遥か彼方の浮遊都市【貴方は正しかった】
エイプリルフールなので書いてみました!!
「ってえ...。頭がくらくらする...」
あんのくそ女神強制的に送りやがったな...。
気だるい体に鞭を打って立ち上がる。
「畑...?」
辺りを見回すとどこまでも続く畑があった。
「広いなー」
一歩踏み出すと後ろから声を掛けられる。
「おや?変わった服だね?」
振り向くと優しそうな顔のおばあさんが話し掛けてきた。
...ここはどうするべきか。
「どうしたんだい?」
とりあえず話だけでも...。
「こんにちは、農作業の帰りですか?」
「そうだよ。最近はやることが無いからね。こうして暇な時に農作業をしてるのさ」
話をしていると隣で農作業をしていた青年がこちらを見て、挨拶をしてくる。
正確にはこのおばあさんにだが。
「キュウス様!!お仕事お疲れ様です」
キュウスって言うのか。やっぱり名前からしてここは日本じゃないんだな。
ここは怪しまれないように適当に話をするか。
「最近ここに来たんですよ。ここはとても平和な場所と聞いたので」
この景色からしてとても平和な場所なのだろう。
「まあ、一部のことに目を瞑ればね」
一部?ああ、貧富の差のことか。
やっぱり世界が違っても貧富の差はあるんだな。
「まあ、それは仕方ないんですよ。でもそれは些細なことじゃないですか」
「やっぱりあんたもそう思うかい」
少し険悪そうな顔になるおばあさん。
やべ、何かしちゃったかな?
「でもそういう問題に目を瞑ってたら、いずれ不満が溜まりに溜まって爆発しそうな感じがしますよね」
「あったさ。旦那もそれで亡くしたんだよ...。なのに何も学んじゃいない」
そっか...。旦那さんを亡くしたのか...。
だから少し怒ってたのか。
「キュウスさんはどういう風に思ってるんですか?」
「仕方ない、て言ったらどんなに楽なんだろうね...」
そんなに貧富の差が激しいのか...?
「キュウス様ー!」
そこでまたも横やりが入ってくる。
遠くから青年だろうか?こちらに走ってくる。
「そろそろお時間なので、屋敷に戻りましょう」
「そうだね。それじゃあさよなら。最後に名前を聞いてもいいかい?」
「構いませんよ。アカソラ シウンです」
アカソラシウン、そう俺の名前だ。
俺が今持っている物の一つ。きっと通貨も違っているだろうから、今の俺にはこの衣服と名前しかないってことだ。
「シウン...?」
「どうしたんだい?」
「いえ、どこかで...」
何で驚いてるんだ?
「そんなに俺の名前って変か?」
「いや?確かに変わってはいるけど、そこまで変でもないさね」
ならどうしてだろう?
初対面なのにこの反応、さっぱり分からん。
と、そこでどうやら思い出したようだ。そして同時にまじまじとこちらを覗いてくる。
「な、何だよ。あんたそういう趣味か?」
「...魔力も大して感じない。けど...」
ぶつぶつと独り言をしているウズリカに若干引き気味のシウンが尋ねる。
「あんたは俺の名前に聞き覚えがあるのか?」
「...いや、きっと気のせいです。わざわざ引き留めてしまって申し訳ありませんでした」
何だよ、気のせいか。
「じゃあね、今度お茶でもどうだい?」
「今は忙しいから行けそうにないかな?」
今は知らないことは多すぎる。
とりあえず必要最低限のことだけでも知っとかないと。
「そうかい...。残念だね」
「でも、落ち着いたら出向きます」
「町の人に聞けば直ぐ教えて貰えるからね」
キュウスと別れた後、農作業中の老若男女に色々聞いてみた。
どうやら、この都市では奴隷という身分が存在するらしい。大分前からその制度が続いており、今やこの都市を支える大きな柱になっているらしい。
そして、その都市もいつ戦争が起きてもおかしくない程ピリピリしているらしい。
戦力に乏しい農業都市はその解決の為、奴隷制度を作ったという。
そんなことをして戦力が上がるのか?と最初は思ったが、多くの人に聞いてみると真実だというのが分かった。
つまり強制的に戦いに向かわせるということだ。
そりゃ不満も溜まる訳だ。
「ますます都市の中心部に行くのが難しくなったな」
夕暮れの中を一人歩きながら考えるシウン。
今の俺はどこから見ても怪しい男だ。
大体はこの服のせいだが...。
このまま管理が行き届いている都市の中心部なんかに行ったら即アウトだろう。
そのまま奴隷行きなんてこともありえる。
「今日は野宿か...」
そうするしかないだろう。
いざとなれば食料は手に入る。しかし、それは人として最低な行為だから極力避けたい。
「おい」
何だよ...。随分とこの国...じゃねえや。都市の住民は割り込んで来るな。
「は...い?」
後ろを振り向くとそこには鎧に身を包んだ兵士らしき人が大勢居た。
「貴様、先程キュウス様と親しげに話していたな」
衛兵って奴か?いや違う、それにしては人数があまりにも多すぎる。
それにここら辺には解放部隊と名乗った武装集団が度々出没すると聞いた。
「何かご用でしょうか?」
平静を装って対応する。
ここで変に行動をすれば確実に殺られる。
どうにかして逃げないと...。
「ああ、お前ではなくキュウスの方にな」
「それじゃあ案内しましょうか?町の方に住んでいますよ?」
「いや、我々は交渉材料が欲しいのだ」
まずい。まずいまずい!!
