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ミライ×ミライ×ミライ  作者: 偽ゴーストライター本人
7/10

(6)

『人の恋路を邪魔する者は、馬に蹴られて死んでしまえ』

 この言葉に従うかのように清香、カミラ、鈴ちゃんの三人は昨日のうちに家を出ていった。

 それなら未来に帰るのが筋だと思うのだが、昨日の彼女たちの話によると『まだこれから不測の事態が起こるかもしれない』という。たしかに僕も新たなる未来シスターズ・Ⅳに襲来されたら一人では対処できないし、万が一のことを考えて三人を未来に追い返すことはしなかった。とりあえず三人は数日ほど観光でこの世界を見て回る、という話だった・・・のだが?

「わたしも、ピチピチのばーちゃんが、見たかった・・・です」

「・・・なのよ」

 清香が申し訳なさそうに言った。

 僕はリビングのソファーに座りながら渋い顔をしていた。

 喫茶店からアミラさんが帰った直後、僕は清香に『我が家に集合せよ、理由はわかるよな?』とメッセージを送った。僕はアミラさんが虫を使わないことを確信していたし、自宅に三人がいても平気だと思った。

 そして再び我が家では家族会議が行われていたのだった。

「鈴ちゃんが自信満々で言ったから・・・」

 ある意味では被害者の一人でもある清香が僕に弁明した。

「自分はクォーター宇宙人だから、アミラさんには感知できない・・って」

「いや・・・感知してたよ・・・もう、バリバリに感知してた」

 まずリスクを考えれば鈴ちゃんが僕の周囲をウロチョロしては絶対に駄目だし、なんといっても鈴ちゃんが喫茶店に突撃してくるなんて問題外だ。せめて遠くから眺めるくらいの謙虚さが欲しかった。

