表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無垢・Age17  作者: 美紀美美
12/13

ジンサイド・ホワイトデーサプライズ

ハートの花壇と愛の鐘。

ラブラブモード全開のジンのサプライズです。

 俺の卒業はみさとの内助の功で何とか決まった。



俺はあの卒業論文で、今後の日本の進む道を示せたと確信した。


それが、夜間部卒業を勝ち得たのだと思った。



卒業論文を制作するにあたって、みさとの力を借りてきた。


でも俺はそのことを恥じていない。

女房に卒論のアイデアを出してもらったことも堂々と担当教授にも話していたのだ。


もっとも、発表会の席では触れなかったのだが……


でも俺は、みさとへの評価だと思ったんだ。


学校側は共同研究を認めたのだ。

少なくとも俺はそう思っていた。





 俺がみさとに手渡した卒業決定通知。

みさとはそれを見て泣いていた。



『これでやっとお義父様に顔向けが出来る』

そう言いながら。


それを聞いて俺はハッとした。



『そんなのダメー!!』


突然、俺の頭の中にあの言葉が甦って来たのだ。


それはみさとの言うところの、美魔女社長のオフィスを訪ねた日だった。





 『ところで、ねえジン。大学はちゃんと卒業したの?』


その社長の言葉が俺は嬉しくて堪らなかった。



(――ちゃんと覚えていてくれていたんだ)

素直にそう思った。



『実は今年卒業の予定でした。こう見えても、結構真面目に通っていまして、単位は獲得してあります。後は卒論だけですが、もういいか……なんて』

だから俺は、何気に言っていた。



『そんなのダメー!!』


その声に驚いて後ろを見ると、戸惑い隠せずに呆然としていたみさとがいたんだ。





 みさとが何故卒業に拘っていたのかを今更ながらに気付いた。


みさとは親父にすまないと思っていたのだろう。



もし俺が大学を卒業出来なかったら、みさとはきっと自分のせいだと嘆き悲しむ。



ホストを辞めさせてしまったことにも引け目を感じるような、本当に俺のことばかり気遣う女性だったから……





 みさとは俺が卒業式に出席するものだとばかり思っている。

でも俺は大学には行かないことにした。


此処で遣らなければいけないことが沢山あったからだ。



勿論みさとには内緒だ。



『卒業式には出席しなければいけないな』

何て言ってある。


それが一番彼女を喜ばせることだと承知しているからだ。



だけど、どうしても試してみたいことがあるんだ。


別に、みさとを怒らせたい訳ではない。

反対に喜んでもらいたいんだ。




 だからみさとが疑わないように、朝早く出掛ける振りだけはしようと思っていた。



今、みさとが出席している卒業式の後にやって来るホワイトデー。


俺はその日に、又飛びっきりのサプライズを考えている。だからそのための大作戦なのだ。





 それが何なのか?

