第29話 信じて祈れ
「分かってるかい?命を粗末にーー」
「もう何度も聞いた!」
離島の上空、夜空に溶け込み落下する二つの影。
エインが言葉を言い終わらぬうちに、ヴィクトルは気持ちを急かし遮った。
ーーダメだ!ティール!
地面の裂け目、ティールが開けた穴に向かって、ヴィクトルは迷わず落ちる。その銀髪は月明かりを受け、さながら流れ星のよう。
ヴィクトルの目、ティールと同じアメジストの左目が煌めき発光する。
深く結ばれた繋がりから、ティールの思考がヴィクトルには読めた。
ーー聞くな!行くな!そこにいろ!
もう誰にも渡さない。その手を離さない。一人で行かせない。
俺が行くまで、そこにいろ。手の届かないところへ独りで行くな。
ーー俺が守る。ずっと側にいる……もう、傷つくな、壊れるな!
ティールの中に何かいる。
本能とは別ーー彼女を内から壊そうとしている異質な何か。
ふざけるな。彼女は俺の番だ。
誰だろうと、侵すことは、穢すことは、許さない。
番でも眷属でも俺はどうなっても……壊れていい。
君が救ってくれた命だ。君に捧げよう。
それでも俺は、何度でもティールを選ぶ。
君が必要としてくれるなら。何度でも。
どうしようもなく、愛してる!
大切なのは君だけだ。
たとえ君でも、君を傷つけることは許さない。
やっと逢えたんだ。繋がったんだ。
話したいことが、伝えたいことがたくさんあるんだ!
ーーだから、逝くな!
ティールの中にいる異質な何かが、強制的に命を消費して、魔力暴走を引き起こそうとしている。
普通に助けては、おそらく間に合わない。
そして彼女自身も、分かった上で生きることを選ぶのを辞めた。
彼女の虚ろな目に、自分は映らない。
血に汚れ、片腕を失い、纏う衣服はボロボロになっている。
ヴィクトルは落下しながら、手にした長剣の切っ先を、視界に捉えたティールに向ける。
番を救え、守れと眷属としての本能が叫んでいる。
ーー躊躇うな。迷うな。創造しろ。信じて祈れ。
魔法はイメージがすべてだ。
自分が間違えば、彼女を救えない。
ティールを助けるのは、他でもない彼女の番である、俺でありたい。
ティールが自分の左胸に手を置いた。
ーー逝くな。ティール!
「《リーサル》」
ティールの滅びの詠唱と、ほぼ同時。
ヴィクトルはティールの左胸を長剣で貫いた。
皮膚を裂き、肉を断ち、骨を砕く感触が、両の手に伝わる。
ティールは虚ろな目で笑っていた。あの日の自分のように。
柄を握る手に、力を込めた。
ギリッと歯噛みして、祈りに似た叫びで、ヴィクトルは詠唱する。
ーー彼女の心を、救え。
「《レザレクション》!!」




