彼氏のバカ! せっかくスリムになったのに!
「ねぇねぇ、ちょっと聞いてよ」
駅前にたどりついた女子高生が、待っていた同級生に切り出す。言いたくてたまらなかった感がとっても生々しい。
「朝からテンション高いなぁ」
相方は駅のまん丸時計に目をやる。まだ8時15分だと思えば、相棒の元気は尊敬に値すると思った。
「多恵の事なんだよ」
「多恵? 多恵がどうしたの?」
「聞いておどろけ! 多恵に彼氏ができた」
「はぁ?」
それまで眠そうな顔をしていた方は、目が覚めたって顔で足を止めた。黙っていられないなって目つきに本気が混じっている。
「多恵に彼氏? 冗談じゃなくて?」
「いや、ほんとうらしいよ。となりクラスの関山が彼氏なんだって」
「うっそぉ……なんで彼氏ができるわけ?」
「そりゃまぁ……かわいさはふつうだけど、乳が豊満だからじゃない? なんせ高1でHカップだよ? しかもやわらかい弾力でキモチいいんだよ? そこで男を釣ったって可能性は大だよね」
2人はひどい事を平然と言い合って学校へ向かう。ペチャクチャラと話題は弾むが、三村多恵に対してはひどいセリフを炎のように吐きまくる。
「やっぱ男って乳の大きさがすべてなのかな?」
「すべてではないだろうけど、重要とか思ってるんじゃないかな」
「ムカつくぅ……」
片方は歩きながらギュギュっと手をにぎりしめた。彼女いわく三村多恵はふつうの顔。乳が豊かでなかったら、なんの取り柄もないムッチリ。それなのに抜け駆けっぽく彼氏ができるっていうのは、どうにもこうにも腹が立つ。
「よし! ひとついい事を考えた」
パン! と手を合わせた女子は、相棒に協力を仰ぐ。それは三村多恵という女子から、彼氏を引き離すという作戦。
「名付けて多恵なんか不幸になっちゃえ作戦!」
「あんた性格わるいね……」
「でもムカつくでしょう? 腹が立ったりしない?」
「うん、ムカつく。やろう、多恵を不幸にしてやろう」
こうして2人は学校にたどりつく。それから昼休みが近づくころまではグッとガマン。出来立てホヤホヤなカップルがホクホクするのを、今に見ていろと思ってこらえつづけるのだった。
そして昼食が終わったら、まずは片方が多恵をつかまえる。どうして大切な話があるんだと言って、心やさしい多恵の気を引く。
それからもう一人はといえば、関山博をつかまえた。どうしても聞きたい事があるんだと言って体育館の裏側につきあってもらう。
「話って何だ?」
博がめんどうくさそう顔を浮かべる。
「あんたさぁ、多恵とつき合い始めたよね?」
いかにも多恵の味方ですって顔をしながら、博にきびしい目を向けるのだった。そうしてその理由を口にする。
「関山、おっぱいの大きさだけで多恵を選んだでしょう?」
「ち、ちがう……変なことを言うな」
「あ、わかった。多恵ってムッチリで抱き心地がよさそうって、そういう事だけ考えて選んだんでしょう? つまり多恵の体が目当て!」
「ちがうつーんだよ!」
「いいよ、ムリしないで。男ってしょせんは女を体で見るものね」
「あほか! おれは本当はスマートな女の子が好きなんだからな」
「はぁ? それって多恵とちがうじゃん」
「み、三村とは……相性が合うからつき合ってるわけで……体とかそんなのは全然関係ないわけで……」
そんな風になされている会話を、こっそり聞いていたのが多恵。となりにいるイジワルな女子に肩をたたかれ言われた。
「わかった? 関山ってサイテーでしょう? ほんとうは多恵のこと愛していないんだよ。愛していたらあんなセリフは言えないよ?」
「そんな……」
多恵がつらそうな目をうかべた。むっちりグラマーの象徴ともいえるバストに手を当てると、豊満にしてやわらかい弾力。そういうのも全部気に入ってもらっていると思っていたので、ちょっと以上のショックを受けた。
「別れちゃいなって。あんなクソ野郎とはバイバイするべきだよ」
女子は多恵を煽った。ところが多恵はほんのり浮かんだ涙をふりきり、わたしはやるよ! と決意表明。
「や、やるってなに?」
「わたし痩せる。気に入ってもらえるように細くなる」
「えぇ、それはムリな話じゃないの?」
