(4)
僕が玄関に出てみると、そこには小学生くらいの女の子が立っていた。
おそらく年齢は十歳前後だろうが、大人になったら美人になりそうな整った顔立ちをしていた。パーカーの付いた茶色のトレーナーに黒のジーンズを履いた、セミロングの髪をした女の子だ。近所では見たことのない女の子だったので僕は『ん?』と思った。我が家に子供が訪ねてくることは日常ではほぼ皆無だ・・・そう昨日までなら。
僕は嫌な予感がした。
家の玄関の前に現れた見知らぬ女の子は、開口一番で僕にこう言った。
「わたしは、命を助けて頂いた鈴虫です・・・今日は、恩返しに参りました」
とうとう僕の家には鈴虫まで恩返しにくるようになった。
つまり僕の嫌な予感は的中したのだ。
「わたしは鈴虫なので、鈴虫らしく、歌をうたいたいと思います・・・それが、鈴虫の恩返しなのです」
「おーい・・・清香ーっ」
僕はすぐにリビングにいる清香を呼んだ。
「はーい・・・あら? 可愛い女子ね・・・ご近所の子?」
「この子は鈴虫の国のプリンセスらしいんだけど・・・もしかしたら清香の知りあいかなと思って」
「はじめまして、わたしは、鈴と申します」
「あ、はい・・・はじめまして」
お辞儀をした女の子につられて清香も頭を下げていた。
「ごめんなさい・・・私は鈴ちゃんに会ったことがないわ」
「僕が鈴虫を助けた話を他の誰かにしなかった?」
「いいえ・・・たぶんカミラちゃんにも話してないと思うわ」
「わたしは、恩返しにきました」
玄関先に立っている無表情の女の子・鈴ちゃんは自分のペースで話を進めている。
「それでは一曲、恩返しの歌を、うたいます」
「ちょ、ちょっとだけ待ってくれるかな? ・・・おーい、カミラーっ」
僕は慌ててカミラも招集した。
「うーん・・・あたしの知り合いでもないなあ」
玄関にやってきたカミラも鈴ちゃんと面識はないようだった。
そんなカミラの登場を見て、なぜか鈴ちゃんがジリジリと後退していった。
それでも鈴ちゃんはカミラにお辞儀をしながら言った。
「はじめまして、鈴と申します」
「あ、はい・・・はじめまして」
「わたしは、命を助けて頂いたお礼に、歌を、うたいに参りました」
「・・・・・・」
僕たちお互いに顔を見合わせていた。
いつのまにか玄関先から道路の方にまで後退している鈴ちゃんが、僕たちに真っ直ぐな視線を送っていた。
そして鈴ちゃんがまた深々とお辞儀をした。
「それでは一曲、お聴き下さい」
おいおい、本当に歌うんかい・・・と思ったが、さすがに鈴ちゃんもそこでひと息ついた。
「ごめんなさい・・・ウソです」
「だろうね」
僕としては鈴ちゃんがどこまで小芝居を続けるつもりなのか興味はあったが、さすがに近所迷惑になるので早めに止めてもらってありがたかった。
「鈴ちゃんの名前は? ・・・フルネームでね」
「月島鈴です」
「・・・じゃあ、話を聞かせてもらおうかな」
僕は鈴ちゃんをリビングに案内した。
正直なところを言えば、玄関を開けた瞬間に鈴ちゃんの素生は想像できた。カミラほどではないにしても、鈴ちゃんもアミラさんに似ていたのだ。髪や瞳の色が黒に近い色をしているのは、おそらく地球人の血が濃く出たからだと思われた。
「わたしは、香平じーちゃんの、孫にあたります」
リビングでお茶をすすりながら鈴ちゃんが言った。
僕はその言葉を聞いて哀愁を感じていた。
「そうか・・・僕もとうとうじーちゃんになったか」
「ちょっと待った!」
おそらく哀愁ではすまないだろうカミラが素早く反応した。
「ま・・・まさかとは思うけど」
「いいえ、違います」
カミラの言わんとすることを素早く理解したらしく、鈴ちゃんが落ち着き払った様子で言った。
「わたしは、カミラおばちゃんの、姪にあたります」
「あ・・・そうなの・・・ふーん
」
姪っ子に先手を打たれた叔母が少し拍子抜けしたように言った。
「それと・・・その『おばちゃん』って言うのは禁止ね」
「はい、わかりました」
「と、いうことは・・・お鈴の父親って誰なの? コウキ? コウタ? コウヤ?」
ここでまさかの新証言が飛び出した。今のカミラの口ぶりだと僕には三人の息子がいるらしい。
