レッツゴー、ホストクラブ!
「ねぇ、パーっと呑みに行こうよ!初回1000円で呑めるの!」
ジュリがそう言い出したのは、ゴールデンウィーク直前の5月始め。
大学に入った直後、明るめのグラデーションヘアにネイル、高ヒールなどの派手な見た目が災いしたのか私には噂が立っていた。
男好き、先輩を潰してすぐヤる、チャラい奴。小学生みたいな噂と、それに扇動され早々と離れていった友達に新生活への希望を打ち砕かれていた私にとって、ジュリからの誘いは魅力的だった。
「何それ?良いじゃん、どこ?」
「歌舞伎町のホスト。最近会社の子と行ってんだけどさ」
歌舞伎町?ホスト?
カラオケさえ何駅か先にしかない田舎から出てきた私には無縁だった言葉。
西くんが行きたいと言っていた街。なりたいと言っていた職業。
二つ返事で、私はその街に足を踏み入れる事にした。完全なる興味本位。
午後7時の新宿駅東口を出て、人波をかき分け、雑に並べられたドンキホーテや居酒屋のビルを横目で見ながらどんどん進んでいくと、急に、学生やサラリーマンたちがいない区画に出る。ホストの初回案内やキャバクラのスカウトをする若い男たちと、それを無視してどこかへ向かって歩く女の子たち。
さっきまでチェーンの飲食店やカラオケがひしめいていた道路の脇には、いつの間にかコンビニやホストクラブ、BARが詰め込まれた無機質な雑居ビルしかなくなっていた。
「あ、ここ」
圧倒されるがままに歩いているうちに、私たちはとあるビルの前に立っていた。薄暗いエレベーターに乗り込むと、何秒かで異世界への扉が開く。どこでもドアも真っ青の速さ。
初めて足を踏み入れたホストクラブは、今考えれば安っぽい、オママゴトのような店だった。しかしそんな事を微塵も知らない私は、壁際に並ぶカラフルなヒール型ボトルのリキュールや、スピーカーから流れる賑やかな洋楽、何より初めて見る本物のホストに圧倒されていた。
薄暗い店内の奥のL字ソファに通されると、在籍のホスト達が次々と自己紹介に来る。
その中で私の目を引いたのは、今年で20になるという金髪の『リュウ』くんだった。
彼は目鼻立ちがクッキリとしていて、何処か外国の血が混じっているようである。グレーのカラコンも、不思議と馴染んでしまうような顔立ち。
そんな彼が席に付いた瞬間、私はこの人を指名しようと決めていた。リュウくんはフィギュアのような外見とは逆に、話してみると子犬のような柔らかい笑顔をするのが魅力的だった。そして夢のような1時間を過ごすと、ホスト達に送られ、私たちは再び歌舞伎町の路上に躍り出た。
「ね、どうだった」ジュリがニヤっと笑って言う。
「いやぁ、イケメンいたし。良いじゃん?」
私たちは目を見合わせると、互いに悪戯っ子のような表情になって、ひひひ、と笑った。