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星の穴  作者: 鳥野彫像
8/17

8話:帰ってきた退屈な夏休み

 山の中腹に設けられた露天風呂からは、夕焼けに照らされた宇井町の田園地帯が一望できる。田んぼには、さっきまで僕達が潜っていた穴がぽっかりと開いていて、穴に残ったツチクレが外に出てきたときのためにとまだ自衛隊の人達が駐留していた。

「いやぁ、生き返るねぇ」

 おちょこで日本酒を飲みながら、井沼さんが独りごちる。一柳さんも土谷さんも、温泉に浸かり、頬を緩めてこの三日間で溜まった疲れを癒していた。

「白神区内に、こんな良い感じの温泉なんかあったんですね」

「うちの社長、温泉マニアだからね。封穴作業に行ったら、大抵その近くにある温泉を探し出してつれてきてくれるのよ」

 肩や足の酷い筋肉痛をほぐすように、暖かな湯がじんわりと染みていく。

「でも君、よくやってたねぇ。大抵若い人って、ツチクレを一度目にしたら怖がって帰るだなんだって駄々をこねちゃうもんなんだよ」

「俺は、ビビんなかったっすよ。あんな銃ぶっ放し放題の楽しい場所ないじゃないですか!」

 穴の外に出て、アサルトライフルを自衛隊の人に返す時の寂しそうな一柳さんの顔を思い出す。まるで長年一緒に居た彼女と別れるかのごとくだった。

「いや、君は壊れてるからねぇ」

「愛に忠実に生きているって言ってください」

「いや。僕は、ビビってたましたよ完全に。足が震えて、逃げることすらできずにそこにいただけです」

 なんだか気恥ずかしくなって正直に言う。そんな立派なものじゃないんだ。みんなに守られながら、震えていただけだ。

「いや立派立派。ねぇ土谷さん?」

「ああ。また一緒に仕事をしよう」

 ぼそりとした、土谷さんの迷いのない口調。なんでだろう。その土谷さんの低い声に僕は、全身を打たれ感極まってしまった。

「はい」

 穴で会った恐ろしいツチクレ達、暗い道を進み続けていた時の心細さ、全身の筋肉痛、そんなこともお構いなしで、つい僕はそう答えていた。

 温泉を出て休憩室へ行くと、社長が宴会の準備をしてくれていた。日が落ちるまで僕達は、生きて地上へ帰ってきたことの喜びを噛み締めながら、くだらないことを語り合い、笑った。

 そうそう。そのお疲れ様会の時、少しだけ僕は変われたのかな、と思えるような出来事があった。部屋の隅っこでジュースを飲んでいた緒川に話しかけ、僕は大胆にも連絡先の交換を申し込んだんだ。

 永継を出し抜いてやったことを肴に社長達が談笑している。そんな声にかき消されそうな小さな声で、緒川は「いいよ」と返してくれた。

 二人ともメールの交換みたいなものに慣れてなくて、赤外線の機能を探したり色々して、やたらと手間取ってしまったけど、確かにそこで緒川と僕はお互いに連絡が取り合えるようになった。

 うん。何かが前へ進んでいる。社長から直接手渡された十五万円プラス特別ボーナス五万円、計二十万円が入った封筒を握り締めた僕は、晴れやかな気分で帰路に着いた。



 穴から帰ってから三日間。僕は抜け殻みたいになってしまっていて、ずっと部屋に引きこもり続けていた。頭の芯がしびれていて、なんだかまだ穴の中から心が帰ってきていないような感じだった。

 そして今日、このままではせっかくの夏休みが勿体無いと、意を決して秋葉原へ行くことにした。約束通り一柳さんがメールで送ってくれた、パソコンの激安ショップを見に行くんだ。前に行った時は四十万とか吹っかけられたけど、そういう穴場のお店なら封穴作業で貰ったお給料だけでも手が届くかもしれない。

 蝉の音、ぎらつく太陽、へばる猫、汗ばみ行き交う人々。けだるげな真夏の日常、なんだかしっくりこない嘘みたいな風景の中、白神中央駅から新宿まで出て、山手線に乗って秋葉原へ向かう。

