ぼくの弟
今日の帰り道、のらねこを見つけた。
かわいいミケの、まだ小さいねこだった。
でも、ぼくの家はマンションだから、このねこを飼うことはできない。
できないと分かっていても、ぼくはそのねこをだきあげ家まで走っていった。
お父さんとお母さんは今日もおそかった。
ぼくは、そのねこにミルクをやると、つれてきたのはいいが、これからどうしようと考えはじめた。
でも、なかなかいい案はうかばない。
ぼくは一人っ子だったから、どうしてもこのねこ、いやぼくの兄弟がほしかったのだ。
考えているうちに、夕方になってしまった。
ぼくは、そのねこをダンボールにおしこむと、ぼくしか知らないひみつの場所につれていって、よく言い聞かせてやった。
「いいかい、君はもうぼくの弟なんだよ。」
「だから、これから毎日えさをはこんでくる。だからといって、外に出るんじゃないよ。ここでじっと待っているんだ。」
もちろん、ねこだから分かるはずがない。
それでもぼくは、そのねこに何回となく言い聞かせた。
そして、ダンボールとビニールを使って、ぼくとねこが楽に入るくらいの家を作り、木のかげにかくし、用心しながらそのひみつの場所を出た。
見つかると分かっていても、二年生のぼくにはそれくらいの能力しかない。
もちろん、家につれて帰っても、ぼくのお父さんとお母さんがゆるしてくれるはずがない。
ぼくは、その日から毎朝7時と夕方4時には、かならずえさを運んでいった。
ねこは、しだいになついてきた。
ぼくは、そのねこに「マック」と名前をつけた。
マックは、なぜかぼくの言ったことをよく守った。
ところが、三ヵ月くらいたったある日、きゅうにマックがいなくなった。
ぼくは、むがむちゅうでマックをさがした。
なぜかって、マックはぼくの弟だから。
ひみつの場所の近くをさがしおわると、いつもぼくが遊ぶ空き地や、公園もさがしまわった。
学校の校庭のうらやウサギのしいく小屋まで、思いあたるところは全部、それでも、みけねこ1ぴきも見つからなかった。
しばらくして、ぼくははっとわれにかえり、急いで家に帰った。
もうとっくに5時をすぎていた。
その夜、ぼくはお父さんにおこられた。
おこられながらも、わるいということは分かっていた。
自分でも、二度としないと心にちかっていた。
でも、マックをあきらめることはできなかった。
次の日から、またさがしはじめた。
でも1週間たっても、マックは帰ってこなかった。
それでも、ぼくはいっしょうけんめいさがした。
ダンボールの家も、こわれている所はなおしたし、えさも毎日運んでくる。
でも、やっぱりマックは帰ってこない。
ぼくは、マックに何かあったんじゃないかと心配でならなかった。
ねこの交通事故があるたびに、ぼくの心はあせった。
でも、いつもちがうねこだった。
そのたびに、ぼくはむねをなでおろした。
そんなこんなで、二ヵ月がすぎた。
とつぜん、ぼくは、お父さんのつごうでひっこしすることになった。
ぼくはいやだった。
マックのことも気になったし、だいいち、ぼくはこの町が大好きだった。
でも、そうかといって、一人でくらしていけるわけがない。
にづくりをする、忙しい日がつづいた。
最後の日、ぼくはもう1度ひみつの場所に行ってみた。
やっぱりマックはいなかった。
ぼくは、さびしさがむねにこみあげてきた。
みんなは、ねこぐらいで泣くはずがないだろうが、マックはぼくの弟だったんだ。
帰り道、ぼくの目からは涙があふれていた。
明日ひっこしするのに、マックはもういない。
もう、二度とここへはこないだろう。
さようなら、ぼくの家。
さようなら、ぼくの町。
そして、さようならぼくのマック。ぼくの大切な弟。
ぼくがひっこしてからしばらくして、マックが帰ってくるなんて思いもよらなかった。
白いかわいいめすねこと、8ぴきのこねこをつれて。
マックは、ひみつの場所へ行き、ずっとまっていたらしい。
ダンボールの家の中で、雨や風をしのぎ、ネズミや虫を食べて生きていたと思う。
子ねこたちが独り立ちして、しばらくして、めすねこは死んでしまった。
マックは、ぼくたちのひみつの場所で、ずっとぼくをまっていた。
一年・二年・三年・四年・・・
でも、ぼくは帰らなかった。
マックは、とうとうダンボールの家で死んだ。
いっしょうけんめい、ぼくを思ってくれただろうに。
きのう、何年かぶりにひみつを話した友達からきた長い手紙で、マックが帰ってきたこと、めすねこと子ねこをつれていたこと、ずっとまっていたこと、そして死んだこと、そのすべてを知った。
ぼくは涙があふれる目をおさえながら、大空へ向かい心の中で叫んだ。
「さようなら、マック!ぼくの弟。」
幼い頃、ねこを拾ってきてもどうにもできなかったむなしさや悔しさを、幼いなりに考えてかいた作品。
はじめて書いた作品のため、内容につじつまが合わない箇所もあると思うが、ご容赦いただきたい。