(2)
僕の家に差後に女の子が遊びにきたのは小学校の何年生だったろう?
と、いうか清香を女の子にカウントしていいかどうかも不明だったが、そんなことを考えていた僕に清香が答えを提供した。
「うわあ・・・久しぶりだなあ…なんか懐かしいな」
清香にとっては実家なのだから、この家にきたこがあるのは当然だ。
清香をリビングに案内した僕は清香にソファを薦めながら言った。
「久しぶり・・・ってことは、今は別のところに住んでるの?」
「ええとね・・・あまり未来のことは詳しく言えないんだけれど・・・」
と、清香はタイムトラベル物にありがちの秘密主義・名付けて『未来人あるある』を持ち出したが、それでも僕の質問には答えてくれた。
「この家は小学生の頃まで住んでいたの」
「ま、もともと古い家だしね」
新しく建て直したのか引っ越したのかは不明だったが、どのみち僕には関係ない話だった。
「お、清香が言ってたとおりだ・・・封筒にお金が入ってる」
僕は母が置いていった一週間分の生活費を手に、母からの短いメモを読んでいた。
「なによ・・・まだ信じてなかったの?」
ソファに腰を下ろした清香が苦笑する。
「私ってそんなに信用されてない?」
「ちがうちがう・・・情報の確かさに感動していたんだよ」
僕はこの時点で『未来からきた妹』を完全に信用していた。逆に清香が妹じゃないのなら、僕を納得させるだけの理由が必要だろう。
僕は清香と、清香の話を信じたのだった。
清香は僕にひとつの未来を告げた。
このままだと僕は一週間後に死んでしまう。
清香はそれを阻止するために未来からやってきたのだった。
「正確に言うとね・・・兄さんは失踪してしまうの」
二十六年後の未来に僕は存在していない。だから生まれてきた妹に会うことができなかった。清香からしても『初めまして』なのだし、清香が僕を見て感極まったのも納得できた。
「僕の死体は・・・どこに埋まっているんだろう?」
「ちょっと・・・やめてよ」
正面のソファーに座った僕を清香が睨みつけた。
「そういう冗談は趣味が悪いと思うのよ」
「だけど僕には家出する理由がないぞ?」
「あまり詳しくは言えないけれど・・・」
清香が前置きしたうえで言った。
「兄さんが失踪した後で、父さんや母さんがどんな気持ちだったか想像できる? 幼かった私でさえ兄さんの命日が近づくと・・・」
「・・・命日って言ってるぞ?」
「い、いなくなった日が近づくと、幼い私でさえ両親に気を遣うようになるのよ? おまえの兄さんはこんな子だったよ・・・なんて涙ながらに訴えられても・・・私はどうすればいいのよっ」
積年の恨みを晴らすかのように清香が僕を睨んだ。
そんなことを言われても僕には失踪した実感がないし、そもそもまだ失踪していない。それでも僕が失踪した後の状況がおぼろげながらも想像できたし、清香が苦労して育った様子も知ることができた・・・というか、清香はだいぶ詳細な情報を僕に話しているような気がするが、未来人あるあるは大丈夫なのだろうか?
