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怪奇小説  野井戸 殺人事件  作者: 御影神吾
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二十 犯行自白

二十 犯行自白


以前取り調べた『渋谷熊吉』の裏付け捜査が徹底して行なわれたものの、事実に反する事が多く種々検討した結果、信評性乏しい事により再度姫路署に任意同行、厳しい事情聴取の結果、複雑難事件であったが、次のような自供を聞き出したのである。


問「渋谷!先般の調べで犯人は、『富永正治』と言っていたが間違いないか!?」


答「又同じ事を聞くのですか?まだ分からない事があるのですか?先日担当官に詳しく申し述べたのに…犯人は、冨永正治に間違い有りません」


問「貴様!いい加減な事を言うなよ!当時家屋の修理家財の購入など、大金を使用した事が村人の噂になり疑われた事があっただろう?それと其の時使っていた鉈は今何処にある!?手元に無いと聞いているが?」


答「…大金ではないが、牛馬の買い付けと牛舎の改築費用に使いました…鉈?そんな古い話、忘れましたよ…先日も答えましたが、家に無いと言う事は誰かに盗まれたと思います…」


問「盗られた!?其の鉈に持ち主の名前を打ち込んでいたのか?!」


答「名前!…そうあの頃は物不足で、盗難が多く鍛冶屋に注文する時、名前を入れる事が、はやっていたので急ぐ場合いは店頭に並んでいる品物を買うが…覚えはないね…名前を入れていたかも知れません?」


問「名前は覚えてない?毎日使う道具に見覚えがあるだろう?又何処の鍛冶屋で作らせた?鍛冶屋の銘は入っているだろう!」


答「…皆と同じく…名前は入れた?…と思います…その鉈がどうかしましたか?鍛冶屋は…金物で有名な、三木市で作った事は確かだけど『丸長か、丸富』?前にも言ったでしょう?!何で、しっこく聞くのですか!?」


問「渋谷!もうトボケルのは止めんかい!警察は『渋熊』と刻まれた鉈を回収し、鍛冶屋を調べ、お前の持ち物と断定しているのだ!この鉈で『富永正治』を殺したな!」


一舜顔色を変えた熊吉は、

答「鉈?私には関係ありません…正治が捨てたのでしょう。それに正治は、海で行方不明と聞いていますが?正治を殺したなんて全く!…」


問「コラ!お前まだ分かってないな!その鉈が正治の遺体と共に井戸から出て来たのだ!」


答「正治の遺体?海で死んだ正治が、井戸で?…本当に正治ですか?…海での自殺と思っていたが?まさか…鉈を使って井戸で自殺?…そう云えばその頃から鉈は見当たらないな井戸の中にあったのか?」


問「何!自殺?正治が?出鱈目を言うな!それと荒木さんの頭部も!…同じ井戸から出てた!お前の犯行だろうが!村人達から事件当時の話を聞き、裏付けを取るとお前が犯人で、口封じに冨永正治を殺ったと噂されていたとか!海で死んだはずの正治の遺体が、何故野井戸の中にあるのか?当時村人達の身辺調査と不審な動きを調べたが、お前以外に正治を殺す動機を持った者は一人も居ない事も分かっている。


お前が幾ら芝居をしても、警察は動かぬ証拠を押えているのだ!良いな、此処らで未だ成仏してない被害者二人の御霊を忍び、又遺族の方々の悲しみを想い、お前に一片の人間としての心があるなら、お詫びの気持を表し、包み隠さず真実を云って見ろ!それが、お前に残された唯一の道と違うか!」


このような取り調べを連日受けた渋谷熊吉も、ついに『荒木巌、富永正治』の殺人事件に付いて全面的に自供した。


参考迄に『渋谷熊吉』の生い立ちを述べておきます。

昭和八年七月十六日、父渋谷留吉、母渋谷やえ、の次男として現住所の村役場へ出生届け、以後成人になった今日迄、同村に住み、親子して小作農を営み、葉煙草の栽培が主で家庭は貧しく、長男の大吉は小学校を終える早々、大阪方面に奉公に出された。


元気で生まれつき身体の大きい熊吉は、少年時代から腕白で、村人から悪童と噂され、母親の心労多く、度々謝りに出掛ける姿もあった。


小学校を卒業すると家事手伝いに就く、大柄な熊吉は農事作業に向いていたが、無口な性格なので親しい友達も少なく、日頃から村人に何かと反感を持ち、十八才に成った頃、荒木さんの家畜の世話人として雇われていた。


