってるはずだ」

 覚悟を決めた悠真は再びため息を吐き、女性を背負う。

(ほんとは重い装備は外して置いていきたいけど、後で怒られるのも嫌だからな……)


 女性を背負った悠真は街道を歩き出し、叫んだ。

「あー!異世界なんていいから早く帰りたい!」

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