「認可を受けていないスポーツカーを密造していた企業の一斉摘発が行われました。輸送手段として不必要な要素を多く備えたその機能は千年機関の定めた国際法に反し――」

 昼間だってのに電車は込み合っていて、僕はドアの所に所在なさげに立ってモニターに映し出されるニュースを眺めていた。

 視線を下ろして車窓の外に目をやると東京のど真ん中に開いた大穴が見える――荒川や北千住という町を巻き込んで開いた日本で一番大きな穴。あれだけ大きな穴の中は、一体どんな風になっているんだろうか。穴が開いてから四年が経つというのに、ツチクレが出てこれないように鉄柵が設けられ、警備が強化されているだけで一向に封穴が行われないのだから、よほど深く険しい穴なのだろう。

 秋葉原の惨劇は、あの穴から出てきたツチクレによって引き起こされた。

「あれ……」

 なんだか気持ち悪い、秋葉原へ行きたくない、そんな気持ちが強く湧いてきて僕は気が付けば上野駅に降りてしまっていた。

 すとん、とベンチに崩れるように座り込み、今僕の身体を動かした心の動きについて考えてみる。ずっとあの事件を忘れられないでいた。夢にも見た。ふと気が付けば、半身を失ったメイド姿の女の人や、転んでしまって、そのまま見捨てられ遠ざかっていった人のことを思い返していた。

 僕はあの事件を通して、ツチクレという生き物がこの日常のすぐ横にいるという現実を思い知らされたんだろう。とにかく恐ろしかった。それらを強く感じさせる秋葉原に行きたくないって心理は、不自然なことじゃない。

 だけど緒川達と穴に潜って、ツチクレとかそういう恐ろしいもののことを、現実として受け止められたんじゃないのか? だから僕は、気にせず秋葉原にだって行けると思っていた。なのに額からは冷や汗が流れ落ち、僕はこうして足がすくんで動けないでいる。

 深い沼の中へ沈み込むような思索を遮るように、携帯電話が震える。どうせ新井場からのメールか広告メールだろうと思ってみてみると、意外なことにそれは緒川からのメールだった。

『演劇を見に行かない? 本日15時白神中央駅駅前』

 メールには、端的にそれだけ書かれていた。

 不躾な誘いになんだかなぁと思ったもののこうして駅のベンチで沈み込んでいるよりはいいだろうし、これは世間の男女が楽しそうに行っているデートのお誘いなのだろうか? などと思うと、思わず嬉しくなって『行く!!』と返答することにした。



 一体、なんだったんだろう。興奮冷めやらぬ緒川の後ろを、虚ろなツチクレのような目でついていく僕は、さきほど体験した二時間についてそう思わざるを得ない。

 白神中央駅から、十五分程歩いた場所にある小劇場。開演のブザーが鳴ると、シンプルなデザインの木製の椅子を持った黒子が、まず壇上に躍り出る。そしてピタリと椅子を中央に置くと、そのまま踊りながら劇場を出て行ってしまった。

 それから三十分、緩やかに変化するライティングを受ける椅子を、客は凝視し続けた。退屈だったが緒川含め皆が真剣な眼差しでそれを見つめる異常空間の中では、あくびなどすることはできない。何かを感じ入るように、しきりに頷く緒川が不気味だった。

 その無意味な静寂の後、突然奇声をあげながら大勢の黒子が現れ、椅子を取り囲み身体をくねらせながら歌った。歌の歌詞は「偽りつわりの母胎転生、革命前夜の滅法殺。殺されたのは本物の椅子! 本物の椅子! 実存幻想溶けた魚、塩焼き日干しの宇宙の神秘。捜し求めて幾億夜~」というような、常人には理解不能なものだったけれど、終演後緒川は、そんな歌が収められてるだろうCDを買い漁っていた。

 間隔を保って輪になって踊っていた黒子達は、徐々に互いの身体を突き飛ばしながら踊るようになり、結果殴りあいを始める。殴るお芝居じゃなくて普通に殴り合っていて、何人も観客席に吹っ飛んできた。怖くなった僕は、救いを求めて緒川に声をかけたのだけど、緒川は「本物の椅子、本物の椅子」とぶつぶつ呟いているだけで何も答えてくれなくて、恐怖感はただ増すばかりだった。