戦後、全ての物が品不足で日々の生活も不安定…当時の市町村は何処も、盗難事件が多く家畜も盗難被害が度々発生したので、巌さんは盗難防止の為、熊吉を雇い牛舎近くに見張り小屋を建て熊吉に使わせていた。熊吉の両親は、午前中家畜の世話をして、午後は僅かばかりの畑を耕し、細々とした生活、親子共々食事の時以外は、殆ど会話の無い生活でした。


問「渋谷!昨日も言ったように、全ての資料及び、証拠物件が揃っている!今更足掻いても嘘の上塗り、良いか此処らで真実を言ってみよ!」


答「…申訳有りません私が殺しました…。」


問「そうか、ついに話す気になったか?詳しく言ってみよ!」


答「荒木巌は前にも言ったように短気者で酒癖が悪く、酒を飲むと何時も牛舎に来て不平タラタラ、事大げさに喚き散らし、何時も私を馬鹿呼ばわりにしていたので日頃から腹いせもあり、何時かあの娘をてごめにして鬱憤を晴らそうと考えていました。」


問「何!娘をてごめに?そんなムチャナ!お前は何を考えているのだ!それで?」


答「ある晩娘の離れ部屋に忍び込んだが、大声を出され不在と思っていた巌さんが駆つけ、面食らった私を木刀で殴り、ひどい仕打ちを受けました。その時の傷跡です。」

そう言ってシャツを脱いで見せ、肩には骨折したと思われる傷跡が残っていた。


問「ホウ、そんなひどい事をしたのか?それにしても、お前が悪いよ!いくら腹癒せと言っても娘を襲う行動は是だけでも重大な犯罪行為だ!その後どうなった?」


答「この事があって、私が退院した後、奥さんが見舞いと称し、チョクチョク俺の部屋に来るようになり、巌さんが会合とか、深酒をした時など、長話をして帰る日が続き…それとなく二人は深い関係に進みました。」


問「何!今度は母親か!お前と言う奴は!事もあろうに、うるさい巌さんの奥さんと関係を持つなんて?お前は何を考えているのだ!村人の噂になっただろう?又巌さんが不在の時、家にも度々行ったのか?」


答「家には行きません、娘の事があって巌さんは、シェパードを番犬に置き、暇の折り俺を山に追いやり猿轡をした犬をけしかけるので、私は必死で逃げ回りました。

このような訓練を二~三回したので、あの犬は、私に異常と言える程|敵愾心を持ち、それ以後、家に近付けず…巌さんは異常心理を表す、とても怖い人で血の通う人とは思いません。」


問「何!犬を使いそんな恐ろしい事を巌さんはしたのか?お前のした事も異常だよ?」


答「二人の関係は、暫くの間は人知れず続いたが、年増女は恐いと言うのか?大胆なのか、洗濯物の干す位置で其の夜の旦那の動向を知らせてきたのです。」


問「ホウ…虫も殺さない顔をした奥さんが?そんな考えを思い付くとは?例えばどんな方法で連絡してきたのか?」


答「そう色々有りました。巌さんの下着が始めに干してある時は、終日在宅、真中辺りの時は午後不在、下から見て右端でひらめいている時は、終日外泊不在、まあこのような取り決めでしたね。

然し悪事はバレルもので、ある日会合と言って出掛けたのに…その会合が流会となり、早目に帰宅した巌さんに現場を目撃され、その場で二人は袋叩きと罵声で罵られ!『明日の博労会議が終り次第、この村から親子共々追い出してやる!覚悟して置け!俺の目を盗んで良くも恥をかかしたな』可様な怒号を浴びせられたので…私は日頃の恨みもありこの時殺意を抱きました。」


問「何!殺意!お前一人で!?奥さんと共謀したのと違うか?奥さんの様子は?」


答「奥さんは巌さんから離婚|云々と厳しく言われ、頭から血を流して泣いており、奥さんと共謀はしていません」


問「間違い無いな!?あまり条件が揃っているので疑うのは当然だろう?じゃーお前一人の犯行だね!正治は関わり無いのか?そこらを詳しく言ってみろ!」


答「私一人でやりました。…正治は遺体処置と、偽装工作等の手伝はしたが。奥さんとは巌さんに目撃された翌日の犯行だったので、相談する時間と顔を見る事すら出来ない状態だったので、その時は私も興奮して居たので、殺意を抱いたものの…一夜明けると、幾ら憎いオヤジといえ、人の命を奪うなんて…昨夜の恐ろしい計画を忘れようと努めたが、忘れる事の出来ない悪夢、昭和二十一年七月四日、博労会に行く途中、俺の仕事場を覗いた事で…そして巌さんの一声が…忘れていた殺意に火を付けました。」


問「渋谷!勝手な事を言うな!すべてお前の悪事のせいではないか!理由はどうあれ、人の命を奪っていながら…お前は本当に恐ろしい男だ!」それで殺ったのか?」


答「…そうです前に述べたように…忘れもせず、二十一年七月四日午後三時半過ぎ、博労会に出掛ける前に、家で奥さんと喧嘩をしたのでしょう?

