第6話 大人たちの心情
ハルドゥルがティールを連れ去った後、ギルド長は机に項垂れたまま動けずにいた。
隣にいたドリィも同じだ。泣きそうな顔で耐えていた。
『私は、どちらでもかまわなくてよ?』
「……はぁ」
ギルド長は、ため息と共にガシガシと髪をかきむしる。
追い詰めた、その自覚はある。
あの目はそうだったーー何も映してない、氷の目。すでに壊れているやつの目だ。
冒険者は命懸けだ。
それゆえに生きる目的を無くし、落ちぶれる姿も見てきた。
若い冒険者は特に、その傾向が強い。
けれど、そこまでではないのではとも期待していた。
二年、二年待った。傷つけないように、癒えるように。ティールがいつか笑えるように。
怪我をして無いか、ちゃんと飯を食べてるか、ちゃんと寝れてるか、聞きたいことも気にかけたこともたくさんあった。
けれど、ティールは壁を作り続けた。
そんな折り、海の向こうスカフトの町で、《ミルティ》の冒険者証のネームタグが目撃された。
三年前の薬物に関する一連の事件、ハルドゥルがずっと追っていたものだ。
ハルドゥル自身もミルティのことを見聞きし、連絡を寄越してきた。
知り合いではないか、と。
「なんで……奪われたって言わねぇ」
そんなに信用がなかったか。
失くしたのでは、なかったじゃないか。
ネームタグの持ち主は、不可思議な行動をしているらしい。怪しくはあるが、それに留まるだけだと。
まるでその存在を誇示することが目的のように。意図をもって《ミルティ》を餌にしていた。
ハルドゥルは、ティール本人を出した方が出方が窺える、港町に送れと言ってきた。
けれど、今のティールを果たして送るのは最良なのか、判断が難しかった。
自分やドリィはティールと距離が近すぎて、ダメだと思った。
だから、ハルドゥルが荒療治になればと思ったのは事実だ。しかし……。
「早まったかも、しれねぇ……」
腕輪が嫌だからと、自分の腕ごと切り離してしまおうなんて、考えるやつじゃなかった。
それが、躊躇いもなく行動に移すとは。
そして、それに目ざとく気付いて対処するハルドゥルは、さすが副ギルド長と言いたいがーーやりすぎだ。
ーーなにも、嬢ちゃんの腹に一発決める必要はないだろう。
二人の相性は、最悪なのかもしれない。
そう考えて、ギルド長は再び重いため息を吐いた。
ギシと、もたれた椅子が音を立てた。
◇◆◇◆◇◆◇
「うむ、門出日和だな」
ハルドゥルはギルド船に乗り込むと、船員たちに出航の指示を出す。
担ぎ込んだティールを、椅子へと寝かせた。
「なんとも幼いなぁ」
ハルドゥルの子どもや孫、と言っても通りそうな歳ではないか。
三年半前、オルド王国で立ち上がった光柱はハルドゥルも見ていた。
この幼さ残る子どもが、大規模な魔力暴走を起こし生き残ったというのは、実際に目の当たりにしても信じがたい。
「冒険者になって三年だったか」
今の戦い方、暮らしぶりは二年ほど。
エルヴィスやドリィが、その危険性を憂慮していた。
それほどに心を砕く必要があるのだろうか、と思っていたがーー。
乱れた髪を払えば、隈が色濃く居座った疲労の濃い顔がよく見えた。
おそらく、満足に寝ていないのだろう。
先ほどの無駄のない風魔法を思い出し、納得する。
周囲への被害は考えるのに、自身を慮ることはないようだった。
なかなか奇特な生い立ちを、していそうだ。
もっとも冒険者になるものは、腹に何か抱えていること自体は珍しくないのだが。
「俺は甘くはなれんな」




