第12話 似た者同士
「はい。貴女の分ですよ」
閑散とした町の広場、リークリが先ほど買った果物と干し肉を渡してきた。
ここに来るまでの道中、リークリは昔のようにティールの腰に腕を回し、連れだって歩いた。
その姿は、端から見れば恋人同士と思うことだろう。
実際、何人かすれ違った人たちの中には、「ミルティさん、彼女居たの!?」と声をあげる人もいた。
差し出された包みを、恐る恐る受け取り、ティールは息をつく。
椅子にならんで座った二人、その腰に回さ れた腕を、ティールは払うことが出来ていない。
懐かしい温もりに、身は拒絶していなかった。
それがひどく、ティールの心をざわつかせていた。
「偶然居合わせた、出来合いの物です。小細工などしていませんよ」
ティールの様子がおかしいのか、リークリは笑って説明している。
彼は包みから赤い果実を取り出し、服で汚れを落とすように擦り付ける。
そしてそのままがぶりとかぶりつき、まるでティールに見せつけるように赤い果実を食べた。
話し方こそ丁寧だが、見てくれは町に馴染みすぎているその姿に、ティールは逆に不安が拭えない。
その出会いはまるで、初対面でティータイムを持ち出してきた再現、そのままだったから。
「……なんで」
ここにいるのだ。
何が目的だ。
あの時どうして……。
そんな問いが、胸に渦巻き言葉にならない。
グッと言葉を飲み込んだティールに、少し考える素振りを見せて、リークリは口を開いた。
「それは私についてですか?それともこの町について?」
「……両方」
「ふふっ。素直な貴女も相変わらず可愛いですね」
ーーそういう貴方も。
チラリと見たその顔、前は気づかなかったが、リークリのティールを見るその目は、今も昔も暗く淀んでいるーー今の自分と、同じ瞳だ。
見つめるその先に、自分の姿が映っていて逃げられない。
「この町は、オルド王国とザダル帝国が歩まなかった未来。
そして、貴女が救えたかも知れない、その成れの果て、ですね」
にっと笑うリークリのその口元が歪む。
腰に回した手が、グッとティールを引き寄せた。
吐息がかかる距離ーーまるでティールに、聞き逃すなとでも言うように。
「あの地下の後、貴女が私と海を渡っていれば、見ることもなかった現実です」
「それは、貴方がーー」
「この町の状況が、全て私のせいだとでもお思いで?
それは、買いかぶり過ぎですよ。言ったでしょう?
これは貴方が選ばなかった、その結果にすぎない」
色眼鏡越しに、リークリがじっとティールを見つめてくる。
その至近距離の触れあいと、久しく感じなかった温度に、ティールは押し返すことも出来ず、されるがまま。
閉じ込めた記憶の蓋は締まらず、魚に噛まれた毒は今だその身の内を焦がすように暴れ熱を帯びーーじわりじわりと、心の内が黒く塗りつぶされていく。
リークリの甘言は、するりと胸に入り込んで、ぐずぐずに壊していく、まるで刺のよう。
ーー地下のあの日、楽になりたいと願ったのは誰だ。
「あの日私と来ていたら、優しい貴方はこのスカフトを見て心を痛めたでしょう。
その姿に私は心動かされ、全力で手を差しのべたはずだ。
ここまでスカフトが荒廃したのは、貴女がそうあるように選んだ結果ですよ」
ーーあの日、この手を取らなかったから?
ぐしゃり。
何かが潰れる音がする。
リークリが、持っていた赤い果実を落とした音だ。
自由になった手で、ティールの腕をそっと掴む。
その魚の牙で抉れた皮膚を、リークリが舌を這わせ舐めた。
「ああ、私と離れて、貴女はこんなに傷ついて、何をしているのでしょう?
貴女はあの日望んだように、楽になれたのですか?」
パタリ。ティールの頬を伝って落ちたのは、涙。
とうに枯れたはずのそれが、一筋の線を描いた。
ーー楽に。
それに気を良くしたリークリが、ふわりと微笑んだ。
「貴女は本当に……。私のそばを離れるから、そんなふうに傷つく。今からでも私と共にいきませんか?」
その優しい声に、ビクりとティールの身体が揺れた。
リークリから香る匂いは、あの頃と同じジャスミン。
甘く、優しく包んでくれたあの日のまま。
ーーでも。
『ティール。君が動いても、怖いことは起こらない』
けれど、あの頃から変わらず欲した匂いは別のもの。
ティールの耳に、あの日聞いた彼の強い声が甦った。