興奮状態で乾燥場に立ち寄り『コラ!泥棒猫!俺がお前達親子を養っているのに、この恩知らずメ!』それは汚い言葉で罵り怒鳴り散らされたが、私は何も言われても反論せず耐えていたものの、私達親子を人間とみていないその言葉使いや、横柄な態度に忍耐も是迄頭に来た私は理性を失い、足元にあった鉈を取り『バカ野郎と言って』後頭部に打ち下ろしました。


気が付くと体中の震えと血のしたたる鉈を持っており、何時来たのか正治がこの現場を見て正治も顔面蒼白驚き震えていたので、正治!火力が落ちている!薪を割り燃やすように」促すと、私の持っている鉈を取りその作業にかかりました。後は、以前申した方法で遺体処理をして行方不明にしました。」


問「自分の嫁を寝取られれば、普通の人でも是位の言葉は吐くよ、それで頭に来たと云って殺人行為に走る?渋谷!お前は身勝手で短絡的な行動をとり?このドサクサの中、鉈に正治の指紋を付けさせ脅迫した事も間違い無いな!是も恐ろしい行為だ!それと巌さんの頭はいつ、誰があの井戸に捨てたのか!?詳しく言ってみろ!それ以後、奥さんとの関係も続いていたのだな?調書に依ると、今の嫁さんは確か娘の『久子』だと聞いているが?お前は一体何を考えているのだ!人間の面を被り恥じも外聞も無い只の動物か!関係した親子共々の生活?その辺はどうなっているのだ」


答「腐敗が早い頭部は悪臭も強いので、麻袋に入れ堆肥の中に埋め隠していたが、四~五日過ぎて近所の人から堆肥の注文があり、その時運び出し麻袋毎井戸に投げ入れました。

奥さんとの関係は其の侭続いており、其の内娘の久子を嫁に…と考えるようになると、好き合っている正治が憎く邪魔になってきたのです。言われたとおり理性を失い、身勝手な…欲望の道に深まって行き、己れの心を抑える抑止力もなく、只々その場限りの行動に進む、動物適本能に進んで行く心に怖さを感じました。」


問「何!頭を?そうか?匂いの強い堆肥と一諸に運べば誰も疑いを持たないはずだ!傍で村人と立ち話をしても、おそらく気付かなかっただろう。これも巧い事考え実行したのか?『正治が憎い』それは又どうして?」


答「あの二人は婚約しており、将来家庭を持つ身でした。

この話が出た時、欲張りの巌さんは、正治が婿に来れば、家の近くにある土地を、正治の親から譲ってもらえる条件を出し強引に成立させていたとか…話は奥さんから聞いていました。」


問「そうか?そのような、あくどい考えを持っていたのか?あのオヤジは?それで前回自供した筋書きで正治を犯人に仕立て、久子欲しさに口封じ、一挙両得と考え正治をやったのか?!」


答「そうですあの時、一諸に仕事さえしなければ…本当に可哀想な事をしました。」


問「渋谷!お前は一体何を考えて居るのだ!自己中心主義とはこの事だ!自分の都合で邪魔者は簡単に殺しお前は悪魔か!聞けば聞く程腹立たしい『正治』殺しについて詳しく云ってみよ」


「少し休ませて下さい、それと煙草を頂けますか?」


「分かった!よし休憩をしょう。煙草を与えてやれ」


長時間の取調べで、渋谷も疲れた表情が現れていたが、休憩を挟み、再調査が行なわれ複雑で残忍な犯罪を自供したのである。


問「それでは、全て話すか?そして楽になれ?嘘をつくなよ、良いな!」


答「…分かりました。…あれは巌さんを殺害した後、警官が再三聞き取り調査に来ました。

俺達には村人及び駅員等の、証言があったので疑う事なく『巌さん』は此処で何を喋っていたのか?博労会議はどのような日程と行動予定だったのか?簡単な調査でしたが、日が経につれ警官は何を掴んだのか?二十一年の八月、日時は忘れましたが二度程、正治は刑事の聞き取り調査を受け、本人はかなり困っていました。」