今は秘密だ。


きっとみさとは目を真ん丸にして驚くぞ。


その顔が見たいんた゛。


だから口が裂けても絶対言えない。





 みさとにはすまないと思っている。

きっと泣かれるだろう。



悔し涙と嬉し涙。

その両方で……



俺は今度来るホワイトデーに全てを賭けてみることにしたんだ。


俺達の未来と、地域の将来のために。





 あのガトーショコラは美味しかった。


結局、バレンタイン当日には帰って来られなかったけどね。



みさとの心が、これでもかと言うくらいに込もっていた。


家庭科の先生の力を借りたとは聞いている。


でもそんなことは関係ない。


俺に贈ってくれようとした行為が嬉しいんだ。



親父とみさとの母親を引き合わせたバレンタインデー。

彼処へ向かう電車の中で目隠しをした時、本当は俺の手は震えていたんだ。



みさとを守るとあのハロウィンの日に決めた。


だから弟に、俺は夜間部と仕事で居なくなるからマンションをみさとに貸すことを提案したんだ。



でも、俺は結局みさとを喫茶店に残して卒論を提出するために大学へと向かってしまったのだ。


みさとがどんなに心細いか知りながら……



あのハロウィンの日に男性俳優陣に目隠しされて拉致されたみさと。


全く同じ状態を俺は作った。


それで、良く彼処に独りで置いて来られたものだと後から震えが止まらなくなったんだ。



だから俺はナイト失格だと思う。


それでも、いやそれだから、みさとに相応しいナイトになろうと思ったんだ。





 だからこそ、忘れられないくらいロマンチックな夜を演出したいんだ。



俺はみさとを泣かせてやりたい。

嬉し涙を流させてやりたい。


頬を伝わる涙を唇で拭いたい。

それが永いキスへと向かう序章だ。



焦らすだけ焦らして……

みさとをイライラさせてやる。


そう……

あの言葉がみさとの口を突いて出るまでは。



俺の意地悪は今始まったことではない。


みさとを見ると、つい構いたくなるんだ。





 俺を見つめる瞳の中に俺への愛が溢れているから。


みさとを見つめる俺の愛がその瞳の中にくっきりと映し出されているから……



俺はあの瞳を見つめる度に震え出す。


こんなにも愛しい人に巡り逢うことが出来た奇跡と軌跡に感謝せずにいられなくなるんだ。



だから……

もっともっと俺を愛してもらいくてちょっかいを出したくなる。

みさとが耐えきれなくなるまで、焦らしてやりたくなるんだ。



その後の愛の行為を最高潮で迎えるために。





 バレンタインデーのお返しに、今度は俺が何かを作ろうと思う。


甘い甘いキャンディ?

それともフワフワマシュマロ?


ホワイトデーの定番はそんなとこだろう。



みさとはきっと、美味しそうにそれを頬ばる。


俺はそのタイミングで唇を近付ける。

その後で又キスの嵐だ。



みさとの唇は甘くなっているはずだ。


だからその唇をもっともっと甘くするために……

俺は口付けをする。



角度を何度も変えては戻す唇にみさとはきっと焦れったくなる。



『お願い……ジン抱いて……』


又あのセリフを言わせてやりたい。


あの光景と言葉を思い出す度に俺は気持ちを奮い起たせる。



漁船で危険な目に合うこともある。

もしかしたらこのまま死ぬのか?