「いいえ、その中にわたしの父は、いません」
「ん? ・・・うちは四人姉弟なんだけど?」
「わたしは、その後に生まれた末妹、ラミラの子供です」
「・・・・・・」
カミラが僕の顔をじーっと見つめている・・・そんな目で父親をを見るのはよくないと思う。
「ま・・・まあ・・・あたしも本当は姉妹が欲しかったから・・・よかったわ」
僕は二人の会話を聞きながら、カミラと末妹の年齢差が僕と清香より大きくなることに感動していた。夫婦仲が良いのはいいことかもしれない、うん。
僕がどうでもいいことを考えている横で、清香が鈴ちゃんに質問した。
「それで・・・鈴ちゃんはどうして過去に戻ってきたのかしら?」
兄のファミリーヒストリーを楽しそうに聞いていた清香だったが、そこは我が家一の常識人らしくすぐに話を軌道修正した。
「はい、そうなんです・・・わたしは、重要な使命を、持ってきました」
小さなタイムトラベラーは表情ひとつ変えずに言った。
「このままでは・・・地球が、滅びます」
いきなり凄い話になった。
僕たち三人はぎょっとしながら鈴ちゃん顔を見た。
そんな空気の中で、鈴ちゃんがお茶をひと口すすった。
「ごめんなさい・・・今のは、大げさに言いました」
茶碗をテーブルに置きながら鈴ちゃんが言った。そんな鈴ちゃんは表情も声の抑揚も乏しかったので、僕らは鈴ちゃんが真面目に話しているのか冗談で話しているのか判断がつかなかった。
「それでも地球は・・・宇宙人に、攻撃されます」
「宇宙人? ・・・それはアミラさんの関係する話かな」
僕は半信半疑で訊ねた。
「それは・・・本当の話なんだよね?」
「わたしは、冗談を言うような人間では、ありません」
「・・・・・・」
孫娘に翻弄されるじ-ちゃんを見かねたのか、清香が僕の代わりに鈴ちゃんに訊いた。
「えーと・・・その原因ってなんなのかしら? 私たちにも関係ある話なのかな?」
「はい」
鈴ちゃんはこくんと頷いた。
「じーちゃんとばーちゃんが、結婚しないと、この星はいずれ、大変なことになります」
「ん~? ・・・そのためには私たちは何をすればいいのかしら?」
「二人の恋路を、邪魔しないことです」
「邪魔?」
その言葉に反応したのはカミラだった。
「邪魔って・・・さっきのアレも邪魔だったのかな?」
「え・・? カミラちゃんは、もう、何かやらかした・・・のですか?」
鈴ちゃんが珍しく表情を変えた。
「カミラちゃんは、今も昔も、トラブルメーカーなのですね・・・」
「・・・・・・」
そんなことを姪っ子に言われたもので、カミラも何も言い返せなくなった。
清香がそのあたりの事情を鈴ちゃんに説明した。
「さっき二人でアミラさんを見に行ったのよ」
「カミラちゃんは、発見されませんでした、か?」
「少し感知されたみたいだけど、遠くを歩いていたから大丈夫」
「あ、まだ、そのくらいなんですね・・・それなら、問題ないと思います」
鈴ちゃんは少し安心したようだった。それから『これからが、本題です』と前置きしたうえで話を続ける。
「ばーちゃんは、情報戦のプロなのです・・・これから本気で、じーやんのことを、調べ始めます」
アミラさんには僕の知らない裏設定がいくつもあるようで、聞けば聞くほどアミラさんという人なのかわからなくなる。
「ん~? ・・・ママって情報戦のプロなの?」
そのことが初耳だったらしいカミラが不思議そうに言った。
「あたしはそんな能力は聞いたことないけど」
「あ・・・」
カミラの言葉を聞いて鈴ちゃんが慌てて口元を押さえた。
「・・・これは、言ってはいけないこと、なのですね?」
鈴ちゃんにも未来人あるあるは浸透しているようだ。
「あ~、大丈夫よ鈴ちゃん・・・私たちも時々ポロリと言ってしまうから」
「・・・本当ですか?」
「ほんとほんと・・・だから自信を持って、それで落ち着いて話をしましょ? ね?」
「はい・・・清香ちゃんは、今も昔も、優しいです」
「あら、ありがとう」
鈴ちゃんが未来の清香を知っているということは、鈴ちゃんも清香が送り込んだのだろうか?