「がんばる! そして、おっぱいだって小さくするんだ」
「おぉ、多恵が本気になった」
「せっかく手に入った彼氏を失いたくないんだもん」
こうして三村多恵の汗いっぱいの努力が始まった。その努力とかいうのは、並べてみればこんな感じだった。
ー間食の量を減らすー
ー午後8時からは何も食べないー
ー朝5時に起きてランニングー
ー夜はウォーキングを2時間ー
ー毎日腕立て伏せ100回、腹筋100回、スクワット100回ー
そんな努力を日々重ねていく。彼氏との甘い時間を削ってでも、とにかく深い愛を勝ち取るためにがんばる。
「ハァハァ……」
ユッサユッサと揺れるモノを気にせずランニング。
「ぅ……く、ま、まけない……わたし……まけない」
腕立て伏せに腹筋にスクワットなどなど、毎日体をいじめてたっぷり汗を流した。そんな努力を神さまが応援してくれる。そしておよそ1か月後の月曜日。多恵が学校にやってくると、周りは遠慮なくザワつく。
「うそ……あれ誰?」
「三村多恵? 信じられない! もう別人じゃん」
「多恵……あのおっぱいどこにやったの? なんて勿体ないことを……」
そんな周りの声は無視。多恵は学校に到着すると、即座に博をつかまえて体育館の裏へとつれ込んだ。
「関山くん、ど、どうかな? いまのわたし」
「ど、どうって……ほんとうに三村多恵?」
「うん……わたし……がんばったよ」
驚異のスリム化を達成した多恵が頬を赤らめる。以前がふっくら豊満なイチゴだったとすれば、いまは細いきゅうり。あの97cmにしてHカップブラだったモノは、カンペキに消え去っていた。
「が、がんばったって……おまえ何をやったんだよ」
「な、なにって、関山くんに気に入ってもらいたくて痩せたんだよ?」
「だぁぁ、痩せてどうするんだよ、何考えてるんだよ」
「え、ど、どういうこと?」
まったくよぉ! などとイラつく博。たまんねぇよ! とマイナス感情で地面を蹴っ飛ばしたりする。
「おれは以前のおまえの方が好きだ。べつにいいじゃないか、ふっくらでも巨乳でも。おれはそういうのも含めておまえが好きだったんだ。なんだよそれ、めちゃくちゃがっかりだ」
シーンと静まり返る2人の間。パキパキっと割れていく音が聞こえるようだった。もう二度とあのころには戻れないって歌が聞こえてきそう。
「ウソだよ、関山くんは言ったよ、こういう感じの女が好きだって」
「は? お前にそんなこと言ったおぼえないぞ」
「ぅ……」
会話を盗み聞ぎしていたとは言いづらく黙ってしまう多恵。今までの努力はなんだったんだろうと思ったら、じわっと両目に涙がでてくる。
博は一瞬ドキッとした。どうあれ女子を泣かせたら、それはまぁ胸がズキっと痛む。おれが悪かったよ! と言えるものなら言いたい。ドラマっぽく大げさに、ぎゅっと抱きしめてやりたい。
「で、でも……ムリだ。いまのお前って全然好みじゃない」
「う、うん……わかった……」
「え?」
「わ、わたしさ、夢を見たと思うことにする」
「ゆ、夢?」
「ちょっとでも彼氏ができて、たのしい気持ちを味わって、彼氏のために一生懸命努力したって、そういう夢を見たと思えばいいよね」
えへへと笑いながら大量の涙にまみれる多恵の顔。ブルブルっと哀しくふるえる体は心のキズを反映している。そんな多恵と博のやり取りを、2人の女子が隠れながら観覧。クククと腹を抱えて笑いをこらえる。
「多恵、マジで泣いてるじゃん」
「だいたい多恵に彼氏とか生意気」
「男ってさ、テレ隠しにウソを言っちゃうよね。素直にほんとうの事を言えば、こんなことは起こらなかったにね」
「ふん、言えるもんなら言ってみろって感じ」
「きゃはは、ほんと、ほんと」
こんな2人の会話が大当たりって感じで、多恵と博は別れてしまった。そしてこの日から多恵はぷっつり学校に来なくなる。同時にこの日以降、誰も多恵の姿を見ることがなくなってしまった。
「びっくりDEATH! まさかこんな人だったなんて」
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その他モロモロもよろしくです( ̄▽ ̄)ノ