そう思ったこともある。



そんな時、みさとが脳裏に現れる。


あの言葉を又聞きたくて……


ただそれだけで、危機を乗り切って来られたんだ。


全身全霊でみさとを又愛したいと思うことでやって退けたんだ。


それがどんな目に合っても生還した理由だ。


だからみさとにお礼をしたいんだ。



俺の勝利の女神。

みさとへの愛をこの身体で伝えるために。





 式の後でみさとは卒業生達と一緒に食事会の予定だ。



『最後の日だ。ゆっくり楽しんでおいで』


みさとにはそう言ってある。



だからその間に……

みさとの目を盗んでは走り回ろうと思っている。

と言っても自転車だ。


俺が乗っていたバイクは父が会社の社宅に持って行ってくれた。


いくら何でも、此処から持ちに行くことなんて無理だったからだ。

そう……

結局親父達は社宅で暮らすことになったのだった。



今日一日で何が出来るかなんて解らない。


でもやってみないと始まらない。


俺は強気だった。





 まず以前から懸念していた竹林を見に行った。

実は卒業論文を発表する際に提出したスライドは此処で撮影させてもらった物だったのだ。



その時伐採した竹を貰いに行ったのだ。



『お陰で、今年は良い筍が採れそうだ』

その人はそう言ってくれた。



『みさとが聞いたら、きっと喜ぶな』


俺はつい、本音を漏らした。




『あっ、みさとにはまだ内緒にしておいてくれないか? 驚かしてやりたいんだ』



『何だか判らないけど面白ろそうだな。どうだ、打ち明けてくれないか? 確か免許が無かったんだな?』


竹林の持ち主が痛いところをつつく。



そう……

俺は自動二輪の免許しかない。


東京で暮らして行くには不便が無かったからだ。


でも田舎で暮らして行くことを念頭においていた割には考えが浅かったようだ。



俺は仕方なく、その竹の使い道を話出していた。



『かぐや姫の絵本のような竹が、出来るだけ沢山欲しいんだ。キャンドルスタンドにしたいから』



『キャンドルスタンド? 火が着かないか?』


俺はそれを聞いてハッとした。


又してもそこまで考えが及ばなかったようだ。





 『このサプライズを思い付かせてくれたのはみさとだった』


おれは仕方なく、竹林の持ち主にその竹の使い道を話していた。



俺はみさとの発案で決まった卒業論文の中身の通りやってみたくなった。



港から見える小高い丘に荒れ放題の土地がある。

杭は打ってあるから誰かの持ち物なのだと思う。


俺はその場所がひどく気になっていたんだ。





 俺はこの場合に目を着けた。



其処の持ち主を調べて、無償で貸してもらえるように交渉した。


でも聞いて驚いた。


其処は撤廃した自動車工場がもて余している土地。

つまり親父の勤めている会社の所用物だったのだ。





 管理や維持費だけでも相当な金額がかかるらしいんだ。


だから放ったらかしになっていた訳だ。


早速親父に連絡して、有効活用してはどうかと提案してみたのだ。



親父はいつの間にか自動車工場の幹部になっていたのだ。

だから、二つ返事でオーケーしてくれたのだ。



でも喜んでくれたよ。



『俺達の故郷をよろしく頼む』

受話器の向こうでそう言われた。


俺達……って、親父とみさとの母親のことだと思った。



『勿論だよ。俺に任せてくれ』

思わずそう言った。





 俺の話にその人は熱心に耳を傾けてくれた。


俺はそれに気を良くしていた。



『でも……、俺には車が無い。あの土地に豚を運びたいのに、豚も車も無いんだ』


車が借りたい。出来ることなら運転手付で……

そう言いたかった。



『何に使うかは判らないけど、豚も車も家にはあるよ。良かったら使ってくれないか?』


でも……

その人は俺の心を見透かしたようにそう言ってくれた。





 『まず草の処分だ。それには農家から豚を借りて放してみようと思っていたのだが、本当に良いんですか?』


俺は遠慮がちにその人に言ってみた。


以前竹を伐採した時に、この家に豚が居るのを見ていたからだ。



何時かみさとが話してくれた豚による雑草処理をその豚で試してみたくなったんだ。



でも、そんなこと図々しく頼める訳がなかった。

俺はこの期に及んでもまだ躊躇していたのだ。





 『要するに、車で豚を運び、其処へ放せば良いんだな?』


その人が話の途中で豚舎へ向かったのをみて、俺は慌てて背中を追った。



『実は、あのテレビ見ていたんだ。でも俺にはそんな土地を用意出来るはずがないと諦めていたんだ。あの場所なら確かに杭が打ってある。今すぐにでも放してくるよ』


その人は言うが早いか、俺の手を掴んだ。





 豚舎で餌を与えるのと違って代金がかからない。


それだけでも農家の利益になるから結構乗り気だった。


その上肉質にも変化が出るから、ブランド豚として高く売れるらしいのだ。



『筍だけじゃなく豚までアンタのお世話になるなんて……』


声を詰まらせたその人をみると泣いているように思えた。


でも俺は何も言わずにその人に追行した。





 俺達は早速、豚を数頭乗せた軽トラで其処に向かった。


幸いのことに杭はしっかり打ってあった。


だから何もしないで放せたのだ。





 麓から丘を目指す豚。

自然に耕した状態の土地が生まれて行く。



俺はその土地に花の種を蒔くつもりだった。



でも……

ホワイトデーには間に合いそうもない。



そう……

それはあくまでも、当初はみさとを喜ばせるためのサプライズだったのだ。



でも決して親父や会社を裏切るつもりはない。


その後に有効活用すれば良いだけのことなのだから。





 『向こう側に何があるか知っているか?』


その人は突然聞いた。



『お前さんの親父の勤めていた自動車工場の駐車場だよ』



『えっ!?』

今度は俺が言葉を詰まらせた。



(――あー、だとしたら其処も有効活用出来る)