「交渉材料...?」
「何を惚けて...」
「おらああああああああ!!!!」
シウンは鎧を着た目の前の人物に全力の股間蹴りを食らわせる。
「な...!!ッッッッッッッッッッッ――――!!?」
「鎧ガチガチにしてるけど弱点は知ってんだよ!!」
確か本で読んだ記憶がある。
中世だったか知らんけど鎧は関節、股の部分は鎧で覆えない。
若干薄く見えるが作りは同じだろ!!
「その剣借りるぜ!!」
その場で崩れ落ちる男から剣を盗み、走り出す。
...数分後。
はあはあ...。
馬が通れないような悪路を選んでたら山の中に来ちまった...。
「はは、こんなに走ったの何年ぶりだよ...」
人間死ぬ気になれば出来る。
まさか、こんなことで知れるなんてな。
「どこだ!!」
「絶対に探し出せ!!」
山の中に響き渡る罵声を聞きながら、シウンは死ぬことを覚悟する。
いくら逃げてもやがては捕まる。何せ数十にも及ぶ鎧が追ってきてるんだ。
「いやいや、諦めんなって。まだ逃げれる」
こんなすぐに死んでたまるか...。
やっとあの子を...。
「おいおい、頭でもおかしくなったか?」
あの子って誰だよ。
いくら緊迫してるからって取り乱し過ぎだな。
「よし!!まずは朝になるまでに逃げっか」
人が増えてきたらこいつらも引き返すだろう。
というかそれぐらいしか助かる方法が無い。
「おい、そこで声がしたぞ」
...!!
バカだな!!どうしてこんな時に声なんか...!!
「待て、相手はガキでも武器を持ってる。二人で行くぞ」
確実に迫ってきている。
がさがさと茂みを歩く音が近くなって...。
「腹括るしかない...かぁ」
シウンは剣を抜き出す。
「こんなの使ったことねえよ」
女神は言っていた。死ぬまで戦えと。
なら、こんなところで死んではいけない。己の役目を果たす為に。
「違う違う。落ち着け、シウン。テンパってたらマジで死ぬぞ」
足音が止まる。
右と左、両方から敵が襲ってくるだろう。
「行くぞ!!」
「そこだ!!」
声が近いのは右の奴!!
「おらああああああああああ!!」
姿を確認するより早く剣を全力で声した方に降り下ろす。
「な!!」
降り下ろす位置は正確だった。
だが、その剣は簡単に弾かれてしまう。
「ナメんなよ!!ガキが!!」
降り下ろす力も早さもこの兵士達より劣っている。
「そんなのは知ってんだよ!!」
シウンは慢心しきっていた男の隙を突いて隠し持っていた枝で躊躇なく目を貫く。
「が...!!」
「貴様!!」
二人目の男が剣を振り上げる。
「死ね!!」
盾ならある。
こんなところに立派な盾が。
「ッッ!!」
シウンは即座に一人目の男の背後に回り、攻撃を回避する。
仲間を盾にされた男はその剣を降り下ろすことは出来ずに、裏に回ろうとする。
「まず一人」
シウンは男が持っていた小刀を抜き、兜の隙間から顔に突き刺す。
「な...!!」
まさか目の前の子供がここまで殺すことに躊躇が無いとは思わなかったのだろう。
一瞬だけその動きを止める。
シウンは突き刺した小刀を抜き出し、そのまま逃走する。
一歩遅れた兵士はその後ろ姿を追いながら叫ぶ。
「こっちだ!!居たぞー!!」
その声が聞こえてから数分経つと瞬く間に人が集まってくる。
逃げ続けても駄目なのは分かっている。
ただ、死にたくはなかった。こんなところで、こんな直ぐに死にたくない。
だけど、心はもう諦めてよと喚き散らしている。
元々あるはずも無い人生じゃないか。どうせ、多くの犠牲の上に生き残るんでしょう?
選択すらもしなかったくせに生きようだなんて...。
―――は覚えてないのに。
「うっせえ!!」
自分の心の弱さだ。
この声は俺のじゃない!!