「僕に何が起きるんだろうね」
「それがわからないのよ・・・わからないからこそ、私が調べにきたんだもの」
「自分から失踪する理由が全く思い浮かばない」
だからこそ殺人死体遺棄事件を連想したのだが、それを言うと怒られるのでやめておこう。
「さっきの生活費を持って旅に出るとか・・・僕はそういう性格でもないぞ?」
「・・・本当に心当たりはないの?」
急に清香の顔に不審の色が浮かんだ。
「なにか・・・人に言えないような秘密とか・・・悩みを抱えてない・・?」
「清香は僕を・・・自分の兄の言葉を信用してないと?」
「だって・・・さっき駅前でおかしなことを口走っていたじゃない・・?」
「おかしなこと?」
どちらかというと清香の方がアナーキーな言動が多かった気がする。もちろん今はそんな清香をちゃんと理解ししているぞ。
「僕は冷静に対応していたつもりだけど」
「私のことを・・・どこぞの国のプリンセスとか言い出して・・・私はその時に目の前が真っ暗になったの」
「ああ・・・そんなことも言ったなあ・・・たしかに」
「ああ・・・兄さんはこの頃から精神的に病んでいたんだ・・・こんなにも追い詰められていたんだ・・・って思ったのよ」
「・・・・・・」
そうか、清香はあの時の僕にそんな感情を抱いていたのか・・・失踪した兄からサイコ的な発言を聞かされたら、探しにきた妹にすればそりゃ泣くしかない。
「でも・・・こうして兄さんと話してみたら、意外とちゃんとした人だったから安心したわ」
なんかだ酷い言われようだ。
これはきちんと誤解を解いておかなければならないので、僕は今朝の鈴虫の話を清香に聞かせた。
「それって・・・兄さんが特殊な人なの?」
清香はわかったようなわからないような、そんな微妙な顔で首を捻っている。
「それとも一般的な男子が考えることなの?」
「一般的かどうかはわからないけど・・・まあ健康的では、ある」
「私の同級生の男子も・・・学生時代はそんなことを考えていたのかしら?」
それを兄から妹に詳しく語るわけにはいかないが、世の男子高校生はもっとエグイことを考えている。
「まあ・・・兄さんが健康的で安心したわ」
「・・・それはよかった」
「宗教にハマって出家したんじゃないかって・・・失踪当時はそんな噂もあったらしいから、ちょっと気になったのよね」
僕の知らないところで僕のイメージが勝手に作り上げられているのが怖かった・・・これはなんとしても失踪を未遂に終わらせないと。
清香からこれまで聞いた話の中で、僕が失踪するまでの行動はわかっていた。僕は改めてもう一人の自分の行動を清香に訊ねた。
「僕が最後に目撃されたのは、日曜の午後に家を出たところなんだよな?」
「そう・・・学校も週末まで休まずに通っていたし、学校でも普段と変わった様子はなかった、って」
「今のところ日曜に出かける予定はないけど・・・臨時収入が入ったから・・・映画くらいは観に行ったかな?」
親が留守にしている解放感と自由に使えるお金があれば、僕も少しくらいはハメを外すかもしれない。
「僕も用心しないとな」
「だから母さんが帰ってくる月曜の夜までは、私も兄さんを監視させてもらいます」
「・・・僕の命を狙っている組織とか、未来からやってくる殺し屋とか・・・そううのは本当にいないんだよな?」
「ただの高校生が誰に命を狙われるっていうの? ・・・それとも・・・本当は誰かに命を狙われる覚えがあるとか?」
「それはないけど・・・でも、こういう設定の映画やマンガなんかだと、そういう展開になることがあるんだよ」
「そんなのありえない」
妙に自信満々に清香が言った。
「詳しくは言えないけれど・・・そんな簡単に時空を超えることなんてできないし・・・私がこの時代に戻ってくるのに、兄さんのことを何も調べなかったと思う?」
僕の勝手な見立てかもしれないが、清香はとても仕事ができそうなタイプだった。そういう意味では清香は信頼できる人間だと思うが、そのわりに『詳細は言えない』はずの話をだいぶ聞いたような気がする。清香が自分の正体を信用させるためにも、また僕の身を守るためにも最低限の情報公開は必要だろが、それでも清香の上司なり関係者なりがこれを聞いたら怒るんじゃないだろうか?
「・・・ん?」
と、僕はここである可能性に気づいた。
「僕が失踪する理由ってさ・・・僕がタイムマシンに乗って、それで未来に連れていかれるとか・・・まさか、そういうオチじゃないよね?」
自分で言っておいてなんだが、そう仮定すると謎が一気に解決した。僕が失踪する原因が過去に戻ってきた清香だとすれば、この問題の全てで辻褄が合うような気がする。
「・・・あ!