俺は常に、地域の未来のために何か出来ないかと模索していたのだ。





 俺の頭の中で未来予想図が動き始めようとしていた。


まず思い付いたのは愛の鐘だった。


本当は金属の塔が理想なのだが、用意出来る訳がなかった。


でも幸いなことに竹は沢山あった。


俺は竹林の持ち主にお願いして、二人で櫓を組むことにしたのだ。





 その次は……

でも今日の作業はこれまでにした。


二人共疲れてしまったのだ。



とりあえず、豚を再び軽トラに乗せて豚舎に戻ることにした。





 翌日俺は早起きをして、あの丘に向かった。


外はまだ夜だった。

だから俺は足元を懐中電灯で照らしていた。





 豚が雑草を処理してくれた小さな土地。


俺はまず此処にハートの形をした花壇を製作することにした。



回りに置くのはレンガや木の柵ではない。


俺が思わずみさとに愚痴ったあの竹だった。



あの竹林の持ち主と準備した物だった。



節から節までを切り、真ん中を斜めに切った。


そうすることで後々有効活用出来ると思ったからだった。



そう……

その切り口で思い付くのは、かぐや姫。

十五夜をロマンチックに演出することだって出来る。



その上。

もう一つのラブイベントにも活用出来るのだ。


つまり、一年に一度男女が会えるイベント。

七夕祭りに使用可能だったのだ。



でも俺は張り切り過ぎて息切れしていた。

明日までには何とかしたいと思っていたからだった。


そう……

明日はホワイトデーだったのだ。


そして今日は、大学の卒業式の予定だった。



みさとには朝早くに行かないと式に間に合わないと言ってある。





 だから、布団の中に俺が居なくても納得してくれると思ったのだ。



みさとが何時此処にいる俺に気付くか解ったもんじゃない。

だから手早く済ませることにした。



竹は余り準備出来なかった。


そこで、中心に一番大きな竹を置いて、花を植えられるスペースを残して、その回りにキャンドル用の竹をハート形に並べた。





 つまり、夜ライトアップする代わりに蝋燭のひでロマンチックな演出をしょうと思ったんだ。


あの人に言われた火の着かない工夫をした後で。



その不燃物材料はすぐ傍にあった。


それは石だった。

小さ目な薄べったい石を竹の中に置く。

たったそれだけだった。





 勿論、今から種を蒔いたのではホワイトデーには間に合いっこない。


仕方なく花屋を訪ねてみようかなとも思っていた。



でも春は、俺を見捨てなかった。


その丘の周りには、沢山の雑草の花が咲いていたのだった。





 菜の花、薺。

仏の座にイヌフズリ。


その他色々なカラフルに咲き誇る春の花。



そう言えばみさとは菫が好きだと言っていた。


華やかでいて控えめなみさとにピッタリな花だ。


俺はハートの真ん中に菫、周りには菜の花で飾ろうと思っていた。





 予定していたホワイトデーの御披露目までには余り時間が無い。


それに何時みさとに気付かれるかドキドキだった。



勿論緑のシートで覆ってはある。



それでも細心の気を配ることにした。





 何時、話出してしまうか昨日までドキドキだった。


どうやら俺は、みさとには嘘が付けない性格のようだ。



卒業して、ずっと家にいるみさとの目を盗むのは並大抵なことではない。



それでも何とか、ホワイトデーの前日を無事に迎えることが出来た。


俺はそれだけでホッとしていた。





 ホワイトデーの朝。

俺はあの場所にみさとを案内した。



緑のシートを外すと、現れた小さな花壇。


そのハートの真ん中の菫にみさとは目を奪われていた。



してやったりと思いながら、おもむろに丘の向こうに手をやった。





 『あっ!?』

思わずみさとが叫んだ。


其処にはもう一つの、俺が仕組んだサプライズがあったのだ。



それは、みさとの母親と俺の父親のツーショットだった。



『お母さん……』


思わず走り出したみさとの手を俺はそっと放した。



喜び勇んでみさとが母の胸元に飛び込む。


