第20話 断罪のその後
「私、あれから苦労したのよ。お父様だとずっと思っていたのに。家を出されてしまったの」
子どもたちへ船内にいるように指示をした義妹は、ティールの髪を持ったままズルズルと船の奥、船尾へと引きずり歩いた。
「娘じゃないなんて言われてしまって。シグラズル公爵の人間は皆、蒼い髪なんですって。
お姉様だって桃色で違うのに……。
お姉様はお父様の子どもだと言うの。
それにお父様は入婿だから、直系の継承権を持つのは前妻の子のお義姉様だけだって。
おかしいでしょう?」
義妹は、引きずった勢いのままにティールを甲板に叩きつけた。
「っ!」
ティールはその衝撃で息がつまった。
頭を打ち、歪んだ視界でそれでも義妹を捉える。
頭がチリっと熱く、温かいものが髪に貼りついた。どこか血が出たのかもしれない。
幼少期は、魔力が満ちた秋空を思わせる蒼い髪。
本邸に居た時は、魔道具で魔力を封じ薄桃の髪だった。
今は、その時の魔力濃度によって髪色は変わる。
ーー全部、義妹は知らない。
義妹は当時を思い返しているのか、ティールを見ながらも、どこか遠くを見ているようだ。
口ずさむ声音は拗ねた子どものそれ。
「お父様がね。嫡男が居なくて後妻を迎えろとうるさい貴族達が居て、とても煩わしかったんですって。
国の掃除がしたかったから、ついでにお前の母を娶ったって言うのよ。
"踊ってくれたお陰で、娘が公爵になる時には幾分、綺麗な国になるから感謝してる"って言われたわ。
酷いお父様よねぇ」
その表情はどこまでも暗く、歪んでいた。
ーーお父様が、私のために?
ずっと、愛されていないと思っていたのに。
『お前と私は、距離をとったことには変わらない』
父から聞いたのは、その一言だけだった。
離れていた間、公爵として、宰相として、そこまで国を動かしていたとは。
それに断罪の時ならば、あの日の後だ。
公爵家に戻らないティールに、次期公爵としての籍を、まだ取っていたなんて……。
義妹はギョロリと、動かないティールを見た。にいっと口許を歪ませ嗤う。
「お義姉様。昔と変わらずお人形さんですのね……ああでも、いつも側にいた執事は居ないみたいね。愛想つかされたのかしら?
彼、かっこよくて欲しいなぁって私、何度も何度も、お母様におねだりしたのよ?
貰えなかったけれど」
ーーっ!
義妹の口から彼が出てきて、思わずティールは睨んだ。
義妹はそれに気づきうっとりと頬を染め、ティールに顔を近づけてきた。
「まぁお義姉様。そんな顔出来たの?醜いわぁ」
ーー貴方、前はそこまで歪んでなかったでしょう。
いい性格ではなかったが、ここまで狂ってもなかったはずだ。
オルド王国での大規模な貴族の取り締まりは、国王の代替わりを含め国民の知るところになり、ティールも風の噂で耳にした。
あれから義妹に何があったのか。こんなところで何をしているのか。
「可哀想なお義姉様、やっと愛想を尽かされて独りぼっちになったのねぇ」
船尾の隅、そこで義妹はティールの首に手を掛け、キリキリと絞めあげた。
「……くっ」
「ああ、お姉様苦しい?苦しんでくれたら、私も嬉しいわぁ」
嬉しそうに微笑む義妹に、一人の男が近寄って声をかけた。
「おい。そろそろ船を出すぞ……それは?」
「はあい。それは、子どもたちと乗ってきたみたいよ?」
パッとティールの首から手を離し、先ほどまでの歪みは、まるで無かったことのように消えた。
あまりにも言動が自然で、逆にそれが一番、気持ち悪かった。
「へぇ。……犯罪者か。なら使えるだろうし、連れていくか」
男は近づくと、ティール顎を掴んで引き寄せた。さらに、腕輪の意味にも気づいたようだ。
「何やらかしたのかねぇ?こんな拘束具つけられてよ。自由を奪われて、可哀想に」




