一話:鎧の男
頭が痛い。
頭が物凄く痛い。
俺は今、冒険者ギルドの食堂でひとり座っている。
理由は俺がフラフラと真っ直ぐ立つことが出来ないからだ。
なんとなく注文したレバーの炒め物(お金はディーナから貰った)を食べながら自分の右腕を眺める。
「あの時、斬られた筈なんだけどなぁ」
クララに聞いた話では、俺は血溜りで倒れていたらしいが、それだと腕が斬られたのは現実か?でも腕は付いてるし、スミスが治した訳でもないらしい。
俺が頭を悩ませていると、ガチャガチャとうるさい音が近くから聞こえる。
「お前見ない顔だナ、新入りカ?」
少し訛りがある声で話しかけられた俺は、声の方を見る。
そこには、黒い壁があった。
「ウオッ!?」
思わず声をあげてしまった。
「失礼なやつだナ」
よく見ると黒い鎧を全身に着た大男がそこには立っていた。
「あ、あぁ。悪い、急に近くにいたからビックリして」
「まぁいイ、お前新入りカ?」
「あぁそうだよ。早乙女秋人だ、よろしく」
「おレは、ボボ・シュバインだ。ボボでかまわなイ」
俺はボボと握手をした。
ガントレットを着けたままだったので、ボボの手は正直痛かった。
ボボはそのまま俺の正面に腰かけた。
「お前ハどの職業に就くんダ?」
なんとなくそんな話の流れになっていた。
「どの職業って言われてもなぁ……どんな職業があるのかも詳しく知らないからなぁ」
「それなラ、お前のギルドカードを見せてみロ」
俺は言われるがままギルドカードをボボに渡した。
「なんだこれハ!?魔色が『白』!こんなの見たことないゾ!」
やっぱりそうなるかぁ。
「俺は魔力の色が『白』だから何の職業が向いてるのかが、わからないんだよ」
「なるほどナ、魔色デ職業ヲ決められないのカ」
二人で頭を悩ませていると、ボボがギルドカードを見ながら呟いた。
「【スキル】の欄ガかなり埋まってるナ」
「えっ!?いつの間に?」
俺が最後に見たときには、『フラッシュ』と『トランスレーション』(おそらく英語だが解らない)のスキルしか無かったのに。
俺はボボからカードを受け取り、確認してみる。
「なんだこれ!?──『ライトニング』?『妨害無効』?『アブソーブ』?」
ひとつだけ『妨害無効』と漢字なのが気になるが、確かに幾つか増えていた。
「スキルや魔法ガかなりあるなラ、『詠唱者』ニなれるんじゃないカ?」
『詠唱者』?なにそれ。
「『詠唱者』ハ魔法を主に使って戦う職業ダ、魔法やスキルが多いお前ニ向いてるんじゃないカ」
魔法を使って戦うって──魔法使いみたいなものか?
剣を使って戦うのは出来そうにないし、『詠唱者』か──いいかも!
「ボボありがとう、俺、「詠唱者」をやってみるよ」
「そうカ、良かったナ」
とりあえずそういう事になった。
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暗い夜の路地裏を歩く黒ずくめの集団がいる。
その集団の先頭を歩く痩せ細った男が、何かの気配を感じて分かれ道の方を見る。
「おや?あなたですデスか」
そこには痩せ細った男と同じ黒ずくめの男が立っていた。
「久しぶりだな、第八司教──調子はどうだ」
「この村に教会騎士がやって来たので、何人か片付けておきましたですデス。そして近々、あの教会に赴く予定ですデス──第一司教」
「そうか、了解した。他に話す事はあるか?」
互いの事を司教と呼ぶ男たちは、簡素なやり取りを繰り返す。
「そうですデスね──そういえば、変わった気配の男をこの村で見かけましたですデス。」
「変わった気配……わかった、確認しておこう」
「それでは、私たちは行くのですデス」
「あぁ、また会いにくる」
そういって黒ずくめの男たちは別々の道に消えていった。




