表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その盗賊、美少女でチートだけど中身はおっさん  作者: 渡邉 慶太朗
はじまりの盗賊
7/9

少女と幼女

 エリカの歌声は異国の香りがした。私がいた世界のどこにもない旋律とリズムで刻まれたその音楽は、心の隙間を埋めるように流れる。まるで清水のように心地よい音色が、私の耳に入ってくる。

 ギターに埋められた魔塊はどうやら音を増幅させる為の装置らしく、想像よりも大きな音が周囲に広がっていた。不思議なコード進行とメロディが山脈を越える勢いで流れる。

 やがて一曲が終わると、エリカは恭しく一礼をした。ガラにもなく感動してしまった私は気が付いたら拍手をしていた。


「心に染みる不思議な音楽だな。素晴らしい」


 それは嘘偽りない素直な感想だった。まるで上質なワインでも飲んだかのように、うっとりとした雰囲気に心が満ちている。


「一応、これでご飯食べてるからね。喜んでもらえてよかった」


 はにかみながら答えるエリカ。その後見せた屈託のない笑顔にドキリとしてしまったのは秘密だ。


「エリカの能力はな、テレパシー系なんだよ。自分の声を媒介にして相手に影響を与える能力さ。ギターに埋められた魔塊を通して聞き手を心地の良くさせていたってわけだ」


 エンリケの説明を聞いたエリカが、ご機嫌斜めな様子で言う。


「人聞きの悪い言い方しないでよ。ちょーっと影響を与えるだけだってば。それに、私の本当の力は占いの方なんだし」


 エリカの演奏に私はかなり感動したわけだが、ちょっととはどれくらいなのだろうか。先ほどドキリとしてしまったこの気持ちも、その影響なのかもしれない。だとしたら恐怖。そう。女は怖いのである。


「能力ってそんなにたくさん持てるものなのか?」


「まぁな。才能のある奴は2~3個持っててもおかしくねぇな。お前も他にも何かあるかもしれねぇ。とりあえず、ギターでも弾いてみるか? 何か目覚めるかもしれん」


 エリカが私にギターを手渡してくる。思ったよりも重量のあるそれは、不思議と手に馴染んだ。


「いや、だから私は演奏なんてできないと……」


 言い淀んだ私は、またしても脳内に映像を見ていた。

 これは……ギターの弾き方だ。追体験と言った方が正しい。誰かの記憶を見せられているかのような感覚。

 北アイルランドで生まれた彼は16歳でバンドに加入し、一人前のギタリストとして大成していく。おぉ、ゲイリームーアではないか……。

 しばらく放心状態になった私をエリカが揺すっている。ええい、邪魔をするな。今良い所なのだ。数多のオーディエンスが私を待っている。さぁ……さぁ!


「私の……いや、俺の演奏を聴け!!」


 私は彼の記憶を再現した。遊歩道を歩くパリの女性をイメージしたその曲は、まさに熱演と呼ぶに相応しい出来栄えを魅せる。魔塊から流れる音は、成層圏を突き破るかの如く世界に響く。

 無我夢中で演奏を終えるとまるで憑き物が落ちたかのように、私の心には余熱だけが残った。

 ふと前を見ると感動に震えるエリカと目が合った。おや、感涙に咽んでおられる。


「ちょっと、感動どころじゃないんですけど。涙が止まらないし、めちゃくちゃ上手いし何か凄いし」


「誰だよ、演奏したことねぇとか言ってた奴ぁ。完璧じゃねぇか。それともあれか? 何かやったのかお前」


 二人に詰め寄られる私の後ろで、聞き覚えの無い声がした。


「おい、エリカ、コイツは何者だ? いや、どこの天才だ?」


「あ、ウー姐さんとちーちゃん!」


 私が振り返ると、そこには買い物袋を持った絶世の美女が居た。銀色の髪に涼し気な目元、大きく開いた胸元が艶めかしい。

 その後ろに隠れるようにして幼女がこちらを伺っていた。くりくりとした瞳は黄金色に輝いている。


「エリカの知り合いか?」


「残りのメンバーの二人だよ。ウー姐さん、この人はエンマ君。ほら、例の」


「あぁ。道理で。……私はジェン・ウー。楽団レッドツェッペリンの団長をしている。そして私の後ろに隠れているのが……おい、自分で挨拶しろ」


「……ちー。チー・タン。チーでいいよ」


 おかっぱ頭の幼女が、私を上目遣いで見てくる。うるうると輝く黄金色の瞳に、私の心は撃ち抜かれた。私は決してロリコンではないが、これは、守りたくなる生き物である。


「エンマといったな。騙されてはいかんぞ。コイツはババアだ。おい、ちー。今年でいくつになる」


 ちーは人差し指を顎に当てて、思案顔をする。


「んーとね、115歳!」


「クソババアではないか!」


 思わず言ってしまった。米寿どころか百寿すら超えて猫かぶりするような人間はクソババア以外の何者でもあるまい。


「クソは余計だクソガキ。言葉にきぃつけろ。まぁアタシは寛容だから許してやるけどな。それと、アタシは社長でこの組織のトップだから、注意するように。ただし言葉遣いや扱いは幼女として扱え。間違っても敬語なんざ使うんじゃないよ。そして可能な限り宝物のように大切に扱え。分かったかクソガキ」


 そう言って老獪な笑みを漏らすチー。意味が分からんが従わなければヤバイ、そんな強制力のある言葉だった。

 ちーたんは持っていた紙袋をウー姐さんに託すと、幼女の声で仰々しく言い放った。


「ふん。丁度メンツが揃っている事だし、作戦会議を始める。全員会議室に集合せよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