二話:枝分かれした光
「しょこにょお兄しゃん、こにょ特性にょポーションを買っておくりぇ」
全身に鎧を着けた男──ボボ・シュバインとわかれ、少し舗装された道を歩いていると、いきなり歯の抜けたじいさんに絡まれたのである。
さっき食べたレバーと薬(ボボに別れ際貰った)のおかげか、ふらつきはかなり治まっていた。
しかし、じいさんの思いの外強い力から逃れられるほど回復はしていなかった。
「じいさん離してくれ!俺はやりたいことがあるから急いでるんだ」
「しょんなこちょ言わじゅに買っておくりぇよぉ」
細い腕からは想像できないほど力が強い。
「いま300エドルしか持ってないんだよ!」
『エドル』とは、こっちのお金の単位だ。
だいたい1エドル=1円ぐらいだと思う。(レバーの炒め物が500エドルだった)
「じゃあ、300エドルでいいきゃら買っておくりぇよぉ」
「アァー、もう!わかったよ!買うよ買いますよ!」
じいさんは俺の持っていた300エドルを掠めとり、代わりに、緑色の液体が入った小さなガラス瓶を渡してきた。
「また、買ってにぇ~」
じいさんはそう言いながら路地裏に消えていった。
「二度と買うかー!」
いきなりぼったくりにあった!
俺は手の中にある小瓶を見つめる。
「ポーションって、確か『薬』だよな──300エドルって安くないか?」
300円の薬だと思うと少し不安がある──
「──とりあえず、広い空き地を探すか」
小瓶をポケットに入れ、歩き出す。
俺はいま、『魔法』を使ってみたいとウズウズしている。
俺はごくごく普通の家に育った男であり、そして魔法なんてものが存在する世界で育った訳でもない。
だからこそ、出来るとあれば一番にやってみたいことが『魔法』を使ってみる事である。
それだけのために、ひたすら歩いていた。(ついでにふらつきのリハビリも込みだ)
「──ん?良く考えたら『フラッシュ』だって魔法じゃないのか?」
立ち止まり、考える。
あの時は必死すぎてあまり考えていなかったが、手から光を放った『フラッシュ』だって十分に魔法ではないか。
そうなると、俺の人生初の魔法体験は終わっている────
「──まあ、新しい魔法が増えてたし、いいか」
一瞬、目的が無くなってどうしようとか思ってしまった。
とりあえず、空き地を見つけてから考えるか。
俺はそう考えて、また歩きはじめた。
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俺はなにも考えずにフラフラと歩いていた。
いつの間にか路地裏に入っていた。
「ん?路地の先に広い空間が──」
そちらに歩いていくと、変に高い建物に囲われた空き地がある。
「ちょくちょく思ってたんだけど、ここ村にしては広くないか」
独り言を言いながら空き地に侵入。
「怒られたら出て行けばいいか──」
適当なことを言いながら、拳ぐらいの石を空き地真ん中に置き、少し離れる。
ギルドカードを取り出し、【スキル】の欄の『アブソーブ』と書かれた行をみる。
「英語か?意味を知らないから、何が起こるかがわからないんだよな」
とりあえず『フラッシュ』は手の平が光ったので、右手を突きだしてみる。
「よし、いくぞ──『アブソーブ』」
いきおい良く唱え、右手に力を込めて石に向ける。
───────ん?
「あれ?なにも起こらない?」
右手を戻し、手の平を見る。
何も起こっていない。
石を見る。
何も起こっていない。
「なんか、ワクワクして損した気分だ──」
あ~ぁ、なんかここまで来た意味無かったな。
やる気も失せてきた。
『妨害無効』はたぶん魔法じゃ無いだろうし。
この感じだと『ライトニング』ってのも期待出来そうにないな。
「こんなとこまで来たことだし、一応試してみるか」
俺はまた右手を突きだして、さっきとは違って力なく唱える。
「『ライトニング』───」
そう言葉を発した時、さっきとは違う事が起こった。
右手が光だしたかと思うと、バチバチと音をたてながら石に目掛け枝分かれした光が突き刺さった。
そして──
───ドゴォォォォン────
と、ものすごい炸裂音が響き渡る。
「ウッワァァァッ!?」
俺は爆風で後ろ向きに転がった。
「なんだいまの!手から雷みたいなのが!──うわー!」
驚きのあまり「うわー」しか言葉が出てこなくなった。
石があった場所を見てみると、地面はえぐれて、少し焦げている 。
「あっぶなー!空き地に来といて良かった!」
まさかこんな威力のものが自分から出るとは思わなかった。
音を聞き付けて、白い髪のお姉さん達が駆けつけてきた。
「すみません、大きな音を立ててしまって──すぐ出ていきます」
俺は謝りながらその場を去ろうとする。
それにしても、全員白い髪なんて珍しいな。
そう思いながら一人に目を向ける。
「───────!────────!」
聞き取れないほどの声で、目を見開きながら何かを言っている。
他のお姉さん達も全員同じ様子でこちらを見ている。
俺が進もうとした方向にも、白髪のお姉さんが立っている。
「勝手に入った事は謝ります──穴も塞ぎます、から?」
お姉さん達が取り囲むように近づいてくる。
「えっとー、すみません、聞いてますか?」
壁際まで追い詰められた。
「───た───つ──た」
うっすらと声が聞こえる距離まで近づいてきた。
「なんか、ヤバそうだな……」
俺がそう呟いたその時────
「見つけた!」
そう叫びながら、お姉さん達が一斉に飛び掛かってきた。
「ウオォォッ!ふ、『フラッシュ』ッ!」
眩い光が空き地に広がる。
「────────!」
白髪のお姉さん達が目を覆い、俺は全速力で出口に走った。
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「み──けた、みつ──けた、みつけた、見つけた、見つけた、見つけた、見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた─────────」
薄暗い路地裏に白髪の女性達の声がいつまでも響いていた。




