三話:依頼
ある村の端に、ひっそりと佇む教会がある。
そして、その教会の前には少女が立っていた。
その少女は修道服を身に纏い、髪は薄い水色である。
「壁のひび割れが増えてる───あ!十字架の先が折れて『T』になってる!」
少女はため息をつきながら独り言を続ける。
「そろそろ修復をしないといけませんね」
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俺は息を切らしながら、ギルドの食堂に戻ってきた。
白髪のお姉さん達がいきなり飛び掛かってきたので走って逃げてきたのだ。
「なんだったんだ!?勝手に空き地に入って怒ったって感じでもなかったぞ!?」
走り過ぎてしんどい。
ゆっくり座れる場所で腰かける。
「おーい、アキヒト!調子はどうだい」
机に突っ伏していた俺に声をかけたのは、紙を片手に持ったディーナだ。
彼は森で倒れていた俺を助けてくれた恩人だ。
「あ、あんまり良くない」
「なんだか朝より顔色が悪いけど、何かあったの?」
ディーナが少し心配そうな顔をする。
「大丈夫、リハビリではしゃぎ過ぎただけだから」
「それならいいんだけど──そうだ!アキヒトこれ見てよ」
ディーナが広げた紙に視線を向ける。
「『修復依頼』?なんだこれ?」
「なにってそのままの意味だよ。ボクたちの依頼さ」
「えっ!そうなの!?でも『修復依頼』って書いてあるから──」
完全に大工さんとかの仕事だろ。
「ちゃんとした仕事だよ。人々の役に立つのがボクたち『冒険者』なんだから」
えー──『冒険者』って言うほどだから、もっとこう「冒険してるぜ!」って感じなんだと思ってた。
「まあいいや──で、修復って何を修復しにいくんだ?」
「この村にある教会だよ」
「──!?教会!?」
『教会』と聞いて頭に浮かぶのは、俺を追いかけ回した集団───『教会騎士』と名乗った男達だった。
「大丈夫だよ、この村の教会は『教会連盟』に所属していないから『教会騎士』はいないよ」
『教会連盟』?良く解らないがとりあえず教会騎士が居ないならそれでいい。
「そういえば、あれ以来あの『グラン』とかいう教会騎士を見ていないね──諦めて帰ったのかな?」
「俺はアイツの顔を二度と見たくないから、居なくなったならそれでいいよ」
「まぁ、それもそうだね」
ディーナと依頼書を見ながらそんな会話をしていると、食堂にスミスとクララが入ってきた。
「よう、アキヒト!元気になったか」
クララの見た目通りの子どものような呼び掛けが食堂に響いた。
「声がデケェな──アキヒト、様子はどうだ?」
続けてスミスが落ち着いた口調で問いかけてきた。
「さっきまでは悪かったけど、今はだいぶマシだな」
「そいつは良かったな」
パーティーが全員そろったところで、ディーナが二人にも依頼の内容を説明し始める。
話が大体片付いたころ、俺はスミスにポーションを見せていた。
「変なじいさんにぼったくられたヤツなんだけどちゃんと使えそうかな?」
「ちょっと待て、オレの『薬品鑑定』のスキルでみてみる」
スミスの手が青白く光だし、緑色の液体が入った小瓶を光が包んだ。
「なんだこりゃ──アキヒト、この瓶の中身だが、これは『毒』だぞ。しかも高濃度のな」
「──毒!?」
あっぶな~、あのじいさんふざけんなよ。
使う前にスミスに聞いといて良かった。
「一滴で簡単に人が殺せるレベルだな──使わなくて正解だぞ」
何てもの売ってんだあのじいさん!
次見かけたらとりあえずぶん殴ってやる。
「アキヒトにその毒を売ったおじいさんを、ギルドに言って注意するように呼び掛けてもらうよ」
「あぁ、よろしく」
ディーナがギルドの受付に歩いて行ったのを見送り、俺は小瓶をポケットにしまう。
何かに使えるかもしれないので一応取っておく。
「よし、オレらも準備するか」
スミスの掛け声と共に、宿屋に戻る事にした。




