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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

企画参加作品

大団円ハッピーエンド企画 「もう一度」

作者: 山口みかん

 短い人生だったなぁ。


 目の前には大きなドラゴン。

 今から私はこの地上最強の生き物にぱくりと食べられる。

 痛くないといいなぁ……




 私の村には昔から五十年に一度、古の契約に従ってドラゴンに生け贄を捧げる儀式がある。

 これによりドラゴンに暴れるのを控えて貰う事が出来、その恩恵として何の資源もなく土地も痩せて大した作物も育たないこの村は国から報償を得て暮らしている。

 生け贄の条件は、この村で生まれた十三歳から二十二歳までの未婚既婚を問わず、女性である事。

 選ぶ方法は、村長の娘から末端の村娘まで対象者全員が公平にくじを引く。

 そして今回、贄役を引き当てたのがこの私。


 贄を出した家は国からの手厚い保護が受けられるようになる。

 私の十五年で終わる人生と引き替えに、私の家族…… 特に弟や妹は将来、村を出て中央で生活する事も不可能では無くなる筈。


 家族の為に私の命が役立つならそれもいいかな、と思いつつも唯一の心残りは恋の一つも出来なかった事……

 優しい旦那様と幸せな結婚をして可愛い子供を産んで…… 家族に見守られながら死にたかったなぁ。

 そう思えば心に浮かぶのは、”三年後戻る”とだけ書かれた手紙を残し三年前に村から姿を消した幼馴染みの事。


 そっか、私、彼を好きだったんだ……

 こんな時になって初めて気付くなんてね。

 ねぇ、貴方は今どこに居ますか? 私が死んだと知ったら悲しんでくれますか?


 神様…… 私が得られる筈だった家族を作る幸せを彼の元に届けて下さい。


 ……私が彼のお嫁さんになりたかったけど、もう…… 無理だから。


 聞けば、今回の儀式は本来定められた日より一ヶ月程度早まったのだそうです。

 村長さんは急がないとドラゴンの機嫌がどうとかいう話をしていましたけれど、よくわからない説明でした。

 わかったのは、それで家族と過ごせる最後の時間が減ったという事。

 そして、本来の日取りであればひょっとすれば彼に一目会えたかも知れないのにという事……

 ついてないなぁ……

 ……いや、ついてるのかな? 彼の顔を見たら覚悟が鈍っちゃいそうだしね……

 

 そして目の前に迫るドラゴンの顔……

 あー、大きな口だなぁ。

 どうかお願いです、せめて痛くありませんように。

 そして私の目の前は真っ暗になった……





「っていう前世だったんですよ」

「アアソウデスカ」

「先輩っ、冷たいです。淡い想いを抱えたまま散った若い命とか、ぐっと来ませんか?」

「ぐっと拳を握りしめてお前の頭にゲンコツ落としてやりたい。いいから仕事しろ」

「ううう…… 嘘じゃ無いのに……」

「はいはい。今日中にこの伝票全部入力しろよ?」

「えー? こんなにいっぱいですか? 私が全部入力しますから溜め込まないで早く伝票回して下さいよぉ……」

「終わったら飲みに連れてってやるから」

「え、ほんとですか? 先輩と二人きりですよね!? なら、頑張ります! 今日、可愛い下着でよかったぁ。あ、先輩、私、初めてなんで優しくして下さいね♪」

「……っ、バカ言ってないで早く入力しろ」

「はーい♪」



「楽しみだなー」と言いつつ伝票の山を凄い勢いで崩し始めた彼女に、つい口元が綻ぶ。


 お前の前世? 知ってるさ……

 俺はお前の幼馴染みだったんだからな。

 

 古の契約の話を知り、彼女の世代が当代におけるドラゴンの生け贄だと知った時、俺は真っ先に彼女が贄に選ばれる事を危惧した。

 何故なら彼女の家はこの村の中で疎まれる存在だったから。

 選ばれるのはくじによる…… が、そこに不正が無いと誰が保証する?

 ある時期から始まった彼女の家を除く大人達の不自然な集会に密かに忍び込んだ俺は、その危惧が間違っていなかった事を知る。

 そしてこの儀式が続けられている理由も……


 どうすれば彼女を助けられる?

 仮に彼女を連れて逃げたとしても残された家族が……

 ならば本当に彼女を救うには儀式の根源であるドラゴンを倒すしか無い。


 期限は儀式が行われるまでの三年。

 俺はドラゴンを倒す力を求め、村の周囲に光る監視の目を潜り抜け村を飛び出したのだった。


 外の世界に飛び出し、知識を求めた一年間……

 この世界に散らばる力を集約すればドラゴンを倒す事は不可能では無いと確信を得る。

 そうして力を求めて世界を旅し、壮絶な修行の末に英雄と呼ばれる存在に至った俺はドラゴンを倒せる自信を得て村へと急ぎ戻る。

 なのに…… 生け贄の儀式が早められていた。

 儀式が早められた理由を推測する事は出来る。

 その証拠を得る事も可能だろう…… が、肝心なのは既に彼女がこの世にいないという事だけ……

 僅か一日…… 僅か一日届かなかった。

 どれ程の力を得ようと、世界中から英雄と奉り称えられようと、好きな女一人救えなかった無力感に打ち拉がれた前世……

 今生ではきっと幸せにしてみせる。



 ……ところで、最初の出会いから懐いて俺に落ちる気満々の相手にも「俺と付き合ってくれ」でいいのか?





 はい、しっかり私をお持ち帰りして貰いました。

 朝、目覚めて最初に貰った言葉は「俺と結婚してくれ」でしたよ♪

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