一話:モンスター
俺は今、得体の知れない生物に追いかけられている。
「ギュララララララァァァァ」
聞いたことのない鳴き声を上げながら大きな体でこちらに突っ込んでくる。
「うぐっ」
それを間一髪の所で避けたが、木に体をぶつけてしまう。その場で身動きがとれないでいると、謎の生物がすぐ目の前に迫っていた。
──なんでこんなことに──
俺はその場から一歩も動けないでいた。
俺は極々普通の高校生だった。
たいして成績が良いわけでもなく、クラブにも所属していない。引きこもりではないが、学校が好きというわけでもない。
そんなどこにでもいる高校生だったのだが……。 ある日、俺は自分の部屋で黒い霧に襲われる。
そして、その霧の中で俺は銀髪の少女と異常な出会いを果たし、目が覚めると見たことのない森の中で倒れていた。
そして今、俺は謎の生物に喰われそうになっている。
「何なんだよ!くそっ!」
俺が謎の生物に怒鳴りつけても、動きを止めようとはしない。
「キュパァァァ」
そして俺を丸呑みに出来そうなほど口を開けて近づいてくる。
俺の体は疲労と恐怖で動かない。
謎の生物が俺を飲み込もうとした瞬間。
『大丈夫、あなたは絶対に死なせないわ』
あの少女の声が聞こえたような気がしたが、俺はその場で気を失った。
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「ふうっ」
森の中に一人で薬草を取りに来ていた冒険者、ディーナ・シーは大きな木の下で休憩をしていた。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン
不意に森の奥からもの凄い爆発音が聞こえてきた。
「な、なんだ!」
彼は慌てて音のした場所へと向かった。
そして、その場所に着いた彼は驚愕する。
地面はえぐれて木はなぎ倒され、あたり一面焼け野原になっていた。
「いったいここで何があったんだ」
そして、黒い炎で燃えているモンスターの死骸を見つける。
「これは!」
そのモンスターは駆け出し冒険者の第一の壁と呼ばれる『ギガントスネイク』だった。捕らえた獲物を丸呑みにする事からそう呼ばれている。
「どうやったらこんな風になるんだ。それにこの黒い炎はなんだ、見たことが無いぞ」
そして周りを見渡した時、彼は人が倒れているのを見つける。
そこまで駆けつけた彼は、ふと、あることに気づく。
「まさか……これをやったのは君か?」
その倒れた人から地面がえぐれているように見えたのだ。
「とりあえず、ここにおいていく訳にもいかないな。一旦連れて帰って話を聴くか」
そう言って彼は倒れていた人を担いで、自分の泊まっている宿がある村まで帰っていった。
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また俺は、黒一色の場所にいた。
「あの汚らわしいモンスターは私が殺したから安心して」
そしてまた、オッドアイになった銀髪の少女と対面した。
「アキト……これからも私があなたを守ってあげるわ──」
そう言って俺の頬に触れてくる。
「──だからアキトは安心して思い出していってね」
そして俺の意識はまた途切れた。