問「確か二十一年八月七日と二十二日に二度、事情聴取をやっているね?」


答「正治にそれとなく今迄警察が調べた内容を聞くと、もっぱら私の行動を探って居る事を知り、八月末に今一度調べるとか?其れ迄に口封じを思い付き、計画を企てました。」


問「可笑しいな?警察はそんな重大な事を事前に漏らす事は絶対にあり得ない?どうして其れを知ったのか?この件に付いて正治はどのように言っていた?」


答「私の聞いたところ、警官が正治に『夏休の期間、部活動等?』其れらの行動計画等を細かく聞かれ、これらを判断すれば近々取り調べがありそうだと?言っていたので…私もそのように感じ取りました。」


問「警察はお前の行動を調べていると聞いたが、何を調べていたのか?!」


答「…私と奥さんの関係…それが巌さんに知れた時の様子等、耳にしました。」


問「それで、これ以上正治に喋られたら困るので、口封じにやったのか?」


答「そうです…正治が喋れば、私も連行されると思い計画をたてました。」


問「ホウ…計画?…殺人計画か…どんな?」


答「普段付き合いの無い正治でしたが、あの事件以来、よく私の離れ部屋へ来るようになっていたので、その折、今後の事に付いて話し合いました。

話の中で八月二十七から行われる大学水泳部の合宿の為、八月二十五日『青野ヶ原駅』発午後五時三十五分の汽車で神戸に行く事を知り、殺害はこの日と決めました。


『神戸に行く時は早めに此処に来て『久ちゃん』に逢ったら…?色々あったけど、二人が喋らないかぎり、誰も知らない事だから…安心して日々過ごすよう伝え…当日は荷物があるだろうから馬車で駅迄運ぶよ?』と誘うと『有難う!先日、兄貴に頼んだら、二十五日は三木市に行く用件が入り…無理だと言っていたので…是非御願いします。』と話にのってきたので、当日の動きを頭の中で再確認、事件後、誰にも疑われない仕事の内容と、時間の配分を考え綿密な計画を企てました。」


問「そうか?お前は、其処まで考えての行動をしたのか?悪運の強い奴だ!それで?」


答「炎天続きの二十五日は特に暑く道端は常時陽炎が発生しており、一雨欲しい日だったと記憶しています。午後二時過ぎ大きな荷物を両手にさげ、汗をかき乍ら正治がやって来たので、西瓜と麦茶を与え、暫く久ちゃんに逢えないので話をして来たら?と促とそれに応じ出掛けて行きました。


この間に私はバックの中から制服と靴等を盗み出し、代りに麻袋を詰め込み、ここで殺すか?この場所は久子や、奥さんに見付かる危険があるので…計画通り『青野ヶ原台地』の『野井戸』にきめました。」


問「何も知らず、お前を頼っている正治を殺す?…どんな方法で殺ったのだ!」


答「四時前、正治が帰ってきた。『先程山田さんより堆肥の注文があり今から運ぶので、正治は小荷物のみ持って青野ヶ原、三本松の処で待つように』と言って出発させ、私は馬車に堆肥を積む作業に掛かり正治の大きな荷物以外に『鉈』を積む事を忘れませんでした。


この時、青野ヶ原に向かって歩く正治を、庭先から手を振り見送る『久子』の姿を、下から覗き見しながら…馬車を出し青野ヶ原近くの畑へ急いだが、今でも覚えているのは、道中蝉が鳴いていた…この記憶しかなく、頭の中は殺害の事ばかりどこで殺るか?この一点…場所は『野井戸』と決めて居たので井戸に鉈を隠す必要上、旧道を急ぎその工作をしました。」


問「その移動中、村人に会わなかったのか?」


答「道中誰にも会わず、合っても堆肥を積んでいたので心配しませんでした。」


問「そうか?堆肥の運搬か?誰も疑わないね…其の後どうした?」


答「耕作地で堆肥を下ろして、正治の待つ三本松へ急ぎ正治を馬車に乗せ、今度は村人に合わぬ事のみ願い…久子の話の内容を聞き出す事に集中、話の内容と、人に会った場合を考え、犯行の変更も視野にいれ内心不安な状態での移動でした。