俺がこの日に一番見たかった光景だった。





 実は俺は父に頼みごとをしていた。

それは、昨日の大学の卒業式に俺の代わりに出席してもらうことだった。



その流れで此方に来てもらうためだった。



「はい、卒業証書」


親父は俺の顔を見るなり言った。



みさとに出席していないことがばれた。

そう思った。





 「私に会わせてくれるためにお義父様に頼んでくれたのね」


でもみさとはそう言いながら泣いていた。





 ハートの花壇の向こうには、もう一つのサプライズ。


それは愛の鐘だった。



竹林の持ち主と一緒に竹で櫓を組んで取り付けた物だった。





 「親父、此処で愛を誓ってくれないか?」


俺の提案に最初は渋っていた親父は、義母の手を取り二人でその鐘を鳴らしてくれた。



その後でキスをした。



俺達が見ているに……

それはとてつもなく長かった。





 「遠回りさせたお詫びだ。お袋を看取ってくれてありがとう。大切にしてくれてありがとう」


親父は泣いていた。

泣きながら義母に誤っていた。



「お前達もどうだ? 若いんだから俺達より息は続くだろう?」


不意に俺達の方を向いてウインクをした親父。



「ヤだよ。誰が……、乗せようとしても無駄だ」


俺はそう言ってみたが、本当は後悔していた。


みんなの前で堂々とみさととキスが出来るチャンスだったのにと。





 隣町のファミレスでランチ中、親父はこの場合を有効活用してくれることを誓ってくれた。



ハートの花壇と愛の鐘の整備。

そして、駐車場の無料解放。


それは俺が考えた、愛の聖地としてこの地が生き抜くための町お越しのプランだったのだ。



丘の上には休憩所を設けて、パーマカルチャーで作った完全無農薬野菜を販売する。



勿論、新鮮な魚介類もだ。



そして出来れば、又自動車工場も復活させてほしい。


それがきっとこの地に暮らす大勢の人の夢だと思うからだ。





 家に帰ってから俺の作ったホワイトデーの贈り物でイチャイチャするつもりでいた。


忘れられないくらいロマンチックな夜をみさとにプレゼントするためだ。



『あーん』

それを掬ったスプーンをみさとの口元へ近付けると、恥ずかしそうにしながら口を開ける。



俺はゆっくりと運びながらみさとが口を閉じた瞬間を狙った。



それを食べさせ甘くなった唇を……


俺の唇で塞ぐ。



息が出来なくなるほどに口付ける。


みさとは堪らず唇を小さく開いくだろう。


甘くなった唇が俺の唇でより一層甘くなる。


それはみさとに愛を贈るためだった。

それと……



『ジン……お願い抱いて……』


そう……

それは又あの言葉を言わせるための作戦だった。





 「あーん」


俺は思い出した通りに実行に移した。


俺の言葉と態度にみさとは驚いたようだったが、大人しくそれに従った。



恥ずかしそうに俯きながら……

それでも目だけは俺を見つめて小さく口を開いた。



みさとの口にそれを入れた後……

いよいよ、俺の企みを試す時だ。



俺はすかさず、みさとの唇に唇を押し付けた。


みさとが頬ばったマシュマロが俺の唇で甘く溶けていく。



そう……

俺が準備したのは、口に入れるとじんわり蕩けるマシュマロだったのだ。



「俺の愛でみさとを甘くされてやりたかったんだ。でも、俺もみさと以上に甘くなりたかった。それにはこうすることが一番だと思ったんだ。みさと愛している」


俺は又みさとの唇へ唇を戻した。



みさとが又あの言葉を囁いてくれることを期待しながら……





 ホワイトデーのお返しのマシュマロでみさとといちゃついていたら、本社に着いたと親父から連絡があった。


その時、俺のアイデアが採用されることになっから明日東京駅まで来てくれと言われた。


早急に愛の鐘を造らなければならなくなった。そんな内容だった。



俺は早速漁業組合へ連絡を入れて、休みを貰った。



青春十八切符を手配を済ませ、最寄り駅から電車に乗った。


何度か往復するかもしれないと思ったからだった。





