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【2章完結】お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ
2章

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第12話 似た者同士

「はい。貴女の分ですよ」


 閑散とした町の広場、リークリが先ほど買った果物と干し肉を渡してきた。


 ここに来るまでの道中、リークリは昔のようにティールの腰に腕を回し、連れだって歩いた。

 その姿は、端から見れば恋人同士と思うことだろう。


 実際、何人かすれ違った人たちの中には、「ミルティさん、彼女居たの!?」と声をあげる人もいた。


 差し出された包みを、恐る恐る受け取り、ティールは息をつく。

 椅子にならんで座った二人、その腰に回さ れた腕を、ティールは払うことが出来ていない。

 懐かしい温もりに、身は拒絶していなかった。

 それがひどく、ティールの心をざわつかせていた。


「偶然居合わせた、出来合いの物です。小細工などしていませんよ」


 ティールの様子がおかしいのか、リークリは笑って説明している。

 彼は包みから赤い果実を取り出し、服で汚れを落とすように擦り付ける。

 そしてそのままがぶりとかぶりつき、まるでティールに見せつけるように赤い果実を食べた。


 話し方こそ丁寧だが、見てくれは町に馴染みすぎているその姿に、ティールは逆に不安が拭えない。


 その出会いはまるで、初対面でティータイムを持ち出してきた再現、そのままだったから。


「……なんで」


 ここにいるのだ。

 何が目的だ。

 あの時どうして……。


 そんな問いが、胸に渦巻き言葉にならない。

 グッと言葉を飲み込んだティールに、少し考える素振りを見せて、リークリは口を開いた。


「それは私についてですか?それともこの町について?」


「……両方」


「ふふっ。素直な貴女も相変わらず可愛いですね」


ーーそういう貴方も。


 チラリと見たその顔、前は気づかなかったが、リークリのティールを見るその目は、今も昔も暗く淀んでいるーー今の自分と、同じ瞳だ。

 見つめるその先に、自分の姿が映っていて逃げられない。


「この町は、オルド王国とザダル帝国が歩まなかった未来。

そして、貴女が救えたかも知れない、その成れの果て、ですね」


 にっと笑うリークリのその口元が歪む。

 腰に回した手が、グッとティールを引き寄せた。

 吐息がかかる距離ーーまるでティールに、聞き逃すなとでも言うように。


「あの地下の後、貴女が私と海を渡っていれば、見ることもなかった現実です」


「それは、貴方がーー」


「この町の状況が、全て私のせいだとでもお思いで?

それは、買いかぶり過ぎですよ。言ったでしょう?

これは貴方が選ばなかった、その結果にすぎない」


 色眼鏡越しに、リークリがじっとティールを見つめてくる。

 その至近距離の触れあいと、久しく感じなかった温度に、ティールは押し返すことも出来ず、されるがまま。


 閉じ込めた記憶の蓋は締まらず、魚に噛まれた毒は今だその身の内を焦がすように暴れ熱を帯びーーじわりじわりと、心の内が黒く塗りつぶされていく。


 リークリの甘言は、するりと胸に入り込んで、ぐずぐずに壊していく、まるで刺のよう。


ーー地下のあの日、楽になりたいと願ったのは誰だ。


「あの日私と来ていたら、優しい貴方はこのスカフトを見て心を痛めたでしょう。

その姿に私は心動かされ、全力で手を差しのべたはずだ。

ここまでスカフトが荒廃したのは、貴女がそうあるように選んだ結果ですよ」


ーーあの日、この手を取らなかったから?


 ぐしゃり。

 何かが潰れる音がする。

 リークリが、持っていた赤い果実を落とした音だ。

 自由になった手で、ティールの腕をそっと掴む。

 その魚の牙で抉れた皮膚を、リークリが舌を這わせ舐めた。


「ああ、私と離れて、貴女はこんなに傷ついて、何をしているのでしょう?

貴女はあの日望んだように、楽になれたのですか?」


 パタリ。ティールの頬を伝って落ちたのは、涙。

 とうに枯れたはずのそれが、一筋の線を描いた。


ーー楽に。


 それに気を良くしたリークリが、ふわりと微笑んだ。


「貴女は本当に……。私のそばを離れるから、そんなふうに傷つく。今からでも私と共にいきませんか?」


 その優しい声に、ビクりとティールの身体が揺れた。

 リークリから香る匂いは、あの頃と同じジャスミン。

 甘く、優しく包んでくれたあの日のまま。


ーーでも。


『ティール。君が動いても、怖いことは起こらない』


 けれど、あの頃から変わらず欲した匂いは別のもの。

 ティールの耳に、あの日聞いた彼の強い声が甦った。

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