僕の言葉を聞いて清香がポンと手をたたいた。
「なるほど・・・・その手があったか」
「いや・・・なるほど、じゃないだろ」
「私も自分が原因になるとは考えていなかったわ・・・一人乗りだし」
「・・・・・・」
どうやらタイムマシンは一人乗りらしいが、僕は清香の最後のつぶやきを聞かなかったことにした。下手に未来の情報を知ったら、誰かに本当に命を狙われそうな気もする。
一方の清香は何かを決心したかのように拳を強く握りしめていた。
「それはそれで・・・最後の手段としては・・・あり、ね」
「・・・・・・」
いや、それは絶対に駄目だと思うぞ・・・。
こうして未来からやってきた妹が『誘拐犯』として覚醒しようとしていた頃、玄関のチャイムが来客を告げていた。
★
美少女というのは、こういう女の子のことをいうんだろうな・・・と僕は思った。
彼女は純粋な日本人ではないようで、ショートカットの髪の毛と瞳の色が薄いブラウンだった。服装は髪型と同様にボーイッシュな感じで、ブルーのダメージジーンズに無地の黒い長袖シャツというシンプルなものだった。
「・・・どちら様でしょう?」
ドアホンや外部モニターのないアナログな我が家では、当然ながら玄関に出ていかなければお客様に対応できない。僕が玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは僕と同年代の少女だった。
「月島香平さんのお宅ですよね?」
少し気の強そうなその少女は、やや釣り上がった猫目で僕を見ていた。僕より十センチ以上は背が低いだろうが、それでも迫力というか存在感というかがあった。
「はあ・・・そうですけど」
おそらく僕と初対面であろう美少女は、なぜか笑顔でニコニコしていた。普段の僕ならそれだけで緊張したりドキドキしたりするのだろうが、不思議なことに今の僕はそういう気持ちにならなかった。きっと今はそんな場合じゃないのだろう。
「えーと、あたしはですねー」
少女はすぐに用件を切り出した。
「月島カミラって言います」
聞き覚えのある名字だなあ・・・なんて一瞬ぼーっとしかけたが、僕はすぐに聞き返していた。
「・・・月島?」
「そう、月島カミラ、二十歳・・・こう見えても成人してるのよ? ・・・もっと若く見えるでしょ?」
「・・・はあ」
僕は彼女が同じ名字であることも、実は僕より年上であることも、彼女の態度が馴れ馴れしいことも、全てに違和感を覚えていた。
そんな彼女があっさりと自分の素姓を明かした。
「それでさ・・・あたし、あなたの娘なのよ?」
「・・・えっ?」
もちろん僕は驚いた。
しかし僕の娘を名乗る少女は、そんなことはお構いなしで話を進めた。
「それよりさ・・・もう清香ちゃんは来てるよね? 詳しい話を説明するから、早く中に入れよ」
「えっ? えっ?」
なんだ、なんだ、この娘はなんだっ・・・・一体、この状況はなんなんだっ!
「も~、いいから、そこをどいてよっ・・・はーい、それじゃ、お邪魔しまーす」
「・・・・・・」
僕を押しのけて家に入っていく少女の背中を見送りながら、僕は玄関先で呆然としていた。
まだ未来からやってきた妹の問題も解決していないのに、今度は僕の娘を名乗る少女まで現れた。
僕が気持ちの整理をつけるためにその場で深呼吸をしていると、家の中から女性の嬌声が聞こえてきた。どうやら今の少女が清香に会って感激しているらしい。
あ・・・なんだ、そういうことか・・・と僕は思った。
つまり今の少女は未来からやってきた清香の知り合いなのだ。さすがに僕の娘というのは冗談だろうが、清香の知り合いなら家を訪ねてきてもおかしくなかった。
僕はこの短い時間のあいだに、どんな状況にも対応できる柔軟性を身につけていた。
「兄さん・・・こちらの女性は・・・どなたかしら?」
僕がリビングに戻ると清香が困惑していた。
「あれ? 清香の知り合いじゃないの?」
「・・・・・・」
清香は自分にじゃれついてくる少女に戸惑いながら、首と手をブンブンと振って関係を否定した。
あれ? ・・・ということは、この少女は何者なんだ?
