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怪奇小説  野井戸 殺人事件  作者: 御影神吾
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七 裏付け捜査 その1

七  裏付け捜査(その1)


被害者の確認検証は、生前の住所を基に始められ『荒木巌』については、小野警察署に保管されている当時の資料を調査した結果、昭和二十一年七月四日午後三時半前後、本人を確認、同日午後四時五二分『加古川線青野ヶ原駅』発の列車で明石に行く予定で発ち、加古川駅構内でそれらしき人物を確認したが、これ以後生死不明?の状態が続く中、妻桂子から、昭和二十一年七月十五日、小野警察署に捜査願いが提出され、当署は直ちに近隣警察等を通じ捜索を行ったが戦後の事、各警察署も身元不明者の遺体等も多く進展はかどらず一年前後で捜索を打ち切った状態となり五年後の昭和二十六年七月六日、桂子婦人より高岡村役場に死亡届が提出され、受理されていた。


その他当時、荒木が加盟していた播磨地区博労会員の調書より、昭和二十一年七月四日、一泊二日の予定で、明石にて博労関係者の慰労会が行なわれ『毎年是が楽しみだと云って参加していた』荒木氏の不参加に一同、何か事情が出来たのだろうと噂をしていたと?調書に記入されていた。

参考までに荒木氏の人柄を列記します。


荒木氏は、一人娘の久子をとても可愛がり、久子が十六~七の年頃を迎え、美人と噂がたった頃から村の若者を警戒するようになり、久子が村の青年と立ち話をしていると、その男に暴言を吐たりある時は木刀を持って追いかけた等…話が伝わり村人から恐い存在に見られていた。


久子が女学校卒業後、友人の紹介である会社に勤める事が内定し、その好意を非常に喜んでいたのに、娘の就職日が近付くと今迄の態度を変へ「俺の娘を勝手によその会社で使うな!お前あの社長からお金を貰っただろう!」と根も葉も無い言いがかりを付け、その紹介者と揉めたとか、このような事が度々あったので、村人達は事あるごとに敬遠していた。


荒木は博労会計を久子に任せ、夕方から知人宅で、お茶とお花の出稽古に通わせていた。


このように突然豹変し、一般常識に欠ける面も多く、会合等での会話は特に気を使ったと村人は言っていた。性格を纏めれば次のとおりです。


一 人望は厚いが、横柄な態度、定まった事を破談に持ち込む事もあった。


二 酒乱気味あり、飲酒三合位で威圧的になり、些細な事から論争も多く、場合により暴力沙汰を起し、不利な取引をされた場合、何時迄も根に持つ性格。


三 総合的に短気で、非協力的な性格と人々から見られていた。


昭和二十一年七月二十二日、 調書作成  加古川警察署警部 三宅 剛志 


註、是以外に不明になった年月日、時刻、荒木巌が、国鉄青野ヶ原駅へ降って行く姿を目撃した村人達と、当時改札をしていた駅員より調書が取られ、種々検討した結果、加古川駅迄の生存が確認されていた。


『荒木巌』は、慰労会の後、加古川市に住む『谷本幸代』宅に立ち寄る事を知り、谷本から事情聴取及び家宅捜査を行い、近所の人々からも聞き取り調査を行ったが、荒木が伺った形跡が無く、目撃した者もいなかったので『谷本幸代』は、本事件に関与なしと断定されていた。


「有難う御座いました。色々参考になりました。又後日お伺いすると思いますが宜しく、お願い致します。ところで『三宅警部』さんは、現在も健在でしょうか?」


「ハイ、元々健康な方だから、今も元気だと聞いています、昨年暮れのOB会にも出席され最近は孫と明石城公園を散歩するのが日課とか、又明石の浜で釣りをして、自分の時間を楽しんでいる様子を聞きました。住所は、確か明石の天文科学館の近くと聞いています」と答え…取り出した書類を収めていた。


お礼を述べ二人は午後二時過ぎ小野署を出たが、外は湿気が多く一雨来そうであった。


「やはりあの自衛官の言うとおり、被害者の荒木は実存していたのか?」


「うん、君はどう思う?我々は職業上、立証の取れない非科学的な話しに同調出来ないが…今日の調査の結果、被害者は間違い無く存在し、何らかの事件に巻きこまれ、今日まで生死不明の侭、忘れ去られようとしていたのか?この事実を知る事で…信じたくないが?『髑髏』と会話…?こんな非科学的経験始めてだ!実に不思議な事だね!」君はどう思う。今後の捜査活動に多大な変化をもたらす事だろう。


「あの自衛官が井戸に落ち込んだ事で、時効寸前に犯人の逮捕?ましてや『髑髏』が喋るなんて?やはりこの世では、常識では考えられない事が存在するのか?死亡しても、恨み辛み憎しみ等の感情的な知性を、現す事が出来るのでしょうか?前代未聞ですね?是が事実なら、今後の捜査活動は楽になりますね。長期間署員の大半が日夜裏取り捜査に取り組み、大半は空振りで身心共に疲れ嘆き苦しみ、そして…時間との戦い、これらがすべて省かれ、そこにある遺体から直接、犯人と被害者の氏名及び事件の内容が直ぐ分かるので…裏取りの苦労がなくなりこれは助かりますよ。


処で今から姫路署に出向きますか?」


「そう其処に『髑髏』があれば…それから聞き取り犯人逮捕、今迄のような聞き取り捜査が省け、スピーデーに解決…これは大助かりだが、今後の殺人現場には、首無し遺体が増える事も確かだね。

首無し遺体の捜査も大変だと思うよ…新しい遺体だと特徴も掴めるが?骨格のみの捜査ともなれば…略皆同じ、医学的に特徴の割り出は難しい点もあるね。


何れにしろ、今後の捜査活動に大きな変化をもたらす事は間違いないだろう…山と積まれた骨格の中で鑑識捜査官の鑑定作業…この仕事も大変だろうと思うよ、そう…時間も早いので、姫路署に出向いてみますか、各班共、新しい情報がとれているだろうから?…今後は、それに基付いた行動予定の割り振りもあるだろうから…」


二人は蒸し暑い砂埃の道を国鉄『青野ヶ原駅』に向かった。


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