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無垢・Age17  作者: 美紀美美
1/13

ハロウィンの悪夢

新宿駅前で拉致された少女はその日に上京してきたばかりだった。

 ――ビリッ!!


何かが破れる音がする。

それが何だか判らない。


でも、それでふと我に帰ることが出来た。



なのに……

目を開けても何も見ない。



(――えっ!?


――此処何処?


――今の何?)



――ビリッ!!


又音がする。


それは私の耳元で聞こえていた。

何が何だか判らないから恐怖心が先に立つ。


私は一瞬にしてパニック状態に陥った。



 ――ビリッ!!


三度目の音で、私はやっと自分の状況を判断することが出来た。



(――あっ、洋服だ。


――買ったばかりの洋服が破かれている!?)


何が何だか判らずにきょとんとしながらも、焦っていた。



それがどんな状況なのか田舎者の私にだって解る。



(――えっー!?

マジで?


――嘘でしょ。


――たちの悪い冗談はやめて!!


――それとも本気?


――あーぁ、私はどうしたら良いの?)



私はあれこれ考えながらただ震えることしか出来なかった。



 (――何? 何?


――この状況は何?)


それでも私は冷静になろうと努力した。


何が何だか判らない。

でも何か遣らないといけないと思ったのだ。



感覚を研ぎ澄ませる。

すると何が……

胸元にあたる気配を感じた。



(――えっ!?

やはりブラか?)


思考回路は絶不調。


でもそれは、私に恐怖心なるものをもたらせた。



何んでこうなったのかも判らないから、手当たり次第に抵抗してみる。

でも一向に止める気配は無かった。





 ――ビクッ!!


それは突然訪れた。


まるで稲妻に撃たれたように背中から全身に戦慄が走る。



「もう感じているのか? 流石いい身体してる」


誰かが何かを言っている。


そして又、胸元に触れる何か……

柔らかくてそれでいて尖った物だった。

私は衝撃に耐えようとして体を仰け反らさせた。



(――あーぁ、舌だ。

舌に違いない。


――今乳首を舐められたんだ。



――もしかしたらさっきのも?)


頭の中でぐるぐる思考が駆け巡る。

悪い方向へと持って行かれそうになる。



(――イヤだよ。

絶対にイヤだ!!)


声に出して叫びたい。

でも、恐怖心が先にたって上手く発声出来なかった。



それでも私は最後の抵抗を試みようと体をおもいっきりひねった。



その途端、私を押さえつけようとして複数の手が体にまとわり付く。


それでも必死で体を捩り続けていた。



 それでいて、心の中では落ち着こうと努力する。

でも出来る訳がない。


私の頭は更に混乱していた。



「い……」

それでもやっと……、一言だけ声が出た。

頭の中で整理が出来た訳じゃない。

何か言わないと遣られると無意識に判断したのだ。



「い……、イヤー!!」

そして、その一言は次の言葉に繋がった。


これで安心なんて出来る訳がない。

でも必死に状況を判断しようとしていた。



(――私は今襲われている?

私の体には数本の手がまとわりついている?

洋服が脱がされようとしている?)



でも……それはそう感じているだけ。

本当は何も見えない……


何故見えないんだろう?

目でも瞑っているのだろうか?

だから思いっきり目を大きく開けてみた。

それでもまだ見えない。


薄暗い……


でも微かに感じる光。



(――あっ、目隠しか?)

私の思考回路はやっと其処に落ち着いた。



でもその途端再度恐怖心に襲われる。


此処が何処だか、何人いるのかも判らない。

ただ肌にあたる感触は、複数居ると判断していた。





私は有無を言わせないうちに車に連れ込まれたのか?)


私は拉致された車内で明るい光を感じていた。



(――あれは撮影用のライトか?


――あー、だとしたらあのまま有無を言わさす乱暴されていたのかも?)

そう考えた途端、悪寒が走る。



「えーもしかしたら?」

私は全身に震えをきたして又腰を抜かしていた。



(――もしあのままだったら、私はお嫁に行けなくなるとこだったんだ)


田舎の人は口煩い。

噂話しも一日あれば充分なほど広がってしまうから。



私は改めて助けてくれた人を見た。



一人の男性が其処で立ちはだかってくれたから私は無事だったのだ。


でもアイツ何者?

