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【1章完結】お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ
2章

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第6話 大人たちの心情

 ハルドゥルがティールを連れ去った後、ギルド長は机に項垂れたまま動けずにいた。

 隣にいたドリィも同じだ。泣きそうな顔で耐えていた。


『私は、どちらでもかまわなくてよ?』


「……はぁ」


 ギルド長は、ため息と共にガシガシと髪をかきむしる。


 追い詰めた、その自覚はある。

 あの目はそうだったーー何も映してない、氷の目。すでに壊れているやつの目だ。


 冒険者は命懸けだ。

 それゆえに生きる目的を無くし、落ちぶれる姿も見てきた。

 若い冒険者は特に、その傾向が強い。


 けれど、そこまでではないのではとも期待していた。

 二年、二年待った。傷つけないように、癒えるように。ティールがいつか笑えるように。

 怪我をして無いか、ちゃんと飯を食べてるか、ちゃんと寝れてるか、聞きたいことも気にかけたこともたくさんあった。

 けれど、ティールは壁を作り続けた。


 そんな折り、海の向こうスカフトの町で、《ミルティ》の冒険者証のネームタグが目撃された。

 三年前の薬物に関する一連の事件、ハルドゥルがずっと追っていたものだ。

 ハルドゥル自身もミルティのことを見聞きし、連絡を寄越してきた。

 知り合いではないか、と。


「なんで……奪われたって言わねぇ」


 そんなに信用がなかったか。

 失くしたのでは、なかったじゃないか。


 ネームタグの持ち主は、不可思議な行動をしているらしい。怪しくはあるが、それに留まるだけだと。

 まるでその存在を誇示することが目的のように。意図をもって《ミルティ》を餌にしていた。


 ハルドゥルは、ティール本人を出した方が出方が窺える、港町に送れと言ってきた。

 けれど、今のティールを果たして送るのは最良なのか、判断が難しかった。


 自分やドリィはティールと距離が近すぎて、ダメだと思った。

 だから、ハルドゥルが荒療治になればと思ったのは事実だ。しかし……。


「早まったかも、しれねぇ……」


 腕輪が嫌だからと、自分の腕ごと切り離してしまおうなんて、考えるやつじゃなかった。

 それが、躊躇いもなく行動に移すとは。


 そして、それに目ざとく気付いて対処するハルドゥルは、さすが副ギルド長と言いたいがーーやりすぎだ。


ーーなにも、嬢ちゃんの腹に一発決める必要はないだろう。


 二人の相性は、最悪なのかもしれない。

 そう考えて、ギルド長は再び重いため息を吐いた。


 ギシと、もたれた椅子が音を立てた。




◇◆◇◆◇◆◇


「うむ、門出日和だな」


ハルドゥルはギルド船に乗り込むと、船員たちに出航の指示を出す。


担ぎ込んだティールを、椅子へと寝かせた。


「なんとも幼いなぁ」


ハルドゥルの子どもや孫、と言っても通りそうな歳ではないか。

三年半前、オルド王国で立ち上がった光柱はハルドゥルも見ていた。

この幼さ残る子どもが、大規模な魔力暴走を起こし生き残ったというのは、実際に目の当たりにしても信じがたい。


「冒険者になって三年だったか」


今の戦い方、暮らしぶりは二年ほど。

エルヴィスやドリィが、その危険性を憂慮していた。

それほどに心を砕く必要があるのだろうか、と思っていたがーー。


乱れた髪を払えば、隈が色濃く居座った疲労の濃い顔がよく見えた。

おそらく、満足に寝ていないのだろう。

先ほどの無駄のない風魔法を思い出し、納得する。

周囲への被害は考えるのに、自身を慮ることはないようだった。

なかなか奇特な生い立ちを、していそうだ。


もっとも冒険者になるものは、腹に何か抱えていること自体は珍しくないのだが。


「俺は甘くはなれんな」

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