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その盗賊、美少女でチートだけど中身はおっさん  作者: 渡邉 慶太朗
はじまりの盗賊
6/9

石の音

 脳内に流れ込んできた大量の情報の中で、最も私が惹かれたのは「音」だった。宇宙空間の水のようにフヨフヨと漂うソレは、時折鋭利な刃物になったり、複雑な建築物を模したり、また、糸状になったりしていた。

 私は童心に帰ってソレを見つめていた。やがてソレは人体の骨格を作り、筋肉、皮膚、体毛を形成していく。

 ああ、これが人間の「音」なのだ、と私は気付いた。そして、先ほどのイメージは、物体そのものが持つ振動の波長。

 その事に気付いた次の瞬間、脳内で強烈な破裂音がして私は現世に戻された。


「どうだ? 何が視えた」


「……音、だな。何の意味があるかわからんが」


「音ってことは、つまり振動か。めちゃくちゃ使えるんじゃないか? ちょっと試してみろ」


 エンリケは、足元の小石を拾い、私の前に差し出した。私は手に取り、しばらく思案した。

 何をどうすればいいのやら、さっぱりである。


「魔塊を持って、イメージすればいいよ」


 エリカの助け船も抽象的過ぎて意味を成さないが、とりあえず言われた通りに魔塊を手に握ってみた。

 右手に魔塊、左手に小石。正直、魔塊が普通の石にしか見えないせいで両者の見分けがつかん。

 ……とりあえず、壊してみるか。えー、壊れろぉ。あ、いや、振動させればいいのか。


「えーっと、アレだ。震えろぉ~……」


 私のやる気の無い声とは対照的に、左手の小石が物凄い勢いで回転を始めた。突然生じた摩擦熱に驚いた私は思わず小石を地面に落としてしまった。

 地面に落ちた小石がゴリゴリと土を抉っていく。その様はあまりにも軽々しく、まるでプリンでも掘っているかと錯覚してしまうほどだ。

 その様子を我々は茫然と眺めるほか無かった。

 小指の爪程度の石は、瞬く間に地面に埋もれて見えなくなってしまった。十秒か二十秒か、ゴリゴリという音だけが周囲に響いていた。

 三人は顔面を蒼白にしながら、その穴を覗き込んでいた。


「おい! ヤバ過ぎるぞ。こんな危険な能力をどう使えと言うのだ。私はこの小石に『震えろ』と言っただけで……」


「おいバカやめろ!!」


 エンリケの制止の声と、小石が再度回転を始めるのは同時だった。


「あああ止まれとまれぇ!!」


 私が命じると、小石の回転は止まった。どうやら振動に関してはオンとオフの二つしかないらしい。


「き、危険すぎるからとりあえず魔塊から手を放そっか。その状態だと迂闊な一言で人が死んじゃう」


 エリカの引きつった目線が痛い。

 私は魔塊を投げ捨てた。こんな恐ろしい代物、一秒だって手にしていたくはない。


「参ったね、コレ。どうしよっか。どう使おっか……」


 エリカは顎に手を当てて考え込んでしまっている。


「とにかく、この能力についてもっと詳しく知る必要がある。何ができて何ができないのか。そして、その効果範囲と持続時間。それと手袋が欲しい。迂闊に魔塊とやらに触れて、知らずに命令して大惨事、だなんて笑えん」


 私が見たイメージは音だった。つまり、もっと応用力の高い能力であるはず。


「だな。つーか、お前が視たのは音のイメージだったんだろ? だったら、お前、楽器も扱えるんじゃねぇか? うちは一応楽団って事になってるから、腕のいい演奏者は常に募集中だぜ」


「楽器なんて学校の授業で触った程度だが、その可能性はあるな。この世界ではどんな楽器でどんな音楽をやるのか知らんが」


「ふーん。まぁ音楽って世界共通言語だからね。とりあえず私の演奏でも聴いてみてよ」


 エリカは見せたくてうずうずしているようだ。心の底から音楽が好きなのだろう。そんなキラキラした目で見られたら頷かないわけにはいかんな。


「ふふん。オーディエンスが私一人とは随分贅沢なライブだな。是非とも頼む」


「おっけー。じゃあ準備するからちょっと待っててね!」


 パタパタと船体の方へと駆けて行くエリカ。


「お前は行かんのか?」


「ワシか? ワシは演奏できん! だが指導はできるぞ。耳が肥えているからな」


「演奏できないのに指導って大丈夫なのか……。というか楽団だと言ってたが、団員は何人くらい居るんだ?」


「楽団のメンバーは全部で五人。その内演奏が出来るのは三人だ。二人は今は街に買い出しに出かけている。ワシとシュタイナーは船体の整備と操舵の担当だな。ちなみに荒事は全員で行う。そんな感じだ」


「意外と少人数なのだな」


「駆け出しの楽団だからしょうがねぇ。常に人手不足の赤字ギリギリ自転車操業だ」


 赤字ギリギリとは大変だなぁ。ん? 赤字?


「……おい、アイツさっき結構稼いでるって言ってたぞ。赤字ギリギリってどういうことだ」


 エンリケはしまった、という顔をして目を逸らす。コイツら、ハメやがったな。

 私がキッと睨んでいると、エリカが戻って来た。腕に抱えているのはどう見てもエレキギターだ。しかし、コードを挿すジャックも無ければ、ホールも無い。

 その代り、本来はピックアップのある位置に石がはめ込まれている。おそらく、魔塊というやつだろう。 


「んじゃ、私達の祖国が誇るスタンダードなナンバーを一曲。僭越ながら披露させていただきます」


 エリカが弦を弾くと、魔塊が紫色の光を放ち始めた。それは柔らかく、あたたかな光だった。 

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