「わたしは・・・ちょっとだけ、考えが甘かった・・・えへっ」

「・・・それで許してもらえるとでも?」

 僕から見れば鈴ちゃんも充分にトラブルメーカーだった。鈴ちゃんの将来に不安を感じずにはいられない。

 そして清香に元祖トラブルメーカーのことを訊ねた。

「で・・・ここにカミラがいないのはどして? まさか両親のせいで、存在そのものが消えちゃったとか?」

「いや、だから・・・時間の流れってそういうものじゃないのよ」

 清香が僕の言葉を聞いて苦笑した。

 先ほどの喫茶店の件で、アミラさんが僕に愛想をつかした可能性がある。それが原因で僕らの結婚がなくなれば、当然ながらこの世にカミラは生まれてこない。

「もしそうなら、鈴ちゃんだって消えるでしょ?」

 清香の言葉には鈴ちゃんも頷いている。

「もし二人が結ばれなかったとしても、そこで消えるのは『今の時間軸』のカミラちゃんなの。この世界の延長にいるカミラちゃんが生まれてこないだけ・・・なのよ?」

 その後で清香は『ま、そういう歴史改変も本当はあまり望ましくないんだけどね』と付け加えた。

 そこで急に鈴ちゃんがボソリと言った。

「・・・カミラちゃんは、自由人すぎます」

 珍しく困ったような表情をした鈴ちゃんだった。

「あの叔母ちゃんは・・・そんな性格だから、バツイチです」

 それは言っちゃいけない話では? ・・・僕と清香は思わず顔を見合わせた。

 僕たち兄妹が動揺しているのもお構いなしで鈴ちゃんが続ける。

「うちの一族で、幸せになれなかったのは、今のところ、カミラちゃんだけです・・・こういうのは、大人が叱ってあげないと、いけません」

「カ、カミラちゃんは・・・ひ、一人で観光に行ってるのよ・・・私たちのように若い頃のアミラさんには興味がないらしくて・・・」

「・・・・・・」

 僕は知らなくてもいい未来をまたひとつ知ってしまったようだ。

 しかしそんな未来ですらも、地球が滅亡する未来よりはだいぶマシなはずだ。

 僕はソファーの背もたれに大きく寄りかかった。

「さて・・・これからどうしたもんだろうなあ」

「じーちやんは、父親として、娘に厳しく接するべきです、そのうえで・・・」

「いや・・・カミラのバツイチ問題じゃなくて・・・」

「アミラさんのことよね?」

 清香の言葉に僕は頷いた。

 先ほどの件は清香に説明済みだった。

「これで僕らが終わりなら、それはそれで仕方がないような気もするんだ・・・けど」

「けど?」

「なんか後味が悪いんだよなあ・・・別に意地悪をしたかったわけじゃないのに」

 それでもアミラさんは嫌な思いをしただろうし、間違いなく傷ついたはずだ。

 僕は喫茶店での最後の数分を悔やんでも悔やみきれなかった。

「アミラさんは本当にいい人だし、きっと真面目なんだとも思う・・・」

 これから僕が話すことは自分に対する言い訳だ。

「・・・だからあまり人を疑わないというか、周りに対して無防備すぎるというか・・・年下の僕から見てもガードが甘いんだ」

 僕がどうのこうの言っても仕方がないのはわかっていたが、それでも言わずにはいられなかった。

「とにかく危なっかしいんだ・・・地球滅亡の話とは関係なく・・・宇宙人としてのアミラさんは地球に適応できていないし、このまま嘘をつき続けていたら、そのうち自分の嘘につぶされてしまう気がした」

 これは僕の勝手な思い込みで、ただの独善かもしれなかった。

「我ながら・・・何を偉そうに、って思うよ」

「兄さんはアミラさんのことを『なんとかしてあげたい』って思ったのよね? ・・・それってもう、アミラさんのことを好きになったんじゃないかしら?」

 ニヤニヤしながらそう言った清香は、明らかにこの状況を楽しんでいるようだ。僕は困りながらもこう言った。

「僕には情報が多すぎたんだよ・・・知らなくてもいいことまで知ったから、余計なことまで考えて・・・最後にぶち壊して台無しになった」

 全てをありのままを受け止めて、ただ流れに身をゆだねる・・・世の中にそんなことのできる人なんて本当にいるのだろうか? 少なくとも僕にはできそうもないし、なんの計算もなしに行動していたら、アミラさんと仲良くなれたかどうかもわからない。それは僕の知らないもう一人の自分だって、アミラさんと仲良くなるためには多少の知恵や勇気は使ったはずだ。

「わたしの知ってる、ばーちゃんは、とてもしっかりした人」

 僕たちの話を聞いていた鈴ちゃんが不思議そうに言った。

「なんかちがう」

「そんなに違うの?」

 清香の質問に鈴ちゃんがコクリと頷いた。

「ばーちゃんは、ちょー理性的にて頭脳明晰、かつ冷静沈着、そして大胆不敵・・・最後に残虐非道」

「・・・残虐非道?」

 未来のアミラさんってなんなんだ?

「思いついたので、ちょっとだけ、嘘をつきました」

「・・・・・・」

「本当の最後の、キャッチコピーは『愛情一杯』です」

「・・・だろうね」

 清香が鈴ちゃんを諭すように言った。

「今のアミラさんだって成長途上なのよ? 小さい頃からずっと強い人なんていないし、何十年も過ぎれば人は誰だって成長して変わると思うの」

 清香の言葉を聞いた鈴ちゃんは、納得したようにコクコク頷いていた。しかし次の瞬間に『あ』と小さく声を出すと、急にしょんぼりと肩を落とした。

「・・・カミラちゃん、今も昔も同じ人」

「・・・・・・」

 未来のカミラは鈴ちゃんに何かしたのだろう?

