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ミライ×ミライ×ミライ  作者: 偽ゴーストライター本人
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 僕は『鶴の恩返し』という昔話が好きだ。

 助けた鶴が美女に化けて家に泊まりにくるなんて、なんて素敵な話なのだろう。もちろん親と同居している僕の家に美女が居候することはないだろうが、それでも性格の良い彼女ができるのだから夢のような話だ。なんの取り柄もない平凡な高校生がバラ色の青春を送るためには、そんなファンタジーでもなければどうしようもない。

 その日、僕は一匹の鈴虫を助けた。もちろん夢のような一発逆転を期待していたわけではないが、結果として僕はちょっと良い気分になれた。

 僕がそんな一日一日一善なことをしたきっかけは、朝の通学途中の何気ないひとコマだった。

 月曜日の朝、僕はいつものように高校に向かっていた。

 そこで鈴虫が鳴いていた。

 もう十月なので鈴虫が鳴いていてもおかしくないのだが、鳴いている場所が僕が通学で使っている地下鉄の駅だった。僕が外に向かって改札を出ると、鳴き声はジュースの自販機の周辺から聞こえいることに気づいた。

 これも秋の風物詩の一種なのかな?

 今年の春から電車通学を始めた僕にとっては初めての経験だったし、僕がなんとなく自販機に歩み寄ると鈴虫は警戒して鳴くのを止めた。

 ま、野生の本能があるなら当然そうなるだろうな・・・野生の本能を持ちながら、なぜに地下鉄に迷い込んだ?

 しかしこの時の僕は、あえて鈴虫を助けようとは思わなかった。なんといっても僕は虫が嫌いだ。

「ん?」

 ところが自販機の横にあったゴミ箱の中、空き缶やペットボトルの山の中で鈴虫を見つけた僕はそこで考えを変えた。その哀れな鈴虫は、空のペットボトルの中でじっと息を潜めていたのだった。自分からその中に入ったのか、それとも悪意ある人間の仕業なのかは不明だが、とにかく駅の季節サービスではなさそうだったので僕はそのペットボトルを拾い上げた。さすがに直で捕まえるのは嫌だったが、鈴虫・イン・ペットボトルなら平気だった。

 僕はそんなペットボトルを持ち歩きながら『鈴虫を救出した心優しき男子高校生』に気づいてくれる美女でも現れないかなあ・・・なんて都合のいいことを考えていた。

 もちろんそんな人物は現れなかったし、僕が歩道の植え込みに鈴虫を放した時も誰も注目していなかった。それでも心のどこかでは『誰かが僕の親切を見ていますように』とか『いつかあの鈴虫が恩返しにきますように』なんてムシのいいことを考えていた。

 ちなみに空のペットボトルは高校の近くまで持って歩いたが、そんな僕に美少女が熱い視線を送ることもなく、僕の親切話を聞きにくるマドンナも現れず、そのぺットボトルはコンビニのゴミ箱に捨てられましたとさ。

 めでたし、めでたし。

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