 でも、駅まで行って驚いた。

迎えに来ていたのが橘遥さんだったからだ。


橘遥さんはずっと行方不明になっていた、親父の会社の社長さんの娘だったのだ。



俺は橘遥さんを雇っていた監督の詐欺罪の追及に力は貸した。

詐欺罪、窃盗罪、強姦罪の刑事犯罪の時効は共に七年。


橘遥さんはアラサーの二十八歳だった。

二十歳の誕生日にグラビア撮影で呼び出された彼女は、何も知らされないままに拘束されてAVを撮影されたらしい。



俺はあのスタジオで橘遥さんに憐れを感じた。

だから、携帯を畳んだのだ。


あの時もし警察を呼んでいたら……

きっと彼女も逮捕されていたかも知れない。


彼女にとって、良かったのか悪かったのかは解らない。


でも逮捕されていたら、きっとずっと本当の父親には会えなかったのではないかと思った。



一番訴えて遣りたいのは既に法の網をかい潜っていた。


でも、詐欺罪だけは違うようだ。





 場合にもよるらしいが、騙された案件が終了した時点から見ることもあるらしい。



監督は、橘遥さんが以前所属していた事務所へ行ったおりに、シュレッダーに掛ける前の橘遥さんのご両親の借用書と体長管理表を盗んでいたのだ。



もう既に完済されている借金。

それを肩代わりしたから身体で払えと脅されていたのだった。



悪質だったから監督は逮捕されたのだ。



やがて、数々の悪行が暴露されていくのだろうと思った。





 親父は電話で、あの愛の鐘を建設することになったと言っていた。


嘘だと思った。

昨日お披露目したばかりだから信じらる訳がないのだ。



でも後日担当者からアイデアを聞いて、更に耳を疑った。


その鐘が神父様のいないチャペルの一部にするらしいのだ。



つまり、二人だけで愛を誓う場所になるようだ。



其処にあるのは、小さな写真スタジオ。

それを橘遥さんの旦那になる人に任せるそうだ。



その人は橘遥さん専属のカメラマンで、今回のプロジェクトの担当者だそうだ。


でも、あのハロウィンの悪夢で会った人ではない。


監督は、全ての罪が時効になったことで彼を解雇していたんだ。



其処まで性根が腐っていたんだ。

俺は今更ながらに、監督の悪行に怒りを覚えていた。


でも、本当はその監督にも辛い真実があったのだ。



橘遥さんには絶対に言えない、物凄い秘密が隠されていたのだった。



監督は親父の会社の社長とは古い付き合いで、橘遥さんの産みの母とは恋人同志だったのだ。


社長が横恋慕して、監督の恋人を取材で戦地に行っている隙に奪ったらしいんだ。



それを聞かされた時、俺の母親を死に追いやったみさとの実父を思い出した。



監督は現地で高熱に苦しんでいた。

やっとの思いで帰国したら、恋人は社長の子供を出産していた訳だ。



だから……

橘遥さんは、監督にAV女優にさせられたのだ。



自分が愛した恋人と同じ顔をした橘遥さんを……





 橘遥さん夫婦はその後も其処で暮らすと言う。


つまり、俺達の住んでいる場所が彼女達の新居になる訳だ。



「早速みさとに……」


そう言ったら止められた。

みさとを驚かしたいそうだ。



「よし、又サプライズだ。実はみさとの誕生日が四月一日なんです。それまでになんとか完成させてみます」

俺は結局安請け合いをしてしまっていた。





 勿論無理難題に決まっている。

でも俺はみさとを驚かしたいんだ。



そして……

喜びの涙を流させてやりたい。


その日にみさとが最も気に掛けていた、橘遥と再会させたくなったんだ。





 「ありがとうございます。私もあの娘を驚かせてやりたい」


橘遥さんはそう言った。

その時思った。


橘遥さんの結婚式を其処で挙げてしまおうと。



橘遥さんが親父の会社の社長令嬢だったなんて、みさとはきっと驚くぞ。


俺はワクワクしながら、又自転車で走り回ろうと思っていた。



そして驚いたことに、入社式も其処で行うことになったのだ。


愛の鐘をアピールするためだった。





 『申し訳ありません。お嬢様に深い傷を与えてしまいました』