 中央にあった椅子は黒子達の乱闘の巻き添えを食らって、砕け散りただの木片と化してしまった。チーンという間抜けな鈴の音が響くと、黒子達は砕け散った椅子に謝罪したり、頭を抱えたりした後、懐から取り出したナイフで頭を突き刺して自殺するお芝居をして倒れた。

 静まり返った場内に、一人の黒子が踊りながら入ってくる。独特のキビキビした踊りを見るに、多分最初に椅子を置いていった黒子だ。黒ずくめの人々が倒れ、椅子の残骸が飛び散る壇上に飛び上がる。

 黒子は、もうそこには存在しない椅子の上に腰掛けるように、椅子に座るポーズを取る。そこでまさかの客全員のスタンディングオベーションだ。緒川なんて涙を流していた。そして客達は、自分達が座っていたパイプ椅子を折りたたむと、壇上の黒子と同じように椅子に座るポーズをとった。意味は分からなかったが、日和見主義者の僕はおずおずとパイプ椅子をたたんで周囲と同じように、その姿勢になる。緒川が涙を拭いながら、共感を求めて僕の方を見て微笑んだ。空気椅子のポーズを続けさせられて、ただ脚が痛かった。

 そんな狂気の二時間だ。そして劇場から出てきてから緒川は、テンションも最高潮に僕に語り続けていた。

「記録の中に隠蔽された非存在は、しかるべき時の中に存在していたということなのよね! つまりそれは、私達が生まれてきた以前から仕組まれていた実存のウイルス。人間が椅子ではないが故に、椅子とはつまり人間であるという紛れもない歴史的証明。暴虐の中にあっても、忘却の中にあっても。それは絶対的アンチテーゼ、永遠のアンチテーゼ、テーゼなきアンチテーゼ! ねぇ、寺嶋修三の最新作『存在椅子』康平君はどこが魂に響いた!?」

 夕暮れ時、活気付く商店街を並んで歩く。傍から見たらはしゃぐ女の子と一緒にデートを楽しんでいる風にでも見えるだろうか。

「えっと……黒い人達が楽しそうに踊ってたとこ?」

「つまり深遠から訪れる自滅欲求を現してたシーンね! 渋いわね康平君! あのシーンの隠喩はね、私は――」

「……どっかでお茶でもする?」

 いや、最高に帰りたい。だがこのまま帰ったら今日一日がもったいなさすぎる気もして、僕はついそんなことを口走ってしまった。緒川は二つ返事で頷いて、手近な喫茶店に入ろうとする。

「と、あそこはやめよう」

 そこは、僕がアルバイトの面接に落ち、今では新井場が働く例の喫茶店だった。あの人を馬鹿にしたムカつく態度の店長には会いたくないし、新井場に色々と勘繰られるのも面倒くさい。向かいにあるファミレスに入ってドリンクバーを頼むと、緒川は再びエンジン全開で語り始めた。周囲にいる家族連れの客から漏れ聞こえてくる、日常的というか常識的な範疇にある会話が羨ましかった。

「――そういえば緒川の超能力って、どういう原理で物を壊したり動かしたりするの?」

 話の風向きを変えたかったのもあったけど、なによりあの超越的な力のことを知りたかった僕は、お芝居の話が収まった隙を突いて聞いてみる。

「えっと……例えば康平君が飲んでるメロンソーダという物にも、私が飲んでるトマトジュースという物にも、チャンネルってのがあるの」

「チャンネル? テレビみたいに」

「そう電磁波のチャンネル。もちろんあの破壊された悲劇の椅子にも……!」

「ま、椅子は置いといて」

 話を引き戻されて緒川は、不満げな顔で話を続ける。

「それで私達の脳には、そのチャンネルとアクセスするリモコンみたいのがある。だから動かしたい対象のチャンネルを探し出して接続して――操作する」

 僕の前に置かれていたメロンソーダが、すっと横に動く。

「凄いなやっぱ……これってなんでもできるの?」

「人間の細胞みたいな複雑に暗号化されてるチャンネルの解読は、私には無理。それにツチクレはたまに複雑なのがあって、ある程度集中して視続けないとチャンネルを開けない。後、普通の物体でもチャンネルを見つけやすいものと、苦手なものがある」

「あっ、それで動きを止めてもらいたがってたんだ」

「そう。視るための光も必要」

 だとすると僕がやってた仕事も、少しは役に立ってたのかな?

