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【1章完結】お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ
2章

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第15話 宿での食事

 ティールが寝ていたのは、やはり宿屋だったようで、その下は食堂になっていた。


 外に出ても良かったが、どうせ腕輪で活動範囲が絞られていて、やることがない。

 ティールは空いた席に座り、そこへやってきたハルドゥルも向かいの席へ座った。


ーーお腹、空いてないんだけど。


 さっきがさっきなのだ、話を振られる前にとティールは片手をあげた。


「エールと軽くつまめるものを」


 やってきたエプロン姿の女性に、ティールはそう注文した。


「エールとおすすめを頼む」


 ハルドゥルも注文した。

 二人の間に流れるのは沈黙。ティールはフードを深く被り、ハルドゥルの視線を避けていた。


 どこまでかは分からないけれど、リークリとの会話も自分の涙も見られている。

 気が緩んで寝てしまった自分を、宿屋に運んだのもハルドゥルだろう。

 そしてさっき、廊下での回復魔法についてのやり取り。


ーー誰も彼も、痛みをはらんだ顔を向けてくる。


 だからなんだと言うだろう。関係がないではないか。

 消していない魚の噛み傷が、ジクジクと主張をしている。

 それさえ、普段はティールにとって心地良いものなのに。


 魔力が十分に満たされていれば、髪色は薄青一色になるはずだった。

 けれども一人で過ごすようになって一度として、そうなったことはない。

 魔力任せの戦い方では、魔力が十分に満たされることはなく、髪色は常に暁色のグラデーションのままだからだった。


ーー優しくされるより、ずっと。


 生きていると、実感させられるのだからいいではないか。

 それ以外はティールにとって、煩わしいだけだったから。


「おまちどー」


 テーブルにエールと料理を、ドカンと女性が置いて去っていった。

 ティールの前には、幾つかの燻製魚とエール。

 ハルドゥルの方には、エールと山盛りの貝の塩ゆで、芋の蒸し焼き、黒パンにチーズ。


 ハルドゥルがエールを手に取ったのを見て、ティールもエールを飲んだ。


ーーハズレ。


 いまいちな味に、ティールはそのまま一気に、エールを喉へと流し込んだ。

 ただでさえ、意味を感じない行為。それをさらに不味くするのは、耐えられない。

 

 片手をあげ、やってきた店員にテーブルの上、金貨を滑らせた。


「一番高いのをもらえるかしら」


 気だるげにやって来た店員だったが、金貨に目を見張ると、そのまま一目散に奥へと消えた。

 代わりに店主らしき男が、小瓶を持ってきた。

 ことりと置かれた小瓶、そのコルクを店主が抜けば、ふわりと甘い香りが漂う。


「割るか?」


「このままで良いわ」


 店主の提案に、ティールはそっけなく返した。

 酒を置いた店主も奥へと戻り、周りの視線が集まる中、ティールは小瓶から少量グラスに注いで口に含む。


ーーラムね。こっちの方がまだマシだわ。


 ペロリと舐めた舌先、甘い酒が喉を灼き、次に噛んだ燻製魚の塩と脂が、それを受け止めた。

 煙の匂いが、ラムと一緒に胃へと落ちていく。組み合わせれば、そこそこいけなくもない。


「……いける口、なのだな」


「知らないの?元貴族だもの」


 目も合わせず、料理を食べながらハルドゥルが口を開いた。

 ティールも答えながら、ラムをもう一口飲んだ。


「……あの男は、フラッとこの町に現れ、薬物で腐敗したこの町を立て直した。

己からは名乗りを上げず、冒険者証を首からぶら下げていたのでな。

字が読めるやつが読み、その名が広まった」


「……そう」


『この町は、オルド王国とザダル帝国が歩まなかった未来。

そして、貴女が救えたかも知れない、その成れの果て、ですね』


 リークリは、そう言っていた。

 港を下りて町をティールが歩いた時、路地に倒れている者、物乞いをしている者を見た。


『あの日私と来ていたら、優しい貴方はこのスカフトを見て心を痛めたでしょう。

その姿に私は心動かされ、全力で手を差しのべたはずだ。

ここまでスカフトが荒廃したのは、貴女がそうあるように選んだ結果ですよ』


 リークリはおそらく、救済の方へは全力を出していないのだろう。


『私の手を取らなければ、スカフトが救えないしれませんよ』


 今、ティールがその手を取れば、町を本気で立て直すことも出来るという意味だ。

 もしくは、言葉通りまだ何かあるか。


「が、やつは胡散臭いというのが俺の見立てだ。色々と都合が良すぎる」


 それもそうだろう。オルド王国にあったアジトで羽振りを利かせ、地下闘技場の運営にまで噛んでいた男だ。

 無関係というには怪しすぎる。


 ティールはハルドゥルの言葉を聞き流す。

ラムを煽り、その灼けつく感覚だけを楽しんだ。


「俺は、この星にまつわる一連の闇を、片付けねば気が済まんのだ」


「……お高い理想ね。ただの餌には関係ないことだけれど」




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