僕と清香の反応を見て少女は『へへへ』と男の子のように笑った。
「こっちの清香ちゃんとは初対面なんだよねー」
そう言って少女は僕と清香の顔を交互に見比べた。
「あたしは未来からやってきたパパの娘で・・・清香ちゃんとは叔母と姪っ子の関係になるのよ?」
「・・・だ、そうだけど?」
僕が清香の方を見ると、清香は世にも情けない顔で首をブルブル振り続けていた。
「うーん・・・・清香は僕に信じられるだけの証拠を見せてくれたけど・・・君の言うことはまだ信用できないな」
「うわっ・・・パパがあたしのことを『君』とか言ってる・・・なんか気持ち悪っ」
「・・・・・・」
どうして僕がこんなことを言われなければならないのだろう・・・この娘の親が誰なのかは知らないが、きっと育て方が悪かったに違いない。
「えーと・・・つまり清香とカミラは、別々の未来からきたってことになるのかな?」
「それは私にも・・・なにがなんだか・・・さっぱり」
「それはあたしが説明するね」
僕が座っていた場所に我が物顔で腰を下ろしたカミラが、僕に向かって清香の隣を指さした。そこに座るように指示しているわけだが、指先一つで人に命令するような図々し子の、親の顔が見てみたいものだった。
「清香ちゃんは、パパが失踪するのを止めにきたんだよね? ・・・そうでしょ?」
カミラの言葉に清香がウンウン頷いた。
「でも、そうなるとあたしが困るのよね」
「困る?」
僕がカミラに訊いた。
「・・・どういう風に?」
「だって・・・そうなったら、あたしが生まれてこないじゃない?」
「・・・・・・」
僕と清香は思わず顔を見合わせていた。
話が見えない、というのはこういう状況をいうにだろう。おそらくカミラの頭の中では話が繋がっているのだろうが、事情を知らない僕と清香には何が何だかサッパリな話なのだった。
「この話って・・・僕は関係あるのか?」
「当たり前じゃない・・・パパがいないとあたしは生まれてこないんだから」
「それじゃあ・・・カミラの母親って・・・どこの誰なんだ?」
仮にカミラの話が本当だとすると、僕は一週間後に失踪していないことになる。そしてカミラの母親と出会って普通に結婚しているはずだ。
「う~ん・・・それを言っちゃうと、未来が変わる可能性もあるのよねー」
ここでカミラもタイムトラベル作品の定番・未来人あるあるを持ち出してきた。
「ま・・・いいか」
おいおい・・・いいのか?
僕が不安になって隣の清香を見てみると、清香は首が折れるんじゃないかってくらいに首を捻っていた。
「ママは宇宙人なのよね」
またもや衝撃の展開がやってきた。
「地球に留学にきていたママが、この街でパパと出会うのよ」
カミらはとんでもな話をサラリと言ってのけた。
いやいや待ってくれ・・・僕はそんな話は知らないぞ、と隣にいる清香に目をやると、清香も目を見開いて口をパクパクさせていた。現代人の僕だけでなく未来人の清香さえもが驚愕する急展開だ。
そんな僕ら兄妹を気にする風もなくカミラが続ける。
「ひらたく言えば、パパは宇宙人に拉致されるのよ」
「・・・ひらたく言い過ぎだ」
「だったら駆け落ちしたって話にしてもいいけど?」
「・・・本当のところは、どうなんだよ?」
「本当のところは、パパもママも教えてくれないのよね・・・ただ噂に聞いた話だと、パパがママを庇って大怪我したらしいの」
