9話 ほどける想い
「ーーそれらは肌身離さず、常に身につけられますよう」
目覚めた彼女に、ヴィクトルが真っ先に渡したものーー公爵からの魔道具、ピアスとネックレスだ。
そう何度も感情が揺らいで、魔力を暴発されてはーー、力量不足で情けないが、こちらの身が持たない。
ピアスには調節機能付きの強力な魔力封じが施されている。
もちろん、今の設定は上限MAXの強力な魔力封じだ。
「食べながらで結構ですので、今のお嬢様の状況をご説明いたします」
父からの贈り物、と伝えて身につけさせたものの、昔からそうだったように、装飾品には興味を示さない。
自力で起き上がれるようになった彼女の視線は、ベッド横のサイドテーブルのスープに釘付けだ。
以前と違いーー前は食事にも興味感心が無かったーー食欲があるのはとても良いことだ。
しかし消化によい具無しスープに、そこまで目を輝かせられるとは。
宿舎にいる間は頼めば食事が出るが、ティールには健康状態に合わせたものの方が良い。
簡易キッチンも部屋にあり、手ずから作るつもりだ。
これから腕を奮うのが、……とても、楽しみである。
「今いるここは、お嬢様が住んでいたオルド王国の隣。ダザル帝国です。地図でいうとオルドの下、南になります」
オルド王国の簡易地図をベッドの端に出して見せた。
「ちなみに王都、普段お住まいの本邸は、この辺り。その隣、幼少期をお過ごしになった生家ーーシグラズル公爵領は、北から東にかけての、……この辺りです」
スープを1口すくって口に運ぶ。パクリと食べたその瞬間、ティールは顔をほころばせていた。
またパクリと口に運んでいると、ヴィクトルの視線に気づき、ティールは慌てて地図を見た。
一連の動作をしっかりと見ーー、ヴィクトルも地図に視線を落とし、なんでもないように説明を続ける。
ーー可愛らし過ぎます。お嬢様!!
以前とはあまりに違う無防備さに、胸が落ち着かない。
「お嬢様は王都の外。そこで魔力暴走を起こしたので、療養のため本邸に戻るより、こちらの方が良いだろうと判断し、お連れさせていただきました」
王都、森、ダザル、とそれぞれ指で指し示す。
実は、森からはダザル帝国よりも、公爵領の方が距離が近い。
が、あの時は、魔力暴走の原因も分からず敵も味方も分からなかった。
ゆえに迷わず、自身の冒険者活動の拠点であるダザル帝国に来たのだ。
公爵はそれも見越してか、冒険者ギルドに連絡をつけてきた。連れ戻さず、魔道具を寄越して来た辺り、敵ではない。……心強い味方ではあるが、全面的に信頼して良い相手とも言いきれない。
そして現在、公爵領を治めているのは彼女の祖父。元シグラズル公爵である。
王都、本邸には来ないので、義理の家族とは繋がりがない。とすると敵ではない可能性が高い。
ーーお嬢様が望むのであれば、領地に今後の拠点を移しても良いだろう。
「……お嬢様は、いったい、何があったのですか?」
身体のダメージも深刻で、寝ていた時間が長い、負担にならないよう考えられた少量のスープは、あっという間に空になった。
スープを飲み終えた彼女の口元、ハンカチで拭いながら、ずっと気になっていたことを聞く。
「……分からないわ」
そう答えた彼女は眉間に皺を寄せ、記憶を探しているようだった。




