天才の血を継ぐもの
9回裏2死満塁、同点、一本ヒットがでればサヨナラ、チームはリーグ優勝だ。
「9番ピッチャー佐々木に変わりまして・・・杉本、背番号41」
僕はまだ詳しくルールは知らなかった。でも大事な場面というのは分かった。
「さぁ、この大事な場面、杉本は打つ事ができるのか!!」
ピッチャーは当時、大魔神と呼ばれていたロビンソン。
急速160km近い球を投げる絶対的守護神だ。
僕は汗を浮かべながら心の中で打て、打てと願っていた。
ガァァァン!!
その瞬間球場全体が静まり返った。
彼はロビンソンの球を打つ事ができなかった。
しかし彼のチームは勝利した。
一人のプロ野球選手、そして僕の父親の命を代償に・・・・・
杉本 哲人 背番号41
頭部へのデッドボールで死亡。 28歳だった―――――
ピピピピッ、ピピピピッ
枕元で目覚まし時計が鳴り響いている。
「もぅ朝か・・・・・」
「佑斗~もう起きなさい、初日から遅刻はシャレにならないわよ~」
リビングの方から母の声が聞こえる。
「今いくよ~」
今日は待ちに待った入学式、今日から高校生だ。
「えぇ~みなさん、ご入学おめでとうございます、あなた達は・・・」
校長先生のあいさつが終わり各自教室に向かった。
この学校 白桜学園 は1年~3年まで各9クラスあり学力も普通平凡な高校だ。
ちなみに僕は1年3組。
「私がこのクラスの担任の柴咲です、よろしくお願いしますね」
まさにおっさんと言う感じの男だ。
中年太りの体にメガネ、髪の量は、まぁハゲではない。
「明日からは授業が始まります。今日はもう学校は終了ですが
部活見学など自由にしてもらって大丈夫です。ではさようなら―――」
簡単な挨拶で終了。
「部活か・・・・・」
校舎を出ると部活勧誘の集団がいくつもあった。
「サッカー部でーす。初心者OKです!!」
「テニス部です♪どうですかー」
僕はそんな勧誘に見向きもせず帰ろうとしていた。
すると背後から誰かに肩を叩かれた。
「よぉ、もう帰るのか?」
「誰ですか・・・?」」
「誰って・・・同じクラスの阿部だよ、自己紹介してただろう」
「そ、そうだったね・・・」
自分で言うのもなんだが自分は気が弱く・・・人見知りだ。
「お前何か部活は?」
「僕はいいよ・・・」
「野球・・・やったことあるか?」
「・・・・」
この高校には野球部は無い、それなのに野球経験あるかと聞いてきた。
「この学校には野球部はないよ・・・」
「あぁ、知ってるさ・・・で野球経験は?」
「・・・あります・・・」
そう言うと阿部は僕の目を見てこう言った。
「ヨシ決まりだな♪ついてこいよ」
「えっ・・・・」
反論できるはずが無くついて行った。
ついていった先には野球グラウンドがあった。
「野球場?・・・・・」
「そうだよ野球場、この学校には5年くらい前まで野球部があったからな。
でも今は人数不足で廃部状態なんだ」
「へぇ~」
知らなかった、初耳だ。
「で、僕はなんでここにつれてこられたの?」
「あぁ、まだ言ってなかったな実は野球部を作ろうと思ってるんだ。
それでまずは部員集め中って事♪」
「へぇ~・・・えっ、もしかして僕も?」
そう尋ねると阿部は笑顔で言った。
「当たり前だろ」
おそらく拒否権はなさそうだ・・・
「・・・・・がんばるよ」
「そうだポジションは?ちなみに俺は捕手だ、お前は?」
「とりあえず投手のつもりだけど・・・」
「おぉ投手か!!誘ってよかったよ」
「あまり期待しないほうがいいと思うよ」
「いや期待しとくよ、まぁでも人数揃わないことには始まらないからな。
まずは部員集めだな・・・」
「そうだね」
阿部は改まって手を差し出した。
「念の為もう一度、1年3組、俺の名前は 阿部 拓也 捕手だ。よろしくな」
「うん、よろしく僕は・・・」
少し緊張したがその時だけはうまく喋れた。
「僕は1年3組、名前は・・・・・杉本 佑斗 投手です」
僕の高校生活が始まった――――――――
次回、第二話 部員勧誘