心の崩壊が始まりつつあるシウンに多方面から襲い来る兵士。
シウンは足を止める。もう抗ってもここで捕まることに変わりはない。
そして会ったばかりのキュウスは交渉には応じない。
本人が行こうとしても周りが止めるだろう。
何せキュウスはこの都市のNo.3、自分との地位の差がありすぎる。
『役目を思い出して』
もういい。
『諦めるの?』
せっかく異世界に来て、こんなにすぐ死ぬのは嫌だけど元々一度は終わった人生。
そう思って諦めよう。
『嘘ばっかり』
...。
『死にたくないのに、役目を果たしてないのに』
役目?そんなもの、後付けされた不安定なものだ。
『それでも...。あの子が泣いていますよ?』
その言葉が聞こえた瞬間、目の前に知らない光景が広がる。
とても大きな屋敷だ。
『勝手に逃げちゃ駄目じゃない』
『どうしてお姉さんは私を捕まえるの...?』
目の前には小さな少女が黒服の軍勢を引き連れた女性に牢屋に入れられていた。
『貴女には役割があるのよ』
『どうしてなの?...どうして、皆私に痛いことするの!!』
『言うことを聞かないから。私達から勝手に逃げるからでしょう?』
小さな少女は目に涙を浮かべて泣き叫ぶ。
『私は帰りたいの!!』
『忘れたのかしら?捨てられたのよ?貴女は』
『そんなんじゃないもん!!絶対に...絶対に迎えに来てくれるもん!!』
牢屋で泣き叫ぶ少女を見て嘲笑する女性に殺意が沸いてくる。
まだ会ってもないのに、この少女を守りたいと思っている。
「死ねない」
そう、自分が呟いていた。
『力ならあります。ただ、貴方が恐れているだけで』
そうだ。まだ死ぬわけにはいかない。
何としても、救いだす為に!!
「捕まえろ!!」
「殺すなよ!だが暴れるようなら骨を折ってやれ!!」
意識が現実に戻される。
「あいつが来る前にあの四人を呼んでくれ!!」
「どうする?あの役者にはこいつを殺処分したと伝えておくか?」
「そうしよう。決して悟られるな。あいつにはまだ働いて貰わなければ...」
多くの兵士がシウンの体を押さえ込み、身動き一つ取れない状態だ。
「なあ、離れてくれよ」
「無理だな。逃がすことは出来ない。それに貴様は仲間を一人殺している」
「俺は...殺€×¦×µのか?」
シウンの言葉に不可解な言語が混じり混む。
「何を...言ってるんだ?」
「÷¤º€ºµ× じゃあ殺して...イイヨナ?」
深淵。深い深い闇。
何と表現すれば良いのだろうか?
ただ、限りなく続く永遠の闇が...。
溢れた。
「がああああああああああ!!?」
「ぶぶびかかはうあいああじゃばう!!!?」
溢れ出る闇に瞬く間に飲み込まれる兵士達。
「×µ£¦£€₩€µ×¢×€º¢£¦£µ₩×¢×¢µ₩¦」
理解不能の言語を喋りながら、人形の闇が出現する。
「何だ...これ」
「魔獣?いや...悪魔だ!!」
闇がニタァと笑う。
それを見た兵士達に膨大な魔力と恐怖が襲いかかる。
「ª₩₩¢°°¤×פ¢€×°××¢ª°°×¤!!!!!!!!」
闇の叫び声により生まれた無数の黒い塊。
「撤退しろ!!こいつは...!!」
逃げることを促そうとした兵士、しかしその瞬間、目の前に闇が凄まじい速度で詰め寄ってくる。
闇は屈み込み、下から兵士を見る。
「ひ...!!」
逃げ出そうとすると、闇がその手をガシッと掴む。
「やだ...やだああああああああああああ!!」
闇はとても楽しそうに、叫ぶ兵士を見つめて笑っている。
そして、赤い口を広げ...。
「や...!!」
喰らった。
兵士を頭ごと、大きく口を開けて。
「く...!!ここに十人残り足止め!!残りは散開して、シン様達にこのことを伝えろ!!仲間を助けようとするな!!見捨てろ!!情報を伝えることを最優先に最善の行動を取れ!!」
ある小隊を率いている者だろうか?