「それで・・・兄さんはアミラさんとどうしたいの?」

 どうやら清香は完全にこの話題を楽しんでいるらしく、再び僕に追い込みをかけてきた。

「ねえ? ・・・どうするのかしら~?」

「どうしようもないよ・・・それは僕が決めることじゃない」

「本当にそうなのかしら?」

「・・・清香は僕にどうしろと?」

「・・・さあ?」

 とぼけた口調でそう言うと、清香は思わせぶりな笑顔で言った。

「私は兄さんが地球に残ってもいいと思うの。そうすれば来年の夏に生まれる『清香』には兄さんがいるもの」

「・・・・・・」

「それに私は未来に帰れば、いずれ兄さんともカミラちゃんとも会える運命なのよ?」

 それから清香は鈴ちゃんに目を向けた。

「だいぶ先になるけれど、鈴ちゃんにも会えるしね?」

「うん、会える」

 すると鈴ちゃんは嬉しそうに清香の元に駆け寄っていった。

 そして二人で『ね~?』『うん!』なんて言ってじゃれ合っていた。

 僕はその様子を横目で見ながらポリポリと頭をかいた。これは清香が仕組んだ小芝居だとはわかっていたが、初めて見た鈴ちゃんの笑顔に免じて僕は何も言わなかった。

 きっと清香は僕がこれからどうするつもりなのかに気づいている。だからこんな風に僕を茶化しているのだ。

 本当に・・・よくできた妹だと思うよ。

 僕より十年ほど長生きしている清香には、今の僕では何ひとつ勝てる気がしなかった。


     ★


 僕がとるべき行動はとっくに決まっていた。

 それは昨日アミラさんと別れた直後から決めていたことでもあるし、それ以外の選択肢はないと思っていた。

 僕は学校が終わったら図書館に行く。そして帰りは喫茶店に立ち寄ってコーヒーを飲む。それはおそらく僕が失踪する日まで続くはずだった。それまでにアミラさんと会えるかどうかはわからないが、もし再会しなければ僕は清香の兄として平凡な人生を送るだろう。その後、地球がどうなるのかはわからないが、僕が注意したことを覚えていてくれればアミラさんが迂闊なミスをすることもないだろう。アミラさんが地球での生活を無事に終えてくれるなら、それはそれでひとつのハッピーエンドだ。

 こうして僕は今日の放課後も図書館を訪れた。

 僕は館内にアミラさんがいないか見回してみたが、残念ながらアミラさんの姿はないようだった。昨日のことを考えれば当然のことなので、僕はおとなしく席に座って読書にいそしむことにした。

 僕は自分の行動に自信があったわけではないが、おそらく別の時間軸の自分ならこうしていただろうと思う。それは美人と仲良くなりたいという不純な動機かもしれないし、親が不在でいつ帰宅してもいいという解放感かもしれないし、とにかくもう一人の僕は図書館に通い続けたはずだ。それで劇的に僕たちが仲良くなったとは思えなかったが、それでも数日以内に二人でアクシデントに巻き込まれるのは間違いない。だから僕は宇宙に連れていかれたのだから。

 しばらくの間、僕は読書に没頭していた。ショートショートの短編小説集が思いのほか面白くて、油断していたら三十分以上が経過していた。ふと思い出して館内を見回してみたが、アミラさんらしき女性は見当たらなかった。

 ま、そう簡単に再会できるはずもないよな・・・僕は昨日のアミラさんの顔を思い出すと、もう二度と会えなくても仕方がないような気もしていた。

 そして僕は再び本に目を落とした。

 それからどれくらい経っただろう。実際には図書館に来てからそんなに時間は経過していなかったかもしれない。

「・・・あの」

 近くを通りかかった男性が僕に声をかけてきた。

 しかし僕はその声を聞いて驚いていた。

「はい? ・・・え? ・・・あれ? ・・・え?」

 僕はどう返事をすればいいのかわからなくなっていた。

 その声は紛れもなくなくアミラさんの声だった。

 僕は自分の傍らに立つ男性をマジマジと見つめた。ジーンズに長袖シャツというカジュアルな服装に、髪全体が立ち上がるほどの短髪ツンツンヘアーの男性だった。

 そこに立っていたのは男性モデルに生まれ変わったかのようなアミラさんだった。

「・・・・・・」

 僕は絶気していた。それと同時に服装のセンスがカミラと一緒だったので『これはカミラが仕掛けたドッキリなのでは?』なんてことまで考えていた。

「あの・・・わたし・・・そんなに変ですか?」

 僕が完全に固まってしまったせいか、アミラさんが不安そうに僕に訊ねた。

「変・・・ですよね?」

「いえ・・・そんなことは、ないです・・・ただ、その・・・」

 僕は口をパクパクさせながらアミラさんの豹変ぶりに、ただただ驚いていた。

「か・・・カッコよすぎですよ・・・まさかアミラさんだとは・・・気づかなかった」

 見れば見るほどベリーショートになったカミラに見えてくるのだが、この上品な雰囲気は間違いなくアミラさんその人だった。

 僕の言葉を聞いたアミラさんが軽く首をひねった。

「カッコいい・・・ですか?」

「もちろん・・・誉め言葉です・・・美人はどんな髪型をしても、やっぱり美人です」

「あら・・・まあ・・・お世辞がお上手ですのね」

 男前のアミラさんがそう言ってはにかむ姿がとても新鮮だった。


      ★


「香平さんは・・・親・王族派の方ではないですよね?」

「は?」

 図書館に併設してある庭園に移動したきた僕たちだったが、ベンチに腰を下ろした途端にアミラさんから聞き慣れない言葉が飛び出した。

「わたしが母星の外に出ることを快く思わない・・・そういう勢力の方では・・?」

 と、アミラさんはそこまで言って、すぐに僕の顔を見て理解したたようだ。

「・・・ないようですね」

「なにがなんだか・・・さっぱり、わかりません」

 アミラさんの背景にどういう事情があるのか、僕にとっては全てが謎だった。

「・・・僕が知っている情報は、あくまで未来人からのメッセージなので」

 言ってる自分ても胡散臭さが爆発しそうな話なのだが、それでも僕が話せる範囲はそこまでだった。厳密に言えばカミラと鈴ちゃんからの情報は宇宙人情報なのだが、それを説明するには僕とアミラさんの将来まで話さなくてはならない。