その後のカミラの話を要約するとこういうことんなる。
僕はこれから数日以内に、カミラの母親である宇宙人と出会うらしい。どういう経緯かは不明だが、僕はカミラの母親を庇って瀕死の重傷を負う。緊急を要する場面だったため、彼女は自分のUFOを呼んで僕を回収した。地球よりも遥かに高い技術を持つ宇宙の救命処置により、僕は九死に一生を得ることになった。しかし完全回復まで一ヶ月以上かかったことや、宇宙人の存在が地球人に知られてはいけないルールがあることから、僕は地球に戻ることができなくなった・・・と、いうことらしい。
「・・・そういうことなのよ? これでわかってもらえた?」
「わかったような・・・わからないような」
というか話のスケールが大きくなりすぎて僕にはついていけない。
「まさか・・・僕にそんな運命が待っているとは」
「その様子だと、まだママには会ってないのよね?」
「ないな・・・カミラに似た女性で・・・表向きは海外からの留学生、か」
もともと女っ気のない僕である。そんな美人が身の回りにいたら間違いなく覚えているだろう。
「・・・全く心当たりがない」
「とにかくママに嫌われるような真似だけはしないでよね? ここでパパがヘマしたら、将来あたしが生まれてこないかもしれないんだから」
「なんか責任重大だなあ」
正直なことを言えば、今のカミラの話は知らない方がよかった。この話を聞いてしまった以上、嫌でもカミラの母親を見たら意識するだろう。僕がどういう経緯で女性と知り合うのか全くイメージできなかったし、その時に普段の自分らしい行動ができるか不安だった。
「ちょ・・・ちょっと待って」
ここで清香が異論を唱えた。
「それだと私の立場がなくなるわ」
清香は僕が失踪するのを止めにきた人間なので、この話に口を出すのは当然だった。
「・・・私は兄さんが宇宙人に拉致されるのを、黙って見ているしかないの?」
「一応、ママはパパの命を助けたわけだし・・・まあ、そうなるよね」
「そうか・・・これから僕は死にかけるのか・・・痛いのは嫌だなあ」
「その前にっ」
ここで初めて清香が怒りの感情を露わにした。
「あなたは本当に兄さんの娘なの? それにあなたが未来からきたっていう証拠はあるの? ・・・あなたが宇宙人だっていうなら、その証明を私に示してよっ」
「んーと・・・それじゃ・・・とりあえず宇宙人っぽいことするね」
そう言うとカミラは軽く右手を振ってからテーブルの上に右手を乗せた。掌を上に向けてグーパーを数回繰り返す。
なにが始まるんだ? と僕が見ている前で、カミラが大きく深呼吸をしていた。
そして待つこと数秒。
「それじゃ、掌から電撃を出すよ・・・それっ」
短い破裂音がしたかと思うと、小さな稲妻がカミラの掌から飛び出した。
「うわっ」「きゃっ」
同時に声を出していた僕らの目の前で、十センチほどの青白い電撃が一瞬だけ姿を現したのだ。
「・・・どう?」
ふーっと大きく息を吐き出したカミラがテーブルの上から手を引っ込めた。その後すぐに『疲れた~っ』と言ってソファーに突っ伏した。
「・・・基本、あたしは体力系のヒトだから、ホントはこーゆー能力系は苦手なの」
「それは・・・なんというか・・・申し訳ない」
僕の娘とやらは一体なんなんだろう?
