四話:教会騎士
大きな街から東に向かった先にある森の中を、列を作って突き進む男達がいた。
その列の先頭を務める赤髪の男──グラン・ウルトは、時々現れるモンスター一瞬で倒しそのままさらに先へと進んでいく。
「ウルト様、後少しで目的の場所に到着します」
「わかった。では、このまま進んだのち直ちに調査を始める」
皆に指示出し進んでいくと、森が開けた場所にたどり着いた。
「ここか、『黒の魔法』の反応があったのは?」
「はい、間違いありません」
確認すると、グランはそのまま指示を出した。
「我々は魔車に乗ってきたとはいえ、少し時間がかかってしまった。七聖人様がお待ちだ、急いで調査に取り掛かれ!」
「ハッ!」
号令と共に一斉に散開し調査を始める。
魔車──魔力で走る車に乗ってきたため、馬車よりは圧倒的に速いが、それでもまる一日かかってしまった。早急に調査を終えて『聖都』に戻らなくてはと思っていたグランは、不意に不可解なものを見つけた。
「なんだこれは?モンスターの死骸のようだが……全身が焦げているな。どれほど威力のある魔法を使えばこうなるんだ」
「ウルト様、そのモンスターの死骸から『黒の魔法』の反応が強く出ています」
「なに?」
グランは部下の持っている魔力を探知する水晶──『魔水晶』を覗き込んだ。すると、水晶の色が黒く変色していった。
「確かに反応があるな……離れろ、コレを割って中も確認する」
そう言って腰に下げている剣を抜いて縦に振り下ろした。
するとモンスターの死骸は二つに割れ、そして割れ目から黒い炎が噴き出てきた。
「なんだ、この黒い炎は!」
部下がその黒い炎に魔水晶をかざしてみる。
「間違いありません!これは『黒の魔法』によって発生したものです」
「これがか?」
部下の持つ魔水晶の色がよりいっそう黒くなっていくのを確認し、グランは黒い炎をよく観察しようとそちらに目を向けると──黒い炎はまるで生きているかのように動き出し、近くにいた部下に燃え移った。
「グアアァァァァァッッ!!」
「なにっ!」
グランは部下を助けようとしたが、間に合わなかった。
黒い炎は一瞬で全身に回り鎧ごと部下を焼き殺した。
「炎が全身に回るスピードが尋常じゃないな」
グランが部下の死体から距離を取ると、他の部下が報告に来た。
「グラン様、『黒の魔法』の痕跡が近くの村に続いているのを発見しました」
「そうか……では、そちらの調査にも行かねばならないな」
グランは全員に向けて指示を飛ばした。
「これより部隊を半分に分ける。半分は私と共に近くの村と向かう。残りはここの調査をつづけろ」
「ハッ!」
そうしてグランと部隊の半分が近くの村へと向かった。
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「おら!飲め飲め、今日は新人歓迎会だ」
そう言って俺のジョッキに並々とビールのような酒を厳ついオッチャンがついでいく。
「ちょッ、オッチャン!勝手に酒入れるなよ、俺飲めないんだって!」
「カハハ!まあ飲めよ」
「聴けよ!!」
オッチャンはそのまま俺達の席から離れてゆく。
「きっとオジサンも余りのことに舞い上がっちゃってるんだよ」
前に座るディーナがオッチャンのフォローを入れてくる。
俺達は今、突如始まった歓迎会に参加している。俺の登録が終わった後、他の冒険者達が俺を取り囲み、ギルド内にある酒場まで連れてこられた。
そして、今のドンチャン騒ぎである。
「何だよアキヒト、お前飲めねえのかよー」
そう言って今度はクララが俺に女とは思えない絡み方をしてくる。
「俺の故郷では、俺ぐらいの年の奴は酒を飲んじゃいけなかったんだよ」
「なんじゃそらー……ヒック」
まるで漫画のような酔い方をしたクララがジョッキの中身をぶちまけた。
「ちょっ、こぼすなよなぁ」
クララがこぼしたジョッキの中身を拭こうとして、ふと、甘い匂いがする事に気付いた。
ジョッキの中身は紫色の液体で、ワインかと思ったが少し舐めてみるとアルコール独特の風味(飲んだことはないが)がしなかったのだ。
「コレただのブドウジュースじゃん!何で酔ってんだよお前!」
「ヒック」
クララは俺の隣に座ると遠い所を見たまま微動だにしなくなった。
「きっと、お酒の匂いで酔っちゃったんじゃないかな」
「どんだけ酒弱いんだよ。──てか、コレ大丈夫か?」
クララは石像のように動かなくなった。
「あれ、スミスはどこだ?」
「スミスならあそこだよ」
ディーナが指差した方を見ると、スミスが美人のお姉さん達と楽しそうに話をしているのが見えた。
「これだからイケメンは」
「ハハハッ」
俺が悪態をつくと、ディーナが苦笑いを浮かべていた。
「なぁディーナ、さっきから聴こうと思ってたんだけどさ」
「何だい?」
ディーナが俺の話を聞こうと向き直った。
「さっき言ってた『英雄』って一体どんな人なんだ?」
「えっ─────」
それを聞いたとたんディーナが身を乗り出した。
「アキヒト、『白の英雄』の話を知らないの!」
え、そんなに有名な話なの?でも俺『こっち』に連れてこられたばっかりだからなぁ。
ついでに言うと俺はこっちに連れてこられた時のままの服を着ている。てゆうかその学ランである。
(今まで俺の服装に触れるのを忘れていた。)
「出来れば教えて欲しいんだけど、いいかな?」
「それはいいけど……じゃあ話すよ」
そしてディーナは黙々と語り始めた。
昔、世界にたった独りの『白の魔色』を持った男がいた。
彼は『白の魔法』を自在に操り、最強とまで謳われていた。
そして彼は、ある女と対峙する。
その女はたった独り『黒の魔色』を持ち、『黒の魔法』を自在に操った。
彼女は世界を黒一色に染めようとしたが、その野望は彼によって崩された。
長い間、闘い続けていたそうだが、最終的に彼女は彼に倒されたのだった。
それから彼の事を『白の英雄』、彼女のことを『暗黒の魔女』と呼ぶようになった。
これが『白の英雄』の伝説らしい。
「正直に言うと、結構アバウトな伝説だな」
「ハハハッ。まぁ、詳しいことは解ってないんだよ」
詳しいことは解ってないのに、みんなが知っているってことは、伝説と言うより物語って感じだな。
「だけどアキヒト、『白の英雄』の話を知らないなんて、いったいどこの出身なんだい?」
「それは教えても解らないと思うけど、日本って国の出身なんだ」
「ニホン?聞いたことがないなぁ」
やっぱり解らないか。それにしても何で俺は『こっち』の世界に連れてこられたんだ?あの銀髪の子は、それに『アキト』って誰なんだ?
そんなことを考えていると、ギルドの扉が開かれ、鎧を着た男達が入ってきた。
「失礼させてもらう」
そう言って声をあげたのは赤髪の男だった。
「おい、あれって」「何であいつ等がここに?」といった声が周りから聞こえてくる。
「我々は、この村にあることを調べにきた『正教会』の教会騎士だ」
赤髪の男はギルド全体に声を響かせた。