 そう思えば、余りにも圧倒的な緒川の力に対する引け目もちょっとだけなくなる。なんてったって、緒川が戦っていた時、僕は腰を抜かしたり、足が震えて動けなくなってただけでさ。マジでゴミだなこいつ、とあの時の自分を振り返るとストレートに思ってしまう。

「いや、本当凄いな緒川。ちょっと尊敬しちゃったもん、穴の中で」

「凄くなんかない。ただ持ってただけ」

「そう謙遜しなさんなって。なんていうか……力があるってとっても素敵なことなんだ。力がないと、未来だって切り開けないじゃないか」

 緒川が、つまらなそうにジュースを飲む。

「こんな力持ってたって、みんな不幸になるだけ」

 普通の人は――特に僕は、そんな凄い力どころか普通にみんながこなしている当たり前のものだってろくに持ってないんだ。その力があればいざって時に逃げ惑うだけでなく、転んで逃げ遅れた人を助けることだってできたかもしれない。どうしてもそれが尊敬に値する特別な力だって理解してもらいたくて、つい僕は前のめりになる。

「いや凄いって! 緒川って性格とか色々相当ヤバいと思うんだけど、その力だけは本当に立派だよ。みんなだって感謝してるし、僕だって本当にすっごい感謝してる。緒川は命の恩人だよ。分かってよ。緒川って話すとかなり残念な子だけどさ……そんなこと関係なくなるぐらい、凄いものもってんだよ! 誇りに思ったほうがいいよ!」

 やっぱり僕は、人にものを伝えるのが苦手なんだろう。

 緒川の眉間に皺がよると同時に、コップに入っていたメロンソーダが球体となって宙に浮かび上がり、僕の顔の前で炸裂した。



「あれ?」

 その後、うとうとと眠り込んでしまった緒川をほっぽっておく訳にも行かず、おぶってファミレスの外に出ると、例の喫茶店から出てくる井沼さんと、あの永継の封穴部隊のリーダー、実篤さんを見かけた。井沼さんが申し訳なさそうに頭を下げ、二人は店先で別れてどこかに消えていった。

 妙な組み合わせが気になったけれど、とにかく後ろで眠っている緒川をなんとかしなきゃと思って、緒川封穴の事務所へ向かった。

「ったく……」

 どうやら緒川は、鉱物とかそういう物を操作するのは得意らしいのだが、液体や気体なんかの操作は大の苦手で、メロンソーダを炸裂させるだけの干渉能力を使っただけでも相当のエネルギーを消費するみたいだ。自爆テロ的なつっこみは勘弁して欲しい。

 もう日もすっかり落ちてきていて、一階の立ち飲み屋『しょんべん』はすっかり出来上がったおっさん達で溢れていた。まるで起きる気配のない緒川を背負って、二階へ連れて行く。

「緒川、鍵どこ?」

「……ポスト……裏……」

 一瞬だけ目覚めた緒川が、うわごとのように漏らした言葉を頼りに鍵を探し出し、事務所のドアを開ける。窓の外から入ってくるネオンに、ほのかに照らされた暗がりの事務所。部屋の片隅にある古い革張りのソファーに緒川を寝かせると、重かったけどあのトーチが詰め込まれたザックに比べれば楽勝かな、なんて思いつつ肩を鳴らした。

 横たわる緒川の寝顔は、涎なんか垂らしてちゃってさ。なんだか子供みたいに隙だらけで、ちょっとだけ可愛い。

「まっ、楽しかったよ。ありがとうな」

 棚に乱雑につまれている登山道具やヘルメットの中から毛布を取り出して、緒川に掛ける。なんだかんだ緒川のおかげで、上野で思い悩んでたのが馬鹿みたいに思えた。そういう意味ではあの狂った芝居を見たのも有意義な時間だったのだろう。