「すいません・・・その部分が、わたしには信じられないのです」

「まあ、そうでしょうね」

「わたしも色々と調べてみましたが、この宇宙にはタイムマシン技術なるものは存在していないんです」

「・・・そうなんですか?」

「はい・・・もしもそのような技術が存在するとしたら、宇宙全体で大騒ぎなるくらいの、そのようなレベルの技術らしいです」

 その割にはウチの家族はお気楽に過去に戻ってきている気がするのだが・・・アミラさんの話は現段階での話なのだろうか?

「宇宙と地球を簡単に行き来できる技術があるなら、それくらいはとっくにできていると思っていました」

「たしかに地球より高い技術を持っていますが、それでもわたしたち宇宙人は万能ではありません」

「へえ、そうなんですね」

 僕が感心していると、アミラさんが僕を睨むように見ていた。そして静かなトーンで言った。

「・・・ここは注意なさらないんですか?」

「は?」

「いえ・・・今、わたしは『わたしたち宇宙人』と言ったのですが?」

「あ・・・そうですね・・・ははは」

 これはアミラさんの意趣返しなのだろう。それでもこのくらいなら可愛らしいものだった。

「それを言うならアミラさん、さっき『わたしが母星の外に・・』とか言ってましたよ?」

「あら・・・いやだ・・・わたしったら」

 そう言ってアミラさんは慌てて口元を押さえた。

 やっぱりこの人は嘘がつけない人なのだろう・・・と僕は改めて思った。アミラさんがここまで髪を短くすれば前髪が動いて怪しまれることもないだろうが、それで全てが解決するとも思えなかった。おそらくいつかどこかでアミラさんが宇宙人であることが発覚し、それを隠し通せないアミラさんが登場する。そしてそれが地球滅亡のきっかけとなる・・・とはいえ、いざとなったら逃げるが勝ちという考え方もある。アミラさんが素早く地球を脱出すればいいわけで、地球では騒ぎになるだろうがアミラさんが傷つけられることはない。もしかしたら悲観しすぎるのもよくないのかもしれないし、要するに問題になるポイントさえ押さえておけば、最悪の事態を回避する方法はいくらでもありそうだ。

 それと僕は冒頭に聞いたアミラさんの話で、僕が死にかけるヒントが出てきた気がした。王族であるアミラさんが地球にいることを歓迎しない勢力があるようで、それが地球にやってきているとすれば、宇宙人絡みのトラブルに僕が巻き込まれてもおかしくない。以前、カミラが言っていたように、僕がアミラさんを助けるために死にかける、というシナリオが現実味を帯びてくる。

 僕にそんなヒーローみたいな真似ができるのだろうか? なんて考えていると、隣に座っているアミラさんが僕に言った。

「それと・・・香平さんの誤解を解いておきたいのですが」

「誤解?」

「はい・・・わたしの・・・能力についてです」

 アミラさんの声が小さくなったので僕も少し緊張していた。これに関しては僕も自分に非があることを知っている。たとえ僕の周囲にカミラと鈴ちゃんがいて、その秘密を守るためであっても言い方にデリカシーがなかった。

「わたしは昆虫から情報を得ることはできますが、わたしが昆虫を自由に操ることはできません・・・」

 そう言った後、アミラさんは少し躊躇った様子で続けた。

「いいえ・・・これは正確な情報ではありませんね・・・わたしは母星にいる特定の昆虫なら自由に操ることも可能です」

 それから小さく『信じてもらえるかどうかは、わかりませんが』と前置きしてから言った。

「地球の昆虫でも試しましたが無理のようです・・・もちろん映像を受信するとか、電磁波や不可視光線なども認識できますが地球では、わたしは受信機の範疇を超えません」

「・・・すごいですね」

 おそらく鈴ちゃんの持っている情報は、アミラさんの能力の全てではない。

「僕はもちろんアミラさんを信用します」

「ありがとうございます」

 アミラさんはほっとしたような笑顔をみせた。

「わたしは本当に方向音痴なもので・・・それで迷子にならないように、昆虫にリンクを張っておくんです」

「あ・・・なるほど」

 僕が納得している横でアミラさんが続けた。

「あの・・・でも・・・あくまで『自然の状態で』ですよ? 自分のエゴのために鈴虫をペットボトルに閉じ込めるとか、地下鉄構内に放り込むとか・・・そんなことは絶対にしません」