僕がそんな未来の人物相関図を考えていると、鈴ちゃんが今回の騒動の核となる部分を語った。
「ばーちゃんは、昆虫からの情報を受信して、使うことができます」
僕はそれを聞いて『あ』と思った。しかし鈴ちゃんの話を邪魔してはいけないので、僕は一人で納得しながら話を聞くことにした。
「虫の情報を使って、自分のいない場所の景色を見たり、その場所の音を聞いたり・・・」
鈴ちゃんの説明によると、最初の一回だけ昆虫に直接触れてリンクすれば、その後はオンオフも自由に昆虫から情報を入手できるそうだ。コンディションによって受信距離や情報の精度はまちまちらしいが、ライブ受信だけでなく過去数時間から数日分の情報も後から引き出せるという。
「・・・知らなかったわあ」
カミラは本気で驚いているようだった。
「今も使えるのかなー? ・・・今っていうのは、あたしの未来にいるママのことね」
「わたしも、未来にいるばーちゃんが、今も使えるかはわかりません」
鈴ちゃんは少し自信なさそうに言った。
「それでも・・・全盛期のばーちゃんは、同時に百匹以上も使用でき、混乱せずに情報処理ができた、と聞きました」
「うわ~、ママすげ~・・・あたし帰ったらママに聞いてみよっと」
「・・・それは聞かないであげた方がよくないかしら?」
清香が心配そうに言った。
「娘に言ってないってことは、内緒にしておきたい話なんじゃないの?」
「そうだぞ、お鈴・・・あんたが勝手にママの秘密を喋るからこうなったんだ」
「わ・・わたしは・・・わたしは」
「鈴ちゃんに確認しておきたいんだけど・・・」
カミラの姪っ子いびりが始まりそうだったので、僕は慌てて話題を変えた。
「今のアミラさんがその能力を使えるのは間違いないよね?」
「・・・はい」
「で、鈴ちゃんも当然、あの鈴虫の話は知っていたんだよね?」
そこまで聞いて僕は『あれ?』と思った。
「というか・・・鈴ちゃんに『鈴』って本名なの?」
「失礼な・・・わたしは、ウソを言うような人間では、ありません」
「・・・・・・」
イマイチ鈴ちゃんの性格がよくわからなかったが、それでもおそらく本名なのだろう。
とにかくこうして『鈴虫の恩返し』は成就したのだった。
僕が妄想していた鈴虫の国のプリンセスの話は、現実世界で宇宙のお姫様の話にすり替わったのだった。
「ねえねえ・・・途中からなんの話をしてるのかサッパリわかんないんだけど?」
この話を知らないカミラが不服を述べた。おそらく清香は鈴虫の話を知っているので大体のことは理解しているはずだ。
ここで鈴ちゃんが補足説明をした。
「最初はばーちゃんも、親切な人に少し、興味を持っただけ・・・らしいです」
「こういうのを棚ボタっていうんだろうな・・・はは」
僕はもう笑うしかなかった。
鈴ちゃんが話を続ける。
「そして、二回目に会った時、ばーちゃんは、恋愛モードに突入したのです」
「恋の始まりはどうであれ・・・」
清香が胸の前で両手を組み合わせながら言った。
「恋に落ちると女性は愚かになってしまうのよね・・・きっと、これから・・・あんなに素敵な女性でも」
「わかんない、わかんない、わかんなーい・・・あたしだけなんの話をしているのか全然わかんなーいっ」
完全に取り残されたカミラが吠えた。
自分の知らない話をされて苛ついたわけでもないだろうが、カミラがこの話の本質を口にした。
「それよりもねえ・・・なんでママとパパが恋に落ちないと地球が滅びるのよ~?」
