プロローグ
どこだ、ここは?
周りは黒一色のなにもない場所。
なにも見えない。なにもにおわない。なにも聞こえない。足が地に着いている感覚がなく、浮遊感が俺を襲う。
何なんだ、いったいここは何処なんだ。
「───たわ」
ふと何かが聞こえた気がしたが、なにも見えないのでわからない。
「やっと見つけたわ」
『うわっ!』と言ってしまったが声が一切出ず、口がその動きをするだけだった。
不意に目の前に人が現れた。その人は、恐ろしいほどに美しい銀髪に真っ黒な眼球に白い瞳の少女だった。
「やっと会えたわ、アキト」
アキト?俺の名前は早乙女秋人だが。
「アキトいいのよ。まだ思い出せなくても、ゆっくりと時間をかければ」
思い出せなくても?俺が何かを忘れているのか?
「──だからそれまで、私のコレをアキトにあげる。だから代わりにアキトのソレをちょうだい。」
そう言って彼女は俺の顔に自分の顔を近づけてきた。
「大丈夫、痛くはないわ」
そこからさらに顔を近づけ、俺の左眼と彼女の左眼が触れ合うところまできた。
そして次の瞬間。
ブチブチブチィィィィィィィ──
俺の左眼からそんな音がした。
アアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ
俺の左眼がずるりと出ていく感覚がある。痛みは無いが恐怖が俺を襲う。そして、ずるりと何かが代わりに入ってきた。
顔を離した彼女の左眼は白い眼球に黒い瞳へと変わっていた。
「うふふ、アキトの眼が私の中に入っているわ。うふふふふふ」
そう言って彼女が笑う姿を俺を両眼で見ていた。
「大丈夫、また会えるわ。必ず」
その言葉を最後に俺の意識は途切れた。