出発
地面は雪に覆われ、ハラハラと雪が舞い落ちる。
そんな中でも、街はモコモコとした服をきた人たちで賑わっていた。
この街は、一年中真冬の街だった。常に雪が積もっている街。
そんな街にも関わらず、この街には人が多かった。
「魔王」がいる森があるから。」
炎を出す、空を飛ぶ、花を咲かせる、そんな異能をもつ人間が少なくはないこの世界で、ただ一人、規格外の力をもつ人がいた。世界を滅ぼしかねないその力は世界中から危険視され、「勇者」と呼ばれる異能者達が倒しに向かっていた。
そのため、この街には勇者が多く訪れ常に賑わっているのであった。
「相変わらず寒い!!やっぱここは最悪だぜ!!!」
そんな街のはずれで、そう叫びながらカイトは馬車から飛び降りた。長らく馬車に乗っていたため、活発なカイトは動き回りたくて仕方がなくて無意味に跳ねたり走り回ったりし始めた。
「お前、辿り着いて第一声がそれかよ」
そんな、わんぱくな子供のような振る舞いをするカイトを見て、同僚のイオは白い息を吐きつつ呆れながら言った。
「つってもよぉ!!ここ一ヶ月前にも来ただろ!?」
「最近勇者の客が多いもんなぁ」
二人が馬車の外と中で会話をしていると、数人の男が馬車の中から出てきた。
「お、お前ら準備はできたのか?」
カイトが問いかけると、
「はい。今までお世話になりました!」
「飯うまかったぜ!!」
「礼を言おう」
「ありがとうございました!!」
口々に鎧をきた男たちが礼を言った。この男たちこそがまぎれもない。
二人は満足そうに顔を見合わせる。
そう、この男たちこそが魔王を倒しに行く勇者だ。
イオは見守る親のような笑みを浮かべ、会とは弟子を見る師のような顔で男たちを見送った。
男たちが見えなくなると、美しい笑顔を浮かべていた二人の顔が、ゆがんだ。
「さて、あの中の何人が生き残れるのかねぇ」
「俺0人に賭けるわ」
二人は顔を見合わせてケラケラ笑う。
「いやぁ、いいねぇ勇者様っていうのは金もってて」
イオはそういいながら手にもった金貨の入った袋を弄ぶ。
「本当だよな、勇者なんだから魔王の城ぐらい自分で歩けばいいのに」
「魔王と戦うために体力温存って、魔王と戦う前に死ぬのが恥ずかしいだけだろ」
「ははっそんな奴らが魔王に勝てるわけねぇだろって」
この二人の男は「運びや」だった。
どんな場所でも金さえ積めば連れて行く。道中異能を持つ賊にあっても倒してくれる、その場所につくまでは飯も食わせる。もちろん。それなりの金はとるが。
「いやぁわざわざ命を賭けてまでごくろうだな。俺にはさっぱりだぜその神経」
「魔王が本当に世界制服だなんて企ててる核心があるならまだしもなぁ」
「さて、俺たちは稼いだ金で食料調達してくるか」
イオはそういって、ようやく外にでてきた。
「よっしゃー!今日はごちそう作ってくれよ」
「何がいい?」
「ハンバーグ!オムライスでも可だぜ!!」
「お前ホント子供舌だな」
「うるせぇ」
二人は話しながら街へ買い出しへでかけた。
街は、、鎧をきた屈強な男やら、見るからに頭のよさそうなメガネの男やら、勇者で賑わっていた。そんな勇者達を掻き分けて、カイトは果物屋に入っていく。
「よぉおばちゃん!これ半額にしてくれよ!!」
「あらぁ!カイトじゃない!!元気?」
「元気元気!だからこのりんご半額にしてくれよ!」
「相変わらず図々しいわね!三割引までならいいわ」
「やりい!!ほい代金」
カイトは代金を支払うと人ごみをでて、あたりを見回した。
人ごみがすごいため、別行動で野菜を買いに行ったイオを探す。
「あの野郎、またどっかで女の子に絡んでんじゃねぇだろうなクソ!!」
カイトの予想は全く間違っていなかったようで、少し歩いた先でイオは女の子と喋っている姿で見つかった。
イオヤは大きく深呼吸をしてから、ルーシェに向かって走り幅跳びをして無理やり二人の間に突っ込んだ。
「痛―邪魔すんなよー」
女の子の方は怯えて走り去ってしまったが、当のルーシェはタックルをかまされ倒れた体制のまま暢気に言った。
「男ばっかりでむさくるしかったから女の子補給したかったんだよー」