幸い人に出会う事なく『野井戸』の近く迄きたので馬車を止め「最近井戸の水が減っていると聞いているので見て来る」と言って、俺は馬車を離れ井戸に近付き、中を覗き込みながら「正治!来て見よ!中に蛇がいて!外に這い出ろうとしている」と声を掛けると正治が駆って来て」

「何!蛇!熊兄何処じゃ?」と言いながら手前の草を掻き分け、中を覗き込んでいたので其処に居るだろう?今水中に潜っている」と指をさし、水面に夢中になっている正治の後ろから…隠し置いていた鉈を取り上げ後頭部に一激、惨殺しました。


正治は声も出さず、大量の血潮を吹き上げ大きな水音を残し水底に消えてゆき、見る間に水面は赤一色に染まり、それは、それは 恐ろしい光景で、今でもその様子が夢の中に現れ脂汗をかく状態です。」


問「渋谷!お前それでも人間か?!血が通っているのか!真面目な将来ある青年を、お前の都合で虫ケラのようにいとも簡単に殺し…なんと言う奴じゃー、夢の中に出て来るのは当たり前!こんな恐ろしい犯行をしていて…その時使った凶器の鉈はどうした?」


答「鉈?…唯その時は犯行の恐怖が一杯で、鉈の記憶が無く、気が付いた時持ってなかったので、無意識に井戸に投げ入れたと思います。この時は、犯行現場を急ぎ離れる事に集中していたので、帰宅途中預かっていた荷物の処置をして気持ちが落着くと、今度は、遺体の処置に付いて随分悩み、特に次の事に付いて対策を練りました。」


1、夏だから遺体の腐敗が早く悪臭が漂う。

2、必ず遺体は浮き上がる。

3、村人が、井戸水を使い遺体が発見される。


「上記の様な事を考えると落着いていられず二十六日早朝、次の事を実行した。

時間は午前三時過ぎと記憶しています。村を出る時、犬の遠吼えが聞えており『青野ヶ原』の道筋と井戸周辺は暗がりで、人の動き無く容易に作業が出来たので、これで不安を解消、安らぎを得ました。


その作業とは長い竹竿に出刃包丁を取り付け、遺体が落ち込んだ当たりを、処かまわず突き刺し、遺体を切り刻む、これで体内に発生するガスの放出を行い、遺体の浮上を押える…と考え、この作業に二十分前後、掛ったと記憶しています。」


問「何!槍にした包丁で遺体を切り刻む?そのような手の込んだ犯罪をしたのか!?その時使用した包丁は、今も有るのか!…それと悪臭に付いては?」


答「包丁は家に持ち帰ったが刃こぼれが多く、使用出来ないので、後日炉で溶解処分にした。

匂い消しに付いては、大量の堆肥を井戸に落し込む事で簡単に解消し、遺体が万一浮上しても藁等で出来た堆肥の下だから…上から覗き込んでも遺体の確認は出来ないと思いました。


又悪臭に付いても堆肥の中に、大量の家畜の糞の匂いが強く、誰にも気付かれなかったが、数日後、村人

から苦情が出たので、俺は家畜売買の商売をしており毎日肥やしが出るので捨て場に困り…あまり利用していない井戸と聞いていたので、つい捨て場に…このように謝罪すると、村人達は「まあ今回は目をつぶるが以後気を付けるように」この程度でその場は治まりました。」


問「良くそんな事を思い付き実行したな?話を聞けば聞く程、お前は恐ろしい男だ!その時の傷跡があの髑髏と骨等に付いたのか?…正治が行方不明になった時、警察は、お前を疑わなかったのか?駅迄荷物を運ぶ事は久子も知っていただろうに?」


答「髑髏の傷跡?それは知りません、作業の折穂先が堅い物に当る手応えが幾度も有りました。

正治は俺が駅迄送る事は久子も知っており、私に仕事が入り予定変更の件を政治に話したので、荷物を持ち一人で駅に向かう正治の姿を庭先から見送った久子の言葉が決めてとなり、又午後四時前後、青野ヶ原駅前は多くの若者がたむろし、その中に『正治らしき人物』が居たと駅員が証言したので…私は警官の追求から逃れる事が出来たのです。」


問「堆肥の件?山田さんから依頼があったと言っていたが?山田さんに聞けば嘘が直ぐ、ばれるだろう?その点、警察は追及しなかったのか?又荷物の処分は、何時どのような方法でしたのか?」


答「犯行後、預かった荷物は土中に埋め隠し、後日荷物の中から、お金と衣服類を盗み、これ以外の書籍類は焼却処分にした。山田さんの件は、事実依頼が来ていたので、当日実行したと述べました。今迄も村人から料金を頂き、堆肥の運搬を時々しているので」