社長室に通された直後に彼は土下座をして謝ったそうだ。



『いえ、誉めて上げてください。この子じゃなければ見付け出すことは出来なかったと思います。彼女の心を助けようと、彼女を育児放棄した人を探し出そうとしたから……』


彼の母親はその日、橘遥さんの皮肉な運命を嘆いたようだ。


そして、全てが二人を結び付けるための軌跡だと知って、彼を擁護したのだ。



その後俺の親父が呼ばれ、愛の鐘を造作することが決まったみたいだ。





 彼からのプレゼントは指環だったそうだ。



それを買うために一生懸命アルバイトしたんことを知った社長は、彼のためにスタジオをプレゼントしようと思ったようだ。





 俺はその時チャンスだと思った。


それこそ町起こしにピッタリだと感じたのだ。



実は彼にはある企画があったのだ。


それは……


鐘を突いて永遠の愛を誓った二人の記念撮影。

神父様の居ない、二人だけのチャペル。


そんな愛の聖地としての提案だった。



もし口コミで認知されたら、過疎も解消されるかも知れないと思った。



俺はそのきっかけして貰えたらと、入社式も其処でやってもらえないかと提案した。



橘遥さんは社長の一人娘だそうだ。

将来的には、お婿さんが会社を継ぐかも知れない。


だから二人の結婚式をあの愛の鐘でと考えた訳だ。



大きな会社の入社式なら、きっとマスコミも注目すると思ったんだ。


でもこれが浅はかだとすぐ気付いた。


橘遥さんが静かに暮らせなくなる。

そう思ったんだ。





 出来上がった愛の鐘。

最初に鳴らしたのは橘遥さんだった。



四月一日。

エイプリルフールの日だった。

完成記念祝賀会が、自動車会社の入社式会場で執り行われた。



そう……

入社式はやはり此処だったのだ。



除幕式の幕の中で橘遥さん夫婦にはじっとしてもらっていた。


だって俺、どうしてもみさとを驚かせたいんだ。


橘遥さん達も同じ気持ちだったようだ。


だからスムーズにことは運んだんだ。





 俺とみさとさんが幕を引く。


その瞬間、二人はキスの真っ最中だった。

目が合って……

みさとが固まった。



呆気に取られてるなと思った瞬間、我が作戦の勝利を感じた。





 「もう、意地悪……」


案の定みさとさんは泣いた。

笑いながら泣いていた。



「さあ、愛の鐘を鳴らそう」


俺は笑いこけながら言った。





 俺が仕掛けたのは、橘遥さんの結婚式だったのだ。



でも一組だけでは勿体無い。


ついでに……

みさとさんと俺。俺の親父とみさとのお袋。

合計三組による合同結婚式にしてしまったのだった。





 でも更にサプライズは続いた。

大きなシートの下から現れたのは、写真スタジオだったのだ。



僅か二週間で作り上げたとは思えないほどしっかりした造りだった。


それは社長からの感謝の表れだった。


行方不明になっていた娘を探し出してくれた娘婿への恩返しだった。





 一番奥の部屋には、椅子だけ用意した。


思わず、二人は顔を合わせるだろう。



『誰かに話した?』


きっと二人同時に言うに決まっている。



話した訳ではないよ。

俺の地獄耳だ。

八年前のあの日二人が初めて結ばれたスタジオに置いてあった物と同じだ。



俺はしてはいけないことをした。

弟から、デビュー作品を借りて見たんだ。



彼女は、ヴァージンをその椅子で奪われていた。

監督に騙されて、連れて行かれたスタジオで無理矢理に……



本当なら見るのもイヤなはずなのだと思う。


でも俺は、それを敢えて置いてみたんだ。


本当は彼とその場所で結ばれたかったと知っていたから。



もう一度……

キレイだった身体になれればいい。


でも彼女はそのままで充分キレイだった。


橘遥さん夫婦は……

俺とみさとのように、永遠に愛を紡いで行くだろう。


この小さな田舎町で……






続きは最終章です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