「そんなんでよく女の子引っ掛けられたな・・・」
「羨ましいのぉ?」
ニマニマと、イオヤの神経を逆撫でする笑みを浮かべながら起き上がる。
「うるせぇ!!」
「図星かぁ」
「黙れ!!そんなことよりお前は目的のもの買えたのかよ!」
「もちろん。食料はこれで全部で大丈夫だよな?」
二人はかなりの大荷物をもちながら馬車に戻った。
二人が次の目的地の話を2割ほど、今日の御飯の話8割ほどしながら馬車に戻ると、カイトが鼻をヒクヒクとさせた。
「におう」
「何?お前の汗?」
「ぶん殴るぞ!!!」
「ぶん殴ったじゃねぇか!!」
そういいながら二人は馬車の荷台に乗った。
「「え?」」
二人の声がそろった。
そこには今までこの馬車に乗ってきた客の中でも、ぶっちぎりで異質の存在がいた。
「こんにちは」
馬車の中に、一人の少女がニコニコしながら正座をしていたのだ。
ブロンドの長い髪に、人間とは思えないほど白く透き通った肌。ボリューム満点の胸部に対して顔は童顔で円らな緑色の目。
人形と見間違えるほどの美少女だった。
三人の間に数秒ほどの空白ができた。
「あ、お客さんかな?」
一番最初に口を開いたのはイオだった。
「お前はいつまで見てるんだよ」
小声でそう言ってカイトの尻をたたいてから、営業スマイルで少女に近づいた。
「そんなかわいいお客さんきたの始めてだから驚いちゃった。」
「うん、連れて行ってほしいところがあるんだー。」
ほんわかとしたウィスパーボイスで少女は返事をした。
「おい、このご時勢に女子供がそんな遠出するもんじゃねーよ」
目をそらしながらぶっきらぼうにカイトが言う。少女は何も言わずカイトをじっと見つめる。あまりにも綺麗な瞳にカイトは一瞬たじろぐが、強気な姿勢は崩さず話を続ける。
「第一俺たち、かなり高くつくぜ。金もってんのかよお嬢ちゃん」
そういうと少女は少し明るい顔をした。
「お金ならあるよ。」
少女は、ごそごそとコートのポケットの中から、巾着を取り出してカイトに差し出した。
「これで、連れて行ってくれる?」
カイトは少女から渡された巾着を手に取ると、ずっしりとその重さが伝わってきた。思わずイオと顔を見合わせる。期待で震える手でゆっくりと巾着を開けると。中は見事に金ばかりだった。
もう一度イオと顔を見合わせる。
「お、お嬢ちゃん何者?」
イオが恐る恐る尋ねる。
「えっと、リーシェだよ。17歳。」
「いや、そういうことじゃなくて・・・」
「お金払ったんだからはやく出発しようよ」
少しイラついた様子で返事を返してきた。
カイトはイオを引っ張ってリーシェに聞こえないように小声で会議を始めた。
「どうする。胡散臭いにもほどがあるぞ。」
「でもお金は払ってくれたんだしさぁ」
「いや、おかしいだろ、あんな女がわざわざ俺たちを使ってまで出かけるなんて」
「まぁまぁ深い事を考えずにさ、」
「お前は女に弱すぎるんだよ」
「せっかくの大金無駄にする気?」
「・・・っち。わかったよ」
イオは「お前も金に弱すぎだろ」と心の中で突っ込みながら馬車の扉をしめた。
「いいの?」
リーシェは身をのりだして嬉しそうにした。
「こんな大金もらったらね」
二人は出発することを決めて準備をはじめた。
「おい。リーシェ。どこまで行くんだ。」
「ひまわりが咲くところ!」
ぱぁっとリーシェの表情が輝いて、ハキハキと答えた。
「はぁ?」
「一度でいいからひまわりを見てみたかったのー」
「そんな理由で!?」
「うん!」
街から出れば、賊やテロリストが溢れかえる無法地帯となるこのご時勢で、わざわざ国から出たいなんて人は、人並み以上に好奇心をもった勇者ぐらいだ。
「ひまわりって、ここからひまわりが咲くほど暖かいところに行くのは相当距離があるぞ」
「でも、そのお金があれば足りるでしょ?」
カイトとイオは再び顔を見合わせて、もう一度決意を固めたようにうなずいた。
「わかった。ひまわりが咲くところだな」
カイトはそう言って、パンっと一発手をたたいた。
途端、御者がいないはずの馬車が動き出した。
「彼は一体何をしたの?」
「奴の異能さ。」
ルーシェは感心しながらカイトを見つめた。
「さぁ出発だ」