二話:パーティー
ある大きな街にある、大きな教会のもっとも奥にある、大きな部屋の扉が勢いよく開かれた。
「早急にお伝えしたいことがあります」
そう言いながら入ってきた男は、部屋の中心に円卓に腰掛ける七人の男女に目を向ける。
「何事だ、ノックもせずに入ってきて……」
怒りの表情を浮かべた男、入ってきた男を睨みつける。
「も、申し訳ありません。ですが、早急にお伝えする事がございまして……」
「まぁまぁ、そんなに怒んなよ。そうでなくても怖い顔してんだからよ」
「なに?」
さらに怒りの表情を浮かべた男が、同じ円卓に座るパンをかじった女を睨む。
「ハハァー、ケンカなら表でやってくれよ?後で見に行くからよ」
「ケ、ケンカはダメですよ……」
円卓に座る他の二人がそれぞれ話しだす。
「それでキミ、早急に我々に伝えなくてはならないこととは何だね?」
円卓の中心に座る男が、入ってきた男に問いかける。
「は、はい。それではお伝えします。ここから東にある森、『初心の森』にて『黒の魔法』の反応がありました」
「なに!?」
それを聞いた円卓の七人はそれぞれ驚愕の声をあげる。
「それはいつだ?」
「はい、つい先ほどのことです」
メガネをかけた男が報告を聞いて取り乱す。
「つい先ほどだと!?なぜ今になって『暗黒の魔女』が動き出したんだ」
『暗黒の魔女』───それを聞いた残りの円卓の六人は眉をしかめた。
「状況をわかった。直ちにその場所へ調査隊を送れ」
「はい、了解しました」
そう言って男は入ってきた扉から、今度は礼儀よく出て行った。
「『暗黒の魔女』め、いったいなにをするつもりだ」
円卓の七人は、それぞれ考え込むように目を伏せた。
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「──!?」
勢いよく目を覚ました俺は飛び起きて、今見ていた夢を思い出す。
「アイツに助けられたのか?」
「いいや、助けたのはボクだけど」
「──!?」
俺の寝ていたベットの横に、人の良さそうな金髪の男が座っていた。
「やあ。目が覚めてよかったよ。心配だったから森で倒れてた君をここまで連れてきたんだ」
そう言って俺にコップを差し出してくる。
「ミルクだよ。まだ動かない方がいいと思うから、じっとしててね」
「あ、ありがとう」
コップを受け取ってミルクを一口飲んでから、俺は男に話しかけた。
「わざわざ助けてくれてありがとう。俺は早乙女秋人っていうんだ。それで一つ聴きたいんだけど、ここって何処なの?」
「ボクはディーナ・シーだよ、よろしくね。それとここは、東の小さな村にある宿屋の部屋だよ」
丁寧に教えてくれた彼はさらに続ける。
「ボクと後二人の三人で泊まってるんだけど……君その左眼どうしたの?」
「えっ!ちょっといろいろあってな……」
俺が言いよどんでいると、部屋の扉が開いて小柄な緑髪の女の子と杖を持った美形で黒髪の男が入ってきた。
「ただいまー。お!倒れてたにいちゃん目を覚ましたのか」
そう言いながら小柄な女の子がベットの方に寄ってくる。
「アタシはクララ・ヘイスティングスっていうんだ。よろしくな」
そう言って俺に手を差し出してくる。
「俺は早乙女秋人っていうんだ。よろしく」
俺が手を握って握手すると、ニコッと笑いかけてきた。
「それでオレがスミス・ガンコナーだ。よろしく」
そう言ってもう一人の男が自己紹介をしてきた。
「よろしく」
スミスと名乗った男が俺の眼を見て驚いた顔をした。
「なんだその左眼、呪いでも受けたのか?何ならオレの治癒魔法で解いてやろうか?」
「ありがとう。でも、たぶん無理だよこれは」
「そうか?まあいいならそれでいいけど」
俺達の会話を聞いていたディーナが、俺の眼を見て話し始める。
「どうしてあんな所に一人でいたんだい?それに、『ギガントスネイク』を倒したあの黒い炎は何だい?」
「『ギガントスネイク』を一人で!?……マジかよにいちゃん!」
「それが本当なら凄いな」
『ギガントスネイク』というのは、たぶんあの謎の生物の事だろう。
「あれは、俺が倒したんじゃないよ。俺は偶然あそこにいただけなんだ」
「そうなのかい?それは少し残念だよ、もしよかったらウチのパーティーに入ってもらおうと思っていたのに」
「パーティー?」
『パーティー』ってあれか?ゲームとかに出てくるあれか?
「ごめんな、変な期待させちゃって」
「いやコッチが勝手に勘違いしちゃってただけだからきにしないで」
「それよりにいちゃん、どこ住んでんだ。送っていってやるよ」
そう言ってクララが提案してくれた。
「それが……俺、今帰れる所が無いんだよ……」
そういって俺が目を伏せると、ディーナが俺に提案をしてきた。
「それだったら、ウチのパーティーに入らないかい!人手不足で困ってるんだ」
表情を明るくして言ってくれるディーナに俺はこたえる。
「俺なんかが入ってもいいのか?」
「あぁ、大歓迎だよ」
「それなら、足手まといになるかもだけど、よろしくな」
「あぁ、よろしく」
そうして俺とディーナは握手をした。
─もしかしたら、元の世界に帰る手掛かりが見つかるかもしれない。
俺はディーナ達のパーティーに入ることになった。