少し大柄な男は全員に聞こえる声でそう伝え、自分の部下であろう兵士をその場に残した。
「全員よく聞け。ここでは生きることを諦めろ。時間を少しでも稼げ」
大柄な男が作戦を伝えると、震えた声で九人の兵士は了解!!と叫ぶ。
目の前には深い闇が今も増殖し続けている。
「׬₩²½£¬₩€¢×¢×¢º¬₩µ²¢£」
闇は頭を丸ごと喰らった兵士の体を深い闇に投げ入れる。
投げられた体はズブズブと深い闇に飲み込まれていき、跡形も無く消失した。
「いいな。一人一人だ。全員で攻撃するより、その方が時間を稼げる」
大柄な男が剣を構えて、闇に立ち向かう。
「消え失せろ!!この化け物が!!」
しかし、剣は届かない。
いや、届かないのは剣でだけではなかった。
頭だけがその場に留まり体はその場に存在していない。
「隊長!!」
仲間の声が聞こえる。
感覚は無い。呼吸もしているか分からない。
だが、最後にやることだけは理解している。
静かに口を閉じる。
口の中に含んだ石を今出せる力全てを使って噛み砕く。
「׬º¬µ¤£₩€µ£¢£?」
硬い何かが砕ける音。
男の顔ごと石は赤く光り、森の中に轟く音と共に辺りの木々を薙ぎ倒して爆発した。
「そ...そんな...」
男の攻撃は普通の人間だったら殺していただろう。
自らの体を犠牲にした攻撃は闇にダメージを与えることすら出来なかった。
圧倒的な力に強靭かつ爆破位では傷つかない体。
最初から分かっていたことだが、この化け物には勝てないと思い知らされた。
「止まるな!!こいつをここに一秒でも長く留めるんだ!!」
次は勇敢な兵士が槍を持って立ち向かった。
しかし、その勇気ある行動は誰の目にも映らなかった。
「え...?」
槍を持った兵士が前に出る時、そのすぐ横を黒い塊が通り過ぎていく。
男は振り返ってしまった。仲間達が顔を失い崩れ落ちる様を見てしまった。
「ああああああああああああああああああああ!!!」
しかし男は叫び、恐怖に涙を流しながらも槍を構えて闇に立ち向かった。
最後の命令を守る為に、この化け物を少しでもこの場に留め続ける為に。
...
「これで...良いですか、隊長」
勇敢な男は体が闇に飲み込まれていく感触を味わいながら、こちらを覗き続ける闇を見続ける。
手を失い、足を失っても挑み続けた男は最後まで闇を見つめて。
深い闇に落ちていった。
辺りには深い闇が今も増殖を続け、勇敢な小隊の兵士達の血が木を色塗っていた。
闇は槍の兵士が深い闇に落ちていくのを確認した後、初めてその場を動く。
歩く度に闇が広がり、土を木々を侵食していく。
「正義とは程遠い存在だ」
またしても闇の進む道を遮る者が現れる。
その男は今までも兵士の様に鎧は着ていない。だが、どの兵士よりも強大な力を持っていた。
「私はヴァレクの正義を見極める為にここまで来た。この都市での仲間も出来た。解放部隊の党首として時には戦った。しかし、それは正義の為だ。この世界を救う唯一の希望の為に」
全てを見通す様な金色の目、そして金髪の長い髪を下ろした男が進行する闇の前に姿を現していた。
「我が師はこう言っていた。正義を貫き続ける限り止まっては行けない。たとえ他人には悪だと思われても自らの正義を貫けと。そして、決して他人を貶めてはいけない。その者も正義の為に立ち向かったのだと。貴様は私の正義の対象外だ。殺すことに快感を覚える化け物に...」
「正義が断罪を」
男は静かに剣を抜く。
だが、見えたのはそこまでだった。
気づいた時には体は謎の感覚に陥っていた。
正義を語る男の一秒にも満たない攻撃。
「正義とは程遠い貴様には見えなかっただろう。貴様には、その姿がお似合いだ。矮小で罪の塊である悪にはな」
視界がバラバラになっていく。
いや、それは俺の体か...。
最後に正気を取り戻したシウンは頭の中で願い続ける。
クレア、守れなくてごめんな。
だけど...きっと助ける。
―――の様にもう失わない為に。忘れない為に。
この記憶が誰かに伝わるように。
こんな愚かな化け物が決して現れないように。
そう願いたい。
そしてシウンは死を受け入れた。
...どこか遠くの場所で女神は微笑む。
「アカツキ、貴方は間違ってなどいなかった。シウンと名乗る貴方は死んでしまった。だけど、それはあったかもしれないし、無かったかもしれない。しかしこれも選択の違いです。多くの選択の上に今の貴方は存在している。決してその事を忘れてはいけません」
【嘘の世界を】
どうでしたか?楽しみながら読んで頂いたのであれば幸いです。
基本的にこういった別世界の物語はハッピーエンドにはなりません。本編の補足とでも思ってください。
番外編で党首初登場かよ!!と思った方も居たのではないでしょうか?
でも大丈夫です。ここに登場したからには正義さんにも本編で活躍してもらいます。
正直に言うともうここで書くことが思い浮かびません。
なのでここまでにします!!
それでは、このお話をお読み下さった方々、ありがとうございました!!