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【1章完結】お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ
2章

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第11話 望まぬ再会

「あら、可愛いお嬢さん。良かったら見とってくれよ」


 町の市場へとティールが足を進めると、港の物々しさが和らいで、店はそこそこ賑わっていた。

 フードを被っていないせいで、一目を引く容姿が目立ち、ティールは何度目かの声をかけられた。


「見ない顔だな?この時期に来るなんて物好きな」


 そう言うのは先ほどの女性のとなり、肉屋の店主だろう男性だ。


「……時期って、なに?」


「白々しい。ここら一帯は、もう終わってんだよ」


「そんな言い方よしなってぇ。兵士さんやギルドが頑張ってくれてるんだからさぁ。

悪いねぇお嬢さん、ここらはまだまだやさぐれ者が多くて。裏通りは特に気をつけなよ」


 果物屋の女性が、そう男性を嗜めた。

 先ほどから、声をかけてくる人たちは一貫して、ティールを物珍しい客人と言う扱いをして来る。

 港町なら人の出入りは多いはずなのに、だ。



「……そこの赤いのと干し肉、それぞれくれる?」


「あら、毎度ぉ」


 果物と干し肉を、ティールは詫びのつもりでそれぞれ買いつけた。干し肉は携帯出来るのであっても困らない。


「同じものを、私にもいただけますか?」


 後ろから男の声がした。スッと差し出したその手には、二人分の料金が握られていた。


ーーっ!


 聞き覚えのある声に、ティールは目を見開き、息が止まる。

 スッと肩に置かれた男の手が、やけに重く感じる。金縛りにあったように身体が動かない。


「おや、熱があるようですね。警戒心が疎かになっているのは、そのためですか」


 耳元にボソリと声が落とされた。低く、ひどく甘い声が。

 心臓が、ドクンと不自然に跳ねた。


「あら、《ミルティ》さんじゃないかい。この間は助かったよ!どうもねぇ」


「おう、兄ちゃん。これオマケいれとくからよ。また何かあったら頼むわな」


「いえいえ、冒険者として当然のことをしたまで、ですよ」


 店主たちと顔見知りなのか、男は平然と言葉を交わしている。

 ティールはそれを黙って聞いていた。

 心臓の音がやけにうるさい。瞬きを忘れた目頭が、熱い。


「ねえ?貴女もそう思いませんか?可愛い冒険者さん」


「……そう、ね」


 カラカラに乾いた喉から、なんとか声を絞り出すーー息がうまく、吸えていないからだ。

 ハルドゥルから聞いていた、けれどまさか、こんなに早く自分の前に現れるとは。


「あら、お嬢さんも冒険者だったのかい」


「《ミルティ》の知り合いなら、そう言えよ。邪険にして悪かったな」


「仕方ありません。人は見かけによりませんからね」


 店主達からそれぞれ二人分の商品を受け取って、後ろの男は微笑んだ。

 どうやら男は、二人から信頼を得ているようだ。


 周りの音が遠ざかり、ティールは港でのやり取りを、不意に思い出す。


ーー敵か味方か、そうハルドゥルが言っていた。


 そう、自分は餌なのだ。


 ティールはなんとかゆっくりと振り返り、ようやくそれを目にした。

 男の胸元にキラリと光るネームタグは、かつて自分が身に付けていたもの。


 服装は以前のかっちりとしたスーツではなく、町に溶け込むラフな姿。

 けれど、緩く跳ねた茶髪に色眼鏡、張り付いた嘘臭い笑顔は、記憶にある男そのままだった。


「リー……」


 名を呼ぼうとしたティールの唇に、指を添えて黙らせ、男はにっこりと微笑んだ。


ーーリークリ。


 かつて自分と約束を交わし、王国と帝国の悪事から真に手を引いた男。

 言葉巧みに自分を惑わし、それでいて誠実だった男。

 ティールがどこまで正気を保てるか、賭けに乗った男。

 ティールと彼との間に、確執を作った元凶とも言える男。

 初めて、自分を欲しいと口にした男。


 嫌悪と恐れ、安堵と懐かしさ、今までのことがハッキリと思い出され、胸の内がぐちゃぐちゃになっていく。

 冷や汗が頬を伝い、地面に吸い込まれていった。


 ティールの唇に添えた指を、男はつっと首筋に這わせた。ビクりとティールは肩を揺らした。

かつてはそこに噛み傷があったのだ。

彼が治し、今は跡すらも残らない傷が。


 心の奥に押し込めたはずの感情。どろりとしたものが、黒が目の前を塗りつぶしていくようだ。


ーーダメだ。主導権を握らせては。


「神に感謝を。久しぶりの再会です。少し、話しませんか?」


 表情を無くしたティールを見て、男は慈愛の笑みを浮かべてそう誘った。


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