確かに先ほどからこの話が全く進展していない。
結局、どういう経緯で地球が滅びるのか一切の謎だった。
その後、さらなる紆余曲折を繰り返しながらも僕たちは鈴ちゃんに話を聞くことができた。
その概要はこうだった。
僕のことを好きになったアミラさんは、その乙女心から僕のことをもっと知りたくなるらしい。そして僕の家の周りにいる昆虫から情報を得ようとする。ここで問題になるのが、もともとこの世界にはいないはずの清香とカミラの存在だった。どうやらアミラさんは二人のことを僕のGFと勘違いするらしい。そして僕の家に女性が入り浸っていることを知ったアミラさんは、潔くその身を引いてしまうのだった・・・。
「ママって思い込みの強いところがあるから、それは充分にありうる話ね」
そしてカミラの言う『思い込みの強い性格』には僕も納得していた。鈴虫を助けただけの僕を『優しい人』と思って興味を持つくらいなのだから、その恋を諦める理由が別の思い込みであってもおかしくなかった。これが時間をかけた恋愛であれば、冷めるまでの時間も長かったろうが、僕とアミラさんはまだ出会ったばかりだし、しかも残された時間も少ないのだ。
そしてこれで話は終わりではなかった。僕から離れていったアミラさんがその後どうなるか、ということがこの話の肝だった。
アミラさんは宇宙人である。僕はそのことを知っていたので、アミラさんの前髪が動いても対応することができた。しかしそれを知らな人であれば驚いただろうし、場合によってはアミラさんを化け物扱いしたかもしれない。それでアミラさんが宇宙人であることが知られれば世間の注目も浴びるし、仮に人気者になるのなら問題はないが、もし偏見や差別を受けて迫害されるようなことになったら大問題だった。アミラさんは王族の血を引く高貴な身分なので、アミラさんの身に危害が及ぶようなことがあれば只事では済まされないだろう。
「王族を熱狂的に支持する人っているのよね・・・・そういう集団が過激化したら、星の一つや二つは簡単に火の海にするかもね」
カミラがどこか他人事のように言った。
「あたしが生まれる前の時代には、星でも色々あったらしいから・・・もしもママの身に何かあったら、その問題を持ち出して政治に利用する勢力もあるだろうしね」
「ばーちゃんが、早めに星に戻ったことは、結果としては、平和な未来だったのです」
「・・・僕も死にかけた甲斐があったわけか」
アミラさんが地球を出ていったのは僕の命を助けるためらしいので、僕も少しくらいは痛いのを我慢しなくてはならないようだ。
「宇宙でもいろいろ大変なのね」
清香が感心したように言った。
「アミラさんのケースを私たちの尺度で考えると、皇族の一員が海外で暴漢に襲われるようなものね」
「それでも、さすはに戦争にはならないだろ?」
僕には話のスケールが大きすぎてついていけなかったが、そんな僕に清香がしたり顔で言った。
「過去の世界大戦や歴史上の戦争では、そういう事件が発端になったものもあるのよ? ・・・兄さん、ちゃんと学校の勉強してる?」
悲しいことに僕は何も言い返せなかった。
年下の兄を言い負かして満足そうな清香だったが、ふと思い出したように窓の外に目を向けた。
「たとえばだけど・・・今のこの状況をアミラさんが見ているってことは・・・ないのかしら?」
清香は自分で言って不安になったらしく、慌てて窓際にカーテンを閉めにいった。
「それは、大丈夫だと思います」
清香の不安に鈴ちゃんが答える。
