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その盗賊、美少女でチートだけど中身はおっさん  作者: 渡邉 慶太朗
はじまりの盗賊
3/9

おっさん

「おう! なんだ元気そうじゃねぇか!」

 2メートルはあろうかという大男がテントの入口から顔を出した。豊かに蓄えられた髭を撫でながら豪快に笑うその様子は、どう見ても荒くれ者だ。私は少しビビッてしまった。

 私が怯えている事に気付いたのか、エリカが急いで説明を始めた。


「あ、この人はエンリケおじいちゃん。ちょっと厳ついけど、全然そんな事無いからダイジョブだよ。あのね、おじいちゃん。エンマちゃんが知りたい事があるんだってさ。私は新しいハーブティーと服を持ってくるから」

 

 そう言ってエリカはテントを出て行った。小さいテントの中に馬鹿デカいオッサンと二人きり。息が詰まりそうだ。 

 エンリケは私の目の前にドカッと座ると、物凄い勢いで顔を近づけた。至近距離で見ると迫力が増す。ヤクザの親分だと言われても信じてしまう。ヤクザに殺された身としてはトラウマものである。


「よし来た。ワシに任せろ。なんせワシも元異世界人だからな! お嬢ちゃんの気持ちはわかるぜ」


「そういえば死ぬ直前にそんなような会話が聞こえたような気がするな。俺の時もそうだった、とかなんとか。あ、あと私はお嬢ちゃんではない。男だ。注意するように」


 エンリケは訝しげな表情を浮かべて首を傾げた後、納得したかのように軽く頷いた。


「そういやお前は扉を二つ開けたんだっけな。自分を男だって思い込んでるのはそのせいか? まぁ死ななくて良かったじゃねぇか。多少精神がおかしくなるくらいで済んで」


「逆だ! おかしいのは肉体の方であって、精神ではない。私は今まで男として生きてきたし、これからもそうするつもりだ。可能なら性転換したいくらいだ」


「そうなのか? 災難だったな。まぁ性転換なんざ珍しくもないんだが、結構金が要るぜ?」


 希望の光が見えた。文明レベルの分からない世界ではあったが、どうやらそれなりの技術を持っているらしい。


「金さえ払えばこの世界でも可能なのだな!?」


「この世界でも、って事は、やっぱり思った通り、お前さん地球出身か」


 エンリケの眼光が鋭くなった。意外とキレ者なのかもしれない。


「……何故分かる?」


「最初から知的な会話ができる転生者は限られてくる。その上、科学技術が発展しているとなると、地球が最も可能性が高い。こっちの世界に送られてくる時に言語の問題に関しては調整されるらしいんだが、文明レベルの低い星の出身だと簡単な単語しか喋れねぇし、文明レベルが高くても何も喋れねぇ奴もいる。声帯の使い方を知らない奴らだな。別の手段でコミュニケーションを取ってた生き物だ」


 知らなかった。そんなに多くの異世界があったのか。というか、地球って結構レベル高かったんだな。


「それらの世界が全く別次元の存在なのか、同じ宇宙空間のどっかに存在する別の星なのかは分かんねぇ。とにかくこの世界では転生なんて珍しい事でもなんでもないんだぜ。まぁ、転生の儀式ができる人間は限られてるし、そいつが生涯に行える回数も限りがあるんだけどな。しかも死にかけの生命体しかこっちに呼べねぇし、失敗する事もある」


「面倒な制限があるのだな」


「まぁな。元々は禁忌だったんだが、ここ200年で世界の人口が3分の1に減ったおかげで、解禁された。このままじゃ衰退しちまうってな」


「何があった」


「戦争だよ。おめぇの世界でもあったろ。つってもこの星に住んでる奴らの戦闘力は半端じゃねぇからな。結局全部の国が潰れてお終いだ。まぁ詳しい事はそのうち分かるだろ。つーかお前、妙に落ち着いてやがるな。異世界に飛んできたんだぞ? もっとこう……何かあるだろ」


「私も色々あったからな。それなりに歳を取っているわけだ。スレているのだよ」


「まぁそうか。長く生きてりゃ色々あるわな。地獄も天国もなぁ」


「……エンリケ、さんも色々あったのか?」


 言ってしまってから、初対面で聞くような事では無いと気付いた。ついつい聞いてしまったのは、エンリケの人格が成せる業だろう。


「エンリケで構わねぇ。まぁそうだな。そのうち話してやるさ。……ところで、お前、服は着ねぇのか?」


 失念していた。私は全裸だったのだ。とは言っても男同士なので気にする事もないのだが、なんとなくいたたまれない。

 どうしたものかと思案していると、エリカが戻って来た。手には先ほどの飲み物と、簡素な服と、なにやらヒラヒラが付いた服が。


「はい。コレね。男物の服。一応女物も持ってきたんだけど……」


「すまない。だがそっちのヒラヒラしたのは要らん!」


 私は簡素な服のみを受け取ると、布団の中に包まってもぞもぞと着た。服の造りは地球のものと大差が無いらしく、スッキリとしたシルエットの踝丈のパンツと厚手の白Tシャツは私のサイズにピッタリだった。

 服を着終えた私は、布団から飛び起きると、腰に手を当てて先ほど手渡された琥珀色の液体を一気に飲み干した。うむ。美味である。

 エリカはヒラヒラの服を畳みながら、チラリと外を見て呟いた。


「日光も出て来たし、外でエンマ君の能力を確認してみない?」


「能力?」


「そう。みんな何かしら能力を持って生まれてくるんだけど、特に転生者の場合は例外なく強い力を持っているんだってさ。気にならない?」


「気になる。が、『強い力』とは穏やかではないな。私は戦闘を好まん」


 エンリケが私の肩を叩きながら言う。軽くむせてしまったではないか。


「何も人を傷付けるだけが能力じゃねぇんだ。とりあえずこっちに来い!」


 エンリケの後を追って、私とエリカはテントの外に出た。

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