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鳥人間  作者: 正坂夢太郎
旧い記憶
3/22

第三羽 「歩くたま」

 次に私は、たまの為に、小さな巣を作った。枝と葉を森から集めてきて、崖の窪んだところに、簡単なベッドを作ってやった。完成した小さなベッドを見て、私は懐かしさを感じた。

 たまはベッドを見るなり、ベッドにダイブした。たまにはシッポが無いので、嫌がっているのか喜んでいるのかは判らない。けれどもたまは、すぅすぅと柔らかな寝息をあげて、幸せそうに眠りに就いた。私もその隣で、冷たい岩の地面の上で、寝た。


 ◇◆◇◆


 たまが森にやって来て数日が過ぎた。たまは元気が戻ってきたのか、私にしきりと話しかけてきた。しかし私は、鳥以外の動物言語は理解できないので、たまをただ見つめ返すことしか出来なかった。たまは私に、何かを伝えたいようだった。

 その日の夜、たまは自分のベッドから出て、私にすりよって来た。いつもと同じように、冷たい岩の地面の上で眠っていた私は、たまが体調を崩しては大変なので、たまを葉っぱのベッドへ戻してやったけれど、たまはその都度ベッドから出て私にすりよった。ついには私が根負けし、たまの小さいベッドに翼を押し込めて眠った。

 たまは嬉しそうに鳴いた。



 ◇◆◇◆

 4

 次の日。

 朝起きると、たまはベッドの上にいなかった。

 胸騒ぎが私を襲う。刹那、私は三日ほど前に、鷹が話していた内容を思い出した。

『お前、何なんだ、あれは』

 鷹が言った。私は首をかしげる。

『あの生き物だよ。お前が最近、連れて歩いてる』

 たまのことだ。

『お前、調子に乗ってるんじゃあないか』鷹が爪を私の胸に突き立てる。

『元々おれたちはお前を快く思ってないんだ。得体の知れない化物がやって来て、俺達を殺しに来た、なんてことを、雀や烏達なんかはしきりに言ってる。これ以上この森の平和を妨げるようなら』

 一息置いて、鷹は続けた。

『お前もアレも、喰い殺すぞ』

 途端、私の鼓動が速くなる。脈打つ血が、私の翼を赤くする。鷹が私にそういう風に言っていたのは、彼の親切心からだと重々承知していたし、鷹は私を傷つけたことは一度も無い。けれど…

 もし鷹がその一線を越えたら。

 森のリーダーとして、私達を外敵と見なし、実力行使をしたら。

 寝込みを襲って、弱いたまの方から先に、手にかけたとしたら。


 た



 ま



 が



 殺



 さ



 れ







「ギャアァァァァァアアア!」

 私は、二年振りの声を発した。鳥の声でも人間の声でも無い、悲鳴。

 たまを探さなくては。

 私は洞窟を飛び出し、辺りを見回した。

 たまの匂いがする。

 私はその匂いの方向へ飛んだ。勢いをつけすぎて、身体が不安定に傾く。下に傾いた左翼が、尖った木の枝に引っかかり、羽と共に紅の鮮血が飛び散る。

「ギッ」

 私は痛みをこらえ、森の樹上より上に舞い上がる。

 無我夢中でたまの匂いの跡を辿る。たまの匂いは森の中をぐるぐると回り、同じところを行ったり来たりしている。私はそれの跡をつけた。

 たまの匂いが途切れたところで、私は翼を止め、舞い降りた。たまと初めて会った場所、森の開けた部分だ。

 慎重に歩みを進める。開けた部分と言っても、所々には木が生えていて、鷹や他の動物が隠れられそうなところは沢山ある。どこかで鷹が私を狙っているに違いない。

 パキ、という、枝を踏み折る音が響く。素早く振り向くと、そこにたまがいた。私は安堵し、溜め息を漏らす。

 たまは私を見上げると、踵を返し、歩き出した。

 私はたまの後を追う。一体どうしたのだろう。たまは私を振り返ることなく、ただ真っ直ぐに歩き続ける。


 ◇◆◇◆


 たまと私は、例の川へ着いた。たまは川へ入り、ゴロンとうつ伏せになったり仰向けになったりして、水と戯れる。

 たまに釣られて、私も川へ入った。たまが体躯を震わせ、私に水を掛けてきたので、私も水を掛け返す。そうやって、数十分ほどたまと水の掛け合いをしていると、たまが急に川から上がり、歩き出した。私は慌てて後を追う。

 たまと私の汚れた体は、いつの間にか綺麗になっていた。


 ◇◆◇◆


 たまはどんどんと山を下りていく。私はたまを見失わないよう、必死で追いかける。

 たまと私は、山を下りたすぐ近くにある、寂れた農村へと辿り着いた。先日、私が芋をくすねたところだ。

 たまは芋畑から、直接民家へ侵入した。私も恐る恐るたまに続く。民家には至るところに蜘蛛の巣が張り巡らされ、数多あまたの昆虫類や爬虫類、ねずみなどの哺乳類までもが跋扈ばっこしていた。

 たまは民家の押し入れから、コートと手袋、長いズボンとブーツを取り出してきた。私の前にそれらを並べ、ちょこんと座り込む。ちょうど、“お座り”のような体勢だ。

 着ろ、ということだろうか。

 私はそれらを着る。少々大きく、裾や袖の布が余るが、着れない程のものではない。肌に直に触れるコートやズボンは、少しだけかゆかったけれど。

 私がそれを着たことを確認すると、たまは民家を出て、また歩き出した。


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