僕がマヌケ面をしているその横で、ハッと我に返った清香がカミラに食い下がった。
「う、宇宙人かどうかは横に置いておくけれど・・・あ、あなたが兄さんの子供だという証拠はあるのかしらっ」
僕は単純にカミラの電撃を見ただけで全てを信じてもいいと思ったのだが、清香は未来人としてのプライドなのかなんなのか、カミラの言い分を認めようとはしなかった。カミラが清香のことを知っていた=未来人、であることは明白だろうに。
「証拠は・・・ないのよね」
そう言ったカミラがソファーからむくりと起き上がった。
「証拠はないんだけどさ・・・情報ならあるよ?」
カミラはソファーから降りると清香の傍に歩み寄っていった。
「あたしは・・・清香ちゃんの秘密を知っている」
「えっ・・?」
驚いた清香の耳元で、カミラが何やら囁き始めた。
するとその直後から清香が『えっ!』『そ・・・そんな!』『な・・・なぜそれをっ!』などと言い始めた。そのうち清香の口から悲鳴のように『だ、だ、だめよっ! それは絶対にっ』『やめてっ! それ以上は何も言わないでっ! 絶対に喋っちゃ駄目っ!』なんて言葉が出た。
この時点で僕は清香の横にいるのがいたたまれなくなって、カミラの空けた席にそそくさと移動していた。
その後まもなく、カミラにずっと耳打ちされていた清香が肩を落としながら言った。
「・・・カミラちゃんは・・・未来からきた・・・私の姪っ子である可能性が・・・非常に高いことが・・・判明しました・・・」
こうして清香はカミラの存在を認めたのだった。
清香の横の席に座り直したカミラは満足そうだった。
「あたしと清香ちゃんの仲なのよ? これくらいの情報はいくらだってあるんだから」
僕にはこの二人の関係性がイマイチわからなかったが、カミラの様子を見る限りでは叔母と姪っ子の関係は良好のようだった。カミラは僕が何歳の時の子供なのかは知らないが、僕と清香ほど年の差はないだろうから姉妹のような感覚なのだろうか? ・・・というかこの二人はどこで出会ったのだろう? 僕は宇宙人に拉致されたはずじゃないのか?
「どうしてカミラは清香のことを知っているんだ?」
僕は素直に聞いてみた。
「僕は地球にいないはずだろ?」
「あ・・・それは私も知りたい」
清香も同意した。
「どうして私の・・・だ、だ、だだ誰も知らない秘密を知っているのっ」
妹よ・・・お前に何があった?
「だってパパは地球に戻ってくるもん」
カミラはあっけらかんと言ったが、その後で思い出したように、
「あ・・・これって言っちゃいけないことなのかな?」
と言った。どうやら未来人あるあるの存在を忘れていたようだが、それでもすぐに『ま、いっか』と小さく呟いた。
「えーとねえ・・・ママの星と地球との間で外交が始まるのよね・・・その時の親善大使として、パパが地球に帰ってくることになるのよ」
「それは・・・私のいる未来の出来事じゃないわ」
清香が表情を曇らせた。
「別の時間軸の・・・違う未来の話じゃないの? ・・・それが事実なら私はリスクを犯してまで過去に戻ってこない」
「タイミングの問題じゃないかなあ・・・あたしと清香ちゃんが最初に会ったのは、たしか清香ちゃんが二十七歳の時だったよ」
「・・・二十七歳?」
「清香ちゃんって今いくつ?」
「・・・二十六歳」
「あ、惜しい・・・それはタッチの差だね」
「・・・・・・」
そして清香は無言で頭を抱えていた。
僕も清香の苦労を考えると同情せずにはいられなかった。しかしカミラの立場も理解できるので、これはこれで悩ましかった。
「カミラに確認しておきたいんだけどさ」
僕はここで話を整理しようと思った。
「カミラに・・・過去に戻るように指示したのは誰なんだ?」
「清香ちゃん」
「やっぱり・・・だろうと思ったよ」
「え? ・・・私? ・・・私なの?」
「うん」
そう頷いてカミラはニンマリと笑った。
「未来の清香ちゃんがね『もしも私が納得しなかったら、こういう話をしなさい』ってレクチャーしてくれたのよ」
「・・・・・・」
「自分の弱点は、自分が一番よくわかっているんだよな」
僕は改めて清香の『できる女』の仕事ぶりに感心していた。目の前にいる清香もしっかり者に見えたが、その先にいる清香はもっとしっかり者なのだろう。
僕はとりあえず自分の周りで起きていることが理解できたのでほっとしていた。
そして未来で起きる出来事を知ってしまった僕は、そのシナリオに沿ったルートを歩むことになるのだろうか?
僕の運命や如何に。




