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「友情はこうして壊れる」  作者: 鈴木鈴
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第一章「イラつき」壱

岡山から上京して二ヶ月経った。

小さい頃からの夢、声優になることを叶えるために上京した私だったが、どうも上手くいっていなかった。

「私、学校やめるんだ」

専門学校をやめると言った友達はこれで二人目。

かなり仲の良かった子。

まだ六月だ。

「やる気なくなったの?」

失礼を承知で聞いた。

「違う。周りがやる気ないから、ここにいても何も成長できないと思った」

「そっか」としか言えなかった。

彼女の言う「周り」には私も含まれているのだろうか。

だが、確かにそうだと思う。

私を含めても、クラスの人たちはきっと声優になんかなれないだろうと思われる人たちばかりだった。

遊んで、ゲームして、喋って。

親のすねをかじり続けて、アルバイトすらしていない人も多い。

それは私も同じだった。

一人暮らしを始めたはいいものの、いいところが見つからない等と言いながらアルバイトをしていなかった。

高校生のときに貯めた貯金でなんとかやりくりしている。

百二十万円ほど。

我ながら、高校生の私はよく働いたと思う。

今はアルバイトなんてことは考えたくなかった。

学校の授業にだけ集中していたかった。

なんていうただのわがままを毎日繰り返している。

ただ面倒だっただけなのに。

「でも、クラスの人たちは最悪だけど、菅谷はすごく一生懸命だよね。それに実力もアイツらより全然上だよ。だから、菅谷は私の憧れでありライバルだよ。今度一緒にワークショップ行こうよ」