「もちろん信じます」

 当然、アミラさんはそんなことはしないだろう。

 なんとなく今回の騒動の全体像が見えてきたので僕も安心していた。

 なによりアミラさんと仲直りできたのがよかった。

 その後、おそらくアミラさんの鉄板ネタであろう『リンクした虫が鳥に捕食されて、いつまでたっても家に帰れなかった話』には僕も大笑いさせられた。


      ★


「・・・と、いうことでした」

 僕の話を聞き終えた清香と鈴ちゃんは、なぜか僕に惜しみない拍手をしていた。

「じーちゃん、見直しました」

 ソファーに立ち上がってスタンディングオベーションする鈴ちゃんほどではないししろ、清香も僕の報告に満足した様子だ。

「アミラさんって本当に良い方なのね・・・私も会って話をしてみたいな」

「・・・無茶言うなよ」

 そんな清香に僕は苦笑いするしかなかった。

 清香は僕とアミラさんが近づく過程を楽しみたいのだろうが、僕は妹に監視されながらデートするなんて絶対に嫌だ。

「もちろんアドレスくらいは交換したのよね? ・・・ね? どうなの?」

「・・・したよ」

 もちろん電話番号も交換したし、今度の日曜日には方向音痴のアミラさんをエスコートする名目で、実質的にはデートする約束もしている。

「ばーちゃんに、プレゼント、渡すといいです」

「プレゼント?」

 鈴ちゃんが突然の提案をした。

「・・・どうして?」

「あら、いいじゃない」

 清香が鈴ちゃんに同意した。

「きっとアミラさん喜ぶわよ」

「そうなの? ・・・なんで理由もないのにプレゼントを渡すのか、よくわからないんだけど」

 僕がそう言うと清香は『これだから男は』という、わかりやすい渋面を作った。

 そんな清香に僕が少しだけ恐縮していると、鈴ちゃんがソファーから飛び降りて僕の傍に駆け寄ってきた。

「これを渡すと・・・いいですよ」

 そう言って鈴ちゃんが僕に手渡したのはシルバーのネックレスだった。それを見た清香が意外そうに言った。

「あら素敵・・・鈴ちゃん、いつの間にそんな物を?」

「これは『幸せになれるネックレス』です。ずっとポケットに、入れてました・・・やっと出せたー」

 そう言いながら鈴ちゃんは元の席に戻っていく。

「本当は、わたしが欲しかったのは『幸せになれる壺』でした」

 鈴ちゃんが何やら怪しげなことを言い出した。

「でも、わたしは子供だから、買ってもらえませんでした・・・」

 誰が反対したのかは知らないが、鈴ちゃんの奇行を食い止めたのはナイスジャッジだったと思う。

「だから・・・なのです」

 よいしょとソファーに腰掛けながら鈴ちゃんが言った。

「自分で作りました」

「・・・幸せの壺を?」

「ちがいます、じーちゃんは馬鹿ですか? ちゃんと、話を聞いてますか?」

「はい・・・ごめんなさい」

 今のは僕が悪いのか?

 そして鈴ちゃんはすぐにソファーから立ち上がった。

「それは、わたしが作った、ネックレス・・・なのです!」

 なぜか鈴ちゃんが誇らしげにそう言った。

 それで再びテンションが上がってしまったようで、鈴ちゃんは再びソファーに飛び乗った。

「わたしがー、作ったー、幸せー、やっほっほー」

「・・・・・・」

 僕はソファーで飛び跳ねる鈴ちゃんとネックレスを見比べながら考えていた。これは孫娘の気持ちなのだから、詳しい事情は言えないまでも祖母に託すのが正解なのだろう、と。

「たぶん・・・明日の午後も図書館で一緒になるだろうから、その時に渡しておくよ」

「絶対にですよ?」

「うん」

 鈴ちゃんの言葉に僕は大きく頷いた。

 そんなやり取りを見ていた清香が僕に意味ありげな視線を送ってきた。

「ふ~ん・・・明日も会うんだ~?」

「・・・アミラさんが図書館に来れば、だよ・・・僕は放課後に図書館に行くだけだから」

「ふふふ・・・」 

「・・・なぜ笑う?」

「ううん・・・なんでも」

 そう言いながらも清香はまだニヤニャしていた。

 なんか嫌な感じだなあ・・・なんて思っていた僕だったが、その後の清香の発言を聞いて驚いた。

 清香は笑いを堪えるように何回か深呼吸を数回繰り返していたが、やがて真剣な顔で言った。

「私は・・・明日、未来に帰ります」

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