17歳の君
巨大ショッピングモールと直結した駅の階段を降りていくと、彼はいた。茶髪に、無地の深紅のシャツ、カーキ色のスリムなパンツ。17歳という年相応って感じ。
「西くん?」
声を掛けると、彼はスマホを弄っていた親指を止め、顔を上げた。
「おう、あいちゃんか」
長年の友人のようなそれが、初対面での奴の第一声だった。
西くんとの出会いは、私が高1の春休み。当時、あるコミュニケーションアプリが流行っていた。オンラインになっている匿名の誰かとランダムに通話が出来る、という「未知との遭遇」的なコンセプトに私たちは夢中になった。
何人もの人と通話をしたけど、妙にフィーリングが合って連絡先を交換したのは西くんだけ。それからは私に彼氏がいたということもあり、隣県に住む西くんとは鳥のマークのSNSで時々下らない会話をするだけの関係。
そんな彼と会ってみようと思ったのは、彼氏の束縛も無く、進学のため一人暮らしを始めたばかりの私による完全なる思いつきだった。
初めて会ったその日の記憶はもう幻の様におぼろげだけど、なんだか沢山歩いたような気がする。
ショッピングモールを徘徊し、初めて乗る私鉄に揺られ、何故か西くんの実家に行った。何度も言うけど、一応初対面。まあ、ちょっとオカシイ。
閑静な住宅街の一角に、西くんの家はあった。玄関近くの階段を上がってすぐ、2階の西くんの部屋には酒瓶のショーケースの様な戸棚があり、バーテンダーになりたかったんだ、と言いながら、西くんはキッチンからアイスペールやグラスなんかを一式運んできて、気づくと私の知らないカクテルを手際良く作ってくれていた。
「今はホストになりたいんだけどね」
西くんが目を輝かせながら言う。へぇ、と言いながら、私は酒を流し込む。未知の甘さ。酒には疎いけど、癖になる味。
「歌舞伎町のホスト?」
「そう、ナンバーワンになる。俺って高校すら中退だし、もう一発逆転なんてこれしかないし。ずっと好きだったホストの下で働けるんだ」
それ以外に話した事は酔っ払っていたせいで全くといっていいほど覚えていない。だけど、西くんは酔っ払った私の頭を膝枕に乗せながら、色々なことを話していた。
ざっくり覚えてるとこでは精神を病んでた元カノに浮気された事とかクソつまらなくて何ヶ月かで辞めた高校のこと、サッカーが好きだったこと、バイト先がブラックすぎる腹いせに商品を皆でパクってること。そんな普通のこと。
私が朦朧とした意識の中、西くんの膝枕の上で思ったのはただ一つ「コイツはなかなかに面白い」という事だった。
「西くん、私んち、来ていいよ」
そうして、私たちは奇妙な春休みを過ごすことになった。