「あれ、鍵開いてる。誰かいるの?」

 急に電気が点いたので、何事かと振り返ると、そこに社長がいた。

「康平君に……いさり? なにやってんだい……もしかして……」

 社長は、笑顔のまま棚に積まれた道具の中から、ピッケルを手に立り上段に構える。足を悪くしているとは思えない俊敏な動きだ。

「いやー、最近の若い子って困るなー。大事な一人娘をさー」

 瞳にこもる明確な殺意が、グラサン越しに伝わってくる。

「いやいや! 違いますよ! 演劇に誘われて、その帰りに寝ちゃって! とりあえずここに連れてきたんです! 本当です! まごうことなき事実です!」

「あ、君が代わりに行ってくれたんだ。先に言ってよ、僕あやうく勢いで人を殺めてしまうとこだったじゃないか」

 ピッケルをポイっと棚の上に置いた社長は、いつもの温和な雰囲気に戻りお茶を出してくれた。

「代わりっていうと本当は、社長が?」

「そう。急な仕事が入っちゃって行けなくなってねー。いやー久しぶりにいさりと仕事以外でお出かけできるってのに残念だったよ」

「仲いいんですねぇ」

「あっ? そう見える? ははは、それはしょうがなぁ!」

 親と外出だなんて中学にあがって以来まるでしたことがない。特に反抗期みたいなものがあったわけじゃないと思うんだけど、なんていうか気持ち悪く感じでしまう。

「そうそう。それで今日の仕事っていうのが君にも関係あってね! 五日後になるんだけどさ、また穴に潜ってみないかい!?」

 身体をテーブルに乗り出して、社長は僕の両手を掴む。

「今回の仕事は大きいからね。報酬も三十は約束するよ! どうだい!?」

 社長は興奮した様子で、仕事の内容とどうやってその大きな仕事を獲得してきたかを口早に説明した。仕事内容は、東京都豊島区某所住宅街に開いた直系二十メートル程の穴の封穴作業。開いた場所が都心の住宅街ということもあって、早急な対応が求められているらしく、本日緊急で封穴事業を行っている会社の人達が集められて、一般入札が行われた。

 一般入札では、その企業の実績や評価と、提示してきた金額を都の人達が精査して、仕事を受注させる会社を選ぶ。緒川封穴だけでなく、業界最大手のサウザンドセントラル、それに例の永継警備保障といった大きな会社の人も都庁に集まり、皆で入札を行ったのだという。

 そこで行われたのは永継警備保障による提示金額の談合取りまとめや、担当する委員会への賄賂合戦。ツチクレというのは非常に危険な生き物だけれど、危険というのは高ければ高いほど旨みは増す。高額封穴事業を受注するために、壮絶な戦いが繰り広げられたらしい。

 しかし勝ち取ったのは、東京の外れに居を構える、この小さな緒川封穴だった。永継が他の封穴会社と取り決めた提示金額を、大幅に下げた入札金額を提示したのと、一度は失敗したものの二度目のアタックで、宇井町の穴をきっちり塞いだことが評価されたみたいだ。

「いやー、正義は勝つってやつだね! 散々ぱら恫喝めいた談合交渉を、永継にやられたもんだからね。受注決定した時には、もう! すっきりしちゃったよ」

「でも金額とか下げちゃって大丈夫なんですか?」

「全部、いさりのおかげだね。普通、いさりくらいの戦力を維持しようと思ったら人員、兵器だって相当のものになるし莫大なお金がかかる。だけどこの子は、一人でそれをやっちゃうんだから……。多少下げたって、コスト面を考えれば他の会社より儲けは多いくらいだよ」

 んが、と大きないびきをかいて寝返りをうつ緒川。こいつ本当に凄い奴なのにそれが全くわかってないんだよな。「不幸にする」だなんて言ってさ。うまく伝えることはできなかったけど、お前は凄い立派な力を持ってるんだ、ってことをいつか理解させたい。

「それでどう? やってくれるかな!? どーんと潜って、一発バーンと稼いじゃおうよ!」

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