ド派手な衣装はやはり似合わない……。



でも、そんなことより今の現状は……

やはり怖い。

怖くて怖くて仕方ない。

私は未だに泣きじゃくっていた。





 「良かった。無事で」


号泣している私が、落ち着くまでアイツは待っていてくれた。



「俺は兄貴の友達で、歌舞伎町でホストをやっている者だ。俺が話し掛けたからこんなことになってしまった」


それでも待ちきれず語り始めた。

全てが自分の責任だと言わんばかりに。



(――違う、アンタが彼処を通ったからじゃない。一番悪いのは、コイツらだ!!)

私は現場にいた五人を睨み付けていた。


監督とカメラマンと俳優陣。

其処には確かに五人いたのだ。



「本当に良かった。もし何があったらと気が気じゃなかった」

アイツはそう言いながら立ち上った私のスカートの裾を払ってくれた。




 頭は完全にパニック状態に入っていた。



(――レイプ!?)


そう思えるまで大した時間はかからなかった。



(――ヤバい!

ヴァージンが奪われる)


その途端、又もや襲って来る恐怖心。

私はがむしゃらに抵抗するしかなかった。



(――さっき乳首だった。


――えーっ次は?)

その恐ろしい考えに全身に震えが来る。


私はそれでも何とかしようと頑張った。



とりあえず体にあたる手を数える。


合計……、六本。

つまり、三人か?


パニクってる頭で何を考えているんだろ。


そんなことより今は精一杯の抵抗。

私に出来ることはそれだけだった。


多勢に無勢……

無駄な努力かも知れないけど。





 場所は……判らない。


多分新宿の何処か……


私はさっき、新宿駅東口前で拉致されたばかりだったのだ。



何がどうなっているのかさえも判らない。

私は何故こんな場所にいるのだろうか?



体を捩りながら必死に抵抗をする。

だって、こんな男達にくれてやるためにヴァージン守ってきた訳じゃない!!



でも本当は守った訳でもない。

過疎の進んだ田舎だから若い人がいないだけ……



そう……

私はそんな場所から、今日初めて東京に出て来たんだ。





 私の田舎は海に面した村落。

父は漁師で私が小さい時に沖合いで死んだらしい。


大型客船が方向性を失って、父の船に突進して来たようだ。


でも、命の代金は多額ではなかったらしい。



だから母は海鮮工場で働きながら、女手一つで二人の子供を育ててくれたんだ。



最近、東京の大学に通っている兄貴に恋人が出来たらしい。

私は密かにそれを探りにやって来たのだった。

兄貴ったら何やってるんだろう?

母が一生懸命貯めたお金で勉強させて貰っているのに。



でもそれを言うなら私だ。

何故私は此処にいるのだろうか?


私にまとわり付いた手は容易に外れない。

私は半ば諦めかけていた。





 イヤだ……

こんなトコで……

何処だか判らないけど絶対にイヤだ!!



私は何故こんな場所に居るのだろうか?



体を捩りながら頭の中で整理する。

今の私のおかれている状況を。



(――多分此処はベッドの上だ。


――コンクリートか何かだったらもっと痛いはずだから)


腰にあたる感覚はそう結論付けた。



(――ってゆうことは?

まともな人達?


――んなことある訳ないよ!!)


バカなこと考えるもんだと自分で自分を笑う。

でもその途端に気付く。



(――そうか監禁か!?


――良く小さな女の子を変質者が……


――あれっ!?


――私小さな女の子か?)


ふとそんな思いにかられた。





 (――やっぱりレイプか!?

そうなのか?)


怖い……

やはり怖過ぎる……

私は何故此処に連れて来られたのだろう?



思考回路は絶不調。


それでも脳ミソ全開で考える。



あれは確かに東口前……


グイッと、突然腕を掴まれたかと思うとそのまま背後から抱き付かれた。


首元から回された大きな手が私の口を塞ぐ。



『良し行こうぜ』

一人が言った後部座席に引き摺り込まれた。



私は抵抗さえ出来なかった。


さもなければその場で殺されたのかもしれない。


第一、か弱い女子高生にはねのける力なんかある訳ないだろう。



私は神野じんのみさと。

高校三年生、十七歳。

まだ無垢だった。

そう、全てにおいて……





 怖い……

やはり怖過ぎる……

私が何をしたと言うの?


あぁ……神様教えてください。



私は何故此処に居るのだろうか?