「わたしが知る限り、ばーちゃんがじーちゃんに興味を持ったのは、最初の出会いでは、ありません」
鈴ちゃんはそう言ったが、僕には若干の不安があった。今ここでこうしている僕は、何も知らない過去の僕ではない。僕の今日の行動は過去の僕なら絶対にしないような行動だった。
「もう運命は変わっていたりしてね」
おそらく普段の僕なら美人の手を引いて道案内することはない。カミラから引き離すことが目的だったとはいえ、思い込みの強いアミラさんが僕のことを『気持ち悪い人』と思っていたら二度と僕の前には現れないだろうし、逆に『男らしい人』なんて勘違いをしたら急激に興味を持つことだってありうる。今この段階で虫を放っている可能性だってなくはない。
鈴ちゃんが残りのお茶を一気に飲み干して言った。
「これが、二人の恋路を邪魔すると、地球が滅んでしまう・・・でした」
なんとなく『風が吹けば桶屋が儲かる』みたいな話だった。
ここに辿りつくまでだいぶ遠回りしたが、それでも鈴ちゃんが満足そうに頷いているので僕は何も言うまい。
「・・・わたしの目的は、障害の排除、です」
そう言うと鈴ちゃんがソファーから立ち上がった。
僕は鈴ちゃんの口から発せられた『障害の排除』という不似合いな言葉に違和感を覚えた。
そして鈴ちゃんが一気にまくし立てた。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえー」
それは子供の狼が遠吠えする姿を連想させた。
この時、僕は鈴ちゃんが誤作動を起こしたのだと思ったし、玄関を開けた時の鈴ちゃんの姿を思い出していた。
「わたしに、課せられた任務は、二人の女性の、抹殺です」
そんな物騒な台詞を口にする鈴ちゃんは、やっぱり無表情だった。
僕は反射的に清香とカミラを見た。二人ともすぐには言葉の意味が理解できず、ただ唖然としていた。
僕は鈴ちゃんのことを未来の清香が送り込んだ女の子だと思っていた。なんの根拠もなく、勝手にそう思い込んでいた。しかしアミラさんを取り巻く状況が一筋縄ではいかないことを知り、その中の誰かがアミラさんを亡きものにしようとするとか、逆にアミラさんを狂信的に支持する動きがあってもおかしくない。
そもそも僕がアミラさんを庇って死にかける理由はなんなのか? ・・・その答えは、まだ誰も知らない。
もしカミラがこの事態を想定していたならば、カミラは鈴ちゃんに電撃を放っていたかもしれない。
しかしカミラも鈴ちゃんの予想外の行動など微塵も考えていなかった。
その瞬間、僕たちの時間が止まった。
すとん、軽い音がした。
そしてすぐに時間が動き出す。
鈴ちゃんはソファーに『すとん』と腰を下ろした。
「・・・というのは、冗談です」
それから僕たちの顔をゆっくりと見回した。
変な空気が流れる室内で、鈴ちゃんは悪びれた風もなく言った。
「わたしは、冗談を言ってみたいと、思いました」
「・・・・・・」
子供に翻弄された大人たちは思い思いの格好でソファーに沈んでいた。
これが映画やマンガなら未来から殺し屋がやってくるパターンもあるが、しかしさすがに鈴ちゃんがそういう存在になるとは思わなかった。
だからこそ僕たちは力一杯に脱力していた。
「わたしは・・・」
僕たちの反応に納得がいかないのか、鈴ちゃんが繰り返し言った。
「わたしは今、冗談を言いました・・・よ?」
「うん・・・だろうね」
僕は天井を見上げながらそう答えるのがやっとだった。




