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第一羽 「鳥人間」
鳥人間
プロローグ
私には、翼がある。
羽の生えたその翼で、私は空を翔ぶことができる。
木の天辺から翼をはためかせ、思いきり踏み出せば、瞬く間に私の体躯は空を駆ける。自由に飛ぶ鳥たちと同じように、空を旋回し、風を感じ、空飛ぶ虫を喰い、糞を垂れる。
ただその鳥たちと異なる点は、私が元々は人間であったということである。今ではそんなことは記憶の隅に押しやられ、忘れかけていることだが、人間の頃の習性――翼で背中を掻いたり、尻を草で拭いたり、耳掻きをしたり――は、忘れていない。その都度、私は、胸の奥で何かが疼くのを感じるのだが。
どうして私が人間から鳥になったのか、その理由は定かではない。鳥になったといっても、外見的特徴において、翼以外に人間と異なる点は無いのだから、鳥人間、と言った方が妥当であろう。ともかく、鳥人間になった理由は覚えていない。そのことは重要でないのだ。
この物語は、私が鳥人間になった二年後、人間の歳で言うと十九の時に起こった、ある小さな事件をきっかけに始まる。