でも今はそんなこと考えている場合ではない。

ただ一生懸命逃げる手段として手足をばたつかせて抵抗するだけだった。



その手が一人の男性に当たった。

手の甲に感じた違和感がそれを教えてくれた。

髭らしい、チクりとした感覚だった。



一瞬怯んだらしいソイツは、私の手を掴んだ。



その途端、目隠しが少しズレて、隙間から男達の顔が見える。


口元から涎が滴り落ちていた。

それは良い年こいた男ばかりだった。



(――ヤだ。こんな男じゃヤだ!!)

私はもっと激しく抵抗した。






 (――神様ひどいよ。どうせならもっと格好いい人なら良かったのに)


そんなこと考えながら頭を振る。



(――どんな人だって絶対にヤだ!!)

私は駄々っ子のように体を揺さぶった。


その拍子に掴まれた手を振り払うことが出来た。


自分自身が押さえられなくなり、目の前にいる男の顔を叩く。


その途端。

見る見る顔色が変わり、再び手を拘束された。



(――ヤバい!!

ってゆうか……

手首が痛い!!)

私は半べそになっていた。



(――諦めるしかないのかな?


――でも、ヤだ!!


――絶対にヤだ!!


――お願い誰か助けて!!)





 その時祈りが通じたのか、私の体から手が離れて行く……。



(――えっ、何が起こったの?)


何が何だか判らない。

でも嬉しかった。


体に感じる男性の気配が遠退いたことが。



(――あぁ神様ありがとうございます!!)


私は嬉しさのあまりに興奮していた。



「この子がこんなにイヤがっているじゃないか!!」

誰かが叫んでいる。


私はその人を見るために自ら目隠しを外した。



その声の方向を目を向けると、一人の男性が其処に立ちはだかってくれていた。



大きく広げられた腕は、まるで私を後ろに隠すように……


頼もしいガッチリした背中が其処にはあった。





 正直助かったって思った。

でもアイツ一体何者?

ド派手な服で決めているけど全然格好良くない。



「ありがとうござい……」

そう言いたい。

でも恐怖のあまり声が出なかった。



アイツはまるでピエロのような衣装を着ていた。


赤い大きな水玉模様なんて、それ以外には考えられない。



(――何かチンドン屋さんみたい)


失礼だと思う。

命の恩人をそんな風に例えるなんて。


でもそれしか考えられなかったのだ。


それほど私はアップアップしていた。





 「カー、ットー!!」

突然声がかかって、辺りが明るくなった。



(――な、何なんだ?)


私は呆然としていた。



「あれっ!?

監督この子違いますよ」



(――ん!? 監督だー!?


――それって何者!?)





 結果的に解ったこと。

此処はドラマか何かのの撮影現場で、私は女優と間違われたらしい。



(――私って美人だからかな?)


てなこと思いつつ頭を振る。



(――そんなこと遣ってる場合ではない。


――ったく。

監督は一体誰なんだ!?)


私はキョロキョロ辺りを見回した。



「すまん、すまん」

監督らしきヤツは頭を掻いていた。



「新宿駅東口前のイベント広場で同じ服装の女優さんと待ち合わせしていた」

そんなこと言った。


でもいきなり車に連れ込まれて……

その上監禁されてレイプだなんて、どんな言い訳されても私には通じない。



「怖かったんだから」

私はそう言いながらベッドから降りようとした。

でも腰に力が入らない。


私はへなへなとその場に崩れ落ちた。





 私はその勢いで床にカエル座りになった。


私はそのまま、地べたでもがいていた。


足に力が入らないんだ。

いくら頑張ってもダメなんだ。



(――腰が抜けた!?)


やっとそのことを意識した。


勿論始めての経験だった。


手に力を入れて立ち上がろうとしても駄目。


ましてや足は尚更のことだった。



私はその場で号泣した。



やっと男達から解放された安堵感が私にそれをもたらせたのだった。





 結局私は人違いされて此処に連れて来られたのだった。


私は兄貴と新宿駅東口前で待ち合わせていた。


田舎なら馬の水飲み場かなか?

