生温い春休み
前述した通り、彼氏とも別れ新しい土地で友達もいなかった私は西くんと春休みの大半を過ごした。彼にとっても4月初めにある18歳の誕生日まで別段やることも無く、都合が良かったのだろう。
一日中シングルベッドの中でレンタルDVDとツマミと酒を貪り、腹が減ればコンビニに行き、また布団に入る。アルコールが入った頭、カーテンを締め切った昼も夜もない薄暗い部屋で、私たちは何日も過ごした。
「ねぇ、あいちゃん、お出かけしよーよ」
西くんがそう言ったのは、私の学校が始まる数日前だった。
私と西くんの、最初で最後のデート。
春の生暖かい風が吹く渋谷で、私たちは自由だった。エイチアンドエムで西くんに入学祝い、とリュックを買ってもらい、薄汚いセンター街をふらつき、激安の焼肉屋に並んで満腹になるまで食べた。
後にも先にも、お互い1ミリの下心も無しで過ごしたデートは、私の人生においてこの1回だけ。
TVでやってる純愛物語も、昼ドラみたいな不倫も、映画化されるような親子愛も、全部嘘っぱちで、この頃の私と西くんの間柄っていうのが本当の純愛ってやつなのではないか、と未だに思う。
あの頃の私達には、利害関係なんてなかった。ただ、寂しければ手を繋いで、楽しければ笑いあっていた。
そして私の大学が始まると同時に、西くんは歌舞伎町へと巣立った。
奇跡みたいな春は、いつでも一瞬。