甘いものが好きな彼。
俺の彼女は、苦いものが好きだ。
甘いものを摂りたがらない。
学校の帰り道。
「悠、またそんな甘いもの食べてるの?」
俺の前を歩く彼女は、少し振り返って苦い顔をする。
今の俺の口には、激甘のペロペロキャンディが入っている。
「優希こそ、なんでそんな苦いのが苦いチョコが食えるんだよ?」
彼女は板チョコをくわえていて、持っているパックには、
『カカオ80%』と記されている。
「好きだからに決まってるでしょ。」
「俺も同意見。甘いのが好きだから食うの。」
俺達は他人の目から見ても正反対の性格で、お互い付き合っているのも不思議なくらいだ。
彼女は苦いものが好きで、甘いものが苦手。
俺は甘いものが好きで、苦いものが苦手。
ハッキリ言って、なんでそんなに苦いものが好きなのかは分からないが、
彼女からするコーヒーの苦い香りは、そんなに嫌いじゃない。
「・・・何?」
彼女は俺の視線に気付き、睨むように振り返る。
「それ、どれくらい苦いの?」
「期待しなくても、別に甘くはないわよ。」
俺は、なんとなく黙り込んでしまう。
「・・・それは?」
「え?」
「そのペロキャン、どのくらい甘いの?」
俺は、彼女の真似をして答える。
「期待しなくても、全然苦くはないよ。・・・それに、1本しかないし。」
彼女はバツが悪くなったのか、小さく舌打ちして、そっぽを向く。
(・・・しまった・・・・・・。怒らせたかな)
お互い話す事もなく、ただ帰り道をゆっくりと歩く。
夕日が西の空に傾きかけた頃。
「悠。」
彼女が急に立ち止まり、俺の名前を呼ぶ。
「私、もう家着いたから・・・、」
彼女は低い階段を登り、家の門に手をかけている。
「あ、うん、それじゃ・・・・・・」
なんとなく居づらくなり、俺は彼女から目を逸らす。
「・・・ちょっと・・・・・・。」
彼女の言葉に、俺はふと顔を上げる。
すると、急に襟元を引っ張られる。
『・・・ちゅっ・・・』
少し高い位置から、彼女は俺の唇に自分の薄い唇を重ねる。
「・・・シカトしてんじゃないわよ。」
彼女はゆっくりと唇を離し、いつもより少し低い声で言う。
コーヒーの香りが、一層強くなる。
「シカトじゃないよ。
・・・何話したらいいのか分かんなくて・・・・・・。」
俺は彼女の後頭部に手を添え、そっと引き寄せる。
今度は俺から優しく唇を重ね、ディープキスをする。
「・・・悠、キャンディの味がする。・・・甘・・・・・・。」
「優希は苦いチョコの味がするよ。・・・コーヒーかな、いや、チョコ?」
彼女は俺の頬を撫でながら、ふっと笑う。
「たまにはいいじゃない、苦いのも。」
「優希も、甘いものの感想は?」
彼女はフイッと顔を背ける。その顔はほんのりと赤く染まっている。
「・・・悠のなら、別にいい・・・・・・。」
私の彼は、甘いものが好き。
苦いものは嫌いらしい。
それでも、たまに私とキスをした時の苦い味は、とても好きだと言う。
変な人。
そんな私も・・・
彼とのとてつもなく甘いキスは、
嫌いじゃない。