何故かチェーンが張り巡らされていたが、とにかく形の変わった茶色の物の前だった。



でも其処に行ってびっくりした。

何時もお昼にテレビで見る景色が目の前に広がっていたから。


私はただ見とれていたんだ。


其処へ車がやって来て、私は拉致されたのだった。



それがつまり……

恥ずかしくて言えないタイトルのビデオ撮影だったのだ。

私は寸前で助かったけど、本番まで行く予定だったらしい。



拉致監禁そして三人による代わる代わるの……。

それがテーマだったようだ。

だから私はいきなり車に連れ込まれた訳だ。


それは女優さんとも打ち合わせ済みだったそうだ。



『ハロウィンの悪夢・拉致、監禁そして〇〇〇』


だから今日、撮影が行われたなわれた訳だ。


十月三十一日。

私はこの日がハロウィンだと言うことを知らずにいた。

田舎には殆ど無い行事だったのだ。





 「いやー、本当に申し訳ないことをした。悪く思わんでくれ」

監督は手を顔の前で合わせてた。



「つまり訴えるな。ですか?」

私がしゃくり上げて泣いていたから、アイツが代わりに言ってくれた。



「まあ、さくく言えば」

監督は開き直ったように言った。

でも次の言葉にアイツはキレた。



「良いだろ、減るもんじゃあるまいし……」


それはアイツを激怒させた。


拳を丸めて攻撃体制に入っていた。



「待ち合わせ場所の近くに同じ服を着た人がいたから間違えたんだよ」


監督はアイツから逃げるように走り出した。





 (――そうか?

だから彼処から撮影が始まり、私は有無を言わせないうちに車に連れ込まれたのか?)


私は拉致された車内で明るい光を感じていた。



(――あれは撮影用のライトか?


――あー、だとしたらあのまま有無を言わさす乱暴されていたのかも?)

そう考えた途端、悪寒が走る。



「えーもしかしたら?」

私は全身に震えをきたして又腰を抜かしていた。



(――もしあのままだったら、私はお嫁に行けなくなるとこだったんだ)


田舎の人は口煩い。

噂話しも一日あれば充分なほど広がってしまうから。



私は改めて助けてくれた人を見た。



一人の男性が其処で立ちはだかってくれたから私は無事だったのだ。


でもアイツ何者?

ド派手な衣装はやはり似合わない……。



でも、そんなことより今の現状は……

やはり怖い。

怖くて怖くて仕方ない。

私は未だに泣きじゃくっていた。





 「良かった。無事で」


号泣している私が、落ち着くまでアイツは待っていてくれた。



「俺は兄貴の友達で、歌舞伎町でホストをやっている者だ。俺が話し掛けたからこんなことになってしまった」


それでも待ちきれず語り始めた。

全てが自分の責任だと言わんばかりに。



(――違う、アンタが彼処を通ったからじゃない。一番悪いのは、コイツらだ!!)

私は現場にいた五人を睨み付けていた。


監督とカメラマンと俳優陣。

其処には確かに五人いたのだ。



「本当に良かった。もし何があったらと気が気じゃなかった」

アイツはそう言いながら立ち上った私のスカートの裾を払ってくれた。





 新宿駅西口から少し行くと暗いガードがあって、下を潜るとその先に歌舞伎町はあると言う。


だから何時もは、ホストとして仕事へ向かうために其処を通っているのだそうだ。


でも偶々今日は、反対側にあるにある店に寄ろうとしたのだそうだ。


その時兄貴を見つけて声を掛けたって訳だ。



私だって歌舞伎町の名前位知ってる。

でもまさか、新宿駅のすぐ近くにあったなんて知らずにいたのだ。





 兄貴が来るまでアイツは震える私の体を抱き締めてくれていた。



(――ヤバい……

こんなトコ兄貴に見られたら何言われるか)


そう思い、体を離そうとした瞬間。

髪から、服から良い香りが漂う。



(――流石ホスト)