問「渋谷!巧い事芝居をしたな?正治を行方不明扱いに?この計画では?盗み取った品物を利用したと思うが?海岸にお前が埋めたのか?それとも誰か共犯者がいたのか?」


答「共犯者は居ません、私一人でやりました。

以前聞いていたが、巌さんは加古川市に『囲い女』を住まわせており、その家の件で近々行く事を『奥さん』と話し合っていたので…その日を決行日としました。」


問「巌さんが行方不明になった時、愛人が居た事実、重要参考人として再三調べられている、それは何時頃の事か?」


答「…そう確か昭和二十一年九月四日、時間は…午後四時前後、加古川駅、荷物扱い窓口に荷物を預け『谷本幸代』の家に行った事を覚えています。年齢は三十歳前後でしょうか?噂どおり『谷本』さんは美人で…奥さんに横顔と、しぐさが似ており驚きました。


奥さんは嫉妬深い女で『谷本幸代』宅に行く時も、同行すると愚痴り…同行されたら計画がバレルので、家屋の契約変更用件と、東加古川市在住の博労と牛の買い付け商談があると納得させ、計画どおり実行したが、嫉妬深い女も何かと私の行動を見透すようでその場を誤魔化す事が大変でした。


巌さん行方不明以後、奥さんは、極端に化粧と服装が派手になり、私も目を疑った程です。

巌さんがいなくなっても心配せず、博労関係の仕事は俺に任せるので一緒に住んだら…と言っていたが…私は久子の手前…又巌さんが帰ってくるかも知れない…同居は出来ないと伝えていたので、深夜、奥さんが私の部屋に通って来くる状態でした。


奥さんは俺の言うとおりに行動したが絶対主人の女に手を付けるなと口煩く言っており、常に私を監視しているようにみえ恐ろしい存在でした。」


問「残忍なお前が今度はノロケか!ノロケは後で聞く、お前が大罪を犯しているから、全ての行動を監視されている?心理状況にお前が置かれているのだ!犯罪のカラクリを言ってみよ!」


答「谷本幸代の家で、登記書等確認後、今後の事について話しを終え、家を出たのは午後五時半頃だったと覚えています。

以後『加古川駅』で手荷物を受け取り、駅前からバスに乗り継いで、別府の海水浴場へ急いだ。時刻は七時過ぎだったと記憶しています。

海水浴場は未だ大勢の人々がおり、離れた場所で時間待ち…人が居無くなったのを確認して、手早く遺品となる品物を砂場に埋めた。」


問「何故砂浜に埋めたのか?又その時点で被服がすぐ見付かり服の破損の度合いでカラクリがバレルと思わなかったのか?」


答「一人で泳ぐ時は、盗難防止の見張りが居ないので…自衛策として被服等は砂浜に埋め、泳ぎながら監視する事を以前、人から聞いていたので…服の破損…その事も考えました。

砂浜だから、強風ですぐ見付かる事もあるだろうと思い手を打っていたのです。」


問「何!手を打った!どのようにして!」


答「八月二十五日、被服を抜き取った後、牛舎裏に海水を掛けた砂場を作り、その中に被服を埋め、偽装工作をした。即ちに被服が見付かっても、塩分の含み具合と被服の破損状態で最定一週間位、砂浜に埋もっていたような状態を作る必要があったので、鑑識官の調査結果が、望みどおり発表される事が絶対必要だったので…」


問「それで八月二十五日以後の水難事故に仕立てたのだな?お前は何処まで悪賢い奴か!その被服の、いたみ具合で当時担当していた刑事及び遺族は騙され、水難事故扱いとして遺体の無い海を捜索させられたのか?当時この記事を新聞等で見てどう思った。


一人ならともかく二人迄行方不明扱いに仕立てて、警察相手のゲーム感覚を楽しんでいたのと違うか?!」


答「別にゲーム感覚はありません、大半は思いどおりに進んだが…凶器の鉈の存在が常に頭の中にあり、何故あの時、鉈を井戸に投げ入れたのか?…何時警察から呼び出しが来るのか?不安な日々を過ごしていたので…早急に証拠の鉈の回収をしなければならないと思っているが、あの井戸の中での作業は、予測しない事態が起こる?不安を抱きながら後日鉈の回収を試みたら?…やはり予想どおりあの井戸の中は、想像以上の恐怖の世界、恐ろしい怪奇現象に脅かされ全て失敗に終わりました。」

             


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