言ってる意味がわからなかった。

そんなことない。

私は、私だってクラスの人たちと同じように遊んでゲームして喋って、ついでにテレビ観てスマホして寝てるだけ。

周りと変わらない。

変わらないのになぜ私だけ「一生懸命」なんだ。

確かに、同じ素人でも私の方が演技が上手いかもしれない。

確かに、私は周りとは少しだけ意識が違うかもしれない。

でもそれだけ。

それだけなのに、何がそこまで私をよく魅せているのだろうか。

私だって周りと変わらない。

結局私も周りと同じなのに。

「お互いがんばろうね」

彼女との別れ際は、そんなありふれた言葉しか出てこなかった。


翌日も学校だった。

金曜日。

またいつものメンバー。

十三人だったクラスメイトも、今は十人。

一人は入学して三日で消えた。

もう一人は一ヶ月後。

そしてもう一人は昨日。

着々と人数は減っている。

明日には何人なのだろう、明後日は、そのまた次は、なんてことばかり考えているのは私だけ。

周りはそんなことは考えていない。

「嫌いなやつが消えてすっきりしたよな」

男子共が話している。

「女子四人か。少ないね」

女の子たちが話している。

「でも、おゆきはどうしたんだろうな。急にやめるだなんて」

「そうだね、心配」

男女含めて話す。

もちろんその会話には私も含まれている。

「菅谷は何か知ってる?」

「さぁ。どうしたんだろうね。心配だね」

お前達のせいだよ、とは言えなかった。

おゆきは昨日学校から消えた、元クラスメイト。

才能に溢れた素敵な子だった。

クラスで一番演技が上手かった。

クラスメイトは男子六名、女子四名。

男子はカイ、佐藤、リュウくん、トオルくん、蒼くん、アヤくん。

カイはクラスで一番うるさくて、自分の話と悪口しか言わない。

授業でもかなりの問題児。

噛み癖がすごくて、先生たちも呆れている。

要するにバカだ。

女に嫌われるタイプ。

佐藤も同じくうるさい。

というより、喋っていないと気が済まないらしい。

常にクラスで笑いものにされている。

本人も自分を笑ってくれる人がいないと落ち着かないらしいが、正直そんなに面白くはない。

みんながなぜ笑っているのか不思議だ。

でも、いざとなったら頼りになる。

リュウくんはクラスで一番クール。

そして毒舌。

顔もカッコよくて、スタイルも性格もカッコいい。

年上の女性にしか興味ないらしい。

ゲームとアイドルのキャラクターに全力を尽くす課金イケメン。

もったいない。

トオルくんはほのぼのしている。

ほのぼのしすぎて困っている。

顔は決していい訳では無いが、あまりのかわいさに女子に好かれるタイプ。

前に私が「トオルくんかわいいね」と言ったとき「菅谷さんもかわいいよ」と言われて本気で気絶しかけたことがある。

弟にしたい。

アヤくんは無口でほぼ喋らない。

なのに授業で演技をしたら、人が変わる。

実はすごい人。

いかにもな真面目顔。

そして最後は蒼くん。

蒼くんはクラスで、いや声優学科一年生の中で一番のイケメン。

らしい。

私はイケメンだと思ったことは一度もない。

才能はあるのだろうが、かなり不真面目。

覚えろと言われたことは覚えてこない。

練習しろと言われても練習はしない。

でも学校は必ず休まない。

よくわからない人だ。

そんな彼に、私は密かに恋心を抱いている。

なぜなのかはわからない。

小中高と恋愛はほぼしなかった。

だから恋愛感情もよくわからなかった。

だけど、彼のことを好きだということにはすぐに気づいた。

久しぶりすぎる感情に、最初は何が何だかわからなくてとりあえず寝るという行為ばかりしていた。

自分でも意味がわからない。

気づいたときは、「好き」という言葉ばかり唱えていた。

まるで病気みたいに。


女子四名。

一人目はマユさん。

マユさんはかなり大人。

クラスで一番の美人だ。

なのに口調は「なんだよ菅谷」と荒っぽい。

そのギャップが男性ウケするのだろうが、彼女の場合は男性嫌いなので少しわけが違う。

二人目は原ちゃん。

原ちゃんは頭のネジがいくつか外れている。

自分で自分のことを天然というので、みんな信用していない。

彼女もカイと同じく、授業ではかなりの問題児。

漢字はほぼ壊滅的で、突如平仮名も読めなくなる。

友達としては好きだけれど、授業で彼女の番が来ると私はずっとイライラしている。

三人目はマイティー。

マイティーは原ちゃんと少し似ているが、本物の天然。

だが、天然だと言うと怒る。

「天然じゃないー!天然って言うやつが天然なんだよ!やーい天然ー!」と言われたことがある。

天然であり、多少おバカ。

口には出さないが、イケメンが大好きだ。

そして、スキンシップがスキンシップどころじゃない激しさである。

膝に乗ったり、手を繋いだり、ジャンパーや鍵を奪い取ったり、脚にしがみついたり、お腹の上に乗っかったり、飛びついたり、おんぶ強要などなど……正直、マイティーはやばい。

男が勘違いしても仕方ないだろうと思うレベルを超えて、嫌われても仕方ないレベルだ。

そして彼女は最近、私の好きな人である蒼くんにそれをよくしている。

はっきりいって気分が悪い。

マイティーは私が蒼くんを好きだということは知っている。

「応援するよ!!」

あの言葉は一体どこへ捨ててきたのだろうか。

そして四人目は私、菅谷夏音。

周りからは苗字で菅谷と呼ばれる。

基本的に恋には奥手だ。

クラスではかなりの元気キャラ。

悩み事なんて一つもないと思われている。

私も周りを信頼してないから、悩みがあっても相談する気はない。

そんな私の悩みは、やはりマイティーだ。


この十名でほぼ毎日過ごしている。

楽しい日々ではあった。

だけど、私の心は荒む一方だった。

毎日マイティーと蒼くんがベタベタしているのを見さされて、私はもう爆発寸前だった。

この日もマイティーは蒼くんの膝に乗っていた。

私はそれを蒼くんの隣に座って見ていた。

「助けてくれ菅谷〜」

蒼くんが言う。

「なんだよ蒼!!菅谷は助けてなんてくれないぞー!」

マイティーが言う。

「……ハハッ!!ざまぁ!!よかったねー!女の子と引っ付いていられてー!!」

私が言う。

「悪魔め〜!!」

蒼くんが言う。

「きゃー!菅谷こわーい!」

マイティーが言う。

なにが悪魔だ。なにがこわいだ。

好きだと知っていながらよくもそんなことができる。

耐えきれずにその場を離れると、マユさんと原ちゃんが手招きしている。

「なになに?どした?」

私が二人の方へ行ってみると、二人は深刻な顔で言った。

「ねぇ、あれさ、大丈夫なの?」

「マイティー、めっちゃ引っ付いてんじゃん」

二人して私を心配している。

「マイティーが何考えてんのか知らないけど、私はかなりマイティー嫌いになりかけてるよ」

嫌味な顔をして言った。

悪い女にでもなったみたいだ、私は。

「でも、あんなことされたらなるよね…」

原ちゃんは同意。

「まぁ、マイティーも悪気があってしてるわけじゃないと思うから…今度あたしの口から言ってみるよ」

なるほど。

その手があったか。

なんて、私もそんなことはずっと前から考えていた。

でも今まで誰も助けてなんてくれなかったじゃないか。

でも、ありがとう。

「うん。ありがとう。よろしく」

マイティーには他に好きな人がいる。

ずっと、何年も片想いしているらしい。

小学生のときからずっと。

片想いの相手がいるのに、よく他の男に彼氏にするようなことばかりできるな、と思ったが言わない。

私には、そんなことを言う度胸なんてないんだ。

そして私は気づいていた。


蒼くんが、マイティーのことを好きだということを。

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