自分でもうっとりしているのが判る。


さっきまでの気持ちとはうらはらに、衣装までがかっこ良く思えていた。





 「ごめんごめん」

そう言いながら兄貴が転がるように入って来た。


見ると、兄貴の息は上がっていた。



ハァハァと肩で息をする兄貴の傍らで、アイツは優しそうな眼差しを私に向けてくれていた。





 やっと平常心に戻った兄貴は、監督の元へ歩み寄って行った。



「貴様、俺の妹に何てことしやがる!!」

でも兄貴は、まだ興奮していた。



良く見ると、兄貴の隣には私とそっくりな服装をした女性がいた。


私達が待ち合わせていた新宿東口駅前。

其処で監督達も待ち合わしていた。

それが騒動の発端だった。



兄貴はその手前で同郷の友人に話し掛けられた。


だから私が連れ去られて行くところを目撃したのだった。

友人は近くに止めてあったバイクで追跡。

兄貴は置いてきぼりの女優と撮影現場を目指したと言う訳だった。





 「良かったみさとちゃんが無事で」


アイツは私の名前を呼んでいる。


でも私は興奮していて気付かなかった。



「本当に馬鹿だな俺は」

アイツはそう言いながら今度は自分の服の汚れを払っていた。



「目の前でみさとちゃんが連れ去られて行くのを見ていながら気付かなかったんだ」


アイツは新宿駅前をバイクで走行中、兄貴を見つけ嬉しくなって思わず声を掛けたらしい。


そのせいで私が連れ去られと思っていたのだ。



まぁそれで大半は当たってはいるけどね。





 女優さんの言うことには、田舎から出て来てキョロキョロしている役作りをするはずだったららしい。

だから敢えて質素な服装だったのだ。



私の思いは複雑だった。



(――つまり私が田舎者丸出しだったから間違われたのだろうか?)

改めて女優さんを見てみて納得した。

それは本当に、誰が見ても……


私の田舎にいても違和感がない格好だったのだ。


それでも……

これでも、精一杯お洒落したつもりでいたのに。


でも同じ東口には違いないが、ライオンの前だったようだ。


そう言えば、イベント広場の脇にあったのを思い出していた。



 「えーっ!?

もしかしたらAV女優の橘遥さん? 俺アンタの大ファンです」

兄貴が突拍子のない声を上げていた。



「さっきから、何処かで会ったか考えていたんだ。雰囲気全然違うから解んなかった。この人に間違えられるなんてお前光栄だぞ」

兄貴はそう言いながら私に目配せをした。



(――ん。

母には言うなってことかいな? 当たり前だ。誰がこんな話しするか)





 「この子は今日始めて東京に来たんだよ。そんな子を拉致してレイプしようなんて……、俺は絶対に許さない。これから警察を呼ぶから此処から逃げないように」

でもアイツはそう言いながら携帯電話を出した。



「あっ、それだけは。ホラ監督も謝って」

橘遥さんはそう言うと、監督の頭を下げさせた。



「貴女が、其処まですることはない」


兄貴はそう言いながら私に又目配せをした。




(――ん。

母には言うなって念押しか? 当たり前だ。誰がこんな話しするか。だって怖くて、話したら……)


そうだよ。そんなこと言ったらもう東京には出してもらえなくなる。

今日此処へ来た本当の訳は、就職先探しだったんだから。


でも、そんなことより今の現状。

本当はまだ泣きじゃくっていたい心境だった。



(――本当に、本当に怖かったんだから!!)


そんな思いをぶつけようと、私は又監督達を睨んでいた。



「トリックオアトリートか?」


アイツがこそっと言った。



「えっ!?」

私にはその意味が解らなかった。



「ハロウィンの日の子供達の言葉掛けだよ。『お菓子をくれなきゃ悪戯するよ』って意味だ。でも今回は度が過ぎている」


アイツは監督を睨み付けながら言った。



「ハロウィンって言うのは元々ケルト人のお祭りで、お化けの格好をして悪霊や悪魔を追い払う行事だったはずだ」


アイツの言葉を聞いて思い出した。



「ハロウィンと言うのは供達のお祭りじゃなかった? トリックオワ何とかなんて……そんなイメージ強いんだけど?」



「確かに。でもそれを大人が恐怖に変えた。言動の自由。表現の自由と言ってしまえばそれまでだ。でも……だからと言って、何をしてもいいってことじゃない」

アイツは私を気遣いながら優しく語り掛けていた。

 「良かったみさとちゃんが無事で」


アイツは私の名前を呼んでいる。


でも私は興奮していて気付かなかった。



「本当に馬鹿だな俺は」

アイツはそう言いながら今度は自分の服の汚れを払っていた。



「目の前でみさとちゃんが連れ去られて行くのを見ていながら気付かなかったんだ」


アイツは新宿駅前をバイクで走行中、兄貴を見つけ嬉しくなって思わず声を掛けたらしい。


そのせいで私が連れ去られと思っていたのだ。



まぁそれで大半は当たってはいるけどね。






歌舞伎町のホストは兄貴の友人だと言った。

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